■売り手市場で年収格差と初任給格差の見直しが始まる?
6月に入り、経団連が定める大学卒業予定者の採用選考が解禁となった。今、就活市場で注目を集めているトピックは、学生の売り手市場を背景に新卒初任給を見直す会社が目立ってきたことだ。そこで、学卒者の初任給について考えてみよう。
まず、厚生労働省が発表した2017年(平成29年)の学歴別初任給(男女計)は、下表のようになっている。学歴によって、初任給水準はキレイに分かれている。一方、大企業(常用労働者1000人以上)、中企業(同100〜999人)、小企業(同10〜99人)といった企業規模ごとの金額差については、各学歴とも格差が10%以内の範囲に収まっている。
次に、初任給水準と在籍社員の年収水準との関係はどうか。株式公開企業の平均年収を比較するサイト「転職のモノサシ」で、年収上位企業と下位企業について調べてみた。
ホールディングスやM&A仲介コンサルティングといった少人数の特殊な組織を除いた年収上位企業10社(キーエンス、朝日放送、三菱商事、伊藤忠商事、ファナック、住友商事、電通、丸紅、三井物産、三菱地所)をピックアップしてみると、10社の平均年収は1359万円。それに対して、年収下位企業のうち、大卒初任給がわかる10社の平均年収は307万円。なんと4.4倍もの格差となった。
一方、大卒の初任給を各社の採用サイトなどから見てみると、先ほどの年収上位企業10社の平均は22万9896円となった。それに対して、下位企業10社の平均は19万6042円。やはり年収上位企業の方が高いものの、その差は1.2倍程度に留まっており、年収ほど格差は大きくない。
これらのことから、売り手市場の中で、企業では初任給格差の見直しが進んでいるであろうことが見てとれる。就活生にとって、これは良い傾向であると言えよう。
■日本の初任給は東大卒も三流大卒も一緒
とはいえ、企業で初任給格差の見直しが画一的に進むのは、いいことばかりなのだろうか。大卒、高卒といった教育段階の学歴区分をベースに検証するのもいいが、同じ学歴区分ではどうなのか。たとえば、一口に「大卒」という学歴であっても「どのレベルの大学を出たか」という観点もあるはずだ。
「東大・京大卒は40万円、早稲田・慶応卒なら30万円、その他の大学は20万円」
このように卒業する大学の偏差値によって初任給格差を設けている会社を、日本では目にすることがない。果たして、これは妥当なのだろうか。
たとえばアメリカやイギリスであれば、大学卒であっても大学のレベルによって初任給が異なることは珍しくない。年収300万円からスタートする人がいる反面、ハーバード大やオックスフォード大を出たエリートなら、最初から年収1000万円もらえるかもしれない。MBAを取得するような優秀な人材であれば、大手の投資銀行やコンサルタント会社から誘われて、いきなり1500万円以上というケースもあると聞く。
グーグルやアマゾンなど大手IT企業も、優秀なエンジニアの獲得のため、これと同水準の初任給を提示しているようだ。プロ野球のドラフトで上位指名される選手が、1億円前後の契約金をもらうのと同じような感覚と考えればいいだろう。
もちろん、職種や地域、企業によっても異なるが、大学において入学から卒業までの努力を評価した「値決め」ということになる。これがアメリカやイギリスの常識。文句があるなら勉強して、難しい大学を卒業すればいいだけの話だからだ。
ただし、新卒一括採用という習慣のない欧米諸国では、若者の失業率が極めて高いといった社会問題も存在する。新卒でも優秀なら高い値段で売れる反面、そうでない人は就職することすら困難ということだ。
>>2以降に続く
2018.6.25
ダイヤモンド・オンライン
https://diamond.jp/articles/-/173152