元日
鞠莉「年が明けて急に寒くなったわね。でもせっかくのお正月、そしてダイヤの誕生日。晴れてくれてよかったわ」
曜『明日の天気?うーむ…大丈夫、きっと晴れるよ!』
鞠莉「曜の予報のおかげかもね。あの寒がりさん、この寒さは大丈夫なのかしら」
曜「おーいっ!鞠莉ちゃーん!」
鞠莉「あら。ふふっ、噂をすれば」
曜「よっと、到着っ!」
鞠莉「走ると危ないわよ」
曜「えへへっ。鞠莉ちゃん、あけましておめでシャイニー!」
鞠莉「あけましておめでヨーソロー!」
曜「おっ!あははっ!」
鞠莉「ふふっ。心配はいらなかったみたいね」
曜「んー?」
鞠莉「曜はお正月から元気一杯だなってこと」
曜「そりゃそうだよ、今年は猪年だからね!その勢いに倣って、新年は猪突猛進ヨーソローであります!」
鞠莉「曜らしいわ。そういえば知ってる?猪年って『勢いよく駆け抜ける年』ってイメージが強いけど、実は他の意味もあるってこと」
曜「なになに、どんな意味?」
鞠莉「それはね、『翌年からの飛躍や成長に備える年』って意味よ」
鞠莉「備える年?」
鞠莉「そう。例えば、知識や技術を身につけたり、気力や体力の充実を図ったり」
鞠莉「会社やグループでは、人材育成や設備投資といった体制づくりを行ったり。今後の成長に向けた、エネルギーをチャージする年と考えられているの」
曜「へぇー!干支ってちゃんと意味があるんだ」
鞠莉「けど一番大事なのは、その日その日、一日一日を大切にするってこと。これは干支が何であろうと変わらないわ」
鞠莉「笑顔でいっぱいの、全速前進でシャイニーな一年にしましょうね」
曜「うん!今年もよろしくね、鞠莉ちゃん先生!」
鞠莉「ふふっ♪さ、そんな素敵な一年にするためにも、まずは幸先のいいスタートを切らないとね。ダイヤのバースデー、目一杯楽しくお祝いしちゃいましょう!」
曜「ヨーソロー!」
……………………………………
鞠莉「寒くなってきたわね。今の時期は体調も崩しやすいし、風邪やインフルエンザが流行する季節でもある。曜も気をつけなきゃだめよ?」
曜「大丈夫!うがい手洗いはちゃんとしてるし、ワクチンも打ったから!」
鞠莉「空気が冷たく乾燥してるから、お肌や喉のケアも忘れずにね。油断は禁物よ」
曜「はーい!」
鞠莉「よろしい。あと、この時期の病気といえば、食中毒にも注意が必要ね」
曜「食中毒っていうと、ノロウイルス?」
鞠莉「ええ。毎年多くの人がかかる怖い病気よ。気をつけてね」
曜「は、はーいっ」
鞠莉「ところで食中毒といえば、じゃがいもの芽やモロヘイヤの種には毒性があって、食べると食中毒を起こすって話は知ってるわよね」
曜「うん。でも、モロヘイヤの種って見たことないけど」
鞠莉「私たちが普段目にしているのは、種をつける前の段階で収穫されたものだからね。市販されてるものについては、危険はないと思っていいわ」
曜「そっか、よかったぁ。毒って聞くと、なんだか怖くなっちゃうね」
鞠莉「身近なところや思わぬところにも危険が潜んでいる、っていうと大げさかもしれないけど。何事も用心に勝るものは無いってことかな」
曜「そうだね…わかった!今日のカレー作りでは、ジャガイモの芽を念入りに取って、具材によく火が通るよう気をつけるよ!」
鞠莉「安心で安全な美味しい曜のカレー、楽しみにしてるわ」
曜「えへへっ、任せて!」
……………………………………
鞠莉「曜はカメハメハって知ってる?」
曜「もちろん!結構詳しい方だと思うよ」
鞠莉「えっ、そうなの?」
曜「そりゃもう、大好きだからね!」
鞠莉「カメハメハが?」
曜「かっこいいもん!憧れだよ!」
鞠莉「かっこいい?憧れ??」
曜「やってみせようか?まず、こうやって構えて」スッ
鞠莉「ん?構え?」
曜「手を合わせて、気を集中して…!」ギュゥゥン!
鞠莉「きゃあっ!?」
曜「か、め、は、め…」ゴゴゴゴゴ…!
鞠莉「あ…ああっ…!」
曜「波ーーーーーっ!」カッ!
ズドオオオウッッ!!!
鞠莉「きゃあっ!!」
曜「…ってね!どう、上手だったでしょ?」
鞠莉「え、えっと…」
曜「あれ、へたり込んじゃってどうしたの?」サシノベー
鞠莉「い、いえ…すごい迫力だったから…」テヲトリー
曜「えへへっ、実は一時期よく練習してたんだ!わかってくれた?私のかめはめ波好きを!」
鞠莉「あ、あー」
曜「やっぱりカッコいいよねぇ!アニメの必殺技といえば、やっぱりかめはめ波だよ!」
鞠莉「あの、えっとね。私が聞いたのはそっちじゃなくて、ハワイのカメハメハ大王のことだったんだけど…」
曜「…へ?」
鞠莉「うん…」
曜「あ、あー。なーんだ、そっちかー。あ、あははは……私ったら、とんだ勘違いを…!」カァァ
鞠莉「まあ、私の聞き方がよくなかったのかもしれないし…カメハメハの説明、今日はやめとく?」
曜「教えてください、お願いします…これじゃ、私がただ恥かいただけになっちゃうから…」
鞠莉「別に気にすることないのに。じゃあ、サクッとね。カメハメハはハワイを統一した初代国王よ。日本でも知名度の高い、歴史上の偉人ね」
曜「その理由を、図らずとも説明しちゃった気がする…」
鞠莉「だけど、カメハメハの意味までは知らないでしょ。カメハメハはハワイ語で『孤独な人』という意味なの」
曜「えっ、孤独?」
鞠莉「意外でしょ。その理由にはカメハメハの生い立ちが深く関わっているわ。彼は生まれた時から、将来はハワイを統治する王となることを予言されていたそうなの」
曜「ふむふむ」
鞠莉「幼少の頃から様々な努力を積み重ね、ハワイ統一に向けていよいよ活動を開始するにあたって、自らをカメハメハと名乗ったそうよ」
曜「ってことは、自分で名付けたんだ。どうしてそんな寂しい名前にしたの?」
鞠莉「ここからは想像になるけど、国を預かり、民を率いることへの責任感。自らの運命。過酷な現実とその先にある未来…」
鞠莉「そうしたものを一身に背負うために、敢えてその名を自分に課したんじゃないかしら」
曜「退路を断つ覚悟で、ってこと?」
鞠莉「リーダーというのは、時に孤高な存在でもある。その決意を、周りや自分自身に示すためだったのかもね」
曜「ん…」
鞠莉「どうかした?」
曜「…鞠莉ちゃんも、寂しいの?」
鞠莉「私は違うわ。確かに、大変なことや辛いことも多いけど…みんながいてくれる。心はいつも繋がっている。だから、寂しくはない」
曜「わかってる、けど…」
鞠莉「はい、ストップ」チョップ
曜「あたっ」
鞠莉「心配してくれる曜の気持ち、とっても嬉しいわ。だからこそ元気と勇気が湧いてくるし、頑張ろうって思えるの」
曜「鞠莉ちゃん…」
鞠莉「側にいてくれて、いつもありがとう。見つけようね、私たちの輝き」
曜「うんっ!」
……………………………………
鞠莉「曜って基本的にはしっかり者だけど、お金の使い方はかなり大胆。と言うより、結構荒っぽいのよね」
曜「うぐっ、何故それを」
鞠莉「前から気になってはいたの。お小遣いが入ると衝動買いが増えたりとか、欲しいものを後先考えずに買っちゃったりしてるなって」
曜「うぐぐっ」
鞠莉「部費の支出を抑えたり、帳簿をつけて管理したりっていうマメな経理能力が、私生活ではあまり発揮されない感じよね」
鞠莉「お年玉という臨時収入を得て、懐も気持ちもぽっかぽかってところでしょうけど。お金の使い方で将来苦労しないか、少し心配よ」
曜「うぐぐぐっ…でも金銭感覚については鞠莉ちゃんもお互い様のような」
鞠莉「何か言った?」
曜「いや、なんでも?」
鞠莉「まあいいわ。せっかくのお正月だし、今日はお年玉を用意してきたの」
曜「えっ、鞠莉ちゃんからは貰えないよ!」
鞠莉「お金じゃないから安心して。はい、これ」
曜「これは…みかん?」
鞠莉「お年玉よ。嬉しくない?」
曜「いや、こう来るとは…確かにみかんは丸いけど…」
鞠莉「まあ、丸いからお年玉って言うわけでもないんだけどね」
曜「そうなの?」
鞠莉「鏡餅ってあるでしょ。あれは新年の神様である『年神様』をおもてなしするために、お餅をお供えするものだけど」
鞠莉「そのお餅には年神様の魂が宿ると考えられていて、これを『御年魂』として子供たちに分け与えたことが、お年玉の由来だそうよ」
曜「と言うと、お年玉の玉はもともとは魂の意味で、贈られてたのもお金じゃなくてお餅だったってこと?」
鞠莉「そういうこと。そして時代の流れとともに、今のようなスタイルに変化していったってことね」
曜「なるほどー!あ、鏡餅と言えば、前から気になってたことがあるんだけど」
鞠莉「何かしら」
曜「鏡餅の上にはみかん乗せるけど、あれはどうしてなの?」
鞠莉「あれは橙(だいだい)の代わりに乗せているのよ」
曜「え、ダイヤさん?」
鞠莉「だいだい、よ」
曜「ああ、だいだい」
鞠莉「そう。その家の幸せが末長く代々まで続きますように、という意味が込められているみたいね」
曜「なるほど。ん?だいだいで、代々…」
鞠莉「千歌っちが聞いたら喜びそうね」
曜「あははっ、そうだね!」
――――――――
千歌「…くしゅん!」
ダイヤ「あら、大丈夫ですか?」
千歌「うん…風邪じゃないと思うんだけど、なんだろ」
善子「この前もずら丸と一緒にくしゃみしてたじゃない。最近寒いんだから、気をつけなさいよ」
ダイヤ「そうですよ。今が一番大事な時期なのですから」
善子「そう言うダイヤさんだって、さっきくしゃみしてたでしょ。ふたりとも無理しちゃダメよ」
ダイヤ「は、はい」
千歌「よーし、こうなったら寒い冬をみかんのパワーで乗り切ろう!さ、ふたりもどうぞ!」
ダイヤ「まあ、ありがとうございます」
善子「わ、私は…」
千歌「善子ちゃんも、はいっ!」
善子「あ、ありがとう…あとヨハネよ」
――――――――
曜「でも、だいだいかぁ。ふふっ」
鞠莉「ん?」
曜「いや、なんかね。鏡餅の上に乗ったダイヤさんをつい想像しちゃって」
鞠莉「ああ、小さい頃は乗ってたわよ」
曜「本当に?」
鞠莉「ええ。本物のお餅に座ろうとしたら『遊んではいけません!』って怒られちゃったから、白いシーツを被せたざぶとんを重ねて、その上にダイヤを乗せて」
ダイヤ『鏡餅、ですわっ!』ジャーン
果南・鞠莉『おおー!』パチパチ
鞠莉「ふふっ、懐かしいなぁ。久しぶりに乗ってもらおうかしら。今度は本当のお餅を用意して」
曜「今のダイヤさんが乗るってなると、もっと大きなお餅が必要だよね。何段にも積み重ねて、よりゴージャスに!それこそ浦の星の全校生徒でお雑煮できちゃうくらい!」
鞠莉「グレイト!面白そうね。シャイ煮お正月バージョンを作るならそれで決まりっ!」
曜「餅つき大会も一緒にやっちゃったりして!」
鞠莉「凧上げや福笑い大会も同時開催!ご父兄やご近所さんも巻き込んで、盛大に楽しく盛り上げる!」
曜「あははっ、最高だね!」
鞠莉(曜と話した『浦の星お正月会』。時期の関係もあって、結局実現はしなかったけど。みんなの提案と協力によって行われた閉校祭で、浦の星を大いに盛り上げることができた)
鞠莉(ありがとう、みんな)
……………………………………
鞠莉の部屋
鞠莉「ふふっ♪やっぱりこの時期、ふぅふぅしながら飲む甘酒は最高ね!」
曜「そ、そうだね」
鞠莉「でも知ってた?甘酒は冬の風物詩ってイメージが強いけど、もともとは夏の飲み物だったの」ギュ
曜「へ、へー」
鞠莉「暑い時期に消耗しがちなスタミナを回復するために飲まれていたらしいわ。一種の滋養強壮、今で言う夏バテ対策の飲み物だったそうよ」ギュー
曜「は、はい」
鞠莉「その証拠に、俳句の世界では甘酒は夏の季語とされているし、最近ではコンビニでも夏に冷やした甘酒が売られていたりするわね」スリスリ
曜「え、ええっと」
鞠莉「ちょっと曜、聞いてるの?」にぎにぎ
曜「は、はい…聞いてます、しっかりと…」
鞠莉「ならいいけど。ちなみに甘酒には大きく分けて、米麹からできているものと酒粕からできているものの2種類があってね」スリスリ
曜「うー…この状況、どうすればいいんだろう…」
鞠莉「どちらも酵母菌の働きを利用して作られているのは変わらないのだけど、酒粕が日本酒を作る過程でできた副産物で、微量のアルコールを含んでいるのに対して」モフモフ
曜「えっと、鞠莉ちゃん」
鞠莉「米麹はアルコール発酵をさせていないから、当然ノンアルコール。子供でも安心して美味しく飲むことができるの」すんすん
曜「あの」
鞠莉「あと、酒粕の甘酒は砂糖を加えて作るのも特徴ね。どうしてかと言うと、アルコール発酵の過程で原料中の糖分が消費されてしまうからで」さわさわ
曜「あの!」
鞠莉「もう、なによ。せっかく説明してるのに」
曜「なにはこっちのセリフ!この状況、一体どういうことなの?」
鞠莉「どういうことって、ハグしてるだけだけど?」ギュ
曜「いや、ハグ以外にもいろいろされた気がするんだけど…それに、この感じ…」
鞠莉「?」
曜「甘酒と鞠莉ちゃんから漂う独特な匂い、上気した顔、いつもとは違う鞠莉ちゃんの様子…」
曜「もうオチは読めたよ。きっと今飲んだ甘酒は酒粕から出来てて、鞠莉ちゃんはアルコールの影響で酔いが回ってっていう――」
鞠莉「もう、うるさいなあ」ハグッ
曜「わっぷ!?」
鞠莉「ふふっ♪」ムギュー
曜「!!??」
曜(ちょ…顔が…!)ジタバタ
鞠莉「こーら。暴れないの」ギュ
曜(押さえ込まれて…なんとかしなきゃ…!)ググ
曜「くっ!」バッ
鞠莉「あっ」
曜「はぁ、はぁっ…!」
曜(まずい…今の鞠莉ちゃんは危険だ!色々と、すごく!)
鞠莉「どうして逃げるのよ。ほら、続きしよ?」
曜「ま、鞠莉ちゃん。待って、落ち着こう。無理かもしれないけど、一旦落ち着こう。ね?」
鞠莉「…曜のこと、可愛い可愛いしちゃダメって言うの?」
曜「ダメとか良いとかの話じゃなくて、鞠莉ちゃんはいま酔ってるから、その」
鞠莉「…ぐすっ」
曜「!?」
鞠莉「曜が、意地悪する…」めそめそ
曜「えっ、鞠莉ちゃ、ええっ!?」オロオロ
鞠莉「ふぇぇ…」シクシク
曜「あっ…ご、ごめん鞠莉ちゃん、そんなつもりじゃなかっ」
鞠莉「キャーッチ!」ハグッ
曜「わああっ!?」
鞠莉「ふふっ、捕まえた!これでもうノーエスケープでーす♪」
曜「う、嘘泣き!?嘘泣きはずるいよ!」
鞠莉「嘘じゃないよ、ちゃんと泣いたもん。曜に拒否られて、心の中で」ズイ
曜「拒否って、別に拒否したわけじゃ」ドキ
鞠莉「なら、ハグしても良いってこと?」ギュ
曜「いや、いまの状況はそういうのとも少し違くて…」ドキドキ
鞠莉「とにかく!私は寂しかったの!曜に甘えたかったの、ずっとずーっと!それなのに、曜はさっきからダメだダメだって、そればっかりで!」
曜「ええっと…」
鞠莉「だから、ね」
鞠莉「…その分も、慰めてほしいの」
曜「!」
鞠莉「ダメ…?」
曜「…ダメじゃないよ」ギュ
鞠莉「!…ほんと?」
曜「うん。本当」
鞠莉「…えへへっ」ギュー
曜「ごめんね、鞠莉ちゃんの気持ちに気づかなくて」ナデナデ
鞠莉「曜、曜っ♪」
曜(可愛いなぁ…鞠莉ちゃんがこんなに甘えん坊になること、今まで無かったもんね。たとえ甘酒に酔ってるせいだとしても)
鞠莉「♪〜」
曜(…いや。さっき鞠莉ちゃんは言ってた。『甘えたかった』って。それはつまり、本当はもっと甘えたいって思ってるのに、実際は出来てないってことなのかな。きっと、私が頼りないせいで…)
鞠莉「んー♪」ギュ
曜「…私も、まだまだだね」ナデナデ
鞠莉「んー?」
曜「なんでもない。甘えられるのも良いものだなって」
鞠莉「でしょ?ふふっ♪いっぱいぎゅってして、いっぱいお話ししよう?」
曜「うんっ。今日はずっとふたり一緒だよ」
鞠莉(酔ったふりをしないと、自分から甘えられないなんて…私もまだまだね)
鞠莉(嘘ついて、素直になれなくてごめんね。でもきっと伝えるから。この気持ち、必ず…)
終わり
朝から乙
猪突猛進にそんな意味もあったのはマジで知らなかった…
|c||^.- ^||ラ!板がなくなるまで定期的に続けて下さいまし