【ワシントン=長沼亜紀】米連邦準備理事会(FRB)は16日発表した地区連銀経済報告(ベージュブック)で「製造業の成長が鈍化した」と指摘したうえで「企業の景気見通しの楽観度は後退した」と米国経済の先行きに懸念を表明した。経済全般は拡大が続いているが株式市場の変動、金利上昇、石油価格の下落、貿易・政治をめぐる不透明さなどリスク要因が増しているという。
「企業の景気見通しの楽観度は後退した」と懸念を示した=ロイター
報告によると2018年12月以降、経済全般は「大半の地区で緩やかに拡大」した。しかし堅調な成長が続いていた製造業で成長の減速が見られ、特に自動車とエネルギー分野で成長が鈍化している。リッチモンド地区は、海外需要の減少が一因で受注と出荷が低下したという。
運輸業も「関税前の駆け込みで増えていた需要が落ち込んだ」(クリーブランド地区)といい、港湾関係者も「今後数カ月で取り扱いは減る」と予測している。
企業の景気見通しについては「おおむね明るさを維持しているが、楽観度は下がった」と指摘。カンザスシティー地区ではエネルギー企業が石油価格下落で設備投資計画を下方修正したほか、ダラス地区は「製造業者の見通しが12月にややマイナスに傾いた」という。
企業は、金利上昇、労働供給面での制約、政治、住宅・エネルギー分野の後退などを懸念材料にあげている。クリーブランド地区の銀行は「株式市場の変動などが消費者と企業の景況感を冷やしており、今後ローン需要が減る」との懸念を示している。
長引いている連邦政府閉鎖の影響にも言及している。シカゴ地区が追加関税で被害を受けている農家への支援が滞っているほか、農業関係の報告書の公表が遅れ、農業関係者の間で先行きに不透明感が高まっていると報告している。
一方、雇用は拡大が続き、全地区が労働市場の逼迫を指摘した。企業はあらゆる技能水準で労働者確保に苦戦しているという。賃金は全米で緩やかに上昇しており、アトランタ地区は「大手の賃上げ発表で中小企業への最低賃金引き上げ圧力が高まっている」と報告した。
物価も大半の地区で緩やかに上昇した。関税の影響による仕入れ価格の上昇の報告が相次いだものの、販売価格への転嫁に関してはばらつきがみられた。
同報告は、29〜30日に開く次回米連邦公開市場委員会(FOMC)の討論資料になる。FRB高官は「追加利上げは様子見できる」と述べ、今後の景気先行きへの不安が払拭できなければ当面利上げを見送る考えを示している。
同報告書は1月7日までの情報に基づき、全米の12地区連銀が最新の経済動向をまとめている。
2019/1/17 4:37 (2019/1/17 9:39更新)
日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO40100810X10C19A1000000/