https://mainichi.jp/articles/20210829/k00/00m/040/201000c
毎日新聞 2021/8/29 17:38(最終更新 8/29 17:38) 1487文字
厚生労働省が入る中央合同庁舎第5号館=東京・霞が関で、竹内紀臣撮影
新型コロナウイルスの感染拡大で、政府が雇用を守る頼みの綱とする「雇用調整助成金(雇調金)」の財源が底を突きかけている。コロナ禍での解雇を抑えるために上限額引き上げなどの特例措置が昨年春から続いており、本来は失業手当に充てる別の積立金からも捻出するといったやりくりも限界を迎えつつある。労働者と企業が納める雇用保険料の料率引き上げも避けられない状況で、9月から国の審議会で本格的に検討する方針だ。
雇調金は、労働者の雇用を守るセーフティーネットとなる雇用保険の事業で、企業が従業員を休ませた場合に休業手当分を国が企業に支給する。コロナ禍での雇用維持のため、支給の上限を日額約8300円から最大1万5000円に引き上げるなどの特例措置を設けている。
雇用保険には、保険料を@企業と労働者が折半して負担し、失業手当に充てる「失業等給付」と、A企業だけが負担する職業訓練や失業予防など「二事業」の二つの事業がある。2019年度末の積立金残高は@4兆5000億円、A1兆5000億円で、雇調金はAから支払われる。
政府は当初、コロナ禍の特例措置を「一時的な対応」と想定していたが、感染拡大が収まらないため縮小できず、支給総額は4兆2000億円に達した。Aの積立金だけでは足りなくなり、@の積立金から1兆7000億円を借り、一般会計(税金)から1兆1000億円を穴埋めした。@の積立金は本来、失業手当の支払いに備えるためのものだが、「資金が枯渇したため、リーマン・ショック以来の対応となった」(厚生労働省担当課)という。
雇調金は今年度、1兆2000億円の支給を見込んでいたものの、8月20日時点で既に1兆円を超えた。1カ月当たりで2000億円超を支払っているため、9月には底を突く可能性がある。そこで厚労省は当面、今年度分の@の予算を雇調金の財源に充てることを模索。雇調金の効果もあり、完全失業率はコロナ禍でも3%前後で推移しており、リーマン・ショック後(5・5%、09年7月)、東日本大震災後(4・7%、11年6月)に比べると抑えられている。厚労省幹部は「失業率が低いため、失業手当の予算は残るだろう。望ましい形ではないが、そこしか頼るところがない」と理解を求める。
中長期的な対策も必要となり、9月からは厚労省の労働政策審議会で、来年度の雇用保険料の見直しに向けた議論を本格化する。現在の保険料率は、@は本来の1・2%から0・6%(育児休業給付分含む)に、Aは0・35%から0・3%に一時的に引き下げられている。コロナ禍による積立金の枯渇を受け、来年度以降の料率引き上げは避けられないとみられる。
料率を本来の水準に戻すと、月収30万円の場合、労働者の負担は月900円、企業は月1050円それぞれ増える見込みだ。しかし10月には最低賃金が全国平均で28円上がるなど企業の負担が増す中、保険料率をどこまで引き上げられるかは不透明だ。企業を代表する委員からは「コロナで打撃を受けた業種が以前の水準に回復するのには相当の時間が必要。料率は上げないことを要望する」と財源として税金の投入を求める意見が既に上がっている。
雇用保険の料率を引き上げるには、雇用保険法改正案を来年の通常国会に提出する必要がある。感染収束が見えない中での議論になるが、ある厚労省幹部は「雇調金が失業を抑える一定の役割を果たしていることは間違いない。ただ、財政状況を考えると、『雇調金の特例措置を維持したままで、料率も引き下げたまま』にはできない。段階的な引き上げには労使の理解を得たい」と話した。【石田奈津子】
毎日新聞 2021/8/29 17:38(最終更新 8/29 17:38) 1487文字
厚生労働省が入る中央合同庁舎第5号館=東京・霞が関で、竹内紀臣撮影
新型コロナウイルスの感染拡大で、政府が雇用を守る頼みの綱とする「雇用調整助成金(雇調金)」の財源が底を突きかけている。コロナ禍での解雇を抑えるために上限額引き上げなどの特例措置が昨年春から続いており、本来は失業手当に充てる別の積立金からも捻出するといったやりくりも限界を迎えつつある。労働者と企業が納める雇用保険料の料率引き上げも避けられない状況で、9月から国の審議会で本格的に検討する方針だ。
雇調金は、労働者の雇用を守るセーフティーネットとなる雇用保険の事業で、企業が従業員を休ませた場合に休業手当分を国が企業に支給する。コロナ禍での雇用維持のため、支給の上限を日額約8300円から最大1万5000円に引き上げるなどの特例措置を設けている。
雇用保険には、保険料を@企業と労働者が折半して負担し、失業手当に充てる「失業等給付」と、A企業だけが負担する職業訓練や失業予防など「二事業」の二つの事業がある。2019年度末の積立金残高は@4兆5000億円、A1兆5000億円で、雇調金はAから支払われる。
政府は当初、コロナ禍の特例措置を「一時的な対応」と想定していたが、感染拡大が収まらないため縮小できず、支給総額は4兆2000億円に達した。Aの積立金だけでは足りなくなり、@の積立金から1兆7000億円を借り、一般会計(税金)から1兆1000億円を穴埋めした。@の積立金は本来、失業手当の支払いに備えるためのものだが、「資金が枯渇したため、リーマン・ショック以来の対応となった」(厚生労働省担当課)という。
雇調金は今年度、1兆2000億円の支給を見込んでいたものの、8月20日時点で既に1兆円を超えた。1カ月当たりで2000億円超を支払っているため、9月には底を突く可能性がある。そこで厚労省は当面、今年度分の@の予算を雇調金の財源に充てることを模索。雇調金の効果もあり、完全失業率はコロナ禍でも3%前後で推移しており、リーマン・ショック後(5・5%、09年7月)、東日本大震災後(4・7%、11年6月)に比べると抑えられている。厚労省幹部は「失業率が低いため、失業手当の予算は残るだろう。望ましい形ではないが、そこしか頼るところがない」と理解を求める。
中長期的な対策も必要となり、9月からは厚労省の労働政策審議会で、来年度の雇用保険料の見直しに向けた議論を本格化する。現在の保険料率は、@は本来の1・2%から0・6%(育児休業給付分含む)に、Aは0・35%から0・3%に一時的に引き下げられている。コロナ禍による積立金の枯渇を受け、来年度以降の料率引き上げは避けられないとみられる。
料率を本来の水準に戻すと、月収30万円の場合、労働者の負担は月900円、企業は月1050円それぞれ増える見込みだ。しかし10月には最低賃金が全国平均で28円上がるなど企業の負担が増す中、保険料率をどこまで引き上げられるかは不透明だ。企業を代表する委員からは「コロナで打撃を受けた業種が以前の水準に回復するのには相当の時間が必要。料率は上げないことを要望する」と財源として税金の投入を求める意見が既に上がっている。
雇用保険の料率を引き上げるには、雇用保険法改正案を来年の通常国会に提出する必要がある。感染収束が見えない中での議論になるが、ある厚労省幹部は「雇調金が失業を抑える一定の役割を果たしていることは間違いない。ただ、財政状況を考えると、『雇調金の特例措置を維持したままで、料率も引き下げたまま』にはできない。段階的な引き上げには労使の理解を得たい」と話した。【石田奈津子】