中国で高齢化が猛烈な勢いで進んでいる。介護施設も不十分で、一人っ子世代は夫婦で4人の高齢者を世話しなければならない。経済低迷が追い打ちをかけ、負担に耐えきれず「家族が崩壊する」との悲鳴も。私たち日本人にとっても高齢化による負担増はひとごとではないが、中国は日本を上回る「介護地獄」とも呼べる社会になりつつある。実態を見てみよう。
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
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急速に進む高齢化に政府の備えは不十分
中国政府は12日、一部都市で試験運用してきた個人年金制度を15日から全国に拡大すると発表した。中国では公的年金の財政が既に逼迫し、企業年金も未発達であることから、個人年金への注目が高まっている。新華社は6月「試験プログラムで6000万以上の口座が開設された」と報じている。
中国政府は翌13日、高齢者への資金支援を強化し、2028年までに高齢者介護向け財政支援制度の構築を目指すと明言した。
中国にも高齢化の波が押し寄せてきていることが背景にある。
中国の昨年末時点の65歳以上の人口は約2億1700万人で、高齢化率(全人口のうち65歳以上が占める比率)は15.4%だった。中国は既に高齢社会(高齢化率が14%以上)に仲間入りしている。
中国の高齢化の特徴は、人口の規模が巨大で、そのスピードが速いことだ。さらに問題なのは政府の備えは極めて不十分なことだ。
中国政府は10月11日、第5回中国都市・農村高齢者生活実態サンプル調査基礎データ公報(高齢者生活実態公報)を発表した。それによれば、2021年時点で60歳以上の高齢者のうち夫婦のみが45%、1人暮らしが14%だった。
中国ではこれまで多世代での同居が一般的であり、「高齢者の世話は家族が行うもの」とみなされてきた。だが、6割近くの高齢者が子供と別居している状況を踏まえると、「家族による介護モデル」を維持するのは限界に達しつつある。
中国の要介護高齢者は4000万人を超えており、介護者の内訳は配偶者が45.5%、子供が47.6%で、施設などでの介護は3.4%に過ぎない。
今後施設などでの介護が増加することが見込まれるが、費用負担の高さが足かせとなっている。重度の認知症など要介護度が高い場合のサービス費用は月額7000元(約14万7000円)を超え、ほとんどの高齢者の費用負担能力を超えている。
以上が高齢者生活実態公報の概要だ。
社会保障制度が未整備な中国では、介護の費用負担は子供たちにも重くのしかかる。「一人失能、全家失衡(一人が要介護などになったら、家族そのものが崩れるという意味)」という言葉があるほどだ。
施設にカネを払っても、ろくな介護を受けられない
高齢化、そして介護は誰もが直面する問題であり、「明日は我が身」だ。だが、このことを最も痛感しているのは一人っ子世代だろう。
現在、中国の高齢者の多くは一人っ子の親だ。1組の夫婦は4人の親と1人の子供という家族構造の下で、介護と子育て、仕事の板挟みとなっている。
介護人材の不足も頭の痛い問題だ。
北京師範大学が2019年に発表した調査結果によれば、低賃金や仕事の厳しさなどのせいで若者の間で介護従事者に対する人気は極めて低い。
4000万人強の要介護者に対し、中国の介護職員は32万人強に過ぎない。中国政府の基準(要介護者と介護職員の配分を4対1にする)をまったく満たしていない。これではなけなしのカネを払って施設に入ったとしても、ろくな介護は受けられないだろう。
経済の高度成長が終焉しつつある中、高齢化がもたらす社会への重圧はこれまで以上に強まることは間違いない。
豊かになる前に高齢化への準備をしてこなかったにもかかわらず、中国政府はあまりに消極的であり、無責任だと思えてならない。
中国社会が介護地獄に陥るのは時間の問題なのではないだろうか。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/85542