びゅうお、夕方
曜「あ、まだ来てない。少し早かったかな」
曜「でも他に人もいないし、ちょうどよかったのかも。あの時の椅子も空いてるし、ね」スッ
曜「早いなぁ。もう一年経つのかぁ」
曜「…夕焼け、綺麗だな」
「――お隣、いいかしら?」
曜「!はい、どうぞ」
「ありがとう」スッ
曜「いえ…」
「普段は混んでるのに、今は私たちだけみたいね。一人で来てるの?」
曜「うん。でも、人を待ってるんだ」
「そう。ここにはよく来るの?」
曜「たまにね。嬉しいことがあった時とか、逆にちょっと落ち込んだ時とか…」
曜「大事な場所なんだ、私にとって」
「私もここが好き。この景色、懐かしいね」
曜「うん。凄くきれいで、あの時のまんまだよ」
曜「夕陽に照らされた海も空も、私たちも」
「そうね…ただいま、曜」
曜「おかえり、鞠莉ちゃん」
鞠莉「ふふっ。なかなか『おかえり』って言ってくれないから、どうしようかと思った」
曜「だったら素直に言えばいいのに。『ただいま』って」
鞠莉「それじゃあ面白くないでしょ?せっかくの再会にはドラマが無いとね」
曜「ドラマかぁ。んー、考えてもみなかったよ」
鞠莉「あの日だって、なかなかドラマチックな始まり方だったと思わない?」
曜「ドラマチック?…ああ、あの時の――」
曜『はぁ…』トボトボ
曜(これで良かったんだよね…)
鞠莉『――うりょっ!』わしっ
曜『!?』
鞠莉『オーウ!これは果南にも劣らない、いっつざ〜』
曜『〜っ!』
ぐっ
曜『とおりゃあーっ!』バッ
鞠莉『――い?』
ドサッ!
鞠莉「元気付けてあげようとしたのに、問答無用で背負い投げだなんて。あんなことされたの、初めてよ?」
曜「まあ、確かに劇的といえば劇的かも…あの時はごめんね?」
鞠莉「せっかくだから、1年ぶりに再現してみない?あ、ジュードーはダメよ」
曜「やだよ。そもそも触るのがダメでしょ」
鞠莉「久しぶりの再会だもの。曜の成長を確かめたくなるのは当然デース」
曜「ふふっ。隙あらばセクハラしようとする所、相変わらずだね」
鞠莉「セクハラとは失礼ね。スキンシップって言ってほしいわ」
曜「鞠莉ちゃんのは度がすぎるの」
鞠莉「それだけ想いが強いってことよ。言葉よりも気持ちが伝わるわ」
曜「そこはちゃんと言葉でも伝えてほしいかな。大事なのは本音でぶつかる、でしょ?」
鞠莉「ふふっ、そうね」
鞠莉「でも本当、少し会わないうちに大人になった気がする」
曜「えへへ、そう?」
鞠莉「キュートな所は変わらないけどね」
曜「お上手だね。さすがはイタリア帰りって感じ?」ニシシ
鞠莉「忘れたの?マリーは以前からこういう性格デース!」
曜「あははっ!」
鞠莉「うふふっ」クスクス
鞠莉「こうやって二人並んで、海を眺めてると。あの頃を思い出すわね」
曜「懐かしいね。去年のことなのに、ずいぶん前のことみたいで」
鞠莉「ラブライブ、卒業、進学に転校…本当に色々あったからね」
曜「だよね。あっという間だなぁ…」
鞠莉「ね。せっかくだし、久しぶりの再会を祝して、ぶっちゃけトーク!してみない?」
曜「!」
鞠莉「あの時を振り返って、今だから言える話とか、今だから言いたいこととか…色々話したいの。付き合ってもらえる?」
曜「うん!」
鞠莉「ことの起こりは、梨子に代わって曜が千歌っちと組むことになったからだけど――」
果南『梨子ちゃんの位置に、誰かが代わりに入るか…』
鞠莉『代役って言ってもね〜』チラ
果南『あ…』
曜『うーん…ん…?えっ?ん?』
千歌『うんっ!』
曜『えっ?え、私!?』
曜「そうそう。だけど、何回やっても合わせられなくて――」
千歌『あ、あれ〜?』
果南『曜ちゃんなら合うかと思ったんだけどな』
曜「私が悪いの。同じところで遅れちゃって』
鞠莉『…?』
果南『もう少し頑張ってみよう。じゃあ、行こうか』
果南『ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス――』
千歌『あっ、ごめん』
曜「ううん、私が早く出すぎて…ごめんね、千歌ちゃん。アハハ…』
鞠莉『…』
鞠莉「急なポジション変更だったから、上手くいかない理由はそれだって、みんな思っていたみたいだけど」
鞠莉「本当の原因は別のところにあった。曜の心の奥深くに、ね」
曜「うん…私が言うのも変だけど、鞠莉ちゃん、よく気づいたね」
鞠莉「私が代役に推薦したようなものだし、前から曜のこと、よく見てたから」
曜「そうなの?」
鞠莉「頼りになる子だなってね。でも、あの時の曜は何かがおかしかった。それがわからなくて、ずっと気になっていたの」
曜「鞠莉ちゃん…」
鞠莉「その時点では、正体不明の漠然とした違和感だったんだけど、その後に生徒会室で――」
鞠莉『あら!最初はちかっちと曜の二人だったのね』
果南『意外?』
鞠莉『てっきりスタートは、千歌っちと梨子だとばかり思ってました』
ダイヤ『まあ、確かにそう見えなくもないですわね。今の状況からすると』
鞠莉『そうですねえ』
鞠莉「――曜と千歌っちの二人の名前が書かれた、スクールアイドル部の申請書を見つけてね」
鞠莉「全てが繋がったの。不調の原因はこれだ、って」
曜「それで、わざわざ会いに来てくれたの?」
鞠莉「すれ違いや、誰にも相談出来ない辛さは、私が一番わかってるつもりだったからね」
鞠莉「急いで学校を出て、曜を探して…というわけ」
曜「うう、そんなに心配かけちゃってたんだ…」
鞠莉「ま、家に着く前にキャッチ出来てよかったわ。お尻は痛くなっちゃったけどね?」
曜「ふふっ、ごめんって」
鞠莉「で、二人きりで話せそうなところ…つまり、ここに誘って――」
鞠莉『千歌っちを梨子にとられて、ちょっぴり、嫉妬ファイヤ〜!が、燃え上がってたんじゃないの?』
曜『うっ、嫉妬!?ま、まさか、そんな事は…』
ぐいっ
曜『ふぇぇぇぇ〜!?』ギュー
鞠莉『ぶっちゃけトーク!する場ですよ、ここは』
曜『鞠莉ちゃん…』
曜「あの時はびっくりしちゃったよ。いきなり確信に切り込まれたから」
鞠莉「…本当は、イヤだった?」
曜「ううん、確かにドキってしたけど…でも、同時にホッとしたんだ」
曜「話さなきゃいけない時がきた。でも、聞いてくれる人がいるんだって」
鞠莉「ん、そっか」ホッ
曜「ふふっ」ニコニコ
鞠莉「ん?」
曜「ううん。それで、その後は話を聞いてもらって――」
曜『私、全然そんなことないんだけど、なんか要領いいって思われてることが多くて』
曜『だから、そういう子と一緒にって、やりにくいのかなあって…』ウルウル
鞠莉『ていっ!』ビシッ
曜『いたっ、わっ』むぎゅ
鞠莉『なに一人で勝手に決めつけてるんですか?』
曜『だってぇ…』
鞠莉『うりゃ、うりゃ、うりゃうりゃうりゃ!』むぎゅむぎゅ
曜『ふあぁ〜!』
鞠莉『曜は千歌っちのことが、大好きなのでしょう?なら、本音でぶつかった方がいいよ』
曜『ん…?』
鞠莉『大好きな友達に本音を言わずに、2年間も無駄にしてしまった私が言うんだから』
鞠莉『間違いありませんっ』ニコ
曜『!』
鞠莉「――ふふっ。思い返すと、私がしたことは、ただのおせっかいだったって気がしてきちゃうわね」
曜「そんなことないよ」
鞠莉「ん?」
曜「今まで言えなかったけど…あの時、鞠莉ちゃんが話を聞いてくれたから、背中を押してくれたから、心からもっと好きになれたんだ」
曜「千歌ちゃんのことも、梨子ちゃんのことも。スクールアイドルのことも、自分のことも」
鞠莉「曜…」
曜「鞠莉ちゃん。悩んでた私を見つけてくれて、優しくアドバイスしてくれて、本当にありがとう!」
曜「鞠莉ちゃんと会えて、いつもそばに居てくれたことが。本当に、本当に嬉しい!」
鞠莉「!」
曜「へへ、やっと言えたよー!よかったぁ!」
鞠莉「…ふふっ。発言を訂正しなきゃね」
曜「え?」
鞠莉「さっき、大人になった気がするって言ったことよ。気がするどころか、曜は立派に成長したわ」
鞠莉「このマリーがドキッとさせられちゃうくらい、ね」ニコ
曜「…!」
鞠莉「日本に帰ってきて…ううん、曜と出会えて、本当によかった。これからもよろしくね?」
曜「鞠莉ちゃん…うんっ!」
鞠莉「さてさて。思い出話がブルーミングだけど、暗くなる前にそろそろ帰ろっか」スッ
曜「あ、待って」
鞠莉「ん?」
曜「もう一つ、どうしても伝えたいことがあって」
鞠莉「あら、延長戦?」
曜「うん。いいかな?」
鞠莉「答えはオフコース!そのためのぶっちゃけトーク!ですもの」
曜「ありがとう!ああ、なんかドキドキしてきたよー」
鞠莉「いまさら緊張しなくても」クス
曜「だって、大事なことなんだもん」
鞠莉「大事なこと?」
曜「うん。待ってたんだ、この瞬間が来るのを」
曜「ずっと、ずっとね」
曜「あのね。私、鞠莉ちゃんのことがずっと――」
終わり