>>88 これだな
プロジェクトX〜挑戦者たち〜 スバルの挑戦。逆境を乗り越えろ−不正検査伝説の会見
広報部長は、追い詰められていた。日産の無資格者検査が公になった事で、スバルにも報告するよう通達が来ていたのである。スバルを支えるのは発炎筒をも見逃す無資格者によるローコストの完成検査だ。モーターショーの社長会見で発表するしかない。会見原稿について思案に暮れていた時、社長は意外な事を言った。
「今は発表しなくても良いのではないか。」 広報部長は戸惑った。 発炎筒が無くても通るスバルの完成検査はあまりにも有名だ。隠し通せるわけがない。
「無理です。出来ません」広報部長は思わず叫んだ。 「俺たちがやらずに誰がやるんだ。俺たちの手でスバルの伝統を守るんだ!」
社長の熱い思いに、広報部長は心を打たれた。広告マンの血が騒いだ。
「やらせてください!」それから、夜を徹して会見原稿を作り上げた。
「日本のモノづくりに不安を感じる。」堂々と日本を憂うコメントをする社長を見て広報部長は胸をなでおろした。しかし、眠れる夜は長くは続かなかった。
情報が漏れ、発表せざるを得なくなった。完成検査の大幅な見直しを余儀無くされる。スバルの伝統の灯は消えかかっていた。諦め掛けていた。
そこへ社長が現れた。そしてこうつぶやいた。
「発想を変えるんだ。本当にスバルの検査のレベルが低かったのだろうか?」
そうだ。全員高い能力を持っているが、資格を与えていなかっただけだとしたら。今まで通り伝統は守られる。暗闇に光が射した気がした。
「検査員のハードルが高過ぎた。」思わず広報部長は呟いた。広告マンの本能だった。
「これだ、これが探してた伝統を守るコメントなんだ!」
社長と広報部長と伝説の工場長と呼ばれた生産統括部長は、工場の片隅で朝まで飲み明かした。 広報部長は、充足感に包まれ、涙が止まらなかった。
「社長、完成したプレスリリースを印刷に回してきます」広報部長は言った。
「ああ、頼む。ついでに目薬を買って来てくれないか。明日は涙の謝罪会見だからな。」 社長は自分のジョークに、肩を揺らして笑った。