冷戦期、西側の発展途上国などで大量に採用されたF-5E/F「タイガーII」戦闘機ですが、その中古機を、ここにきてアメリカ軍が取得するといいます。しかも22機とまとまった数です。なにをするつもりなのでしょうか。
取得するのはスイス軍のお古
アメリカ国防総省は2019年3月12日に、2020年度予算案を発表しました。この予算案には空軍のF-35AとF-15の最新型F-15EX、海兵隊のF-35B、海軍のF-35CとF/A-18E/F「スーパーホーネット」の最新型ブロックIII仕様機といった、最新鋭戦闘機の取得費に加えて、1972(昭和47)年に初飛行したF-5E/F「タイガーII」戦闘機22機の取得費も計上されています。
アメリカ海軍と海兵隊が空対空戦闘訓練に仮想敵機として運用しているF-5N(画像:アメリカ海軍)。
冷戦時代、東西両陣営の首領であったソ連とアメリカは、敵対する陣営に対抗すべく自陣営に所属する国々の軍事力の強化に努めており、同盟国や友好国に対して、相手国の事情に配慮する形で戦闘機を提供していました。
アメリカは1950年代に、財政的に余裕の無かった日本をはじめとする一部の同盟国に対して、F-86「セイバー」戦闘機を無償で供与していました。その後、日本や西ドイツ(当時)といった経済成長を遂げた国々は、F-86の後継機としてF-104「スターファイター」を有償で導入していますが、F-86Fの無償供与を受けた国々の多くは、F-104を導入できる経済力も、運用できるインフラもありませんでした。このためアメリカは1950年代後半に、安価で運用でき整備が容易な軽戦闘機の導入を模索し、ノースロップ(現ノースロップ・グラマン)の提案をF-5A/B「フリーダムファイター」として採用しました。
2020年度予算で取得するF-5E/Fは、F-5A/Bの設計をベースに、レーダーの搭載や飛行性能の向上といった改良を加えた発展型で、1972(昭和47)年に初飛行しています。飛行性能や搭載できる兵装の種類および量などは、F-5E/Fが初飛行した時点でアメリカ空軍の主力戦闘機であったF-4「ファントムII」には及びませんでしたが、高い運動性能を備えており、旧ソ連が同盟国・友好国に対して供与していたMiG-21戦闘機には十分対抗できる能力を備えていました。韓国と台湾、スイスではライセンス生産も行なわれましたが、このライセンス生産によって、韓国と台湾の航空産業は大きな飛躍を遂げたと言われています。
実は映画『トップガン』にも登場
最終的にF-5E/Fは1399機が生産され、20か国以上に採用されましたが、開発国のアメリカにおけるF-5E/Fは「外国への供与用」という位置づけの戦闘機であり、アメリカは自国の軍で採用する意思を持っていませんでした(アメリカにおける実績作りのため、F-5A飛行隊がベトナム戦争に投入されたことはあり、「スコシ・タイガー作戦」の名で知られる)。しかし1975(昭和50)年にベトナム戦争が終結して、同盟国であったベトナム共和国(南ベトナム)が消滅したことで、同国への供与を見込んで製造していたF-5E/Fが大量に余ってしまったことから、アメリカ軍はこれを引き取り、空対空戦闘訓練の仮想敵機として運用することにしました。
アメリカ海軍と海兵隊のF-5N。尾翼に赤い星が見えるように、仮想敵国の戦闘機を意識した塗装が施されている(画像:ノースロップ・グラマン)。
本意ではない形でF-5E/Fを導入することになったアメリカ軍ですが、高い運動性能を備えた同機は、訓練で旧ソ連製戦闘機、とりわけMiG-21の役を演じるにはこれ以上ない戦闘機でした。アメリカ海軍が仮想敵機として運用していたF-5E/Fは、1986(昭和61)年に公開された映画『トップガン』で、旧ソ連が開発したという設定の架空戦闘機MiG-28役も務めています。
アメリカ空軍は1989(平成元)年をもってF-5E/Fの運用を終了していますが、同機を高く評価している海軍と海兵隊は現在もF-5Nとして運用を続けており、スイス空軍から退役した機体の追加購入もしています。
一方で近年、空対空戦闘訓練の仮想敵は、民間企業の運用する訓練機が務めることが増えていますが、こうした民間企業においてもF-5E/Fはいまだ需要があります。たとえばアメリカの民間企業であるタクティカル・エア・サポート社も、F-5E/Fのレーダーや電子戦装置などを近代化して、より現在の実戦に近い訓練環境を提供する「F-5AT」を運用しており、今後、各国の空軍から退役するF-5を導入する企業が増えると見られています。
取得するのはスイス軍のお古
アメリカ国防総省は2019年3月12日に、2020年度予算案を発表しました。この予算案には空軍のF-35AとF-15の最新型F-15EX、海兵隊のF-35B、海軍のF-35CとF/A-18E/F「スーパーホーネット」の最新型ブロックIII仕様機といった、最新鋭戦闘機の取得費に加えて、1972(昭和47)年に初飛行したF-5E/F「タイガーII」戦闘機22機の取得費も計上されています。

アメリカ海軍と海兵隊が空対空戦闘訓練に仮想敵機として運用しているF-5N(画像:アメリカ海軍)。
冷戦時代、東西両陣営の首領であったソ連とアメリカは、敵対する陣営に対抗すべく自陣営に所属する国々の軍事力の強化に努めており、同盟国や友好国に対して、相手国の事情に配慮する形で戦闘機を提供していました。
アメリカは1950年代に、財政的に余裕の無かった日本をはじめとする一部の同盟国に対して、F-86「セイバー」戦闘機を無償で供与していました。その後、日本や西ドイツ(当時)といった経済成長を遂げた国々は、F-86の後継機としてF-104「スターファイター」を有償で導入していますが、F-86Fの無償供与を受けた国々の多くは、F-104を導入できる経済力も、運用できるインフラもありませんでした。このためアメリカは1950年代後半に、安価で運用でき整備が容易な軽戦闘機の導入を模索し、ノースロップ(現ノースロップ・グラマン)の提案をF-5A/B「フリーダムファイター」として採用しました。
2020年度予算で取得するF-5E/Fは、F-5A/Bの設計をベースに、レーダーの搭載や飛行性能の向上といった改良を加えた発展型で、1972(昭和47)年に初飛行しています。飛行性能や搭載できる兵装の種類および量などは、F-5E/Fが初飛行した時点でアメリカ空軍の主力戦闘機であったF-4「ファントムII」には及びませんでしたが、高い運動性能を備えており、旧ソ連が同盟国・友好国に対して供与していたMiG-21戦闘機には十分対抗できる能力を備えていました。韓国と台湾、スイスではライセンス生産も行なわれましたが、このライセンス生産によって、韓国と台湾の航空産業は大きな飛躍を遂げたと言われています。
実は映画『トップガン』にも登場
最終的にF-5E/Fは1399機が生産され、20か国以上に採用されましたが、開発国のアメリカにおけるF-5E/Fは「外国への供与用」という位置づけの戦闘機であり、アメリカは自国の軍で採用する意思を持っていませんでした(アメリカにおける実績作りのため、F-5A飛行隊がベトナム戦争に投入されたことはあり、「スコシ・タイガー作戦」の名で知られる)。しかし1975(昭和50)年にベトナム戦争が終結して、同盟国であったベトナム共和国(南ベトナム)が消滅したことで、同国への供与を見込んで製造していたF-5E/Fが大量に余ってしまったことから、アメリカ軍はこれを引き取り、空対空戦闘訓練の仮想敵機として運用することにしました。

アメリカ海軍と海兵隊のF-5N。尾翼に赤い星が見えるように、仮想敵国の戦闘機を意識した塗装が施されている(画像:ノースロップ・グラマン)。
本意ではない形でF-5E/Fを導入することになったアメリカ軍ですが、高い運動性能を備えた同機は、訓練で旧ソ連製戦闘機、とりわけMiG-21の役を演じるにはこれ以上ない戦闘機でした。アメリカ海軍が仮想敵機として運用していたF-5E/Fは、1986(昭和61)年に公開された映画『トップガン』で、旧ソ連が開発したという設定の架空戦闘機MiG-28役も務めています。
アメリカ空軍は1989(平成元)年をもってF-5E/Fの運用を終了していますが、同機を高く評価している海軍と海兵隊は現在もF-5Nとして運用を続けており、スイス空軍から退役した機体の追加購入もしています。
一方で近年、空対空戦闘訓練の仮想敵は、民間企業の運用する訓練機が務めることが増えていますが、こうした民間企業においてもF-5E/Fはいまだ需要があります。たとえばアメリカの民間企業であるタクティカル・エア・サポート社も、F-5E/Fのレーダーや電子戦装置などを近代化して、より現在の実戦に近い訓練環境を提供する「F-5AT」を運用しており、今後、各国の空軍から退役するF-5を導入する企業が増えると見られています。