1
梨子「それが壁ドンですよ」
梨子(ふと自分の書き込みと同じ言葉を口に出していた)
梨子(目の前の画面、自分の書き込みをもう一度みる)
Heyhoo!知恵袋
海mi:さんの質問 「壁ドンとは、なんのことでしょうか?」
同じ部活の後輩から、壁ドンをして欲しいと頼まれました。
相手を壁際に立たせ、自分は対面して、相手の顔近く、壁に手をおく。
この状態でおしゃべりして欲しい、と頼まれました。
実際にやってみたところ、正直、自分では何がいいのかわからず、
頼みの綱の後輩は、なぜか恥ずかしがって、碌に会話になりませんでした。
ただ、終わった後、また今度やって欲しいと頼まれました。
恐らく、私が後輩の望むようには、壁ドンを正しく出来なかったのだと、思います。
後輩の一人が言い出したら、それを皮切りに、何人もの後輩に、頼まれました。
後輩のためですし、快く引き受けましたが、次はちゃんと上手くできるようになりたいものです。
自分でネットを使って調べてみましたが、複数の意味があり、誤用もあるとのことでしたので、
正しい壁ドンを、こちらで教えて頂けませんでしょうか?
参考になるかはわかりませんが、私は弓道部に所属しています。
Nashikoさんの回答
海mi:さんの行なった壁ドンは、正に壁ドンですよ。
だって、後輩が恥ずかしがって、会話にならなかったのが、最高の証明です。
こちら↓画像投稿サイトで、私が、壁ドン画像を集めたページのURLです。
URL〜
参考に、ここを見てください。ここであなたが見たもの感じたもの
それが壁ドンですよ )^o^(
梨子「私、何をしているんだろう」
梨子(作曲の息抜きに、ちょっとネットを、なんて、時間を忘れて、ずぶずぶとはまってしまったわ)
梨子(でもでも、壁ドン系の質問が、誰にも答えられず、放置されているなんて、見過ごせないじゃない)
梨子(この名前、なんて読むのかしら「うみみ」君だって、困っていたはずよ)
梨子(それに先輩の壁ドンに憧れる弓道部の後輩少女だって、このままじゃ可哀想だわ、うん)
梨子「って、はぁ〜、ダメね」
梨子(言い訳よね。作曲が全く上手くいっていないからって)
梨子「えっ、海をイメージした曲?」
千歌「そっーなんだよ!次の曲は、内浦の海をテーマにした曲にしたいなって」
千歌「地元の町内会から、夏祭りに流す曲のオファーが来たんだよ」
曜「千歌ちゃん、嘘は良くないよ」
曜「夏祭りに流す曲、使わせてくれって町内会長に、頼み込んだんだよ」
梨子「それで、オーケーしてくれたの?」
千歌「もっちろんだよ。aqoursが認められている証拠だね」(*^^)v
曜「町内会の祭りの打ち上げを、千歌ちゃんの旅館で、格安で提供するって、話し合いが決まったみたい」
梨子「悲しき談合ね」
千歌「ちがう、ちっがーう。aqoursは、もっと地元に密着したスクールアイドルになって、もっともーっと個性を引き出していかないと」
千歌「って、2人とも、聞いてるのっー?」
梨子「いつもの千歌ちゃんね」
曜「うん。また迷走するね」
梨子(って、引き受けたけど、私が迷走してるわね)
梨子(以前、海の音をイメージした曲「海に還るもの」を作曲したけど)
千歌「梨子ちゃんが作ってくれた海の曲すっごく良かったよ」
千歌「でも、せっかくお祭りに使うんだから、新曲で、どっーんとaqoursを宣伝したいよね」
梨子(新曲って簡単にいってくれるわよね)
梨子(前とは違う、別のイメージ。別の海の曲)
梨子(漠然としているなぁ)
梨子(後日、私の回答はベストアンサーに選ばれていた)
梨子「あれ?この質問の投稿日時、文字化けかしら」
梨子(投稿日時が5年前の日付になっていた。私の回答も5年前になっていた)
梨子(私以外の回答者はいなかった)
.
2
果南「また潜ってみたいって?」
梨子「無理を言ってごめんなさい」
梨子「次の曲のイメージに、どうしても参考にしたくて」
果南「ああ、千歌の思い付きの」
梨子「ええ、そんなところです」
果南「無理しなくていいのに。ま、引き受けちゃうのが梨子ちゃんのいいところだね」
梨子「ぐいぐい前に進んでいっちゃうのも、千歌ちゃんのいいところですしね」
果南「梨子ちゃんの頼みなら、お安い御用だよ」
梨子「ありがとうございます」
果南「お客様、1名、ご案内いたします」
果南「どうだった?参考になったかな」
梨子「わかりません。以前、作った海の曲で、海のイメージはあるんですけど」
果南「その曲の海とは、違うっていうのが、スタートだからね。難しいね」
梨子「果南さんにとって、海の音って、どんな音ですか?」
果南「うーん。どうだろう。考えたことなかったな。潜っている時、何も考えてないし」
果南「深く深く潜っていくと、その内、音のない世界に、潜り込むんだ」
梨子「何も聞こえないんですか」
果南「聞こえては、いると思うんだよね」
果南「でも、なんの音とか、あんまり考えてないというか。聞こえても抜けていくんだよね」
梨子「音が、抜けていく?」
果南「自分の呼吸とか、波の音とか、体にすーっと入っていって、またすーっと抜けていく」
果南「その繰り返しが、ああ、わたし今、海に潜っているんだなって、感覚になる」
梨子「それが果南さんの海の音なんですね」
果南「そう、かな。よくわからないけど。参考になるの?」
梨子「はい、ありがとうございます」
梨子(海の音とは、つまり海のイメージをどう表現するか)
梨子(しかも、以前、私がありのままを感じて、作り上げたイメージとは、別のイメージを感じて作れって、何よそれ)
果南「はい、梨子ちゃん。タオル。髪、濡れているよ」
梨子「ありがとうございます。ふぇっ!」
グッと
梨子(いつの間にか、果南さんに引き寄せられていた)
梨子(私と果南さんとの距離がゼロになって)
果南「大丈夫」
梨子(気づけば、ハグされていた)
梨子「えっ?えっっ!ちょっと果南さんっ!?」
果南「梨子ちゃんが作った曲なら、それが海の曲だよ」ナデナデ
梨子「///」
果南「どう?ちょっとは元気でた?」
梨子「な、な、なな、なぜこんなことを」
果南「最近、スクールアイドル再開してから、学校の子が、うちのお店に来ること多くてさ」
梨子「その子たち、きっと果南さんのファンですよ」
果南「それは嬉しいけど。単純に私に会いに来た子より、ちょっとでもダイブに興味もってくれる子も増えたんだ」
果南「けど、やっぱり女の子が深く海に潜るって勇気がいるみたいでさ」
梨子「ああ確かに、最初は私も千歌ちゃんたちと手を繋ぎながらでしたね」
果南「潜った後、体の震えが止まらない子がいるんだよ」
果南「そんな子に、ハグしてあげると、震えが止まるんだよね」
梨子「う ら や 、 そ ん な こ と し てるんですか」
果南「でも、鞠莉が怒るだよね。そうは言っても、うちも客商売だし、お客様は神様だし。リピーター増やしたいし」
果南「何より、海が怖いままってのは、勿体無いよね」
梨子「ひょっとして、いつもハグしてるんですか」
果南「うん。そだよ」
梨子「多分、その子達、一生怖がったまま、一生リピーターですよ」
梨子(作曲は進まなかった)
.
3
梨子(私が海mi:さんに紹介したサイトはいわゆる画像投稿サイト。二次も三次写真もOKな)
梨子(ここは、誰でも自由にタグ付け出来て、自分だけのコレクションを創ることができる。他人に見せることも出来る)
梨子(さらに、画像投稿時に、画像加工や目線入れ、GPS情報削除など、個人特定されないように、素人でも安全に投稿できるよう配慮されている)
梨子(私が、二次三次問わず、貪り尽くすように「壁ドン」タグをつけてまとめた壁ドンクラスタ、この専用のURLを海miさんの質問に回答として添えた)
梨子「あら?新着通知が着てる」
梨子(珍しい。自分の投稿画像にコメントがつく時くらいしか、通知なんて来ないのに)
梨子(最近は、投稿してない)
梨子(ちなみに最後に投稿した画像は、千歌ちゃんに、おふざけでやってもらった壁ドンプリクラを、アプリで加工して目線を入れて、本人特定を不可能にした画像)
梨子(いつか顎クイプリクラも、秘蔵の品として、投稿しようと思っている)
.
海mi::さんよりダイレクトメッセージが届いています
海mi::Heyhoo知恵袋で、このサイトを教えて頂いたNashikoさんでしょうか?
梨子(海mi:さんって、Heyhoo知恵袋で相談受けた、弓道部の先輩のうみみ君、だったかしら)
Nahsiko:はい、そうですよ。紹介したサイトは、参考になりましたか?
海mi::ありがとうございました。一言に壁ドンといっても、沢山あるのですね。御見逸れしました。
Nashiko:画像に自由にコメントを付けることもできますよ。気に入ったものがあれば、お気に入りにしてみてください。
海mi::そうですね。まだ全てを見ているわけではないのですが、勉強してみます。
Nashiko:是非とも可愛い後輩ちゃんを喜ばせる壁ドンを探してみてください。応援していますよ。
梨子(後輩ちゃんの為に、壁ドンを勉強するなんて、うみみ君って真面目な人なのだろう)
梨子(さすが、壁ドンを望まれる先輩なだけはあるわね。見ず知らずの人にエールを送っていた)
海mi::そのことなのですが、そもそもメッセージを送らせて頂いたのは、本題がありまして。もちろん、お礼も兼ねてなのですが。
Nashiki:なんでしょうか
海mi::壁ドンをすると、相手は喜ぶのですか?私からすれば、どうみても相手を威嚇している行為にしか見えません。
Nashiko:女の子なら、絶対に喜びます。女の子なら、みんなそうです。真理です。
海mi::ですから、私には、さっぱり分からないのです。
梨子(???)
梨子(男の子には、分からないかもしれないわね。でも、なんだろう?この違和感)
Nashiko:もしかしたら、ここの壁ドン画像のようにドンしていても、実際には、全然違うドンをしてるかもしれませんね。
海mi::なるほど。第三者から見ると、ここの壁ドン画像のように、ドンを出来ていないと。
Nahsiko:はい。本当に相手を怖がらせているような、威嚇をしているのかもしれません。
Nashiko:例えばメンチ?を切るような。ガンを飛ばすような。
海mi:そうですね。気をつけてみます。
海mi::しかし、どうすれば正しい壁ドンを、自分がドン出来ていると、確認できるのでしょうか。
Nashiko:実践あるのみですね。誰かに見てもらうのがいいと思います。あ、でも、弓道部の後輩ちゃんには絶対ダメですよ。本番までダメ絶対。
海mi::それでしたら、ちょうどいいかもしれません。
海mi::私の幼馴染2人に話したら、自ら練習台になってくれると言ってくれたんです。
梨子(練習台?自ら?なんだろう、その人の幼馴染)
Nashiki:異性の幼馴染ですか?
海mi::いいえ、2人とも同性の幼馴染ですよ。
梨子(は?男同士で、壁ドン。そういう需要があるのは知っているけども。私は、専門外だし、その逆が専門なのよね)
梨子(ちなみに、集めた壁ドン画像は、異性同性分け隔てなく収集している。ある種のフェイク。私の好み、がマイノリティであることは自覚しているから)
海mi::ですが、私の幼馴染といえど、貴方のように、壁ドンに精通しているわけではありません。
海mi::不躾ではありますが、Nashikoさんにアドバイスを頂ければと、メッセージを送った次第なのです。
Nashiko:お気持ちありがとうございます。ですが、私を買い被り過ぎですよ。
海mi::そうですね。あまりに突飛なお願いでしたね。会ったこともない者に、こういったサイトを教えてくれるだけでもありがたいのに、図に乗りました。失礼にも程がありました。
梨子(こういうのに弱いのよね。後輩ちゃんのため、壁ドンに憧れる無垢な少女のためよ、私)
Nashiko:では、ここの画像投稿サイトに投稿してみてはいかがでしょう?
海mi::あまり詳しくはないのですが、こういったサイトに投稿することに、リスクなどありませんか?あまり公に晒すわけにもいかない立場にいまして。
Nashiko:もちろん、アプリで加工して、ちゃんと目線を入れて、本人特定できないようにする必要があります。
Nashiko:既にお分かりでしょうが、ここに投稿されている画像の殆どが、顔かくし、目線入れ、加工済みばかりのものでしょう。
海mi::確かに、言われてみれば、個人を特定はできないものばかりですね。
Nashiko:なぜ投稿サイトを利用するのかといった点については、私も、壁ドンに好みがありますし、どうしても偏りが出ます。
Nashiko:ここなら、多くの人の目に触れ、多くの意見を参考にできるかと思います。
海mi::自分の壁ドンが、客観的に評価されるということですね。分かりました。どんなところに注意すればいいのでしょうか?
梨子(それから、画像投稿時に、注意する点や、本人特定されないようにする目線入れなどの加工ポイントを海mi:さんにまとめて教えてあげていた)
海mi::奥が深いものですね。明日、私の壁ドン画像を投稿してみます。
Nashiko:楽しみにしています。コメントしますよ〜。
Nashiko:まだまだ、これは壁ドンの氷山の一角。よかったら、私も次の投稿で、壁ドンの真髄をご覧入れましょう。
梨子(夜中のせいか少し変なテンションになりつつ、千歌ちゃんとおふざけで撮った顎クイプリクラ画像の加工を始め、夜が更けていった)
梨子「あら?」
梨子「また文字化けしてる」
梨子(海mi:さんと私のメッセージの日付が、なぜか5年前になっていた)
梨子(今日も作曲は進まなかった)
次の日
千歌「ねぇ、梨子ちゃん。その、頼んだ手前、言いにくいんだけど、新曲って、どんなかなーって」
梨子「え?ああ、そうね。えっと、順調よ」
梨子(結局、あのまま壁ドン画像加工から、画像探し、お気に入りサークルの巡回をして、気づけば徹夜)
千歌「ほんとっ!いやー良かったよ。さっすが梨子ちゃん」
梨子(あれ、私、今、なんて答えたかしら。睡眠不足で、ふらふらするわね)
千歌「町内会長が気にしててさ、冒頭だけでもいいから、サンプル聴かせてくれって、せがまれちゃって」
千歌「今度ちゃんと聴かせてね。梨子ちゃん」
梨子「ええ」
梨子(部活を終え、ふらふらになりながらも、PCを起動して、例のサイトを開く)
梨子(新着通知が、来てるわね)グッb
海mi:さんよりダイレクトメッセージが届いています
海mi::初めての画像投稿してみました。「壁ドン」タグも付けてみました。URL〜〜
海mi::壁役と撮影役、2人の幼馴染に協力してもらいました。
梨子(期待半分と特定バレ炎上要素になりそうな、やらかし画像でないかの不安半分で、URLをクリックする)
梨子(2人の女の子で壁ドンしている画像が、そこにはあった)
.
梨子(懸念していた、特定バレ情報などなく、ほどよい加工画像)
梨子「なん、ですって」
梨子(海mi:さんが投稿した壁ドン写真、それは正に、私が壁ドンされたような、衝撃的な一枚だった)
梨子(私がドンされた理由は3つ)
梨子(一つ、海mi:さん含め女の子同士の壁ドン!私の超々ど真ん中ストライクゾーンだったこと)
梨子(二つ、夏服とはいえ、私が通っていた音の木坂の制服によく似ている?《加工されて似せてある?》制服だったこと)
梨子(三つ、それが本当の、真の意味での、完璧で、尊く、最っ高な壁ドン!だったこと)
.
梨子「この、ドンしている方が、うみみ君?いいえ、うみみさん、つまり海mi:さんよね」
梨子「目線こそ隠れているけど、端正な顔立ちは、隠せないわね。
運動部だからかしら、姿勢が良くて、普通なら壁に寄りかかって、なよっと見えることなく、凛々しく見える。
相手に迫り、前傾になることで、黒髪ロングが頬を少し隠し、表情をはっきりと読み取らせない構図もグッド。
けれど、口元から察するに、相手に逃げ場なんてないと、鋭く狙いをつけ、獲物を狩る目。
そうはいっても、瞳の奥は、どこかに優しい目になっているに違いないわ。
相手との顔の距離も、離れすぎず、近すぎずない。
『いつでもキス出来るぞ』ってポーズでもあるし、
『なに意識しているんだよ』っと相手にクロージングをかけることも出来る距離。
そう、このドンは、ちゃんと『 わ き ま え て い る 』」
梨子「そして、壁にいるこの相手。このトサカのある子。幼馴染と書いてあったわね」
梨子「なんで?なんなの?この幼馴染?
長年お互いを知っているからこその幼馴染よね。
どうして、こんな恥ずかしがって、初恋が叶う瞬間のような、
けれど、少し戸惑いがあって、初々しい表情ができるの?
胸の奥がキュンキュンするような、
自分では思ってもなかった感情が湧き出ちゃったって顔してる。
この子には、今、は っ き り と そ れ が あ る 。
きっと、最初は、真面目な海mi:さんをからかおうと、いいえ、少し違うわね。
海mi:さんが、きっと、ちょっと恥ずかしながら壁ドンをする様子を、一番近くで楽しもうと、
自分だけマルっと美味しいとこ取りしようと、天然を装い、計算して、計算しつくして、自ら壁ドンの練習台と名乗り出てた。
いざやってみたら、海mi:さんのこの凛々しい壁ドンが、ガツンと響いて、
予想外の不意打ちに、どうしていいかわからず、ならいっそ、貴方の好きにしてって、
相手のされるがままになってしまう。
これよ、この心の底までガツンと響く、
この衝撃が、この戸惑いが、この言い表せない感情が、溢れ出してくる。
これこそ、壁ドンの醍醐味!」
梨子「そしてさらに、この壁ドンを引き立てているのは、この写真を撮ったもう一人の幼馴染」
梨子「2人の魅力を理解しつくして、最大限に引き出している。
そうでなければ、この瞬間をフレームに残せない。
トサカの子、壁ドンの練習台になるなんて、普通なら言わない。
何故ならドンされる意味が、分かっているからよ。
あえて止めずに撮影役に回ったこの幼馴染は、自分の役割に気づいている。
この場で、海mi:さんだけが、壁ドンを理解していない。
だからこそ、練習なんてお遊びが成立する。
引き受ける海miさん:は、きっとトサカの子に優しい。優しすぎる。
なんでもお願いを聞いちゃうような、そんな優位な関係性にある幼馴染。
それが、今、この瞬間、壁ドンによって、優位性が見事に逆転している。
2人の関係性の逆転。
それを、このもう一人の幼馴染は捉えている。
そのまま、少女漫画に載っても自然な、恐らく少女漫画に精通しているからこそ、この瞬間を捉えることが出来るのね。
この子の部屋の本棚には、参考書なんて一つもなく、無計画に無造作に心に残る少女漫画に埋め尽くされているに違いない。
そんな人物でなければ、この瞬間を抑えられないわね。
二人に対しても理解し尽くしているこの幼馴染も、きっと言葉にできない感情を秘めているに違いない。
そんな胸中なのに、二人を見守ってフレームに収めている。
太陽。ああ、太陽。
正に二人を見守り、暖かく照らす太陽」
梨子「海mi:→トサカ→太陽も
トサカ→太陽→海mi:も
海mi:→太陽→トサカも
考えた出したらキリがないほどの関係性と、
無限の壁ドンのパターンがこの一枚に存在する」
梨子「ト ラ イ ア ン グ ル 幼 馴 染 パ ー フ ェ ク ト 壁 ド ン ! 」
梨子「壁側も、ドン側も、撮る側も、全てが完璧な、壁ドン!!」
.
.
海mi:さんよりダイレクトメーセージが届いています
海mi:やはり上手く出来ないようです。
Nashiko:何故ですか?素晴らしい壁ドンです。私にも、ドン一つお願いしたいくらいです。
海mi:練習に付き合ってくれた壁側の幼馴染が、弓道部の後輩には、二度とやってはいけないと。おねがぁいされました。
海mi:やはり、私が何か作法を間違えたようです。後輩を傷つけてしまう恐れがあるのでは、思い始めています。
梨子( こ の ト サ カ )
Nashiko:いえいえ、その発言が出ることこそが、完璧な作法だったと言えるのです。
海mi:まだよく分かりませんが、後輩に頼まれたことですし、幼馴染の了承が取れるまで、練習してみます。
Nashiko:いえ、一生、その幼馴染からは、了承を得られないと思いますよ。
海mi:???
海mi:そういえば、Nashikoさんの壁ドン画像も楽しみです。勉強させて頂きます。
Nashiko:はい。期待してください。
梨子(ああ、海mi::さんって、なんて真っ直ぐな人なんだろう)
梨子(次の投稿用に用意していた千歌ちゃんとの顎クイプリクラ画像加工済みファイルを、そっと消した)
梨子「さて、大変なことになったわね」
梨子「この、トライアングル幼馴染パーフェクト壁ドン!を、超える?私が?」
梨子(作曲など、進むはずがなかった)
なしこの洞察力と”ドンされた”に草
それでいて淡々と進んでいく不穏な雰囲気が絶妙で良いわ
梨子ちゃんの女言葉がちょっと多く感じること以外は最高
壁ドンてこんなに奥が深いものだったのか
これからどう関係性が進むか楽しみ
4-1
ドン!
曜「梨子ちゃん、その、あ、あい…して…ごにょごにょ」
千歌「はーい、撮るよー。ハイチーズ」カシャ
曜「ヨーソロー」
梨子「曜ちゃん、真面目にやってくれる?」
曜「いやいや、もう10回目であります」
梨子(はぁ〜、こんなはずじゃなかったのに)
梨子(放課後、千歌ちゃんが職員室に呼び出しされている間、先に部室に着いた私と曜ちゃん)
梨子(こんな機会はないと、作曲のインスピレーションに必要と持ちかけた壁ドン依頼に、曜ちゃんは二つ返事で、応えてくれた)
曜「ヨーソロー」
ドン!
曜「梨子ちゃん、元気ないね。わたし、心配だよ」ボソ
梨子「曜、ちゃん」///
梨子(それはもう、1回目は、可能性を感じるイケ曜ちゃんでした)
曜「でもこれ、2人じゃ、写真撮れないよね」
梨子「そうね」
梨子(そうこうしている間に、千歌ちゃんが)
千歌「ねぇねぇ、2人とも。何してるのー?」
千歌「えっ!作曲に必要なの?水臭いな―っ。よーしっ!私も手伝うよー」
曜「へ、ち、千歌ちゃん、み、み、見てる、の」
千歌「撮ーるーよー」
梨子(私に向けられた澄んだ青い瞳は、見る見るうちに精彩を欠き錆びていった)
梨子(ああ、ヘタレな曜ちゃん)
梨子(ドンには、勢いというのも大事よね)
梨子(こう、勢い任せに、ガッーっと攻め立てられるのも悪くない)
梨子(ぐいぐい来ると言えば、千歌ちゃん)
梨子(千歌ちゃんとの顎クイ画像をもう一度、見る)
梨子(悪くない。悪くないけど、今では、もはや微笑ましい。)
梨子(私が、目指すべき境地は、パーフェクト壁ドンよ微笑ましいだけでは、圧倒的に何かが足りない)
梨子(となると、他に勢いのある身近な娘と言えば)
梨子(そうね。堕天使モードのよっちゃん、とか)
梨子(屋上の、出入り口のコンクリート壁に、ちょっと、いかにもな魔法陣を手の平サイズに描いおいた)
梨子(高さもちょうど、私の顔くらいに合わせておく)
梨子(そして、私が壁を背に、あとは待つ)
善子「こんなところに、呼び出して。どうしたのよ?リリー?」
梨子(仕込みは万全。さあ、よっちゃんの眼に、私の顔隣の魔方陣が、映り込む)
ドンッ!
梨子(想像を超える強い衝撃)
善子「精霊よっ!我が腕(かいな)に、無限の堕天の力を、ここにっ!」
梨子「……」
善子「さあ、呼び覚ませ!漆黒よりも深く、闇より暗き、永遠(とわ)に眠りし翼よっ」
ガシィッ!
善子「ふぇ?」
梨子(無意識に、私はよっちゃんの両肩を掴んでいた)
グルンッ!
梨子(180度、回転して、壁と対面して)
ドンッ!!
善子「ひぃ!」
梨子「」ジー
善子「うぅ、うあ、ぁ、ぁぁっ、り、りりぃ、ゆ、ゆるし、て」グズ
善子「わ、わたし、な、なに、か、した、の?」
花丸「ずら」カシャ
梨子(ダメね。私がよっちゃんの素を無理やり引き出す衝動を抑えられない)ナデナデ
善子「も、もうっー!なんなのよっー。リリーのばかー」///
梨子(普段とのギャップ、勢いからの落差)
梨子(その一瞬を見逃さなかった撮影役の花丸ちゃんは、さすがだった)
梨子(被写体への理解度、やっぱりこれに尽きるのね)
梨子(意外性、とか)
ルビィ「ぴ、ピギィー」ブンブン
花丸「ず、ズラ?」ポヨン
梨子(ルビィちゃんの手が壁に届く前に、花丸ちゃんの胸に、頭が埋もれていた)
千歌「あ、梨子ちゃーん。明日、帰りにお祭りで使う曲のサンプルを町内会長さんへ、届けにいくからね」
千歌「大じょーぶっ!お祭りスタッフも、みーんなを驚かせる予定だから、ネタバレしないくらいの冒頭部分だけだから」
千歌「わたしも、曲のイメージ掴んでそろそろ作詞しないとねー」
梨子(作曲どうしよう)
4-2
次の日
梨子(詰まるところ、ドン役に適材な人物は、2人しかない)
梨子(ダイヤさん、か、果南さん)
梨子(前者のダイヤさんなら、あの海mi:さんの凛々しい壁ドンに、近いドンを体現出来そうな気がする)
梨子(ただし、どうやってそこまで、事を運ぶのか?)
梨子(頼み込んでる?いやいや、経緯を聞かれる。そして、半端な嘘は、見抜かれてしまう)
梨子(正直に話してみる?破廉恥ですわねの一言でゲームセット)
梨子(怒らせてみる?まあ、いっそ内浦に住めなくなってもいいなら、ありかしら)
梨子(っとまあ、方法が思いつかず、後者の果南さんにと、なってしまうのです)
梨子(果南さんに対しての、壁役ってなれば、当然)
鞠莉「はぁ〜い☆梨子、千歌っちの無理難題、ベリーハードな状況になってるでっしょ〜?プリティフェイスがやつれているわよ」
梨子(鞠莉さん、その私の心中を察してくれて、本当に大好きです)
梨子(でも、鞠莉さん、ごめんなさい。今回に限って言えば、鞠莉、テメーはダメだ、な状況なのです)
梨子「鞠莉さん、先程、ダイヤさんが生徒会室で鞠莉さんを呼んでましたよ」
鞠莉「why?さっき会ったけど、まあいいわ。オーケー、梨子。また部活で会いましょう」グッb
梨子(鞠莉さんと言えば果南さん。果南さんと言えば鞠莉さん。半ば学校中で公認とさえ、されているこの2人)
梨子(私としても、この2人の壁ドンで癒されたいと心から願っている)
梨子(けれど、鞠莉さんは、いつもどこかで、最終的には、果南さんのハグを、期 待 し て い る )
梨子(つまり、予定調和。ある種の様式美。新婚さんのいってらっしゃいのキスのような)
梨子(きっと、ごくごく自然に。当たり前であるかのように、2人の間では、さり気ない行為として行われているに違いない)
梨子(相当レベルの高い、崇高な壁ドンであるのは間違いないはずなんだけれど、パーフェクト壁ドンには届かない)
果南「ああ、壁ドンね。いいよ」
梨子「え?いいんですか」
梨子(以外にも、あっさりと、果南さんは、私に言ってくれた)
果南「うん。じゃあ、空き教室に行こうか」
梨子「は、はい」
梨子(そもそも空き教室に行くのも、私が提案する予定だった)
梨子(部室の3つ隣の教室が、ここから一番近い空き教室)
梨子(果南さんは、私の狙い通りにその一室に向かって行く)
梨子(そこに、スマホを動画撮影モードにして待機させてある)
果南「ここでいいよね」ガラガラ
梨子(ここで、引き返すべきだった)
梨子(壁ドンってなに?とか。なんで、そんな事するの?とか。どうやるの?とか、果南さんが言わなかったのを、疑問に持つべきだった)
梨子(教室で、果南さんと2人きり)
梨子(すぐ、外では、部活動の活気が音となって、聞こえてくる)
梨子(私から、ならこの辺りで、とか、合図を出すべきだろうか)
果南「うーん」クビカシゲ
梨子(そんな気も知らず、果南さんは、自分の顎に手を当て、名探偵がのごとく、首を傾げて、私を見ていた)
果南「うーん、梨子ちゃんさ、なんか、変わった?」
梨子「何がですか?」
果南「なんか、だよ。えっと、ここまで、出かかってるんだけど」
梨子「最近、色々な事で、余裕なくて、ひょっとして、顔に出てました?」
果南「それも、心配だけど、違う。違うよ。そーじゃなくて」
果南「今日の梨子ちゃん、なんか、変わったよね」
梨子「変わってないと思いますけど」
果南「あ、ひょっとして、ハンドクリーム変えた?」
梨子「いつものですよ」
果南「あ、分かった。リップクリームでしょ?」
梨子「いつものお気に入りです」
果南「絶対これだよ。シャンプー変えたでしょ」
梨子「残念。ずーっと一緒のを使っています」
果南「って嘘、嘘。本当は、眉を整えたのに合わせて、前髪を数ミリ短くしたんだよね」
梨子「そんなわけーーー、あれ?そう言えば、今朝、前髪を少しいじって、えっ!!?」
果南「ほら、やっぱり今日の梨子ちゃんだ」
梨子(果南さんの右手が、私の前髪を横に流すように知らず触れていた)
梨子(驚いて、ほんの少し、肩を後ろに仰け反ろうとした。でも、もう出来なかった)
梨子(前髪から、右耳の上の横髪、続いて、果南さんは、その先へ触れる)
スッ
梨子(音が、抜けていった)
梨子(後ろは、壁だった。
壁 ド ン さ れ て い た )
トンでもドンでも、ドンッ!もなく、わずかな接触音が、教室全体に抜けていく
梨子(果南さんの瞳の奥に、私が映っているのが、見える)
梨子(見つめられていると、体が思うように動けない)
梨子「えっ?あ、かっ、かな、ん、さん?」
梨子(必死で、なんとか言葉を絞り出す)
梨子(でないと、溢れ出てくる訳のわからない感情を抑えきれない)
果南「なぁに」
梨子(ふっ、と果南さんの表情が柔らかくなった気がする)
果南「ふふ。ほら、前に言ったじゃん。ファンの子がうちに来るって」
梨子(やめて、それ以上言わないで欲しい)
果南「こういう事も、よくお願いされるんだよね」
梨子(私が目の前にいるのに、他のファンの娘の話をしないで欲しい)
果南「でも、梨子ちゃんは可愛いから、私からこういう事をやってみたかったり」
梨子(だからって、私に、これ以上非道いことを言わないで欲しい)
梨子(嫌なくらい分かってしまう。果南さんは、私のことを、なんとも思っていない)
梨子(ちょっと可愛い後輩くらいにしか、思っていない。なぜなら本命がいるから)
梨子(そうと分かっているのに、私の奥から溢れる感情はなんなのか)
梨子(好意や怒りや嫌悪と言ったものがただ一つのものに混ざっていく)
梨子(そうこの湧き上がる感情の正体は)
梨子(気づけば、吸い込まれていた)
梨子(果南さんの壁に付いた手は、私の腰に回り、左手は、私の顎へと触れている)
梨子(瞳と瞳の間は、十数センチ。必然的に唇と唇の距離が縮まっていく)
梨子(その距離で、果南さんの口が開いた)
果南「梨子、鞠莉には、内緒だよ?」
梨子(ああ、こ の 湧 き 上 が る 背 徳 )
梨子(見つめ合う2人の想いは、交わることなく、バラバラの、偽りだらけの、全てが出鱈目で
壁から腰に回した手と顎から唇へと誘う手、腰クィと顎クィからハグに至り、その全てが一つの終着点へと結びつく完璧なキ―――
鞠莉「かっな〜ん。な〜にぃしてるのかしら〜☆」
バッ!!
果南「あっれ〜〜〜〜!?鞠莉ぃっ〜。偶?然だなぁ〜〜。探してたんだよ〜〜。よかったーーーー。見つかって」
梨子(ふと我にかえる。本当に、さっきまでの私と今の私が同じか、ちょっと自信ないけど)
鞠莉「梨子、あなたもしっかりなさい。なにこのcrazyナンに籠絡されかかってるの。そんなんじゃ、体がいくつあっても足りないわよ」
梨子(この余裕が、背徳感の原因かもしれない。割と深刻だった)
梨子(ちなみに主に、鞠莉さんの名誉のために、記しておくならば、私と果南さんの関係は、その後、特別に発展しなかった。私と果南さんとの話は、ここでお終い)
梨子(撮れてる。隠してあったスマホの動画をチェックして、スナップショットを保存しておいた)
梨子(これなら、海mi:さんに紹介できる。壁ドンの真髄、かな。ちょっと過激な気もするけど)
梨子(さあ、早く画像を投稿しに、帰ろう)
千歌「あっ、いたいた?。梨子ちゃん、探したよ?」
千歌「さ、早く町内会長さんの所に、行こうよ」
梨子「ごめんなさい。私、これから用事がある」
千歌「えぇ〜。聞いてないよ〜」
梨子「だから、はい、これ」
千歌「MP3プレーヤー?もしかしてっ!」
梨子「えぇ。冒頭部分のほんの数十秒だけど、町内会長さんに聞かせてあげて」
千歌「今、聞いていい?」
梨子「どうぞ」
千歌「お、おぉー。いいよー。いいねー。さっすが梨子ちゃん」
梨子「千歌ちゃん、まだ完成してないから、もしかしたら、今とは全然違う曲になっちゃうかも」
千歌「気にしなくていいーんだよ。だって梨子ちゃん頑張っているの知ってるもん。毎日、夜遅くまで、部屋の電気ついてるもんね」
梨子「」
千歌「じゃあ、町内会長さんの所に行ってくるよ。盛り上がるよー。きっと」
梨子「ぜったい。絶対、完成させるから。だからもう少し待っててね」
梨子「 や っ て し ま っ た 」
梨子(千歌ちゃんに渡した曲は、実は、以前から作っていた曲。しかも「海に還るもの」を作る上での没案だった)
梨子(それを切り取り、冒頭部分にカットして、あたかも作曲中の曲に見せかけたまがい曲)
梨子(もはや、そこに、作曲者としてのプライドなど、微塵もなかった)
梨子(何より、友達の、千歌ちゃんの期待を裏切った)
梨子(表面上を取り繕ったに過ぎなかった)
梨子「もういっそ、逃げ出したい」
梨子(それでも、指先は動くようで、今日撮った出鱈目で完璧な壁ドンハグを加工して投稿していた)
梨子(この画像だったら、たくさんコメントくるかなって期待してみたり。海mi:さんなんて感想するだろう、なんて)
梨子(でも、今日は、失うものが多過ぎた。仲間への倫理感も、作曲者としてのプライドも、友達との信頼も、私が一方的に失くしてしまった)
海mi:さんよりダイレクトメッセージが届いています
海mi::ひょっとして、壁ドンとは、破廉恥な行為のことを指すのですか?
梨子(そして最後に、海mi:さんへ投げかける言葉も失った)
梨子(メッセージの日付は5年前だった)
梨子(私の苦難の日々は、ここから始まるのだった)
呼んでて引き込まれるものがあるなぁ
続きあくあくあくあ
桜内さんが書いたSSが読めると聞いて飛んできました
単純にSSとして面白い
果南ちゃんの手馴れてる感描写とか背徳感の演出とかが上手い
5
次の日
ガァーン
梨子(ピアノの鍵盤に、顔を埋めてしまう。ピアノが、私の心情を、代弁してくれた)
梨子(作曲は当然ながら進んでない)
梨子(千歌ちゃんに渡した曲、『海に還るもの』を作る上で、没になった曲)
梨子(つまりは、未完成曲。これを途中カットして冒頭部分として、渡したその場しのぎの曲)
梨子(没曲なってしまった理由して、海のイメージがまとまらず、ちぐはぐで、ツギハギだらけの曲になってしまった。
梨子(だから、途中で投げしまって、そのままお蔵入り)
梨子(また、一から創り直そうと、出来上がったのが『海に還るもの』なのだから、結果、あの時、没にしたのは正しかったと言えるよね)
梨子(うん。仕方ない。仕方ないよね)
梨子(と、自分に言い訳をするのは、もう何回目なんだろう)
梨子(まさしく、何が、今、私を、困らせているかというと)
梨子(もともとあった曲の続きは、聴けたものでもないし)
梨子(千歌ちゃんに渡した、適当にカットした部分を冒頭として使い、新たに作曲をすること)
梨子(私が匙を投げた使えないイメージを、それを含みつつも、新たなイメージを創りあげなければ、いけないということ)
梨子(そんなの、まだ、一から作った方が、いいわよね)
梨子(自分の至らなさに、嘘を重ねて、招いた結果。原因は、本当に、自分にしか存在しない)
梨子(今からでも遅くない。千歌ちゃんに、ちゃんと謝ろう)
梨子(いえ待って。ならいっそ、別の新曲を作って、渡す曲を間違えちゃった。ゴメンね、てへっ☆)
梨子(そうよ、これだ。これでいくしかない)
楽譜「まっしろー。よーそろー」
梨子(やっぱり、没曲の続きを、創りあげた方が)
梨子(いやいや、でも、待って)
梨子(以上、無限ループ)
梨子(嘘を付いた後ろめたさと、自分の見栄とが重なり合って)
梨子(作曲は、状況は、より困難を極めていた)
.
梨子(どん詰まりになり、息抜きにと、PC画面に目を向ける)
梨子(昨日の、海mi:さんとのやりとりを、もう一度、思い返してみる)
海mi:さんよりダイレクトメッセージが届いています
海mi::ひょっとして、壁ドンとは、破廉恥な行為のことを指すのですか?
Nashiko:それは、誤解です。この壁ドンハグ画像を見て、海mi:さんは、何も感じないのですか?
海mi::ですから、破廉恥であると。まさに接吻をする直前ではないのですか?いいえ、したのではないでしょうか?
Nashiko:非常に残念です。ああ、がっかりです。海mi:さんは、壁ドンを、本当に、薄っぺらい表面上でしか捉えていなかったのですね。
海mi::待ってください。この画像に、それ以上の意味があるというのですか?
Nashiko:そ う 言 っ た つ も り で す が ?
海mi::やはり、私に理解が出来ません。だからこそ、弓道部の後輩にも、壁ドンのやり直しを要求されるのでしょうか?
Nashiko:海mi:さんには、なにを言っても無駄なようですね。もういいですよ。
梨子(昨日は、そこで終わり。今朝も通知チェックしてみたけど、海mi:さんからの返信はなかった)
梨子(自分の取り巻く状況が、それを打破出来ない自分の不甲斐なさが、そして、指摘されるように、図星であるが故に、海mi:さんにきつく当たってしまった)
梨子(もはや、ただの八つ当たりだった)
梨子「リアルでも、ネットでも、ダメね、私」
梨子(ただ、ただ、自己嫌悪))
梨子(もう一度、昨日、私が昨投稿した画像を、見てみる)
梨子(果南さんと私の壁ドンハグ画像)
梨子(海mi:さんが指摘するように、キスする直前の画像)
梨子(昨日は、壁ドンが撮れたと、興奮して考えもしなかったけれど)
梨子(目線を入れ、画像を加工すると、自分の写真さえ、他人のように思えてくる)
梨子(冷静に、画像を捉えることができてくる)
梨子(期待していた。あのトライアングル幼馴染パーフェクト壁ドンのように、この1枚に崇高な想いが込められているのではないかと)
梨子(昨日の、壁ドンハグ画像)
梨子(もはや黄金比と言っていい、自然体で腰に手を回し、どこか猛々しさを感じさせながらも、
顎に添えた左手は、互いの唇を結びつける虹の橋のように繊細で、
相手の奥へ奥へと潜り込むような瞳で見つめる果南さんと、
込み上げる甘美な感情を味わい尽くすだらし無い様を必死に押し隠そうとするも、
腰クィによって、初めて外に現れた脇チラと強調されたくびれ、腰のしなりは、
他の誰かではなく、私だけを選んで欲しいという子どものような幼さを残しつつ、
どこまでも艶めかしく演じ、顎クィによって、キスというご褒美をお預けされている私)
梨子( 訂 正 。 も う 一 度 、 冷 静 に、 れ い せ ー い に 画像を見つめ直してみる)
梨子(そこには、可愛い後輩だからと、ちょっと味見をしてみようと迫る チ ャ ラ い 先 輩 と、
彼女がいる先輩だけど、美味しいシチュだから、今日くらいは良いよねと、されるがままの チ ョ ロ い 後 輩 )
梨子(ただただ、邪な行為しかそこにはなかった)
梨子「破廉恥、極まりないわね」
梨子(海mi:さんが言うもの最もだった)
梨子(しかし、譲れないものもある。私の投稿画像はダメだっとしても、壁ドン自体を海mi:さんに、誤解して欲しくなかった)
梨子(もっとこう、壁ドンには、思い出にしておきたいような、胸の奥にしまっておきたい様な、響く何かがあるはずなのに)
梨子(後悔。懺悔できるものなら、懺悔したい)
.
梨子(あれ。新着通知が、来てる)
梨子(今朝は、無かったはずなのに)
海mi:さんよりダイレクトメッセージが届いています
海mi::昨日は、申し訳ありませんでした。まだ画像に理解が至らないままなのですが、Nashikoさんを不快にさせてしまったのは、事実。私に非があります。
海mi::思えば、私は、壁ドンに対して、知った風な口を叩けるほど、壁ドンを知らない若輩者。いつか理解ができるその日まで、精進を続けていく所存です。
海mi::私の軽はずみな発言、本当にごめんなさい。
梨子(ウルッときた)
梨子(海mi:さんは、全く悪くないのに。私にしか、非がないのに)
梨子(ネットの関係など、気まずくなったら、はい、さよならで、いいはずなのに)
梨子(歩み寄ってくれている。仲直りしようとしてくれている)
梨子(海mi:さんは、何処までも、なんて真っ直ぐな人なのだろう)
梨子(そして、海mi:さんに壁ドンを頼む弓道部の後輩ちゃんは、見る目がある)
梨子(同時に、海mi:さんをキープし続けるあのトサカには、説教くれてやりたい)
梨子(私も、説教される立場にあるけれども、それはそれとして)
Nashiko:私の方こそ、ごめんなさい。昨日は言い過ぎました。海mi:さんを傷付けてしまいました。
海mi:そんなことは、ありません。お気になさらないで下さい。これからもご指導をお願いします。
梨子(ネットで良かった。お互いを知らないからこそ、強く煽りも出来るし、お互いを知らないからこそ、素直に謝罪が出来るのだから)
海mi::しかし、昨日のNashikoさんの指摘、まさに、と言ったところなのです。ああ、蒸し返す訳ではありませんよ。
Nashiko:海mi:さん、手厳しいですね。いいえ、聞きましょう。
海mi::壁ドンを表面上でしか捉えていないという、指摘です。
海mi::私は、頭が堅いと言うか、柔軟な発想力がないと言うか、まさに表面上で物事を捉えがちなんです。
海mi::全く、これでは、作詞をする者として、失格ですね。
Nashiko:え? 作 詞 、ですか?
梨子(思いもよらぬ、単語に喰い付いてしまう)
海mi::ええ、お恥ずかしながら。
海mi::私は、別の部活動で、弓道部と掛け持ちの部活で、曲を作っているのです。
海mi::これがなかなか難しいもので、上手くいかないものです。
Nashiko: 作 曲 も、されているんですか?
海mi::作曲は、主に後輩が。これが、なかなかの曲者でして。
海mi::こないだも、私が苦心して作った歌詞に 全 ボ ツ 、全部ダメ出しをする生意気な後輩です。
海mi::やれ、歌詞が安っぽいとか、韻を踏んだ歌詞になさいとか、曲の意味を全然理解してないとか、イミワカンナイ、とか。
海mi::それでいて、私の歌詞を元に、この歌詞には、この曲しかあり得ない!という曲を創り上げるのですから、見上げたものです。
海mi::まあ、今回は、その逆、後輩が作ってきた曲に、私が歌詞を綴ると言った逆のパターンなんですが、もう、すっかりスランプに陥りました。
Nashiko:海mi:さんの気持ち、痛いほど、分かります。
海mi::???
Nashiko:私も、作曲をしているんです。それも、スランプ中なんです。
海mi:なんと、同業の身でしたか。同じ悩みを抱えているとは、なんて偶然なんでしょうか。
Nashiko:もう本当に。スランプ同士が、こんなところで油を売っているなんて。友達には言えませんね。
海mi::返す言葉もありません。
海mi::Nashikoさん、つかぬ事を伺いますが?
Nashiko:なんでしょう?
海mi:もしかして、スクールアイドルですか?
Nashiko:はい、スクールアイドルです。
海mi::ああ、やっぱり。
Nashiko:私も、ひょっとして、って思っちゃいました。
海mi:私の学校は、ええと、グループ名を、こういう場で言っても良いものなのでしょうか?
Nashiko:そこは、ネットモラルというか、お互い、察するということで。ヒントにしましょう。
海mi::いいですね。しかしヒントですか。
Nashiko:海mi:さんは言わなくていいですよ。私、分かっちゃってますから。
海mi::と、言いますとと?
Nashiko:私は、内浦という地名でスクールアイドルしてます。これで、分かると思います。
Nashiko:海mi:さんは、学校名に坂という漢字がつく、 〇 ノ ○ 坂 、でしょう?
海mi::もしかして、スピリチュアルな方ですか?
Nashiko:海mi:が投稿した画像の制服で。
海mi::うちの衣装担当に、全然違う制服に見えるよう、加工ポイントを考えてもらったのですが、分かってしまうものでしたか。
Nashiko:加工して分かりにくくなってますけど、制服を持っている身として、何となく分かると言うか。多分、普通には分からないと思いますよ。
海mi::同じ制服を持っている←特殊な趣味をお持ちなんですね。
海mi::ああ、言及しなくて結構です。互いに察する、これがネットモラルなんですね。
Nashiko:違いますって。私も、前年度まで、通っていたんです。今年度、2年生になるタイミングで、転校しちゃいましたけど。
海mi:同じ学び舎を共にした、学友でしたか。しかも同じ学年です。私も、2年生です。
Nashiko:そうだったんですね。でも、クラスは違ったみたいですね。
海mi:すいません。あなたの画像を見て、名前を思い出せれば良かったのですが。大した生徒数でもないのに、一生の不覚です。
Nashiko:いえいえ、結構な数じゃないですか。きっと面識なかったんですよ。それに、こうして知り合えたのですから、いいじゃないですか。
海mi::これからも宜しくお願いします。
Nashiko:はい、お願いされます。
梨子(仲直りができてる。良かった)
梨子(海mi:さん、大した生徒数じゃないなんて、気の利いたこと言えるじゃないですか)
梨子(μ'sが、ラブライブに優勝した5年前から、音乃木坂は順調に生徒数を増やし、私が在籍していた学年も相当数な生徒がいたのだから)
梨子(生徒数を増やしたμ'sの功績を知ったのは、転校して千歌ちゃんに教えてもらってからなんだけど)
梨子(同じ悩みを持つ、同年代のスクールアイドルだったからかもしれない)
梨子(音乃木坂という、懐かしさがあったからかもしれない)
梨子(藁にも縋る気持ちがあった)
Nashiko:私の曲、聴いてもらえませんか?
海mi::どんな曲ですか?
Nashiko:海の曲です。
海mi::私の曲ですか。
Nashiko:はい?
海mi::間違えました。今からでも遅くはありません。
海mi::山の曲に変えませんか?
Nashiko:なんでですか?
海mi:以前から、登山の時に、口ずさむ曲を探していたのです。挫けそうになる自分を鼓舞するような。
梨子(そんなこんなやりとりがあって、海mi:さんは快く承諾してくれた)
梨子(あらかじめ曲を聴いて、作詞をしなければならない、今の自分には願ってもないことだ、と)
梨子(未完成の、更には冒頭部分しかできていないと伝え、没曲をアップローダーに上げ、念のため、《KabeDon》というpassをかけて、海mi:さんに聴いてもらった)
梨子(海mi:さんの返信を待つ間、何気なく自分が投稿した壁ドンハグ画像や海mi:さんの投稿画像を見ていた)
梨子(いつもなら、もっと他のユーザーのコメントや、お気に入り登録数が増えてもいいのに)
梨子(コメントは、私と海mi:さんだけ。お気に入り登録数も、互いの2つだけ)
梨子(日付も5年前になっていた)
梨子(まるで、私と海mi:さんだけが、ネットで繋がっているようだった)
梨子(摩訶不思議。海mi:さんの言葉を借りるならば)
梨子「スピリチュアルね」
.
海mi:さんよりダイレクトメッセージが届いています
海mi::参考になるかは、分かりませんが、作詞をしてみました。
Nashiko:私の曲の、ですか。あんな冒頭だけで、凄いです。
海mi::いいえ、やっぱり、やめましょう。
Nashiko:なぜですか?読んでみたいです。
海mi::Nashikoさん、あなたの曲には、あなたの作詞家がいるでしょう?
Nashiko:そもそも、曲が完成しなければ、その作詞が付くことはありません。
Nashiko:お願いします。どうしても曲を完成させたいのです。私の曲の完成を待っている仲間がいるんです。
Nashiko:インスピレーションになるのなら、どんなものでも、取り込んでみたいのです。
海mi::貴方の気持ちが、痛いほど、分かってしまう。自分も同じなのですから。
海mi::作詞、と言いましたが、訂正します。この曲には、今後こんな風になって欲しいなあという、願いに近い言葉を綴ったものです。
Nashiko:願い、ですか。
海mi:ええ。言葉だけで全てを伝えることが出来れば、いいのですが、なかなかそうもいかないものかと思いまして。渋っている理由は、それもありまして。
海mi::文字だけで伝え切れそうにないのです。なにぶん、未熟者な身、こんなこと作詞家にあるまじき提案かもしれませんが
Nashiko:海mi:さん、まさか。
海mi::そのまさか、です。
海mi::Nashikoさん、直接会ってみませんか?
梨子(日時は、次の日曜日。場所は、音乃木坂で。2人、共通の場所には、音楽室もあるし、創作活動にはうってつけだった)
梨子(海mi:さんはその日、弓道部の練習のみということで、他校のスクールアイドルを招くという名目で、音楽室も空けてくれる段取りをしてくれた)
Nashiko:そうだ、海mi:さん。学校の正門で待ってる私を見つけたら、私に壁ドンしてください。
海mi::はたから見て、怪しさが大爆発してませんか?
Nashiko:ほら、やっぱり、まだ壁ドンを誤解したままですね。
Nashiko:壁ドンには、言い表せない感情が込み上げてくる、ずっと大切な瞬間を残しておきたいという、想いが宿るものなんです。
海mi:わかりました。楽しみにしています。今度会うときまでに、勉強しておきます。
Nashiko:壁ドンの真髄、今度こそ、お伝えしましょう。
梨子(そして、日曜日がやって来た)
梨子(その日、結果から言ってしまうと、海mi:さんは、来なかった)
梨子(その日、海mi:さんを待っていた私は、壊れてしまった)
|c||^.-^|| キ
|c||^.-^|| マ
|c||^.-^|| シ
|c||^.-^|| タ
|c||^.-^|| ワ
|c||^.-^|| T
6-1
日曜日
海mi:さんよりダイレクトメッセージが届いています。
梨子(まさに音ノ木へ向かうべく電車に揺られている途中で、そのメッセージは届いた)
梨子(日付は、相変わらず文字化けの5年前)
海mi::突然で申し訳ありません。このアカウントを削除することになりました。
Nashiko:これは本当に突然ですね。何があったんですか?
海mi::アイドル研究部の先輩に、『ぬぁんで、アイドルが無断で顔出ししてんのよ。目線?加工?そんなのすぐに特定されるわよっ』
海mi::『削除よ。さ、く、じょ』と言われてしまいまして。
Nashiko:だからと言って、アカウント削除まで、することはないのでは?
海mi::Nashikoさんがそのように思われるのも当然かと。転校されたNashikoさんはご存知ないかもしれません。
海mi::実は、音ノ木坂は、今年で廃校になってしまうのです。
Nashiko:廃校?そんな、聞いたことありません。
海mi::発表されたのは、この春からです。まだ、決定ではないのです。
海mi::次年度の学校説明会などは、開催されていました。生徒数がこのまま増えなければ、確定的ですが。
Nashiko:このままだと、音ノ木坂がなくなってしまうんですか?
海mi::はい。ですが、私たちは、その為にスクールアイドルをしているのです。学校を廃校にさせない為に。
梨子(私たちと同じ。海mi:さんたちも、学校の廃校という危機に面している)
梨子(そして、廃校をなんとかしようとしているんだ。かつてのμ'sのように)
海mi::私たちの学校は、今、どんな些細な事でも問題を起こす訳にはいかないのです。
海mi::例え、投稿した画像が問題にならなくとも、事態が良い方向に向かうよりも悪い方向へ向かってしまう恐れは、断つ必要があるのです。
海mi::私の軽はずみな行動が、このような事態を招いてしまったのです。
Nashiko:違います。私が画像投稿を勧めたからでしょう?
海mi:いいえ。実際に行動に起こし、 画像を投稿すべく、サイトの注意事項に同意し、クリックしたのは私なのです。
海mi::Nashikoさん、あなたは、何も悪くないのです。あなたには、お世話になりました。
Nashiko:そんな。海mi:さん。今日は、会ってくれるのでしょう?
海mi::もちろんです。お待ちしております。今このメッセージは、部室のPCから送っています。
海mi::このメッセージを送ったら、すぐにアカウントを削除するのが、先輩との約束なのです。これが最後の連絡となります。
Nahsiko:分かりました。必ず今日お会いしましょう。
Nahsiko:私に壁ドンしてくださいね。約束ですよ。
梨子(メッセージを送る、が)
このアカウントは削除されています。
梨子(送ったメッセージは、送信エラーとなり、最後の返信は届かなかった)
梨子(あれ?)
梨子(海mi:さんのアカウントが消え、それまで残っていたメッセージのやり取りが全て消えていた)
梨子(画像も、メッセージも。私の投稿した画像に残っていたコメントも全て)
梨子(まるで、海mi:さんが最初から存在しなかったように)
梨子(私のアカウントに残る全ての記録は、正確な日付になっていた)
梨子(サーバーでの文字化け問題が解決したのだろうか)
梨子(まぁ、そんなことは、別にいいか)
梨子(海mi:さんとは、今日会って、直接連絡先を交換すればいいか)
梨子(そんな風に考えていた)
梨子(音ノ木坂に到着した。正門で、一人、海mi:さんを待つ)
梨子(時間は午後の1時)
梨子(日曜日だからか、運動部の生徒たちが、午前の練習を終え、帰宅する姿がちらほらと)
梨子(考えてみれば、連絡する手段がない。海mi:さんも困っているのではないだろうか)
梨子(すれ違いの生徒たちと目が合う。中には、友達とまでいかなくとも、顔見知りもあった)
梨子(なんでここにいるんだろう?って顔をする子もいれば、手を振ってくれる子もいた)
梨子(転校する前は、ピアノが弾けなくなって、嫌なことしかないと思っていたのに)
梨子(少しばかり、音ノ木坂にいた私を思い出して、懐かしさを覚えていた)
梨子(時計を見る。待ち合わせの時間を10分ほど過ぎたところ)
梨子(弓道部の活動が、長引いているのかも)
梨子(30分)
梨子(海mi:さんから連絡はないか、何度もスマホを見返す。アカウントは削除されたのだから、メールが来るはずがないのに。)
梨子(1時間)
梨子(もしかして、私、日付を間違えた?)
梨子(いやいや、今日、海mi:さんと連絡を取り合ったばかりだ)
梨子(2時間)
梨子(海mi:さんに、何か、あったんじゃ?一人、校内で倒れているとか?)
梨子(校内に入ってみようか?でも、海mi:さんとすれ違いにでもなったら、どうしよう)
梨子(悪いことばかりが、次々と浮かんで来てしまう)
梨子(そして、夕方)
梨子(場所を間違えた?音ノ木坂ではなかった?そんなはずはない。何度も確認をしたのだから)
梨子(海mi:さんは、来なかった)
.
梨子(夕日も指す頃、せっかく、ここまで来たのだからと、職員室へ向かった)
梨子(事務の方に、お世話になった前の担任の先生に会いに来たと言って、通してもらうことが出来たのだ)
梨子(先生は、私を覚えていてくれたようで、快く、校内の立ち入りを許可してくれた)
梨子(私が、先日のコンクールで入賞したことを既に知っていて、自分の事のように喜んでくれたのだ)
梨子(私が音楽で苦悩していた事も、転校した経緯も知っている先生は、、どうやら私の知らない所で、私を気にかけていてくれたらしい)
梨子(自分がここに通っていた事実が、思わぬところで見つかって、少し、目頭が熱くなった)
梨子(さすがに、スクールアイドルの事は知らなかったけれど)
梨子(『久しぶりに、寄ってみる?』 そう言って、音楽室の鍵を渡してくれた)
梨子(流石に部外者に、鍵を預けるのはどうか?と尋ねた所、もう、校内に生徒は残っていないし)
梨子(後ほど、もう一人、 部 外 者 が音楽室に来る予定だから、鍵を開けておいて欲しいと、頼まれた)
梨子(私はついでですか。とため息しつつ、ならばこちらもついでとばかりに尋ねてみた)
梨子(『廃校?5年も前の話でしょ?』と)
梨子(『他校のスクールアイドルを招くって聞いてないけど』と)
梨子(『今日は、弓道部もアイドル研究部も休みのはずよ』と)
梨子(おかしい。海mi:さんの話と違う。全くと言っていいほどに)
梨子(やはり、学校が違った?いや、秋葉原の駅で降りる事は伝えてあったし、○ノ○坂の学校名も、ここ音ノ木坂しか見当たらない)
梨子(スマホから、アカウントを削除される前に、見た瞬間に光の速さで保存したこの画像)
梨子(トライアングル幼馴染パーフェクト壁ドン画像を、先生に見せてみようか)
梨子(この女性徒を知っていますか?って)
>海mi::今、どんな些細な事でも問題を起こす訳には、いかないのです。
梨子(けれど、画像を見せるのは、思い留まった)
梨子(もはや、見せても事態が変わるわけではないと、諦めに近い感情があった)
梨子(音楽室へ向かう途中、2年生の教室、弓道場、アイドル研究部、そして保健室を覗いてみた)
梨子(当然、道場には既に生徒が帰った後だったのと、アイドル研究部の部室も灯りはなく鍵がかかっていた)
梨子(教室でお喋りしているとか、部活が長引いているとか、体調を崩して保健室にいるだとか)
梨子(やむを得ない事情で会うことが出来ない海mi:さんを、どうしても私は見つけることが出来なかった)
梨子(海mi:さんは、どれだけ待っても、来ないのだ)
梨子(つまり、私は、担がれたのだ)
梨子(音楽室の鍵を開け、本当に久しぶりに、足を踏み入れる)
梨子(校内は既に静かだったけれど、ここ音楽室は、取り分け一層の静寂さに包まれていた)
梨子(室内にどっしりと構える使い込まれたピアノ)
梨子(懐かしさと、もはや音ノ木坂の生徒でない若干の居心地の悪さを感じながら)
梨子(鍵盤に手を乗せる)
梨子(帰ったら、作曲しなきゃ)
梨子(望むような進展はなかったけど、もう今回の事は忘れよう)
梨子(今の、私の状態は、悪くない。むしろ好ましい)
梨子(月並みの表現だけど、心にぽっかりと穴が空いたような)
梨子(冷水を浴びせられたような、冷静な状態の私は、むしろ創作には好ましい)
梨子(もう、一人勝手に盛り上がって、喜ぶのをやめよう。落ち込むのもやめよう)
梨子(およそ人を感動させられるのかと疑問になるほどに、自分の殻を作り込み、フラットな状態の時こそ)
梨子(意外にもスラスラと曲が生まれるものなのだ)
梨子(自分だけの、完成された世界での、音楽が)
.
梨子(気づけば、鍵盤を叩いていた)
梨子(私を悩ませている没曲を。まだ続きの出来ない、出来損ないの曲を)
梨子(この悲しさを、悔しさを、海mi:さんの作った舞台で一人踊り続けた私の馬鹿らしさを)
梨子( 決 し て 、 言 葉 に な ん か 、 し て や る も ん か )
梨子(私だけが、知っていればいい。私だけが、これからこの曲に込めた意味を、理解していればいい)
梨子(間も無く曲の冒頭が終わる、その続きを、思いつきで音を出す)
梨子(相変わらず、ちぐはぐで、聴けたものじゃなく、直ぐに、紡いだ曲は途切れてしまったけれど)
梨子(創作意欲だけは、湧いてくる。家に帰ったら、今の感じで曲を作りこん――)
「 な に 、 し て い る の ? 」
梨子(その一声で、音楽室の静寂さを)
梨子(室内に踏み入れる足音で、さっき私の作った殻の世界を、たやすく破るかのように)
梨子( そ の 人 は 、 や っ て 来 た )
.
梨子(海mi:さん?違う。画像の人と、全然違う。)
梨子(さっき、もう期待はしないと思ったばかりなのに、悔しいほどの別人だ)
梨子(先生が言っていた、後ほど来る部外者の人だろうと察する)
梨子(生徒にして大人びている。しかし、先生というには、若すぎる)
梨子(私よりも年上で、大学生くらいだろうか?)
梨子(学校にはそぐわない、派手目なブランド服を身にまとい、しかし様になっていて)
梨子(サングラスの奥、夕日の光から微かに覗ける、ちょっとつり目な眼差しを向けながら)
梨子(その綺麗な指を、自身の髪に、くるくると絡め)
梨子(赤色の髪をした女性は、私に問いかける)
赤毛「どうして、あなたが、その曲を弾いてるの?」
.
6-2
梨子「すいません。〇〇先生に、特別に音楽室に立ち入りを許可してもらいました」
梨子「先生から聞いてます。ここを使う予定の方ですよね?」
赤毛「わたしは、ここのOBよ。今は、ただの医大生」
梨子「そうでしたか。私も、ついつい懐かしくして、お邪魔してしまいました」
梨子「ここの在校生だったんです。転校しちゃいましたけど」
梨子「それでは、私は、これで」ペコリ
梨子(場違いな居心地の悪さと、未完の曲を聴かれていた恥ずかしさが、一刻も早くここを離れようと、私を急かす)
赤毛「待ちなさいよ」
梨子(けれど、赤毛は、私が逃げることを、許す気がないようで)
赤毛「だから、どうして、今の曲を、貴方が、弾いているのかって聞いてるの」
梨子「どうして、と言われても、私の曲だからとしか」
赤毛「貴方の?」
梨子「はい、えっと、私が作った曲です」
梨子「ふーん。そう」
梨子(いやいやちょっと。いくら年上といっても、人に聞いといて、その態度はなんなんだ、と)
赤毛「ひどい曲ね。ちぐはぐで、出鱈目で」
梨子(その通りで。けれど、指摘されるとムッとしてしまう)
赤毛「鉢合わせなくて、良かった」
梨子「は?」
梨子(絶賛、あなたと私が鉢合わせ中ですけど)
赤毛「いいえ、今日、私が、貴方に会えて良かった」
梨子(この赤毛は、さっきから、何を言っているのだろう)
赤毛「もう5年も前になるのね。あなたの曲を聴いたわ」
梨子「え?」
梨子(意味が分からない)
赤毛「私の先輩、馬鹿が付くほどの真面目な先輩よ。その曲の作者を探してた」
梨子(5年前、私は、そんな人は知らない)
赤毛「正門で、待ち合わせして、一緒に音楽室で、曲の創作をするって」
赤毛「まったく、作曲のパートナーである、わたしを差し置いて、よ」
梨子(何処かで聞いた話、いや、状況としては、全く同じ)
赤毛「でも、いくら待っても、待ち合わせの相手は、曲の作者は、来なかった」
梨子「……」
ンミチャは…今頃彗星のせいで空の上でオリオン座になっちゃって…
赤毛「それから、毎日、馬鹿な先輩は、待ち続けた」
赤毛「日曜日も、部活の合間も、時間を見つけては、正門で、音楽室で、その人を待ち続けた」
赤毛「あんまり音楽室に顔出すものだから、聴いたのよ」
赤毛「『作曲の邪魔よ。どっか行って。なんで来るの?』って」
梨子(この赤毛も、作……曲…?)
赤毛「そしたら、今の曲を聴かされたわ。この曲の作者を待っていて、探していることも」
赤毛「静岡のスクールアイドルの曲だって、探したわ。ネットを使って、楽曲検索もし尽くした」
赤毛「こんなひどい曲を作る作者の顔を、私も見て見たいと思ったの」
赤毛「けれど、馬鹿な先輩が卒業するまでに、作者は、現れなかった」
赤毛「ネットで知り合ったと言っていたわ。新しくサイトに登録しても、その作者のアカウントは、もうどこにも見つからなかったって」
赤毛「わたしは、音楽室にいることが多かったから、その娘が来たら、その曲を聴いたら、教えてほしいって」
赤毛「ねぇ、どうして、そこまで、するの?」
馬鹿「その人は、苦しんでいました。曲を待っている仲間の為に」
梨子(違う。私が嘘をついた後ろめたさの為だけだった)
馬鹿「私が綴った歌詞が、その人の助けになるというのなら、届けたいのです」
赤毛「同級生なんでしょ?もう、その人も卒業じゃない」
赤毛「とっくに、スクールアイドルも辞めて、曲もお蔵入りになってるじゃない」
馬鹿「それでも、ですよ」
赤毛「このちぐはぐな曲に、続きがあると思う?」
馬鹿「この曲を耳にした時、聴こえた気がするんです。この曲の続きを」
赤毛「そう、勝手にしなさいよ」
馬鹿「ええ、勝手にします」
馬鹿「このまま、誰も見向きもしてくれないかもしれない」
馬鹿「それでも、届けたい。『あなた』の曲を聴いて、願いを綴った者が、ここにいる。この想いを」
馬鹿「私が、伝えたいだけかもしれません」
馬鹿「ただの、自己満足かもしれません」
赤毛「そう言って、勝手に卒業して、勝手に、後輩のわたしに託していったわ。全くいい迷惑よ」
赤毛「私が卒業して、医大生になっても、作者は現れなかった。曲も見つからなかった」
赤毛「時々ね、ここを使わせてもらっているの。学院の生徒の邪魔にならない時に」
赤毛「理事長からは、むしろ、生徒がいる時間に、好きに使ってくれって頼まれてるけど」
梨子(なんだろう。その特別待遇。ただの卒業生にそこまで許可するかこの学院は)
赤毛「まあ、それはいいわね。とにかく、今でも、時々、聞かれるのよ。作者は来たかって」
赤毛「いい大人が、ああ、まだ諦めていないんだって、哀れに思うほどにね」
梨子(その人が、誰か?と聞くのは、野暮のなのだろう)
赤毛「わたしもね、ちょうど、良かったわ」
赤毛「ここにはね、答え合わせに来たの」
赤毛「そうしたら、今日、偶然だけど、貴方がいた」
赤毛「さっきの曲は、あなたの曲なんでしょう?」
梨子「はい、わ、私が、つくった、曲です」
梨子(5年前など、あり得ないのに。この赤毛には、正直に答えなければ、いけない)
梨子(そんな、気がした)
赤毛「約束をして、ここに来たんでしょう?」
梨子「……」コクリ
梨子(ああ、他に、この曲を作った人がいればいいのに)
赤毛「5年前って、あなた中学生くらいでしょ?」
梨子(まったく、本当に、意味が、分からない)
赤毛「まぁ、それもいいわよ。私は、別に、5年前に現れなかったことなんて、どうでもいいの」
赤毛「それで、その曲の続き、弾いてみせてくれる?」
梨子「出来て、ないです」
赤毛「はぁ?5年も経つのに?ああ、ごめんなさい」
赤毛「これに関しは、わたしも他人のこと言えなかったわ」
梨子(どういう意味だろう。赤毛は続ける)
赤毛「さっきの、ひどい音が、曲の続き?」
梨子(恥ずかしさしかなかった。私は、先ほど、この曲をどんな想いで弾いただろう)
梨子(海mi:さんの想いを汚すような曲の出来だ)
赤毛「やっぱり、聴かせなくて、良かった」
梨子(誰に?とは、尋ねるまでもないのだろう)
梨子(期待を、それこそ通り抜ける、、失望の声だった)
梨子(分からなことだらけでも、分かることがある)
梨子(多分、赤毛の、この人は、本当のことを言っている)
梨子(そして、この人は、私に、一体、何を、確かめようとしているのだろう?)
.
梨子(背筋が凍るような、ゾクリとする感覚が、徐々に強くなってきた)
梨子(なんだろう?このまま、ここにいるのはマズイ)
梨子(警鐘が、身体のなかから鳴り止まない)
梨子(一刻も早く、立ち去るべきだと)
梨子「あの、人違いを、されていませんか」
赤毛「あなた、Nashikoさんでしょう?」
梨子(ああ、決定的な何かが間違っているはずなのに。出鱈目にも、歯車が、噛み合ってしまっている)
梨子(ピアノを挟んで、対面する私たち)
梨子(赤毛は、スッと指をさす。私のそばの、ピアノの椅子を)
赤毛「その椅子の、裏、覗いてみて」
梨子(言われるままに、屈んで椅子の座面の裏を覗き込む)
梨子(何かが、挟んである。椅子の骨と座面の裏の間に)
梨子(それは、ノートの1ページを、折り曲げ、作られた封筒)
梨子(授業中に、友達に内緒で渡すような、即興のレター)
梨子(色褪せ、誇りをかぶり、長い年月を感じさせるレターの表面には)
Nashikoさんへ 海mi:
梨子「……!」
梨子(折り目を紐解く、シワにもならず、おそらく一度も開封されていない、中のそれを、目にする)
梨子(それは、歌詞だった)
梨子(海mi:さんは、願いのような言葉を綴ったと言っていたが)
梨子(そのまま、ストンと体に染み込むように、残り続けるフレーズは、歌詞そのものだった)
梨子(この歌詞に合う曲は、どんな曲だろう)
梨子(しかし、溢れ出してくるイメージを、 遮 ら れ た )
赤毛「もう一度、尋ねるわ。あなたNashikoさんよね?」
梨子「はい」
梨子(そう応えるしかなかった)
梨子(確かに、これは、海mi:さんがNashikoへ宛てた手紙で、約束の歌詞だった)
梨子(Nashikoは、この歌詞の曲の作者であり、私以外にいなかった)
赤毛「そう。なら良かった。それは、あなたのものよ」
赤毛「大切にしてあげると、きっと馬鹿な先輩も喜ぶわ」
梨子(ちょっと前までの私を反省する。海mi:さんを少しでも疑った私を)
梨子(海mi:さんは、私の思い描いたとおり、まっすぐな人で、それは歌詞からも伺えて)
梨子(安堵する。だと言うのに、身体からの警鐘が鳴り止まない)
赤毛「本当はね。わたし、今日、ここに来たのは、その歌詞を、回収しに来たの」
梨子(入り口側にいた赤毛が、一歩一歩、近づいてくる)
赤毛「でも、その必要なくなった。それは貴方が持つべきものだから」
梨子(そして、私のそば、ピアノまで辿り着く)
赤毛「それに、あなたでも、答 え 合 わ せ は 、 出来るでしょう?」
梨子(思わず、後ろに後ずさる。結果、ピアノの席を譲る形になった)
赤毛「これで終わりにするから。最後に、教えてくれる?」
梨子「なん、でしょう、か?」
梨子(声が震える。赤毛との距離が近くなったせいだろうか)
梨子(胸の奥の警鐘は、より一層、酷くなった)
赤毛「この曲って、どんなイメージで創っているの?」
.
梨子(答えるな。強く、鳴り止まない警鐘が、私に告げる)
梨子(しかし、それは、赤毛への、海mi:さんへの、冒?だろう)
梨子(震える喉から、正直に、答える他なかった)
梨子「この、曲は、う、み、を、イメージ、した、曲です」
真姫「へぇ、海未の、イメージ?」
梨子(赤毛の人の声に、怒気が増した)
梨子(私は、今、決定的な何かを、踏み間違えた)
.
梨子(怒っている?でも、なぜ、そんなに嬉しそうな顔をしているのか)
梨子(狙い通り、といったその歓喜の笑みは)
梨子(私には、なぜか、脅威にしか感じらない)
梨子(逃げよう。ここに、いては、いけない)
梨子「あの、やっぱり、勘違いを、されてませんか?」
梨子「おかしいことだらけなんです。訳が分からないんです」
梨子「私、もう、かえりま――」
ポーン
梨子(赤毛が、立ちながら、人差し指で、そばの鍵盤を鳴らす)
梨子(響き渡るたった一音で、音楽室が、 赤 毛 の 世 界 へ と、広がった)
梨子(『 逃 が さ な い わ よ 』 この響きは、私に、そう告げていた)
梨子(身が竦む。思うように身体が動かない)
梨子(――この感覚を、私は、知っている)
赤毛「数日前に、聴かせたの。その馬鹿な先輩に」
梨子(なにを、聴かせたのか。その先を、私は、分かっている)
赤毛「もう、諦めなさいって。これ以上は、自分を苦しめるだけだって」
梨子(赤毛が、ピアノの椅子に座り、鍵盤と向かい合う)
梨子(これ以上は、ダメだ)
赤毛「だから、これで、満足しなさいよって」
梨子(逃げろ。度重なる警告に、私の身体は小さく震えるだけだった)
赤毛「こ の わ た し が 、 5 年 も 、かけたのよ」
梨子(サングラスを外す、その横顔、どこかで見たことがある。思い出す余裕は、今の私にない)
梨子(身体の自由を奪われ、私は、相手のされるがまま。この感覚)
赤毛「ねぇ、あなたの曲のイメージ」
赤毛「おかしくなんてないわ。だって、わたしも、同じイメージだもの」
梨子(どうして、あり得ないことだらけなのに、歯車だけは噛み合っているのだろう)
梨子(スゥーと深呼吸の後、赤毛の肩の力が抜け)
梨子(演奏が始まる)
梨子(これは、この人の、赤毛の人の、――ドンだ)
梨子(最初の音で、私の曲だと、気づく)
梨子(この曲を、私は、聴いては、いけない)
梨子(聴きたい)
梨子(耳を塞げ、目を閉じろ)
梨子(一音も漏らさず、聞き逃すな)
梨子(この曲の、続きを、知っては、いけない)
梨子(知りたい。余すことなく、この曲の全てを)
梨子(この曲のあるべき姿を知れば、創れなくなる)
梨子(私の他に、生み出せるのなら、創る必要ない)
梨子(壊れちゃうよ)
梨子(いいよ)
梨子(私自身の警告を、私は、無視した)
梨子(曲が、私の求めて止まなかった、続きへと繋がる)
梨子(そして、思い知らされてしまう)
梨子(赤毛の演奏は、その技量は、見事なものだった)
梨子(けれど、私にも、自負はある)
梨子( 演 奏 者 として、技 量 で 負 け る つもりなんてない)
梨子(け れ ど 、 あ あ ぁ 、 け れ ど )
梨子(どうしようもない、格の差が)
梨子(遥か天と地ほどの差が、こ こ にある)
梨子( 作 曲 者 としての 情 熱 が )
梨子(私が た った 数 日 で匙を投げていた曲と)
梨子(赤毛が、このちぐはぐで、出鱈目な曲と向き続けた 歳 月 の差が)
梨子( 5 年 だ 。
この赤毛は、5年と言った。
その言葉が、嘘でないと分かる。
身体中に響きこむ音が、否応にも、私に、伝え続ける。
奏でる音の深さは、年月を。
紡がれる音の美しさは、作曲の苦悩を。
組み上げられた、どこまでも精緻な旋律は、この曲を磨き上げる努力を。
何度、白紙の五線譜を書き直せば、この曲に至るのだろう。
何度、鍵盤を叩き直し、音を試せば、この旋律が出来上がるのだろう。
何度、苦しみ、向き合い、挫折し、立ち上がれば、この音を紡げるのだろう。
感性?才能?努力?時間?
そんな一言で、この曲に、成る理由が、言い表せない。
あり得ない時差という不可思議な現象の疑いなど、彼方へと追い込むほどに、
その曲は、完 成 さ れ て い た )
梨子(赤毛は、海mi:さんを諦めさせると言っていた。
会ったこともない人を、5年も待ち続けるなど、もはや 呪 い だ。
その呪いのような強い意思を、胸に秘める人を、諦めさせるには、何をもってすればいい?
決 ま っ て い る 。
さらに、大きな意思と想いをもって、断ち切らせるより、他はない。
この曲のイメージは、この曲に秘めるその人は。
どこまでも、強く、凛々しくあり続けようと響く音をもつその人は、
果てまで続く大海原を。
反面、誰にも見せられない弱さを隠すように、ひっそりと届く音を持つその人は、
どんな小さな衝撃も波紋となって広がる水面を。
かと思えば、弱さが表に出てしまった恥ずかしさの爆発さえ流れ込む激音を持つその人は、
荒々しく高く猛る大波を。
それら全てを優しく包みこみ、聴くもの心を癒し励ます音をもつその人は、
全てをのみ込み、深く沈み込む海底を。
その全ての音をもつ、ある人を表している。
これは、海mi:さんのための曲なんだ。
いつまでも来ない待ち人は忘れて、前を向けって。
あなたは、もっと前へ前へと、進める人でしょうって)
梨子「あぁ、あ…あぁ」
梨子(絞り出そうにも、嗚咽にしかならない)
梨子「あぁぁっ!」
梨子(瞳から熱いものが溢れ出す)
梨子(うまく声に出せないのは、涙が理由か)
梨子( こ の 人 だ 。
この人が、海mi:さんの言っていた作曲をする 生 意 気 な 後 輩 だ 。
海mi:さんは、この人を、なんて言っていただろう。
>この歌詞には、この曲しかあり得ない!という曲を創り上げるのですから、見上げたものです。
海mi:さんの綴った歌詞を見る。
こ れ な ん だ 。
こ の 曲 し か あ り え な い 。
私が求めていた曲の続きは、 こ の 曲 な ん だ 。
海mi:さんが 願 い を 綴 っ た 曲 は 、 こ の 曲 な ん だ 。
梨子(赤毛は、この歌詞を回収するつもりだった、と。
答 え 合 わ せ を す る つもりだ、と。
痛感する。
赤毛は、海mi:さんの歌詞を 知 ら な い 。
この世には、私に至ることが出来ない境地に至る人がいるのだと。
この曲の作曲者である私よりも、この赤毛は、この曲の作曲者であり、海mi:さんはこの曲の作詞家だった。
私の創った曲の冒頭を聴いて、この2人は、同じ境地にいる。
この曲を、私が聴いては、いけない。
これは、本当は、私が苦悩と努力と覚悟をもって、辿り着くべき境地の曲なんだ。
この曲は、赤毛が海mi:さんへと、伝える曲なんだ。
この人の、赤毛の、海mi:さんへのドンなんだ)
.
梨子( 私 以 上 に 、
私 の 曲 を 、
私 の 求 め る も の 以 上 に 、
私 の 他 に 、創 り 上 げ る 人 が 、 い る ん だ 。
なんだ、私は、いらないじゃないか)
.
.
梨子(演奏が終わる)
梨子(余韻に浸り、赤毛は目を瞑ったまま、私に、問いかけた)
赤毛「その、馬鹿な先輩は、この曲を聴いて、なんて答えたと思う?」
梨子「……」
梨子(そんなこと、聞きたくもない)
梨子(赤毛が、そっと目を開き、私の方へ、顔を向けて)
赤毛「このわたしが、せっかく、って?ヴェぇっ!?ちょっと、なに泣いてるの?」
梨子「え?」
梨子(ああ、そういえば、さっき、泣いているのに気づいて)
梨子(なにがこんなに嬉しいのか。なにがこんなにも悲しいのか)
梨子(止まることなく溢れ出す涙は、答えを教えてくれなかった)
梨子(一つ分かることは、海mi:さんの答えなんて、この曲を聞けば、分かってしまうということだけだ)
赤毛「もう、すっかり暗くなったわね。ほら、送ってあげるわよ」
梨子(そう言って、音楽室の鍵を先生に返し、秋葉原駅まで、赤毛との一緒に連れ添った)
梨子(途中、赤毛が、何度か話しかけてくれたが、聞きたくなかった)
梨子(空っぽだった。聞かれたことをオウムのように繰り返すだけだった)
赤毛「どこから来たの?は?静岡?鈍行で?この時間から?」
赤毛「ほら、特急券よ。お代?要らないわよ。先輩の奢りだと思って、素直に受け取りなさい」
梨子(そして、改札口で、私と対面して、最後に、赤毛は、言ったのだ)
赤毛「あなたの曲、ちゃんと完成させなさいよ」
梨子(ああ、この人は、 なんて 残 酷 な人なんだろう)
梨子(気づいていないのだろう。私を、ぐちゃぐちゃに壊したことを)
梨子(その上、さらに苦しめという。なんて魔王な人なんだろう)
梨子「……」
梨子(答えることなど、出来なかった)
梨子(私の曲は、もう貴方の曲です。あの曲以上は、ありえない)
梨子「…………」フルフル
梨子(精一杯の抵抗というか、言葉にもできず、首を振り、ただ俯くことしかできない)
肩チョン
梨子(私の心情など、知ってか知らずか、私の肩をチョンとコツいた)
梨子(サングラスを外し、ちょっとつり目が表に出る)
赤毛「そう。そこからがキツいわよ」
梨子(なにを、言っているのだろう)
「ねぇ、あの赤色の髪の人ってもしかして」
「…ーズの、にし……ま…じゃない?」
梨子(なぜか周りが騒がしくなってきた)
赤毛「ほら、頑張んなさいよ」
梨子(そう言って、赤毛は少し慌てて、去っていった)
梨子(電車の中で、母にこれから帰ることを伝えた)
梨子(何件か、母以外に通知があることに気づく)
梨子(千歌ちゃん、曜ちゃん、aqoursのみんなから)
梨子(部活を休んで、東京に来ていたのだ。心配するのも当然か)
梨子(それぞれに、心配かけてごめんと、ラインで連絡を終える)
梨子(内浦までは、まだまだ先。曲でも聴こうか)
梨子(自分でもよく分からない、落ち込だような空っぽなような、この状態)
梨子(こんな時は、やっぱり、μ'sかな)
梨子(ちょっとでも、レジェンドから元気を貰いたい)
梨子(イヤホンから、曲が流れ出す)
梨子(ゾッと、身体中に震えが、駆け上った)
梨子(思わず、イヤホンを外す。なんだろう?今のは)
梨子(服に虫でも入り込んだような嫌悪感)
梨子(もう一度、音を聴く)
梨子(全身から溢れ出す、この衝動)
梨子(この曲に秘められた想いを、この曲に賭けた情熱を)
梨子(何度も聞いているはずなのに、初めて湧き出てくるこの感じ)
梨子(なぜかあの 赤 毛 を思い出す)
梨子(責め立てられている気がした)
梨子(あなたは、赤毛のような想いで曲を創っているのか?って)
梨子(赤毛のような情熱を捧げているのか?って)
梨子(それ以上、曲は聴けなかった)
梨子(聞き続けるのが、怖かった)
梨子(こんなんじゃ、ダメだ。帰ったら、作曲しなければいけないのに)
梨子(曲を書くのが、怖かった)
梨子(曲を弾くのさえ、怖くなった)
prrr♪
着信>千歌ちゃん
千歌「やっほー。梨子ちゃん、元気してた?」
梨子「ち、か、ちゃん……」
千歌「……泣いてるの?梨子ちゃん」
梨子(また泣いているのに、言われて気づいた)
梨子(この涙を止める方法を、もはや自分では、分からなかった)
梨子(曲を聴くのが怖い)
梨子(曲を弾くのが怖い)
梨子(曲を書くのが怖い)
梨子(もう、擦り切れていたのだ)
梨子(限界だった)
梨子「ち゛か゛、ち゛ゃ゛ん゛」
千歌「……」
梨子「こ゛め゛ん゛な゛さ゛い゛」
梨子「き゛ょ゛く゛、な゛ん゛に゛も゛て゛き゛て゛な゛い゛の゛」
梨子(涙は溢れ、鼻水を垂らし、嗚咽にしかならない私を)
梨子(ただ、ただ、惨めで弱い私を、曝け出すしかない程に)
梨子(私は壊れていた)
.
今回で終わらせると言っただろう。あれは、嘘だ。
魔王のターンで終わってしまった。7,8章もうちょっと待って。
ここでかよおおお
乙! めっちゃ面白い!
スピリチュアル的に仕方ないとはいえ、まきちゃん冷静に結構ひどいことしてんなw
>>221
SSというより、心情を通じて空気を魅せるタイプの小説に近いから合わない人はそうなるね
俺はこういうの好き、書きたいけど書けないタイプの系統 俺もわりとすき
梨子がだんだん壊れてく(?)感がでてて
わざわざこういう書き方したくて書いてると思うからその読みにくいと思うのは書いてる人の意図でしょ
シューヴェェルト「赤毛さん、魔王が今、なしこをつかんでいるよ」
思ってたのと違う方向にいった気もするがやっぱ面白いわ
今頃>>1が海mi:さんとDMでやり取りしているのかもしれん
(今日も、SSは進まなかった) すげえなんだこれ
いつの間にか泣いてた
俺が書いたSSがクソみたいに思えるわ
|c||^.o ^||あ
|c||^.3 ^||く
|c||^.- ^||し
|c||^.~^||て
>>295
構図一緒やんけ!
ありがとうございます 待ったかいあったー!!
すげーいいところで終わっててずっと気になってた
7-1
梨子(千歌ちゃんなら、私のことを分かってくれる)
梨子(私が自分の弱さをさらけ出せたのは、そんな期待があったからだと思う)
梨子(東京から戻った私を迎えにきてくれてた千歌ちゃんは、ただ私を抱きしめて)
千歌「ごめん。気づいてあげられなかった」
梨子(そう言って、一緒に手を握って、帰路に着いた)
梨子(途中、千歌ちゃんには、謝るばかりだった)
梨子(曲が何もできていなかったこと。嘘をついてしまったこと。没曲を渡してしまったこと)
梨子(ただ話がこじれてしまうと思って、海mi:さんや赤毛のことは話さなかった)
千歌「もういいんだよ。梨子ちゃん。ごめんね」
梨子(千歌ちゃんは何も悪くない。全て私が原因でしかないのに)
梨子(千歌ちゃんは、また泣いていた私の涙を拭っては、それ以上何も聞かずにいてくれた)
梨子(ああ、千歌ちゃんに話せてよかった)
梨子(作曲ができない。曲が聴けない。弾くのも怖い)
梨子(何一つ解決もしていないのに)
梨子(ああ、ようやく終わるのね)
梨子(千歌ちゃんなら、私のことを分かってくれているのだから、と)
梨子(この騒動の終着を一人勝手に予感していたのだ)
梨子(次の日、千歌ちゃんの行動は早かった)
梨子(Aqoursの皆に、私の状態を伝えた後、町内会長さんの元へ行くこととなり)
千歌「曲、できてませんでした。本当にすいませんでした」
梨子(9人全員で、頭を下げて、謝罪となった)
梨子(『ああ、別にいいよ』あっさりと、私たちの謝罪は受け入れられた)
梨子(みんな嫌味や罵声を浴びせられることくらい覚悟していたのに。もう本当に拍子抜け)
梨子(もともと期待をされていたわけでもなく、千歌ちゃんからの、賑やかしの持ち込み企画)
梨子(『既存の曲を使うもいいし、なんなら、やらなくてもいいよ』と)
梨子(『でも、宴会だけは、ちゃんと確保してくれるかい。もう町内で盛大にやると言ってしまった』と)
梨子(どうやら町内会長さんにとっては、宴会の方が重要で、Aqoursの曲などどうでもいいと)
梨子(言葉に表れていなくとも、態度でそれが分かっていた)
梨子(なるほど。もう慣れっこだ。つまりここもゼロだったのだ)
千歌「私から言い出したのに、ごめんなさい」
梨子(普段とは正反対の、しょんぼり顔を見せる千歌ちゃん)
梨子(その原因を作ったのは私であり、千歌ちゃんに、そして、皆に対しての申し訳無さと)
梨子(期待に応えられなかった私の惨めさと)
梨子(そして、ようやく作曲の苦しみから解放されるのね)
梨子(正直、心地よい安堵を感じていた)
梨子(『もういいかい。そろそろ』と、帰りを促され、踵を返す私達)
梨子(仕方ない。曲ができていないのだから)
梨子(仕方ない。もう曲を作ることができないのだから)
千歌「待ってください」
梨子(仕方がない。もう時間さえ、あまりないのだから)
千歌「曲は、なんとかします。絶対に完成させます」
千歌「だから、もう少しだけ待ってくださいっ!」
梨子(仕方がなくない)
梨子(千歌ちゃんだけが、ひとり、別のベクトルを向いていた)
梨子(千歌ちゃんが、分からなかった)
善子「どう、するの?」
千歌「はああぁぁ〜、どぉ〜うしようっ!」
花丸「決まってないずらか」
梨子(勝算があるわけでもなく、頭を抱える千歌ちゃんの姿に)
梨子(ああ、いつもの千歌ちゃんだ。全員が納得する形となった)
梨子(つまりの思いつき)
鞠莉「それで、どうしましょうか」
ダイヤ「どうするも、こうするも、曲を作るしかありませんわ」
ルビィ「でも、どうやってぇ?」
梨子(そう、重要なのは、そこであり)
果南「どうやってって、そりゃ」
曜「ねぇ。梨子ちゃん」
梨子(全員が、私に視線を向ける)
梨子(まあ、私しか、いないわけで)
梨子「ごめんなさい。私、もう作れない」
梨子(けれど、その期待に応えることに、逃げた)
梨子(作曲に対しての怖さは、1日経っても消えることはなく)
梨子(弱さを全部さらけ出した私に、期待に応える気力など、どこにも残っていなかった)
梨子(あの苦悩が、まだこれからも続くのかと思えば足が竦む)
梨子(仮に、その苦悩を乗り越えた先にさえ、赤毛のような、私よりも凄い人がいるなら、尚更だった)
千歌「よーし、じゃあ、みんなで作ろうよ」
8人「は?」
千歌「だから、みんなで、いろんな楽器で演奏して、曲を作るの!」
梨子(千歌ちゃんのいつも通りの思いつきは)
梨子(いつも通りみんなを巻き込んで)
梨子(え?今からずらか?、とか。面白そう、やってみようよ、とか)
梨子「そんな、もうあまり時間もないのに。作れるわけないじゃない」
梨子(何よりも、私が、作れない)
梨子(なぜ、千歌ちゃんが、そんな途方も無いことを言うのか理解できない)
梨子「既存曲でいいんじゃないかな?」
千歌「うーん。でも、どうせなら新曲で、どーんとAqoursを宣伝したいし」
梨子(そんなことで。そんな新曲、完成したとして、『程度』が知れている)
梨子(ここは、既存曲を使うか、そもそも参加しないかのどちらかだろう)
梨子(千歌ちゃんなら、分かってくれている)
梨子(なのに、なんで?)
千歌「梨子ちゃん、今度のお祭りを既存曲で使い回したって、確かに良いんだけど」
千歌「でもね、 そ の 次 は 、どうするの?」
梨子「その次って?」
梨子(分かっている。当然、その次は、ラブライブ)
千歌「その次の、その次の、ず ー っ と 先 の 、そ の 次 は 、どうするの?梨子ちゃん」
梨子(ラブライブの次の、ずーっと先の、その次って?)
千歌「だから、みんなで作るぞー。おぉー」
7人「おぉー」
梨子(千歌ちゃんのやる気に当てられて、Aqoursの面々もノッていく)
梨子(千歌ちゃんなら、私のことを分かってくれている)
梨子(私は、千歌ちゃんを、分かっているつもりなのに)
梨子(ずーっと先の、その次。ピアニスト桜内梨子として、どうするの?って)
梨子(千歌ちゃんは、そう問いかけている気がした)
梨子(やる気100%のドヤ顔で、カバンから小学校のおんがくの教科書を取り出した千歌ちゃん)
梨子(どこまで本気で、どこまで先を見ていたのか、もはや私には分からなかった)
梨子(千歌ちゃんなら分かってくれている。そんな期待は、どこにもなかったのだ)
梨子(千歌ちゃんの、みんなで曲を作ろう宣言から、一夜明けた今日)
梨子(私たちAqoursの活動は、一言に集約された)
ダイヤ「ふたたぁびぃぃ、合宿ですわわああぁぁーーーー」
梨子(2日におよぶ合宿 in 浦の星女学院 音楽室)
梨子(理事長権限なのか、生徒会長権限なのか、はたまたその両方か)
梨子(吹奏楽部を押しのけて、音楽室で合宿をすることになった私たち)
千歌「おぉ、曜ちゃん。フォークギターだ。かっこいいー」
梨子(そう言って、ハーモニカを咥える千歌ちゃんと)
曜「ヨーソロー」ポロロン
梨子(最初はコードも知らなかったのに、いつの間にか天才的な何かで)
梨子(千歌ちゃんのリクエストに即興で応え始める曜ちゃん)
梨子(その横で、音が重なる度に微笑み合う木琴の花丸ちゃんとトライアングルのルビちゃん)
梨子(よっちゃんは、床に寝そべり、持ってきたノートPCの、音楽作成ソフトの電子音を鳴らし)
梨子(果南さんは、パーカッションの小太鼓を、ロックバンド並みに打ち叩き)
梨子(鞠莉さんに至っては、頬を丸く膨らませても、なぜか音の出ないテナーサックス)
梨子(そしてどこから持ってきたのか、琴を淡々と鳴らすダイヤさん)
梨子(これら8つの音が重なり合えば、なるほど、ただただ不協和音で)
梨子(曲を聴くのさえ嫌な心境なのに、曲にさえ成らない、雑音は)
梨子(嫌悪や恐怖よりも、脱力させる何かだった)
梨子(最初に言っておくならば、この合宿で出来上がった曲は、いわばAquorsの黒歴史)
梨子(誰しもがその後語ることを憚るほどに。意味深ではなく、ただただ不出来な意味で)
梨子(みんなどこかで、感じているのだろう。これはお遊戯だと)
千歌「どう?かな。梨子ちゃん」
梨子「どう?って言われても、ね?」
梨子(答えに迷っている私が、一番何もやっていないのに)
千歌(私の答えを察した千歌ちゃんは、ため息の後)
千歌「難しいね。作曲って」
千歌「梨子ちゃんは、いつも、こんな大変なことをやっていたんだね」
梨子「……」
曜「じゃあ、やめるー?」ポロロン
千歌「やめない!」
梨子(2人のいつものツーカー)
梨子(私なら、今の曜ちゃんの問いになんて応えただろう)
千歌「よし、次はコレだ」
梨子(ハーモニカから、次に千歌ちゃんが選んだそれは、私の、ど本命のピアノ)
梨子(楽譜らしきを取り出して、左右の人差し指だけで、弾き始める)
梨子(それは、私が千歌ちゃんに渡した、没曲の冒頭で)
梨子(ふにゃふにゃの五線譜に書かれたそれは、自分でデータから書き起こしたようで)
梨子(音を外しながら、取りこぼしながら、作った楽譜らしきを見て)
千歌「えーっと、これかな。あっ、こっちか」
梨子(音を試しながら、鍵盤を叩き)
梨子(やがて途切れる曲の続きに辿り着く)
千歌「ああ、ここから、こうだっけ?」
梨子「やめて」
千歌「やめなーい」ニコッ
梨子(曜ちゃんとの、いつものツーカーだとでも思っているのか)
梨子(私の声色の変化に気づかずに)
梨子(お気楽に返事をして、弾き続ける千歌ちゃん)
千歌「こう?えーっと、これ?あれれ?」
梨子(この曲は、こんなに気楽に弾いていい曲じゃない)
千歌「あれ?あれれ?こんなんだったけかなぁ」
梨子(すでに出鱈目に音を出し、千歌ちゃんのアドリブであるを分かっていない)
千歌「ねぇ、梨子ちゃん。この曲の続きって、ここからどうだったけ?」
梨子(曲が途切れてい続きがないことに、気づいていない)
梨子「やめて」
千歌「やめなーい」
梨子「やめてよっ!」
千歌「!」
梨子(ああ、ついに、怒鳴ってしまった)
千歌「ご、ごめん。わ、わたし、間違えた?」
梨子(楽譜を見直し、すでに曲が千歌ちゃんのアドリブであったことを悟ったようで)
千歌「ごめん。ごめん。なんか思うままに弾いてたみたいで」
千歌「梨子ちゃんの、曲だもんね。間違えちゃ、悪いよね。はは」指ツンツン
梨子(違う。この曲は、もう私の曲じゃない。あの赤毛の曲なんだ)
千歌「えっと、この曲の続きってどうだっけ?」
梨子(そう、赤毛の曲の続きは、もっと激しく情熱的で)
千歌「私なら、こうかなー?って。音がバラバラだね」
梨子(そう、赤毛なら、もっと音が精緻に組み上げられていて)
千歌「梨子ちゃんなら、どう弾くの?」
梨子(そう、 私 な ら 、 もっと、もっと)
梨子(…… ち が う 。あの曲以上は、ありえない)
千歌「梨子ちゃん?りーこーちゃーん。もしもーし?」
梨子「怒鳴ってごめんなさい。もういいでしょ。その曲、聴きたくないの」
千歌「うん。ごめん」
ダイヤ「今日は、もう、お開きにしましょうか」
梨子(しんと静まり返った音楽室のまま、合宿1日目は、終わりを告げた)
梨子(夜は鞠莉さんがシャイ煮カレーを作ったり、
果南さんの私への慰めのハグがあったり、
よっちゃんが私に音楽の神様を降臨させる儀式があったり、
花丸ちゃんのイチオシの、ちょっと前に映画で流行った男女入れ替わりの本を貸し出ししてくれたり、
ダイヤさんとルビィちゃんの天然漫才があったり、
可能性しかないイケメガネ曜ちゃんの壁ドンがあったり、
千歌ちゃんのみかん星人着ぐるみの一発芸があったりと)
賑やかな夜は過ぎていった)
.
>千歌「梨子ちゃんなら、どう弾くの?」
梨子(あの曲以上は、ありえない)
梨子(あの曲以上の情熱も、執着も、悪いけど、私は持ち合わせてはいない)
梨子(だというのに)
梨子(私、なら?)
7-2
その夜中
梨子(空き教室に、みんなで布団を引いて、就寝中)
梨子(どうしても寝付けなかった私は、一人で空き教室を出た)
梨子(もはや、これは、嵯峨なのだろうか)
梨子(曲も聴けない、弾けない、書けない、ダメダメなピアニストでも)
梨子(向かう先が音楽室のピアノしかないとは、なんと皮肉なことか)
梨子(夜の音楽室は、昼間よりさらに静まり返っていた)
梨子(一人、ピアノの椅子に座る)
梨子(落ち着く?落ち着かない?)
梨子(慣れ親しんだ物がある安心感と、しかし音を出すことに不安しかない、このミスマッチ)
梨子(昼間から心の凝りになっている、私なら、どう弾くのか?)
梨子(曲を弾くのも怖いというのに、まったく)
梨子(私はすでに壊れてしまっているのだから、とことこん壊れてもいいだろうと)
梨子(震える指先で、音を出す)
梨子(ああ、私、千歌ちゃんを馬鹿にできない)
梨子(両手の人差し指だ)
梨子(コンクールで入賞した私が、まさかの人差し指の演奏)
梨子(恐る恐る引き出す音は、音と音に不連続な合間があって)
梨子(まるで子供の演奏ね)
梨子(赤毛の曲は、確か、こんなんだったかしらと)
梨子(私を壊した曲は、どんな音だったかと、探しながら、演奏は終わった)
「いい曲ですわね」
梨子(私しかいないと思っていたのに、ふいにかかった声の主は)
梨子(扉の外から顔を覗かせていたのは)
梨子「ダイヤさん?」
梨子(パチパチと拍手をしながら、音楽室に入ってきた)
梨子(なぜここに?とか。起こしてしまいましたか?とか。そんなことより)
梨子(微かな月光が黒髪の艶を一層、綺羅びやかに映し)
梨子(ああ、月明かりが似合う人だなと思ってしまった)
ダイヤ「その曲、完成していたのですか?」
梨子(少し興奮気味のダイヤさん。テンション高い)
梨子(もしかてして、私が曲を完成させたと思っているのかもしれない)
梨子(ダイヤさんは、どこまで知っているのだろうと、思いつつ)
梨子(私が何も話していないのだから、私が千歌ちゃんに渡した没曲ということしか知らない筈で)
梨子「この曲は、私の曲では、ないんです」
ダイヤ「そう、でしたか」
梨子(ちょっとバツが悪いといった感じで、ダイヤさんは続ける)
ダイヤ「あなたの曲でなかったとしても、いい曲であることに変わりはありません」
梨子「そうですね。素晴らしい曲です」
梨子(そう。この曲以上はありえない)
ダイヤ「もう一度、アンコールを、お願いしても?」
梨子「いえ、ちょっとした出来心で。もう弾きません」
梨子(もう、この曲は弾かない。そもそも弾けない)
梨子(この曲は、強い想いを秘めるこの曲は、私が弾いていい曲じゃない)
ダイヤ「そうですか。では、わたくしが、半分、弾きましょう」
梨子「は?」
ダイヤ「はい?」
梨子(私の話を聞いてました?と問い返す前に、ダイヤさんは『ちょっと隣失礼しますわよ』と)
梨子(一人用のピアノの椅子の半分に無理やり座り)
梨子(肩と肩、肘と肘、お尻とお尻が隣同士でくっついて、ちょっと窮屈になりながら、ちょうど半分こ)
梨子(そんな状態で、何をするのかと思えば)
ダイヤ「確か、こうでしたか?」
梨子「え?」
梨子(さらりと、始まりの一小節を弾き上げて)
ダイヤ「さあ、梨子さん、続きをどうぞ?」
梨子「ピアノ、弾けたんですか?」
梨子(私の指は、まだまだ拙く、人差し指で)
ダイヤ「幼少の頃に、和楽器が主でしたが、ピアノも含め大体の習い事はやっていましたから」
ダイヤ「さあ、続きをどうぞ」
梨子「は、はい」
梨子(つられてしまった。)
梨子(そうだった。この人の家柄は、そういう家柄だった)
梨子(曜ちゃんが要領よく出来るようになってしまうタイプの才女だとすれば)
梨子(ダイヤさんは、一出来るようになるまで努力を惜しまないタイプの多芸の才女)
梨子(私の弾く音を、返すように、続きを弾く)
梨子(私が先ほど拙く弾いた曲を、完璧でないとはいえ、紡ぎ出す)
梨子(なぜ曲を作れないのか)
梨子(なぜ部活では、曲を弾かなかったのか)
梨子(なぜ今弾いている曲が私のものでなく、完成しているのか)
梨子(私に聞きたいことは、山ほどあるはずなのに)
梨子「何も聞かないんですね」
ダイヤ「何を、でしょうか?」
梨子「私が作曲できないことも。この曲のことも」
ダイヤ「話をしたいのですか?」
梨子「分かりません」
ダイヤ「そうですわね。まあ、聞いたところで、分かるとも思いませんし」
梨子(え?ちょっと、今の、酷くないですか。ダイヤさん)
ダイヤ「話したくなったら話せばいいのです」
ダイヤ「話すべきでないのなら、胸に秘めておけばいいのです」
ダイヤ「さあ、続きはこうでしたか?」
梨子(音が外れてる)
梨子「ちょっと違います。こうですよ」
梨子(そして、気づく。してやられた)
梨子(つい乗せられた。今の、わざと音を外していた)
梨子(隣の年上のお姉さんは、少し微笑を浮かべ、私の音にまた応えた)
梨子(私は、誰かに今の私の状態を話たいのだろうか)
梨子(以前、千歌ちゃんに、ちゃんと本音を吐き出せと言ったことがある)
梨子(今の私も、あの時の千歌ちゃんの様に、見えているのだろうか)
梨子(そんな私を心配して、ダイヤさんはここに来たのだろう)
梨子(でも、一体なにを吐き出せというのだろう)
梨子(私よりも、私の曲を、完成させる人がいて、自信喪失しました?)
梨子(悩ましい曲の完成形を目にして、嬉しくもあり)
梨子(それが自分の手によるものでないことに、悲しくもあります?)
梨子(この世には、あの赤毛がいれば、私が頑張らなくても、いいんじゃないかって?)
梨子(そんな醜態を吐き出して、だから作曲できませんと開き直れと?)
ダイヤ「先ほども言いましたが、話す必要などないのです」
梨子「じゃあ、なんなんですか?」
梨子(応えた音にイラつきが増した。本当に今日は不機嫌になってばかりだ)
ダイヤ「あら、曲の続きがですか?それとも梨子さんがですか?」
梨子「……」
梨子(先ほどのイラつきなどどこ吹く風で、さらりと、跳ね返ってくる)
ダイヤ「梨子さんの抱える悩み、あなたが気が楽になるのなら、いくらでも聞きましょう」
ダイヤ「ですが、あなたの抱える苦しみを、私たちが、本当の意味で、理解することなど、恐らく出来ないでしょう」
ダイヤ「たとえ言葉で、あなたの苦しみが解ると、私たちが伝えたとしても、あなたは納得しないでしょう」
ダイヤ「思えばAqoursで、作曲を担う者は、梨子さんだけでした」
梨子「それは、私が自分で。好きだったから」
ダイヤ「そうは言っても、本当にありませんでしたか?」
ダイヤ「私たちは仲間で一緒だという陰で、作曲に対して、孤独に悩み抜いたことが?」
梨子「……」
ダイヤ「あなたの苦しみを分かってあげたい」
ダイヤ「けれど、言葉だけで、あなたの苦しみを、分かってあげられない」
ダイヤ「言葉だけでは足りないのです。伝えきれないのです」
ダイヤ「ああ、私の知っている幼馴染に、それで悲しいすれ違いをした方がいましたね」
梨子(思い当たるのは、年上の2人しかいない)
梨子「そんな時、ダイヤさんはどうしたんですか?」
ダイヤ「ならせめて、一緒に苦しむしかないのでしょう」
>千歌「だから、みんなで作るぞー。おぉー」
>千歌「難しいね。作曲って」
>千歌「梨子ちゃんは、いつも、こんな大変なことをやっていたんだね」
梨子「どうして?そこまでするんですか?」
ダイヤ「なぜか?分からないのですか?」
ダイヤ「友達、仲間……では、伝えきれませんね。こういうのはどうですか?」
ダイヤ「わたくしたちは、梨子さんのファンなのですよ」
梨子「ファン?」
ダイヤ「わたくしの敬愛するμ's、その一人、矢澤にこは言いました」
ダイヤ「アイドルとは、笑顔にさせる仕事だと」
ダイヤ「しかしそのアイドルが、ファンを笑顔にさせようと、自ら悩み、苦しみ、ステージに立てなくなってしまったとしたら?」
ダイヤ「その事実を、ファンが知ったら、どうすると思いますか?」
梨子「ファンじゃなくなったり?」
ダイヤ「裏切り行為があれば、それもあるでしょう。罵倒するものもいるかもしれません」
梨子「……」
ダイヤ「ですが、あなたがステージに立つことを望むファンは、こう思うのではないでしょうか?」
ダイヤ「あなたが苦しんでいるのなら、助けてあげたい」
ダイヤ「あなたが悩んでいるのなら、分かってあげたい」
ダイヤ「それこそ、盲目的に、自己犠牲を厭わない。散財する者もいるでしょう」
梨子「なんだか、分かったような。よく分からないような」
ダイヤ「そうでしょう。わたくしも、よく分かりませんわ」
梨子「ええ?」
ダイヤ「そうしたよく分からないものに突き動かされて、わたくしは今、あなたに会いに来たのです」
ダイヤ「それと梨子さん、わたくしの再現力も、表現力も、そろそろ限界なのですが」
梨子(鍵盤からダイヤさんの指の動きが止まる)
梨子(その続きを、私が引き継ぐ)
梨子(なぜだろうか)
梨子(さっきよりも、昼間よりも、それこそ、赤毛の演奏の後よりも、ずっと指先が軽く感じる)
ダイヤ「わたくし達は9人いるのです」
ダイヤ「もう曲を聴くことが出来ない」
ダイヤ「一人では受け止めきれない想いでも、9人なら受け止めきれる」
ダイヤ「もう曲を弾くことが出来ない」
ダイヤ「一人では足りない情熱でも、9人なら溢れ出すほど捧げることが出来る」
ダイヤ「もう曲を作ることが出来ない」
ダイヤ「一人では創り出せない音でも」
梨子「9人なら創り出せることができる?」
ダイヤ「今まで、あなただけの完成された世界で生まれる音を、私たちも知りたいのです」
ダイヤ「あなたの創り上げた世界の境界を、隣にいるわたくしにも、Aqoursにも広げて欲しいのです」
梨子「それで、いい曲が生まれるんですか?」
ダイヤ「さあ?」
梨子「ふふ」
梨子(ここにきて、そう言えてしまうのか。この人は)
ダイヤ「昼間の演奏を聞けば、分かるのではありませんか?」
梨子(あの不協和音を思い出す)
梨子「ほんとに、もう。大変ですね」
梨子(前途多難なのに、口元が緩んでしまう)
ダイヤ「けれど、いい曲が生まれると信じて疑わない人が、一人はいることを、あなたはもう知っているでしょう」
ダイヤ「ただの思いつきかもしれません」
ダイヤ「ですが、千歌さんは、あなたが見ている世界を知りたかったのではないでしょうか」
梨子(あの時、おんがくの教科書を取り出した千歌ちゃんがどこまで本気だったか分からない)
梨子(千歌ちゃんなら、私のことを分かってくれている)
梨子(そうじゃない)
梨子(千歌ちゃんは、私のことを解ろうとしてくれている)
梨子(鍵盤の上の指は、人差し指だけでは足らず、1本2本と、すぐに両手が忙しなくなった」
梨子(ダイヤさんはもう殆ど参加していなかったが、今更ながらに気づく)
梨子(同じ曲を演奏していたはずなのに、私とダイヤさんの奏でる音は違う)
梨子(私の描くイメージとダイヤさんが描くイメージが違うように)
梨子(私 と 赤 毛 の 曲 の イ メ ー ジ が違うように)
梨子(そ う 、 音 色 が 違 う )
梨子(その音を、その色を、私の世界だけでなく、境界を飛び越えて、隣のダイヤさんの世界に響かせたい)
梨子(本当にかすかで、消えてしまいそうな何かだったけれど、それは、決定的な何かだった)
梨子(もう少しで、掴み掛けそうな気がした)
梨子(いつ間にか、曲は終局まで迎えていた)
梨子「ダイヤさん、もう一回、一緒に弾いてもらえませんか」
ダイヤ「お断りしますわ」
ダイヤ「こんな難しい曲、もうこりごりです」
ダイヤ「次は、9当分してくださいな」
梨子(そう言って、演奏疲れか震えていた手を上げて、隣のお姉さんは、微笑んだ)
梨子「まだ、足りない気がします」
ダイヤ「もう、わたくしに出来ることなど、心当たりがありませんが」
梨子「いいえ、一つだけあります」
梨子「ダイヤさん。私に壁ドンしてください」
ダイヤ「いきなり、どうして、そうなるのですかっ?」
梨子「いえ、なんか、ほら」
梨子「ドンすれば、私の世界とダイヤさんの世界の境界が、繋がりそうな気がしませんか」
ダイヤ「別の何かの、危うい世界に、繋がるの間違いでは?」
梨子「以前から、ダイヤさんの壁ドンに潜むポテンシャルには、可能性を感じていました」
ダイヤ「あの、わたくしの話、本当にちゃんと聞いてましたか?」
梨子「もちろんです。言葉だけでは伝えきれないって話でしたよね?」
ダイヤ「真面目な話をしているのですが」
梨子「真面目な話ですよ」
梨子「言葉以外の何かが必要なんです」
梨子「実際にやってみる必要があるんです」
ダイヤ「ああ、わたくし、今、あなたの頭をドンしてやりたくなりましたわ」
ダイヤ「それこそ、言葉以外の何かというやつで」
梨子「頭じゃありませんよ。頭のその横、壁にです。さあ」
ダイヤ「おだまらっしゃい!」ドン!
梨子「ああぁっ」
ダイヤ「変な声をあげないでくださいっ!」
梨子(夜は更けていきました)
梨子ちゃんの中の何かが吹っ切れていくのと同時に冒頭の空気が復ていくこの感じ、終局に向かって走ってるこの感じが好き
7-3
次の日
梨子(みんなの曲を聞かせて欲しい)
梨子(私の一言から始まった、合宿2日め)
梨子(各々の演奏会がはじまり、各々の世界と私の世界が触れ合う)
梨子(言葉にすれば、感動的な瞬間に感じるような気もするけど)
梨子(ああ、無情。まさに、言葉だけでは伝えきれない)
梨子(最初に記したように、合宿の成果として、出来上がった私たちの合奏曲は、)
梨子(言ってしまえば、その出来は、最悪)
梨子(一から創り上げた各々の旋律?を繋げて、最終的に私が組み上げたのだけど)
梨子(それは見事にAqoursの黒歴史となり、その後は、誰もその曲の話題をしなかった)
梨子(祭りはつつがなく終わり、期待値はゼロだったのかもしれないけれど)
梨子(それでも、私は、こんな面白い曲が、この世にあってもいいなと思ってしまった)
>>352
頑張って下さい!ずっと待ってたかいがありました! 梨子(夏祭りも終わり、さあいよいよラブライブといった頃、みんなを音楽室に集めた)
梨子(何をすればいいのか分からない。でも、ここから始めるしかなかった)
梨子「聴いて貰いたい曲があるの」
梨子(演奏の前に、私の身に起こった不可思議な現象を話した)
梨子(もはや、私にとってその現象自体はさほど重要でなく)
梨子(海mi:さんや赤毛と出会ったこと。私が何を感じ、挫けたかも包み隠さず伝えた)
梨子(それでも伝えきれないと思い、代わりに赤毛の曲を演奏した)
梨子(演奏の冒頭、千歌ちゃんを横目に見る)
千歌「あれ?この曲」
梨子(そういう顔をしていた。無理もない)
梨子(ダイヤさんは、ああ、まったく、おねえさんって顔で微笑んでいた)
梨子(私一人では、押しつぶされてしまったこの傑作)
梨子(それでも、9人なら、と)
梨子(ゾッとする感覚も、どこかに消えていた)
梨子(演奏が終わる)
千歌「すごい!」
梨子「わかりやすい感想をありがとう」
曜「あぁでも、千歌ちゃんの気持ちすごく分かる。すごい曲。なんかこう、やる気出てきた〜って感じの曲」
ルビィ「わ、わたしも、がんばルビィって感じがします」
千歌「一緒だね。曜ちゃんも、ルビィちゃんも!わたし、なんか早く練習したくなっちゃった」
果南「ほんといい曲だね、これ。学校じゃなくて、別の場所で練習したい気分だよ」
千歌・曜「「うん」」
千歌・曜「「行こう」」
曜「山へ!」
千歌「海へ!」
千歌・曜「「え?」」
千歌「曜ちゃん、何言っているの。普段ヨーソロー言ってるのに」
曜「千歌ちゃんこそ、何言ってるのさ。全然、海って感じじゃないでしょ」
千歌「そんなことないよ。でも、言われみれば、そうなのかな?」
千歌わたし、梨子ちゃんから、この曲の冒頭が、海の曲って聞いてたからかなぁ?」
花丸「先入観、こてー観念、ずら」
果南「ああ、なんか分かる。最初に、これはこの曲ですって言われると、そう聞こえるよ」
ダイヤ「わたくしも海ですわ。ですが、海は、うみと言えど、敬愛するレジェンドスクールアイドルの、そのだう―」
鞠莉「あーはいはい、シャラップ。ダイヤのレジェンド語りは長くなりそうだから、ストップ」
果南「捉え方は、人それぞれ。正解は、ないんじゃない?」
鞠莉「だとしたら、国語の文章問題は、みんな満点ね。作曲者のインテーションといったものがあるの」
鞠莉「言葉だけでは伝わらないし、言葉以外のものだけでも伝わらない」
鞠莉「私はね、曲よりも、別のことが気になるの」
善子「あ、私もよ」
善子「この曲、たしかに素晴らしい曲だわ」
善子「堕天使組曲に採用してもいいくらいに」
善子「なのに、どうして」
善子「ねぇ、どうして、赤毛は、歌詞を回収しにきたのかしら?」
.
梨子「それは、答え合わせにきたからで」
鞠莉「でも、海mi:先輩に今の曲を聴かせたのでしょう?」
善子「答え合わせは、もう出来るはずじゃない」
果南「教えてもらえなかったとか?」
千歌「話の限りじゃ、そんな意地悪な先輩に思えないよ」
善子「クイズ番組で、CM明けの回答に一番気になる時って」
花丸「答えが分かっている時じゃない」
果南「答えわからない時?」
鞠莉「迷う何かがあった?」
ルビィ「うぅ、ルビィも、数学の答えに迷ったら、問題の答えを見ちゃいます」
千歌「あ、私も」
ダイヤ「こほん」
ルビィ・千歌(しまった)
鞠莉「間違えたなら、その場で、先輩にティーチしてもらうでしょ」
善子「時を超えた堕天使の試練」
曜「もしかして、さっきの曲、別に歌詞があったとか?」
千歌「あ、海の歌詞じゃなくて、山の歌詞があったとか?なーんちって」
梨子「」ガタッ!
千歌「ど、どうしたの?梨子ちゃん、いきなり立ち上がって」
曜「左肩、抑えてるけど、大丈夫?痛むの?」
梨子(気づけば、立ち上がっていた。いや、立ち尽くしていた)
梨子(恐ろしいことに気づいてしまった)
梨子(赤毛の曲が間違っていることに対しではない)
梨子(この曲は、どんな解釈があったとしても、最高の曲なんだ)
梨子(それなのに、もし、赤毛の曲が、私が受けっ取ったイメージと)
梨子(海mi:さんの受け取ったイメージと違ったとしたら?)
梨子(赤毛は、海mi:さんに、待ち人を諦めさせる為に曲を創ったはず、と思う)
梨子(それが、違うというのなら)
>赤毛「その、馬鹿な先輩は、この曲を聴いて、なんて答えたと思う?」
>赤毛「このわたしが、せっかく、って?ヴェぇっ!?ちょっと、なに泣いてるの?」
梨子(遮られた言葉の先は、なんと続くはずだったのか)
梨子(赤毛が別れ際に触れた私の肩が熱い)
梨子(ああ、まさか)
梨子(海mi:さんは、今も、私を、待ち続けているのではないだろうか)
梨子(赤毛が別れ際に言い放った言葉)
>赤毛「あなたの曲、ちゃんと完成させなさいよ」
梨子(赤毛は、一度も、自分の曲だと言わなかった)
>肩チョン
梨子(あれがもし、次はあなたの番だというバトンだったのなら)
梨子(ああ、ダメだ今日は。もう、こうしてはいられない)
梨子(こんなバカげたこと、あり得ないことなのに)
梨子(もうすでに、あり得ない時差が起きているのだから、馬鹿げた事があってもいい)
梨子「みんな、ごめんなさい。私、今日、練習休みたい」
千歌「いいけど、どうするの?」
梨子「どうしても、創りたい曲があるの」
8
梨子の部屋
梨子(一人、ピアノの前に立つ)
梨子(ああ、ここに、音楽と向き合うのは久しぶりの気がする)
梨子(Aqoursの梨子として、ピアニスト桜内梨子として)
梨子(Nashikoとして)
梨子(さあ、作曲だ)
梨子(奏でる冒頭は、もう決まっている)
梨子(私を散々悩ませた、あの没曲)
梨子(海の音、思えば始まりはこれだった。
ああ響け、さあ届けと願いを込める。
海の底まで届くように。海の果てまで響くように。
もしも、海の底には、音がない世界だったとしても、それがどうした。
海の音などなかったとしても、私の奏でる一音一音が、海の音となるように。
私の音では、水面にできた波紋も、すぐに消えてしまうかもしれない。
けれど、9つの音の波紋なら、もっと届くんじゃないかな。
私の音では、海の底深くまで、響かないかもしれない。
けれど、9人の音なら、底の底まで、響いてもいいんじゃないかな。
あの赤毛の様に、曲に情熱を込めているのか?
分からない。
けれど、9人の想いなら負けてないんじゃないかな)
梨子(私だけの、完成された世界での紡がれた音楽では、届かないかもしれない。
けれど、私の世界の、
その境界の、
壁 の 向 こ う と 繋 が っ た 9 人 の 世 界 な ら
そこで紡がれた音楽なら、届くんじゃないかな。
いや、絶対届く。届かせる。
あ あ 響 け 。
さ あ 、 届 け )
梨子(私の奏でる一音が、私の世界で響き渡って、他の8人の世界へ、飛び越えていく。
それぞれの世界での音が、それぞれの色をもって、9つの音色となって、
さらに、外の世界へと、広がっていく
届いて欲しい。聞いて欲しい
私たちの音色を
私 た ち は こ こ に い る
A q o u r s
この音ならきっと届く
私が届けたいあの人は、
もはや音さえ届かない、5年前の、あの日にいるのだから。
私の音が、私たちの音が、奏でる旋律が、あの人に届くように。
さあ、届け。ああ、響け。
う み の そ こ ま で 響 き き れ
梨子(私にもっと才能があればよかった。
私にもっと技量があればよかった。
1日が、数日が、1ヶ月が、そして一年が過ぎ去った。
結果、部活も、ラブライブ!も続けながら、作曲に勤しんだ。
海mi:さんの歌詞というカンニングペーパーがありながら、まだ届かない。
赤毛の情熱にも完成度にもまだまだ程遠い。
泣いた。挫けた。また泣いた。それでも弾いた。苦しんだ。
>赤毛『あなたの曲、ちゃんと完成させなさいよ』
海mi:さんが聴きたがっているなら、ちゃんと言え。このツンデレめ。
>そう。そこからがキツいわよ。
くそう、あの赤毛、私の苦悩を分かっていたのか?
ああ、そうですね。あなたは、この苦悩を乗り越えたんですものね。
>ほら、頑張んなさいよ。
ええ、頑張ってますよ。
貴方と比べたら、まだまだ足りないみたいですけどね)
梨子(あと2ヶ月で卒業という頃に、私の曲は完成した。
形になった、と言ったほうが正しいのかもしれない。
赤毛の曲に届いたかと言われたら、分からない。
それでも、聴いて貰いたかった。
そこまで考えて、海mi:さんと赤毛の連絡先を知らないことに気づいた。
以前、お世話になった音ノ木の先生は、他校に転任されたということで、
なかなか連絡先を取れずにいた。
最大手動画投稿サイト曜ソロtubeに、タイトル『海mi:さんへ』として、私の曲を投稿した。
よっちゃんに頼んで、動画生放送に、画面の向こうのリトルデーモン達に、拡散して欲しいとも頼み込んだ
Nashikoアカウントで、画像投稿サイトにも、動画のURLをペイントで描き、画像として投稿した。
もちろん壁ドンタグをつけて。
海mi:さんの元へ、この音が届くなら、その可能性をゼロで終わらせたくはなかった。
そして、卒業も数日前に、新着通知を受け取った。
海mi:さんからダイレクトメッセージが届きました
.
海未(もう、6年も前になるのでしょうか)
海未(私は、ある人を待ち続けていました)
海未(その人は、私と同じスクールアイドルで)
海未(私と同じ、創作の苦悩を抱える人で)
海未(そして、仲間のためにと、想いを秘める人でした)
海未(彼女の作った曲、ほんの冒頭しかなかった曲を聴いた時)
海未(私は、その曲の続きを、確かに聴いた気がしました)
海未(幻聴といえばそれまでですが、錯覚で済ませるには惜しい程に)
海未(どこまでも先へ先へと広がっていく世界を秘めた曲の続きを)
海未(画面の向こうの彼女も、私と同じイメージをもってくれたら嬉しいな、と)
海未(願いを込めた言葉を綴ったのです)
海未(もっとも、その言葉が読まれることはなかった様ですが)
海未(もはや、意地でしょうか)
海未(それとも約束を反故にされたことを根にもっているのでしょうか)
海未(私は今も、その人を待ち続けています)
海未(新着通知?メール?真姫から?)
海未(真姫から連絡を貰うのも久しぶりです)
海未(最後に、連絡を取ったのは、いつ頃でしょうか?)
海未(確か、1年ほど前に、真姫が私に曲をプレゼントしてくれた時)
海未(私の待ち人の曲の、アレンジ版?いえインスパイア版?もはやイノベーション版?)
海未(とにかく素晴らしい曲で、深い感動を呼び起こす曲でした)
海未(興奮も冷めやらぬ感動を是非とも真姫に伝えたいと、思うままに歌詞を綴ったのです)
真姫「このわたしがせっかく5年も、なのに、なんで『新しく』作詞するのよ」
海未「新曲には、新しい歌詞でしょう」
海未「この曲は素晴らしい曲です。聴くものを鼓舞する様な。もっともっと前へ進めと伝える様な」
海未「ええ、まさに、以前から、登山の時に口ずさむ曲が欲しかった私にぴったりなイメージです」
海未「この曲は、最高のプレゼントですよ。真姫」
真姫「そうじゃなくて、これは、海未の曲なのよ」
海未「私といえば、山でしょう」
真姫「それも、そうね」
真姫「って、そうじゃなくて、ああ、もういいわよ。見に行ってやるわよ」
真姫「海未の描いたイメージを。その位のお代はもらっていい程の出来なんだから」
海未(とまあ、訳もわからないセリフを残して、その数日後に)
真姫「もう少し、待っててあげなさいよ」
海未(と、またもや、訳がわからないセリフを残して、確か連絡は、それっきりでしたっけ?)
海未(その真姫から、メールですか)
真姫『ちょっと、この曲、聴いてみなさいよ。URL〜)
海未(それは、大手動画サイトのリンク先で、その曲を聴いた私は)
海未(それは、たしかに6年前に聞いた幻聴で)
海未(今も、私の耳に残る旋律で)
海未(もう数年前に訪れることさえ辞めてしまった画像投稿サイトへ訪れていた)
海未(何度か削除してしまったけれど、幸いにも同じアカウント名で新規登録ができ)
海未(アカウント検索をして、そして、彼女にメッセージを送っていた)
海mi::あの、覚えていますでしょうか?
Nashikoさんよりダイレクトメッセージが届いています
.
Nashiko:はい、覚えていますよ。お久しぶりです。
海mi::本当に、お久しぶりです。
海mi::お互い、色々と言いたいことがあるかもしれませんね。
Nashiko:私もです。またあなたと連絡が取れて良かった。
海mi::最初に、これだけは伝えておきたいのです。
Nashiko:なんでしょう?
海mi::素晴らしい曲でした。
Nashiko:聴いてくれたんですね。ありがとうございます。
Nashiko:私も、あなたに伝えておきたいことがあります。
海mi::なんでしょうか?
Nashiko:弓道部の後輩ちゃんには、申し訳ないことをしました。
Nashiko:あなたの在学中に間に合いませんでした。
海mi::ああ、アレは。気にしないでください。
海mi::すぐに彼女の中でブームは終わったようでして。
Nashiko:終わってしまったのですか。非常に残念です。
海mi::ええ。今は、偶に会う幼馴染に、せがまれる位ですよ。
Nashiko:ト サ カ !
海mi::はい?
Nashiko:いいえ。お気になさらずに。
海mi::私からもいいでしょうか。
Nashiko:聞きましょう。
海mi::あの曲、私の歌詞で本当によかったのでしょうか?
Nashiko:あなたの歌詞しか考えられませんよ。
海mi::そうでしたか。ありがとうございます。
Nashiko:もしかして、響いちゃいましたか?
海mi::曲のことですか?それはもう、心の底まで、響きました。
海mi::6年前、あなたの曲の聴いた時のまま。耳に残る曲の続きのままでした。
海mi::あの頃の青春時代を想起させるような、懐かしさを覚えました。
海mi::言い表せない感情が込み上げてくるというか。ああ、全く作詞を担っていた者として、失格ですね。
海mi::ですが、この湧き上がる想いを大切に残しておきたい。そんな想いが、ずっとずっと心に残っているのです。
Nashiko:あなたの残した歌詞は、私の、私たちの世界を広げてくれました。
Nashiko:私の曲が、あなたにとっても、そうであったら嬉しく思います。
海mi::そうですね。私のかつての仲間達にも、聴いて貰いたいです。
海mi::それこそ、あなたたちの世界が、私たちにも広がる様に。
Nashiko:ふふ。
海mi::???
Nashiko:なら、もう、わかりましたよね?
海mi::なんのことでしょうか?
Nashiko:1年前、いいえ、あなたにとって6年前に、伝えきれなかったことです。
海mi::???……っ!
海mi::質問です。
海mi::壁ドンとは、なんのことでしょうか?
Nashiko:回答です。
Nashiko:言い表せない想いを、抑えきれない湧き上がる感情を、ずっとずっと大切にしておきたい瞬間を
Nashiko:誰 か と 共 に 分 か ち 合 い た い 。それが――
梨子(気づけば、また声に出していた)
梨子「それが壁ドンですよ」
おしまい
安易に短いスパンで物事を解決させないところが誠実な話作りだと思いました
乙です
今は誰にも話しかけられたくない
読み終わった後に残る余韻を楽しみたい
ありがとう
乙
素晴らしかった、海未最後まで鈍感やな・・・
この後会って壁ドンするのかね
海未は時間のズレに気づいてないんだろ
会ったら色々大変そう
最初から読み直してきた
ホントよく作りこまれたストーリー!
ダイヤさんの伏線もしっかり回収されてたのね
壁ドンとうみまきの素晴らしさに気づかせてくれてありがとう