https://mainichi.jp/articles/20210109/k00/00m/040/103000c
毎日新聞2021年1月9日 15時34分(最終更新 1月9日 15時35分)
2020年度使用されている育鵬社版の歴史教科書
近現代史などの記述を巡って賛否がある育鵬(いくほう)社版の歴史教科書を、山口県下関市は2021年度から初めて使用する。同社版を採択する自治体が減る中、新しく採択したのは同市のみ。市内では子どもたちへ与える影響や教育に対する不安の声が上がるが、市教委は「当時を生きた人の視線で歴史を考え、議論できる」などの採択理由を説明する。【佐藤緑平】
小中学校の教科書採択は原則4年ごとに実施され、文部科学省の検定に合格した教科書の中から、市区町村や都道府県の教育委員会が選ぶ。下関市教委は21〜24年度に使用する各科の教科書を、有識者や教員らでつくる協議会の報告を踏まえて審議し、20年7月30日の定例会で採択した。
歴史は7社の中から、育鵬社を採択。定例会の審議では、同社版が山口県や下関市ゆかりの人物や事柄を多く扱っていることや「時代時代を生きてきた人の目を通して歴史を考えるという人物にクローズアップした部分」などを評価する声が多く、反対意見は出なかった。
育鵬社と他の6社が発行する21年度の教科書の見本を比較した場合、歴史的事実の記述の有無や、表現の違いを指摘する声は多い。育鵬社は日本の韓国併合について唯一「植民地」と表記せず、当時日本の土地調査事業によって朝鮮の農民が土地を失ったことも触れていない。日本国憲法の制定を巡っては5社が、連合国軍総司令部(GHQ)が草案作成に際して日本の民間でつくられた草案を参考にした経緯に触れているが、育鵬社は「(GHQが)自ら全面的な改正案を作成し、これを受け入れるよう日本側に強く迫りました」。憲法改正や再軍備について「現在もなお多くの議論が行われています」と説明している。
育鵬社版の歴史教科書は20年、横浜市や大阪市などこれまで使用していた複数の自治体で不採択が決まり、全国シェアは20年度6・4%から21年度1・1%に激減する見通し。市内では採択決定後、市民らでつくる「下関の教科書問題を考える市民の会」が発足。代表の田川和子さんは「育鵬社の教科書は、過去に教科書検定で事実の誤りや修正意見が多く指摘されている。下関の子どもたちがこの教科書で学ぶことを思うと不安でしかたない」と話す。
毎日新聞2021年1月9日 15時34分(最終更新 1月9日 15時35分)
2020年度使用されている育鵬社版の歴史教科書
近現代史などの記述を巡って賛否がある育鵬(いくほう)社版の歴史教科書を、山口県下関市は2021年度から初めて使用する。同社版を採択する自治体が減る中、新しく採択したのは同市のみ。市内では子どもたちへ与える影響や教育に対する不安の声が上がるが、市教委は「当時を生きた人の視線で歴史を考え、議論できる」などの採択理由を説明する。【佐藤緑平】
小中学校の教科書採択は原則4年ごとに実施され、文部科学省の検定に合格した教科書の中から、市区町村や都道府県の教育委員会が選ぶ。下関市教委は21〜24年度に使用する各科の教科書を、有識者や教員らでつくる協議会の報告を踏まえて審議し、20年7月30日の定例会で採択した。
歴史は7社の中から、育鵬社を採択。定例会の審議では、同社版が山口県や下関市ゆかりの人物や事柄を多く扱っていることや「時代時代を生きてきた人の目を通して歴史を考えるという人物にクローズアップした部分」などを評価する声が多く、反対意見は出なかった。
育鵬社と他の6社が発行する21年度の教科書の見本を比較した場合、歴史的事実の記述の有無や、表現の違いを指摘する声は多い。育鵬社は日本の韓国併合について唯一「植民地」と表記せず、当時日本の土地調査事業によって朝鮮の農民が土地を失ったことも触れていない。日本国憲法の制定を巡っては5社が、連合国軍総司令部(GHQ)が草案作成に際して日本の民間でつくられた草案を参考にした経緯に触れているが、育鵬社は「(GHQが)自ら全面的な改正案を作成し、これを受け入れるよう日本側に強く迫りました」。憲法改正や再軍備について「現在もなお多くの議論が行われています」と説明している。
育鵬社版の歴史教科書は20年、横浜市や大阪市などこれまで使用していた複数の自治体で不採択が決まり、全国シェアは20年度6・4%から21年度1・1%に激減する見通し。市内では採択決定後、市民らでつくる「下関の教科書問題を考える市民の会」が発足。代表の田川和子さんは「育鵬社の教科書は、過去に教科書検定で事実の誤りや修正意見が多く指摘されている。下関の子どもたちがこの教科書で学ぶことを思うと不安でしかたない」と話す。