プライベートカンパニー設立の目的は主に税対策による資産管理だ。その恩恵を考えると、億り人であれば設立は必然なのかもしれない。守った資産はさらなる事業展開の資金にもなるし、当然老後のための蓄えにもなる。
では、プライベートカンパニーを設立するほどの億り人は資産形成の末に、どのような老後を考えているのか。インタビューの際にたぱぞうさんに伺ったところ、海外移住も選択肢の可能性としてあるそうで、住むなら東南アジアが良いという回答だった。
前回紹介した大村大次郎氏の著書『税金を払わずに生きてゆく』においても、タイやインドネシアなど東南アジアへの海外移住は物価の安さや税制面で大きなメリットがあることが指摘されている。
そこで特集の最終回はプライベートカンパニーそのものからは少しテーマを移し、なぜ富裕層が老後に東南アジアへの移住を検討するのか、について考察する。
長期滞在をしたい国の上位を独占する東南アジア
東南アジアはインドシナ半島やマレー諸島に位置する地域のことで、該当する国はタイやマレーシア、シンガポール、インドネシア、フィリピンといった海外移住先のイメージとして浮かびやすい国のほか、ベトナム、ミャンマー、ラオス、カンボジア、ブルネイ、東ティモールも含まれている。
外務省の「海外在留邦人数調査統計(2019年版)」によれば、在留邦人数が多い国の上位は16年時点から1位アメリカ、2位中国、3位オーストラリア、4位がタイで現在まで変動していない。東南アジアの国でもっとも日本人が多いのはタイなのだ。18年時点ではシンガポールが韓国に次いで11位、さらに12位マレーシアと続き、14位にはベトナムが入る。
一方、一般社団法人ロングステイ財団による「ロングステイ希望国・地域2018」では、06年から13年という8年もの間、マレーシアがトップを独走している。11年からは2位タイ、3位ハワイが続いているが、この間にフィリピンが徐々に順位を上げ、18年時点では4位にまで食い込んでいる。一方、シンガポールの人気はやや下降気味といった傾向だ。
何が富裕層を東南アジアに引きつけるのか?5つの魅力
ここからは東南アジアの魅力となるポイントをまとめた。大きく分類するなら、「金銭面でのメリット」と「住みやすさ」だと言えるだろう。
・ビザの取りやすさ
先述したロングステイ財団の調査でフィリピンが人気を高めている要因として挙げられているのが、特別居住退職者ビザ(SRRV)の存在だ。取得すると永住権と数次入国が認められるもので、就労も可能だ。すでに世界で4万2000人が取得していると言われる。
フィリピン特別居住退職者ビザにはいくつか種類があるが、クラシックプランの場合取得の条件は35歳以上で5万ドル(約550万円)を指定銀行に預けられることのみだ。50歳以上の場合は2万ドル(約220万円)の供託預金で済む。
このほか、例えばマレーシアなら年齢制限無しの最長10年の長期滞在ビザを、タイなら50歳以上でロングステイ10年ビザを発行できる。いずれも一定以上の財産証明や預金が必要だ。
アメリカでグリーンカードを取得しようと思うと米国籍者と結婚する、米企業に雇用される、あるいは抽選プログラムを利用するなど、かなり条件が限定されていることを考えると、東南アジアの国でビザを取得するのは富裕層にとってかなりハードルが低いと言える。
・物価の安さ
東南アジアのメリットとして強いイメージを持つのが物価の安さだ。グローバルデータベースNumbeoで人気の5ヵ国の物価を調べてみると、日本と比較した際に生活費にかかるコストにどの程度違いがあるのかが分かる。
タイ:40.25%低い
シンガポール:2.51%低い
マレーシア:53.12%低い
フィリピン:54.93%低い
インドネシア:55.33%低い
シンガポールのみほとんど日本と変わらない物価状況で、家賃に限って言えば日本より141.58%高いのが現状だ。しかし、ほかの国はイメージどおり格段に安い。
・税制度
老後も事業を続けるとしたら、税制度にも注目したい。日本の所得税率は最高45%で、住民税は約10%かかる。富裕層にとって最大55%の税率が大きな負担になることは明白だ。その点、上記と同様に5ヵ国の税率を見てみるといずれも日本より大幅に低い。
実際に各国の所得税の最大税率を見てみると、タイは35%、シンガポールは22%、マレーシアは28%、フィリピンは35%、インドネシアは30%だ。注目したいのがベトナムで、給与所得なら最大35%だが、事業所得は最大5%と、驚くほど低い。
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