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海未(30)「運命じゃない人」 ->画像>1枚
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【3月15日(金) 21:50 繁華街】
皆さん初めまして、高坂雪穂といいます。
訳あって一人、夜の街を彷徨ってます。
荷物はボストンバッグが一つだけ。
財布もありません。
ここ一年ほど住んでた部屋から、ほとんど着の身着のまま飛び出してきちゃったので。
それもこれも全部あの最低浮気ヤローのせいなんです。
ヤローっていっても女だけど。
ああもうホント腹立つ!
さっき質店で、あいつから貰った指輪を換金してやったら、
信じられないことに鑑定額なんと3000円。
ショックで思わずそれがエンゲージリングだってことを漏らすと、
赤毛の店主は毛先をくるくる弄りながら、素っ気なく500円オマケしてくれました。
3500円(情込)
これが今の私の全財産、とほほ。
これからどうしようかな……。
そういえば朝から何も食べてないや。
【3月15日(金) 22:00 レストラン“ウエストツリー”】
「いらっしゃいませ。何名様?」
お店に入ると赤毛のウェイトレスが無愛想に尋ねてきたから「お一人さま」って。
そうだよ、私はこれからもずっとずーっとお独りさまだい。
もう誰も信じない。
そもそも自分の幸せを他人に託そうなんてバカだったんだよね。
あいつのことなんか、ここで3500円分お腹に収めてきれいさっぱり消化してやる!
でも現実問題この後を考えるとお金を使い切ちゃうのはまずいので、何か一品頼むだけにしとこう。
さて、今晩はどこに泊まればいいのやら。
やっぱりカプセルホテル探すしかないのかな……はあ。
「でさー」
「マジウケるんですけど」
「ナンパいきましょうか」
「きゃははっ」
週末の店内は大勢の客で賑わっていて。
そこかしこで飛び交う会話に耳を傾けてると、
なんだか知らない星に一人ぼっちでいるみたいな気分になっちゃった。
だって、ここにはたくさん人がいるけど。
誰も私のことを見ないし、私も誰かを見たりしないし。
それでいいんです、私は一人で生きていくんだもん。
寂しくなんかないもーん。
……ぐすっ
「ねえあなた、お一人さま?」
へ…?
「デートの待ち合わせだったりとか、する?」
……違いますけど。
「じゃあこっちのテーブルで一緒にご飯食べない?」
「あ、嫌だったら別にいいのよ。でもほら、食事って人数多い方が楽しいじゃない? それで」
食べます!!!
ちょっと元カノに似てるその人の不思議な提案を、私は食い気味に承諾しちゃった。
「ハラショー!よかった」って悪戯っぽく微笑むその口元が、
やっぱり彼女に似てるなあとか思って。
認めなきゃ。今夜の私は、やっぱり寂しかったんだ。
誰かのそばにいて、話を聞いてもらいたかったんだ。
「へえ、雪穂ちゃんっていうんだ。よろしくね」
「私は絢瀬絵里。友達はよくエリーって呼ぶわ」
こうして今夜の私は、おひとり様ではなくなった。
めでたしめでたし?
【3月15日(金) 17:00 ニシキノ商事(株)オフィス】
皆さまお初にお目にかかります。私、園田海未と申します。
どこにでもいるごく普通のOLです。
突然ですが、本日めでたく30歳の誕生日を迎えた私には
生まれてこの方ずっと抱え続けてきた悩みがあります。
穂乃果「海未ちゃんてさぁ、お城みたいなマンションに住んでるんだってね」
海未「ええ…まぁ」
穂乃果「同期のよしみでお願いがあるんだけど。明日さ、部屋貸してくんない?」
海未「ええ…えぇ〜?」
人からの頼み事を、きっぱり断れないのです。
なんでも同僚の高坂さんは最近気になってた方と明日初デートらしく。
その別れ際に「実は近くにマンション持ってるんだけど、あがってく?」
などと一昔前のトレンディドラマめいたキザな誘い文句をさらっと言うのが夢だったそうで。
穂乃果「いや〜悪いね? 海未ちゃんがいい人で助かったよ♪」
結局、今回も私は彼女の強引な拝み倒しを振り切れず、
ランチ(パック)奢りと引き換えに部屋を貸すことを承諾してしまったのでした。
決して悪い人ではないんですけどねぇ。少々無神経で厚かましいところを除けば。
穂乃果「じゃ、明日の朝8時にお邪魔するね」
海未「は、8時ですか?」
穂乃果「言ってなかったっけ。その人、ナースなんだよ」
穂乃果「夜勤明けに会う約束なの。てことで、それまでに退去よろしくー」
えぇ…そんな無茶苦茶な。
はあ、またこのパターンです。押しに弱い私。
生来の内気さが災いし、幼少の頃より人付き合いを不得手としてきた私の人格は、
気が付けば現在の気質に固定されていました。
人の頼みを断らなければ、みんなに頼られる。
頼られる人間になれば、みんなに好いてもらえるかもしれない、と。
他人に嫌われたくない。
関わる人たち全員と良き関係でいたい。
でも便利な人扱いされるのもやっぱり癪で。
ああ、ダメな私……絵に描いたような八方美人ですね。
そんな私の煮え切らなさに愛想を尽かして、彼女は出ていってしまったのかもしれません。
私の人生で、初めて私のことを損得抜きで好きだと言ってくれた貴女。
あのマンションだって、貴女と一緒に暮らすために購入したものなのに。
貴女の部屋。毎週掃除して空けてあります。
貴女の荷物も。段ボール箱にまとめて部屋に置いてあるんです。
一度だけ、たった一度でいいので、戻ってきて話をしてくれないでしょうか……。
【3月15日(金) 20:00 マンション】
海未「ただいまです」
返事はないと分かっていても、つい言ってしまいます。
廊下の電気を点けると、お手洗いの扉が僅かに開いていたので閉め直します。
海未「こういうの、ぴっちりしてないと落ち着かないんですよねぇ」
自分の空間では、すべてのものが定位置に収まっていなければ。
玄関のサンダルの位置も微妙に曲がっていたので調整です。
朝出るときにぶつかってズレたのでしょう。
海未「……これって一種の病気だったりするんですかね」
孤独で頭がおかしくならないよう、意識して独り言を呟きながらリビングに足を踏み入れた直後、
仕事以外では滅多に鳴らない私のスマホが振動しました。
電話…!もしかすると彼女から…!
【着信:絢瀬絵里】
淡い期待は儚くも迅速に打ち砕かれました。
絢瀬絵里。私の、多分唯一対等に付き合ってくれる友人。
かけがえのない存在ではあるのですが。
海未「………はい、園田です」
『もしもし海未? あなた今すぐ出てこれない? いつものお店でご飯食べましょうよ』
海未「構いませんけど。今帰ったばかりなので、少し時間を」
『すぐ来てほしいのよ。大事な話があって』
海未「あの、さっきからなぜ小声なのですか」
『ああこれ? これはね……ほら仕事中。分かるでしょ』
海未「ではそれが片付いてからにしましょうよ。うちに来てもらえれば、私が何か作りますよ」
『いや、ホントにね? 大事な話なのよ。今すぐ来て?』
海未「大事大事って、何なんですか一体」
しばしの沈黙。
『ことりちゃんのことよ。今日街で偶然会ったの』
次の瞬間、私は弾かれた様に部屋を飛び出し、一目散に地下の駐輪場へ駆け込んでいました。
【3月15日(金) 21:50 レストラン“ウエストツリー”】
絵里「お待た」
海未「遅いですよ! 待ちくたびれましたよもう」
結局、たっぷり二時間近く経ってから彼女は現れました。
絵里「ごめんなさい、思いのほか長引いちゃって。奢るから許して?」
絵里「今まで何も頼まなかったの? さすが海未ね」
絵里「さーて何食べようかしら。あ、これ美味しそう!この前本で見たんだけどね」
海未「あの…本題、忘れてませんか?」
絵里「え? あうん、大丈夫、ちゃんと覚えてるわよ」
絵里「あのね。ことりちゃん、結婚するんですって」
その後、がっくり肩を落としてもぞもぞ食事を口に運ぶ私の様子に耐え兼ねたのでしょうか。
愛に生きるナンパ妖怪ハラショー女は、忠告という名の恋愛講釈を延々垂れ始めました。
曰く「いつまでも出ていった子のことなんか引きずらないで切り替えなさい」
「この前セッティングしてあげたレズコンで、どうして誰とも電話番号やLINE交換しなかったの」
「かよちゃんだっけ? 大人しくていい人そうですねって気に入ってた子いたじゃない」
「訊くタイミングが無かった? そんなもの自分が作るのよ」
「只でさえ私たちは日陰者なんだから、アプリでも何でも使えるものは全部使って出会いを探さなきゃ」
「三十過ぎたら『街角で運命の出会い』とか『自然に出会って』とか一切ないからね?」
「危機感を持ちなさいよ。きっかけを自分から作らないと、あなた一生ずーっと一人ぼっちのままよ?」
西木野家はクローン技術を引っ提げて財閥化でもしたのか
絵里「だいたいね」
絵里「一方的にこっちを振って、半年も音信不通の彼女の荷物を未だに保管し続けてるのがいけないのよ」
絵里「断言してあげる。あの子はもう二度とあなたの前に現れることはないから」
絵里「捨てちゃいなさい。そしてそのぐじゅぐじゅした未練もすっぱり断ち切っちゃいなさい」
ううっ…なにもそこまで言わなくても。
というか荷物のこと何で知ってるんですかぁ。
海未「ことり……荷物のこと、何か言ってましたか?」
絵里「へ? ああ、いえ別に。どうして?」
海未「新しい住所が決まったら送ってくれと、頼まれていたので……」
絵里「………ああもぅ」
絵里「ナンパいきましょうか」
唐突に突拍子もないことを言い出しましたよこの女。
海未「ナンパって……学生じゃないんですから」
絵里「学生じゃないからするのよ。さっきの話聞いてた?」
海未「し、しかし私は絵里と違って、ナンパのセンスやテクニックといったものが無いですし…」
絵里「人と出会うのにテクニックなんて要らないわよ。必要なのは勇気と根気」
絵里「見てて。ちょっと実演するから」
そう言って真後ろを振り向くと、そこに座っていた女性にあっさりと声をかけてしまいました。
絵里「ねえあなた、お一人さま?」
雪穂「へ…?」
絵里「へえ、雪穂ちゃんっていうんだ。よろしくね」
雪穂「はい、こちらこそ」
こんなにあっさり……。絵里の言うことにも一理あるのかもしれません。
いや、見知らぬ方とはいえ、ナンパというかあくまで女子会的なノリでの誘いでしたけどね?
絵里「私は絢瀬絵里。友達はよくエリーって呼ぶわ。ハーフじゃないわよ、クォーターなの」
絵里「こっちは園田海未。堅物そうでしょ。実家は道場やってるのよ。ね、海未?」
海未「へ? あ、はい、そうですね…」
絵里「雪穂ちゃんはなに頼む? 私はこのハンバーグが美味しくて好きなんだけど」
雪穂「あ、じゃあ私もこれにしよっかな…」
しかし初対面でよくここまでぐいぐい話しかけられますねえ……。
絵里「あ……ごめんなさい」
絵里「私、ちょっとお手洗い行ってくる」
――――
――
海未「……」
雪穂「…もぐもぐ」
海未「あ、あの」
海未「それ、ちゃんと美味しいですか?」
雪穂「あ、はい」
海未「……」
雪穂「…もぐもぐ」
き、気まずい……。絵里は何をやっているのでしょう。
いえ、人のせいにしちゃダメです。こういう時はもう一人が場を繋がないと。
でも一体何を話せばいいんですかね。趣味のこととか?
しかし会ったばかりの方に登山の素晴らしさを説いても微妙な顔しかされないのは身に染みていますし。
はあ……どうしましょう。これだから私は
雪穂「ふえ……ぐすっ、うぅ」
海未「あ? え? ど、どうされました?」
やっぱり美味しくなかったのでしょうか?
雪穂「すびばせん……何でもないですから、えっく」
何でもなくはないでしょう……。
この場合どうすれば……ええいままよ!
とりあえず彼女の背中をさすることにしました。
雪穂「ふっ、うぅぅ…ぐす」
さめざめと泣き続ける彼女と一心不乱にさすさすする私。
そんなテーブルに赤毛のウェイトレスが近付いてきたかと思えば、
「お済みのお皿お下げしてもいいかしら?」
こんな時くらい空気読んでください!
・
・
・
海未「落ち着きましたか?」
雪穂「もう平気です」
雪穂「急にごめんなさい。びっくりしましたよね?」
海未「いえ、大丈夫ならそれで何よりですが」
雪穂「………」
雪穂「別れてきたんです。婚約してた人と」
海未「えっ」
雪穂「その子、前々から遊び慣れてる感じはしたんですけど」
雪穂「ある日、それ用のケータイを見つけちゃって」
雪穂「見たら、やっぱり私以外にも女の子たちがたくさんいて……あ、相手も女性なんですけど」
雪穂「……気味悪いですよね、いきなりこんな」
海未「そんなことないです!」
海未「じ、実は私も半年前に似たようなことがありまして…!」
海未「結婚を約束していた彼女に、ある日突然出ていかれてしまって」
海未「だから、気持ちは分かります!女同士でも、気味悪くなんか全然ないです!」
雪穂「や、そういう意味で言ったんじゃないです」
雪穂「会ったばかりの人間が、急に泣き語りし出したら気味悪いかなって」
雪穂「私は、好きになった人がたまたま女性だっただけなので」
雪穂「別に根っからの同性愛者とかではないんです。すみません」
海未「……さいですか」
うああ……。
やってしまいました。居たたまれない空気に逆戻りです。
海未「あの、私、ちょっと友人の様子を見てきますねっ」
思わず逃げるように席を立ってしまいました。
プルルルルルルルル
『もしもし?』
海未「絵里!トイレにもいないし、今どこですか?」
『どこって……急に仕事入っちゃったのよ』
海未「はあ? 彼女はどうするんですか」
『どうって……あなた、うまくやりなさいよ』
これは――もしかして、嵌められた?
海未「絵里、あなたまた余計なお節介を」
『ちょっともう切るわよ。頑張りなさいよ、せっかくのチャンスなんだから』
海未「あ、もう…!」
海未「すみません。彼女、戻ってこないみたいです」
雪穂「へ?」
海未「なんだか仕事が入ったそうで」
雪穂「これからですか?」
海未「ええ。実は…」
海未「探偵なんですよ。絵里は」
海未「素行調査のために普段から尾行や張り込みを……ぁ」
迂闊でした。今浮気を連想させる話題はNGだったかもしれません。
海未「……重ね重ね申し訳ありません」
海未「絵里があなたに声をかけたのも、実のところ私のためだったんです」
雪穂「?」
海未「さっき聞かれたと思いますが、私半年ほど前に恋人だった女性に振られまして」
海未「それでずっと落ち込んでたところを、今日も彼女が色々と世話を焼いて元気づけようとしてくれて」
海未「その流れで何故か、女の子をナンパしようという話になりまして……」
海未「あの、ですから…それ、食べたらもう解散ということでも、一向に構いませんので」
海未「もちろんお代はお支払いします、失礼したお詫びに。不快でしたよね、こんな相手と同席なんて…はは」
雪穂「……園田さんは」
雪穂「園田さんは、同性愛者なんですよね」
海未「え、ええ…まあ」
雪穂「同性愛者の園田さんから見て、私って魅力ありますかね?」
海未「へ? それは、えっと」
雪穂「やっぱり、ない感じですよね……私なんか」
海未「や、そんなことありませんよ? じゅうぶん、魅力、あると思います…よ?」
雪穂「………」
ああ、また俯いてしまいました。私の不用意な発言のせいで。
傷付いて、悲しくて、泣き出したいのに泣けない。
この辛さは痛いほどよく分かっているつもりです。
何とか元気を出してもらわないと……。
海未「甘いものって、好きでしょうか」
雪穂「ふぇ…?」
海未「ほら、辛いことがあった時って、甘いものを食べると割と気がまぎれるじゃないですか」
海未「ここって、トマトケーキとか有名なんですよ。雑誌とかで紹介されるくらいに」
海未「あ、ちなみに今日は私の誕生日で……ってそれは関係ないですけど」
海未「どうせ私の奢りですから、好きなだけ注文しちゃってください」
海未「私のことは、お金を出す置物とでも思ってもらえれば……」
雪穂「………」
海未「ですから、目の前にいるのは置物なので」
海未「泣きたい時は、構わず泣いてもいいんですよ?」
海未「置物相手ですから。気兼ねなく」
雪穂「………ぷっ」
雪穂「なんですか、それ」
雪穂「でも…ありがとうございます」
よかった……。
正直自分でも何を言ってるのかよく分からなくなりましたが、少しだけ笑ってくれました。
化粧っ気を感じない、少々地味な顔立ちですが。その笑顔、とってもチャーミングだと思いますよ?
【3月16日(土) 00:30 海未のマンション】
雪穂「色々すみません。迷惑かけることになっちゃって」
海未「いえ、このくらい。私は気にしてませんよ」
あの後、私たちはスイーツをつつきながら、ぽつぽつお互いの話をしました。
彼女……雪穂さんは、元婚約者のために仕事を辞め、貯金も相手の名義にしていたので、すごく悔しかったこと。
家族は近頃ほとんど連絡を取っていない姉が一人だけで、出来れば彼女には頼りたくないということ。
今晩行く当てがないとのことなので、うちでよければ泊まりませんかという流れになったのです。
閉店時間ぎりぎりまで話し込んでしまって、電車もありませんでしたし。
レストランからマンションまでの道中でも、私たちはぎこちない会話を続けていました。
途中、妙なやる気を出してしまった私が、よせばいいのに自転車に二人乗りを勧め、
案の定慣れていなかったため、坂道で軽い暴走状態となって飛び出した車道で、
『便利屋にこにー』と書かれた軽トラに轢かれそうになり、運転手の方に怒鳴られるという失態もありましたが。
それすらも笑って流せるほどに、二人ともリラックスできていたのです。
マンションのエントランスに踏み込んだ雪穂さんは一言「お城みたい」
私はまたテンパって、「お城みたいと言っても、変な下心はないですから」と余計な一言。
彼女ははにかんで「分かってます。園田さんはいい人ですから」
いい人ですか……。ちょっと切なくなりますね。
海未「この部屋を使ってください」
海未「着替えとかは……あ、持ってますか」
海未「ベッドもあります。私は向こうで寝ますので」
海未「お風呂入りますよね? 今沸かしてきます」
雪穂「ありがとうございます。何から何まで」
海未「いえいえ、どうせ空き部屋なんです」
そこで私は、壁際の段ボールやハンガーにかかった服をちらりと一瞥し。
雪穂「あ……例の、ことりさん、でしたっけ」
海未「一週間くらいしか使われてないんですよねぇこの部屋」
ここを買って、すぐ出ていかれちゃいましたから。
海未「今度、結婚するそうなんです。彼女」
海未「出ていく時、他に好きな人が出来たと言ってましたから。多分その方と」
雪穂「…ひどい」
ぽつりと漏れた言葉の深刻なトーンに、ややたじろきながらも。
海未「私は…仕方ないかなと諦めてます」
雪穂「仕方ないですかね?」
海未「こういうのは、気持ちの問題ですから」
海未「別に、契約書とか書いてもらったわけでもないですし」
愛想笑いを浮かべようとして、上手くいきません。
彼女はまた下を向いていました。
雪穂「今でも…その人のこと、好きですか?」
海未「………はい。好きです」
そう口に出した途端、ことりとの思い出の記憶と、彼女への複雑な想いがない交ぜになって
心にフラッシュバックし、どうにもならなくなった私は、しばし押し黙ってしまいました。
その間、雪穂さんも同じように沈黙したまま。彼女が何を思っているかは分からないですけど。
海未「……とにかく遠慮せずに使ってください。私はお風呂を沸かしてきます」
胸の苦しさも限界に達し、この部屋という彼女の思い出から逃げ出したくなって、私は足早に立ち去ろうとし
海未「え――」
ぎゅっ――と抱き締められて、心を繋ぎ止められました。
雪穂「……」
海未「あ…」
密着した身体から、彼女の体温が、鼓動が、心の温度が、私の中に流れ込んできて。
その時初めて、この人も今の私と全く同じ心の動きを共有しているんだということに気付けたのでした。
抱擁というよりは、しがみ付くようなその抱き方で、私たちは自分自身を抱き締め合っていたのです。
いつまでそうしていたでしょうか。
雪穂「……っ、すみません」
唐突に、はっとしたような顔で雪穂さんは離れました。
海未「いえ……どういたしまして」
どういたしましてって何ですか!? この言語野機能不全!
って、なんでこんなテンパってるんですか私は!?
だって、彼女が温かくていい匂いだったから……
海未「お風呂…!そう、お風呂!入れてきますねっ」
たちまち上気した顔を見られぬよう背けながら。
久しく感じていなかったときめきと、他人と初めて心の底から通じ合えたような興奮とを上手く処理できず、
それでも確かな高揚感に浮かれながら、私は思い出の鳥籠を飛び出したのです。
――――
――
風呂炊きが完了する頃には、時計の針は深夜1時を回っていたでしょうか。
私は両手に入浴剤の袋を持ち、部屋の扉をノックしました。
「は、はい?」
海未「ちょっといいですか? 温泉の素があるんですけれど」
海未「『湯あたりミルキィ三森の湯』と『地獄オペラ鈴湖温泉』でしたら、どちらが…」
ピンポーン
……誰でしょうこんな時間に。
まさか絵里?
海未「はぁ――い?」
恐る恐る開いた玄関ドアの向こうで、困ったような笑みを浮かべていたのは
ことり「ごめんねこんな時間に…元気だった?」
海未「こ、ことり…!?」
ことり「ちょっとあがってもいい?」
海未「………えっ、今で」
すかと言い終える前に、彼女はするりと私の脇を抜けて、
もう靴を脱ぎ始めていました。
ことり「なんか、ごめんね?」
ことり「置いてったことりの荷物、取りに来たんだぁ」
海未「いっ今じゃないと駄目なのですか?」
ことり「うん。ホントにごめんね」
海未「ちょ、待ってくださ」
ことり「あ……」
雪穂「………」
ボストンバッグを抱えた雪穂さんが、俯き加減で廊下に立ってました。
ことり「………なんか、ごめんねぇ?」
なんですかこの状況……。
ことり「お邪魔…だったよね? 私、すぐ出ていくから」
雪穂「ちょっと勝手すぎませんか」
ことり「……?」
相変わらず困ったような笑顔のまま、不思議そうに小首をかしげることりに向けて、かすれた声で
雪穂「この人捨てて、荷物も置きっぱで出ていって、それでこんな時間に取りに来ましたって」
雪穂「あなた自分の都合だけで生きてるんですか?」
雪穂「人の気持ち、考えてくださいっ」
ことり「………」
ことり「でも、あなたには関係ないよね?」
雪穂「……」
雪穂「私、行きます」
雪穂「お邪魔しました」
あっ、と言う間もなく、雪穂さんは私の脇をすり抜けて、
玄関から出ていってしまいました。
ことり「……なんか、ごめんねぇ?色々と」
ことり「それで、荷物なんだけど」
海未「取ったら出ていってもらえますか」
ことり「うん?」
虚を突かれた様に、その潤んだ瞳をぱちくりさせたことりに、私は言い放ちます。
知らずのうちに、両手の入浴剤を強く握りしめていました。
海未「荷物取ったらすぐに出ていってください」
海未「必要なものは全部。残りは捨てますので」
海未「………さようならっ」
それだけ伝えて、私は玄関から飛び出しました。
拍子に温泉の素が片方、掌からすっぽ抜けて、外の手すりの向こう側へ落ちていきました。
・
・
・
探し人は思いのほか簡単に見つかりました。
マンションを出てすぐの車道沿いで、今まさにタクシーに乗り込もうとしていたのです。
海未「待ってください!」
彼女は私に気付くと一瞬驚きの表情を浮かべ、それからすぐ顔を背けました。
海未「どこへ行こうというのですか…!こんな時間に」
雪穂「……ホテルかネカフェ探すので、大丈夫です」
海未「しかし」
雪穂「やっぱり、図々しいと思ったんです。さっき会ったばかりの人に泊めてもらうなんて」
雪穂「図々しい女には……なりたくないです」
海未「………」
雪穂「それに、さっきはああ言ったけど」
雪穂「あの人、園田さんに何か別の用があるんじゃないかって」
雪穂「だって変ですよね? こんな時間に、荷物だけ取りに来るなんて」
雪穂「きっと、何か話とか、あるんじゃないかな」
海未「話…とは」
雪穂「戻ってきたんじゃないですか?」
雪穂「なんとなく……そんな気がします」
海未「………そんなわけ」
雪穂「ないですかね?」
雪穂「もし、園田さんみたいな優しい人が恋人だったら」
雪穂「私、そんな簡単に忘れられるとは思えないんです」
海未「え……」
雪穂「とにかく、もう戻ってください」
雪穂「まだ好きなんでしょ? あの人のこと…」
海未「………」
海未「好きじゃないです」
そこで初めて、彼女はこちらを向いて。
雪穂「さっきは好きだって言ってたじゃないですか…」
海未「さっきまでは好きでしたが、今はもう違うんです」
これが今の私に出来る精一杯でした。
けれども、彼女は迷惑そうに眉をしかめ。
どうしてそんなこと言うの?とでも言いたげな顔で、車のシートに滑り込んでしまい。
海未「ぃ、行かないで…」
雪穂「……誰でもいいの?」
雪穂「少し前に会ったばかりなのに」
雪穂「私がどんな女なのか、これっぽっちも知らないくせに…!」
雪穂「ちょっと優しくされただけで……自分になびくかもって思ったら、誰でも好きになるんですか?」
海未「っ……」
雪穂「おかしいですよ……そんなの」
雪穂「今日は………色々すみませんでした」
バタン、とこんな時に限って空気を読んだタクシーのドアが、私を彼女からシャットアウトし、間髪入れずに発進。
『駄輪運送』と書かれた車体がみるみる遠ざかっていきます。
海未「はぁぁ………」
結局こうなるんですね。でも仕方ないです。
だって、運命じゃなかったんですから。
いえ、逆に考えれば、こうなるのが運命だったということでしょうか。
つまり、彼女が私の運命の人ではないのが運命だというわけで。
運命じゃない運命。
諦めて、さっさと忘れてしまうのが正解ですよね……。
その瞬間、頭の中に、数時間前の友人との会話が蘇りました。
きっかけやタイミングは自分で作るのよ――
その言葉は稲妻となって私の中を駆け巡り、
気が付けば私の足は、タクシーを追いかけて全力疾走していました。
なぜでしょう。なぜ私はこんなことを?
内気な私はずっと受け身で生きてきました。
流されるまま、これではいけないと思いつつも、自ら一歩を踏み出すことを恥ずかしいと躊躇し、
ここで動けば何か変わるんじゃないかという状況でも、足を動かすことをせずにきました。
あの時彼女は、怒ってくれたんです。
身勝手なことりに向かって、私の気持ちを考えろと。
たとえそれが、私の境遇を自分のものと重ね合わせた上での、彼女自身のための怒りであったとしても、私は嬉しかった。
貴女ともっと話をしたい。貴女のことをもっと知りたい。
そう思えた人との繋がりが今、永久に絶たれようとしている。
諦めるのですか? タイミングが無かったからという、ただそれだけの理由で?
私は走りました。
走って走って走って、昨日までの臆病な自分を振り切ろうとしました。
これまでの私は、他人に正直に、自分にはずっと嘘をつき続けてきました。
これからは、私自身にも正直でありたい――それだけが、勇気の理由でしょうか?
初めてなんです。こんなにも熱く激しく、何かを求める力が、私の中で渦巻いている。
わけのわからぬ大きな力が足を動かし続け、やがて目の前に赤い光が見えてきました。
タクシーが交差点を曲がろうと減速しています。
私はヘッドライトの中に飛び込みました。
車を急停車させた赤毛の運転手が、苦い顔でこちらを睨んできます。
それには構わず、ぜいぜいと肩で息をしながら、私は後部席側の窓を叩きました。
今しがた全力疾走を終えたばかりの人間の顔面がどういう状態になっているかは想像に難くありません。
シートの彼女は、ホラー映画の殺人鬼に追い付かれた犠牲者のような表情で固まっています。
構うもんですか。当たって砕けろです。やる前から諦めるよりはいい。
もう一度コンコンすると、彼女は窓を開けてくれました。
海未「LINEを……」
海未「もしやっていなければ……電話番号で結構ですので」
雪穂「へ…?」
海未「電話番号です……!」
海未「このままでは、もう二度と会えなくなってしまいますから……」
海未「電話番号、教えていただけないでしょうか?」
海未「貴女とは、少し前に会ったばかりです……」
海未「貴女のこと、全然知らないです………けれど」
海未「それでもまた会って、話がしたいのです…!」
雪穂「……」
海未「気味、悪いでしょうか」
沈黙。
俯いた彼女の視線の先に、何かが差し出されました。
「電話番号くらい教えてあげたらー?」
気だるげな声色で、赤毛の運転手がボールペンを振ってみせます。
って、紙がないじゃないですか!
そこで自分が、右手にずっと温泉の素の袋を握りしめたままなことに気付きました。
もう片方のはどこかへいってしまったのに、何故かこれだけは放さずここまで来たのです。
海未「よろしければ、この裏に……」
ややあって、こくんと頷くと、私たちから差し出されたものを受け取り、
彼女はおずおずと手を動かし始めました。
やれやれ、とでも言いたげなジト目で運転手がこちらへ目配せし、私は軽く頭を下げました。
――――
――
タクシーの赤いテールランプが、見えないところまで遠ざかっていきます。
けれども、私と彼女の関係はそうじゃありません。
ついにやりました。
不肖、恥ずかしがり屋の園田海未は、とうとう一歩を踏み出すことに成功したのです!
私は人目もはばからず万歳し、その場で小躍りしてくるくる回り続けました。
車道のど真ん中だったため、後から角を曲がってきた白いクラウンにクラクションを鳴らされ、慌てて道を避けます。
それしきのことで、今のこの余韻に水を差されたりはしませんでしたけど。
ですから、この時の私は気付かなかったのです。
タクシーと同じ道を行くクラウンの助手席で、“彼女”が頬杖をついていたことに。
今夜、私のすぐ近くで展開していた、もう一つの物語に。
金曜
ロードショー
ラブライブ!× 運命じゃない人
【3月15日(金) 18:40 KKE探偵事務所】
ズドラーストヴィチェ、エリーチカよ。こう見えて私立探偵やってます。
よく人は30を過ぎると胸の辺りにある恋のキュンキュンマシーンが故障するって言われてるけど、
私はそうは思わない。
私のマシーンは今も現役バリバリ、昔と変わらず恋多き乙女のままだもの。
でもね。こんな稼業を続けてると、マシーンの好不調にかかわらず、
恋だの愛だのって感情が人を不幸せにする場面ばかり見ることになる。
今も、事務所のソファにはそれを体現する存在が居座っていて。
ことり「絵里ちゃん久しぶり」
絵里「アポイントメントもなしに突然誰かと思えば」
絵里「よりにもよってあなたとはね」
ことり「電話したんだけどね。出なかったから」
絵里「――で、何の用?」
ことり「ちょっと助けてほしいの」
ことり「かしこくてやり手の探偵さんに」
おねがぁいと、甘ったるい声と仕草で困ったような笑顔を向けてくる。
生まれつき一挙手一投足がコケティッシュの塊みたいな彼女にかかれば、
九割方の人類は言うことを聞いちゃうんじゃないかしら。
私には通用しないけど。
絵里「私じゃなくて、東條組の組長にでも泣きつけば?」
絵里「やり手の結婚詐欺師さん」
絵里「海未から、あなたが突然いなくなったって聞いて探したのよ」
絵里「万一分からなかった時にがっかりさせたくないから内緒でね」
絵里「そしたら出るわ出るわ悪女の遍歴が」
ことり「わぁ、これ全部私の資料?」
絵里「被害者リストの一部よ」
ことり「………はぇぇ〜こんな前のことまで。探偵さんって凄いんだね」
犯罪歴の分厚いファイルを、まるで思い出のアルバムでも眺めるような顔でめくってる。
私は嫌味の一つでも言ってやりたくなって、
絵里「あなた本当は海未とタメだったのね」
絵里「ダメよ、10歳近くもサバ読んじゃ」
ことり「ん。でもそう見えたでしょ?」
ぐぬぬ……。
ことり「あれ? この人からは300万円しかもらってなかったっけ。もうちょいいけたかな…」
絵里「……」
絵里「でもあなた、海未からは一銭もとってないわよね」
絵里「どうして?」
ことり「だって海未ちゃんいい人すぎるんだもん」
ことり「あまりにも真っ直ぐで、なんだか申し訳なくなっちゃって」
絵里「白々しい嘘を言わない」
ことり「マンションの頭金」
ファイルの一番後ろから、半年前に私が撮ってプリントした写真の束が滑り出した。
例のお城チックなマンションに引っ越した当日の二人を撮影したやつ。
エントランスや部屋の前、表札を指さして浮かれる海未と、どこか真顔で白けた様子のことり。
ことり「海未ちゃんたら先走って、貯金ぜーんぶはたいてあそこを買っちゃったの」
ことり「驚かせたかったって私に相談もなしに。確かにサプライズだったな」
絵里「文無しに用なしで、はいサヨナラってワケ。切り替えの随分早いこと」
ことり「お別れのタイミングが大事なの」
ことり「それで」
ことり「ことりのこと、ここまで丸裸にしておいて。今まで何もしてこなかったのはなんで?」
ことり「それとも、これから何かされちゃうのかな?」
絵里「もちろん居場所は突き止めてたわよ」
絵里「でも、ヤクザの所じゃねぇ」
高級レストランで隠し撮りした写真を提示する。
この子と一緒に映っているのは、胸元の開いた派手な紫シャツにオーダーメイドの白スーツでめかし込み
レイバンのサングラスにロレックスやら金ブレスやらをじゃらじゃら付けた“いかにも”な風貌の女性。
絵里「今のあなたの相手、あの東條組の組長さんでしょ? 組長の女にいちゃもんつけに行く度胸はないわ」
東條希。
私と同い年という若さで自分の組をもつに至った謎の女。
察するに、恐ろしく権謀術数に長けた超やり手のビジネスヤクザってトコかしら。
実際、金払いも普段の人当たりもとても良いそうだし。
ことり「ふふ…じゃあ今がチャンスかもね」
ことり「実はね、その希ちゃんの所から逃げてきたの」
絵里「あなたの言う、お別れのタイミングってやつ?」
絵里「ヤクザ相手には通用しないわよ、それ」
ことり「知らなかったんだもん」
ことり「希ちゃん、自分は実業家だって言ってたし。ことりは騙されたんです」
絵里「ご愁傷様」
絵里「あなたと私もここが別れ時みたいね。ダスビダーニャ」
ことり「そんなこと言わないで。ことりを逃がすの手伝って、おねがぁい」
ことり「ちゃんとお礼もします。私が持ってきたカバンの中身気にならない?」
気にならないわけないじゃない。
事務所に招き入れてからずっと、私はトラブルの予感がするそれを見て見ぬ振りし続けてきた。
ことりみたいな女の子には似つかわしくない、大きくてごつごつしたアタッシュケース。
ああ、お願いだからそれを開かないで……!
――蓋の下から顔を出したのは、ビニールに包まれた大量の札束。
絵里「……あなたヤクザ舐めると長生きしないわよ」
期待しかない。
無理のないペースでよろしくお願いします>筆者様
ことり「舐めてませんっ。だから外国に高飛びしたいの」
ことり「でもね。困ったことに私のパスポート、半年前に海未ちゃん家に置いてきちゃったままで」
ことり「それで絵里ちゃんなら取ってこれるかなーって」
ことり「お願い絵里ちゃん。もう一度、海未ちゃんとことりを繋ぐ愛の運び屋さんになって?」
ぬけぬけとこの子は。そんなこと私が本気で手伝うとでも……あれ?ちょっと待ってよ。
絵里「あなたいつ逃げ出してきたの」
ことり「ついさっきだよ」
絵里「私に電話したって言ってたわよね。番号教えてないはずだけど」
ことり「前に事務所の名刺もらったことを思い出して。ほらこれ」
絵里「ケータイも出して。履歴消したいから」
ことり「なんで?」
絵里「なんでって……あなたが捕まった時に、私までいらん巻き添えを食いたくないからよ」
ことり「あ、なるほど。抜け目ないね」
あなたよくここまでやってこられたわね。
ことり「でも無理かな」
ことり「ケータイ、希ちゃんの事務所に置いてきちゃったの」
………は?
ことり「希ちゃんに渡されたやつだし。持ってたらかかってきちゃうと思って」
絵里「なっ…」
絶句した私を、相変わらずニコニコしながら不思議そうに見つめてる。
この子、自分がなにしくさったか分かってるの?
【3月15日(金) 19:45 海未のマンション前】
絵里「部屋の明かり無し。海未はまだ帰ってないみたいね」
ことり「じゃあ助けてくれるんだね? や〜ん嬉しぃ」
絵里「………それ。全部で幾らあるの」
ことり「一束400万円が5コで、2000万?」
絵里「よくとってこれたわね。金庫とかに入ってなかったの?」
ことり「希ちゃんがお金をしまう時ね。暗証番号、後ろから覗き見してたの」
絵里「はぁぁー」
2000万円か……。なんでこの子、事の重大さが理解できてないのかしら。
絵里「あのね。半年前に私の親友を裏切って」
絵里「今またきな臭い雰囲気全開で現れたあなたを事務所に通したのは何でだと思う?」
絵里「海未のためよ。あなたが何かトラブって事件になって新聞沙汰にでもなったら」
絵里「海未はあなたの正体を知って酷く傷付くでしょう。そんなのは見たくないの」
ことり「私のこと話してないの?」
絵里「言えるわけないじゃない! ただでさえ死ぬほど落ち込んでるのよ? あなた海未の性格知ってるわよね!?」
ことり「あ…そっか」
絵里「そっかじゃないわよ…」
ことり「………あれ? じゃあそんな理由で私のこと助けてくれるの?」
この女……本当に同じ生き物なのか疑わしいんだけど。
まあいいわよ。そっちが納得するような理由もちゃんと用意してあるもの。
絵里「100万よ」
絵里「迷惑料込みで100万頂くわ。それでやってあげる」
ことり「…………くすっ。いいですよ」
やっと得心がいった顔でケースからお金を出そうとするもんだから慌てて止めたわ。
絵里「ちょ、何やってるの!そのお金には触らないで」
絵里「2000万は返すの!組長のところに」
ことり「えぇ〜?」
絵里「こっちがえぇ〜よ。あなたヤクザの怖さがまるでわかってないのね」
絵里「面子潰されてお金もとられたやつらは地の果てまで追いかけてくるわよ」
絵里「それこそ私みたいな調査力とネットワークを総動員してね」
そんなことになったら、まず疑られるのは発信履歴の先頭にばっちり残ってるこの私なのよ。
絵里「あなたは確実に捕まっちゃう。逃げられるわけ無いじゃない」
絵里「だからこのお金は返す。そしたら向こうも本気で追うことはしないでしょ……多分」
絵里「人を探すのって意外とお金がかかるもの」
ことり「――やっ」
ことり「そんなの知らないもん。100万円払うんだからなんとかしてよ」
絵里「もしもし警察ですか」
ことり「待って待って!よく話し合お? 幾らならいいの?」
絵里「金額の問題じゃない。これは命にかかわることなの」
絵里「このお金を諦めたところで、今までのカモからせしめた貯えがたっぷりあるじゃない」
絵里「どことどこの口座に入ってるかまで全部知ってるわよ? このこと東條組に連絡しようかしら」
ことり「……」
絵里「そんなに唇尖らしても、駄目なものは駄目だから」
ことり「……わかったよぅ」
絵里「よろしい。それじゃパスポート取りに行きましょうか」
ことり「へ? でもまだ海未ちゃん帰ってないって」
だから海未には知られずにやりたいんだってば。
絵里「問題ないわ。私海未から合鍵もらってるの」
ことり「えー…先に言ってよ」
・
・
・
絵里「急いであがって。もたもたしないで」
ことり「暗いんだもん。電気点けようよ」
絵里「万一のためよ。靴も手に持って」
ことり「絵里ちゃん気にし過ぎ」
絵里「あなたはもっと気にしなさい」
ことり「ええと、それで私の部屋って」
絵里「ここよ。そういえば一週間で出ていったんだっけ」
パスポートは思いのほか簡単に見つかった。
ことりの部屋で、海未が段ボール保管していた彼女の私物詰め合わせ。
色とりどりの下着の山の底から出てきたそれを私は取り上げた。
絵里「これは100万と交換」
絵里「あと服替えた方がいいわね」
ことり「えー? このワンピースお気に入りで」
絵里「目立つのよそれ。幸いここには着替えあるし」
絵里「私お手洗い行ってくるから。それまでに着替えといて」
―
―――
絵里「ふぅ」
絵里「……」
どうしよう、真っ暗だ。怖い。
狭い空間で真っ暗は勘弁してほしい。
明かりをつけるなと言った手前、自分で破るわけにはいかないし。
落ち着きなさい、ちょっとだけ扉を開けておけばいいのよ。
そう、ちょっとだけ……
「ただいまです」
絵里「!?」
心臓と膀胱が飛び上がった。
扉の透間から眩い明かりが差し込み、すぐに閉ざされる。
「こういうの、ぴっちりしてないと落ち着かないんですよねぇ」
海未だ…!嘘でしょ、このタイミングで…!
「……これって一種の病気だったりするんですかね」
どうしよう…!いっそのこと出ていって正直に事情を――ダメだ。
今の海未にことりを会わせるわけにはいかない。会わせたくない。
じゃあどうするの?私たちが見つからず、家主だけをここから追い払う方法なんて……。
閃いた。
私は震える手でスマホを取り出し電話帳を呼び出す。
こうなれば一か八か――
「………はい、園田です」
絵里「もしもし海未? あなた今すぐ出てこれない? いつものお店でご飯食べましょうよ」
「構いませんけど。今帰ったばかりなので、少し時間を」
絵里「すぐ来てほしいのよ。大事な話があって」
「あの、さっきからなぜ小声なのですか」
絵里「ああこれ? これはね……ほら仕事中。分かるでしょ」
嘘は言ってない。
「ではそれが片付いてからにしましょうよ。うちに来てもらえれば、私が何か作りますよ」
もう来てるんだって。
絵里「いや、ホントにね? 大事な話なのよ。今すぐ来て?」
「大事大事って、何なんですか一体」
絵里「……」
絵里「ことりちゃんのことよ。今日街で偶然会ったの」
禁断のジョーカーを切ってしまった。効果は言わずもがな。
扉の前を大わらわで駆けていく足音に、私は胸をなでおろしつつ、その内で謝罪した。
【3月15日(金) 20:35 東條組事務所前】
ことり「さっきは危なかったね〜」
絵里「……これからもっと危ない橋を渡るのよ」
一難去ってまた一難。
次はヤクザの事務所にこのアタッシュケースを返してこないと。
車中で仕事道具の一つ、変装用の衣装に着替えた私は、バイク便の配達に成りすます。
ていうかことりは何でワンピースのままなのよ。
ことり「だって〜海未ちゃんのくれたお洋服、どれもセンス無くて」
ことり「そこまで言うなら後で絵里ちゃんが買ってくれるんだよね?新しいの」
絵里「なんでそうなるのよ」
ことり「100万円あげたでしょ」
絵里「まだもらってないんだけど」
ことり「ねえ、ほんっとに返しちゃうの?」
ことり「2000万だよ? 今からでも考えなおそ? ねぇ〜おねがぁい」
絵里「……そうやっておっぱい当てても無駄よ。ドケチ」
100万で命が買えるなら安いものだって、誰かこの子に教えてあげて。
さてと――これから100万で虎穴に飛び込もうとしてるのは誰だっけ?
・
・
・
『8階です』
片方の靴を脱いで扉に噛ませつつ、エレベーターから降りた私は足音を忍ばせる。
今時絵に描いたような平屋の事務所に看板掲げてるヤクザなんてまずいない。
雑居ビルの最上階、東條商事(株)のオフィスへ通じる廊下をそろそろと進んでいく。
「うぅ…こんなことになるんて…もうおしまいにゃあ」
「リンちゃん…こういう時どうすればいいか、わかるよね?」
曲がり角の先から漏れ聞こえる不吉な音色。
ひょっとして“お取込み中”だったりするわけ?
もうこんな恐ろしいトコ一秒だっていられない。ケースをそっと壁に立てかけ、踵を返すと
「誰よアナタ」
反対側のドアから出てきたばかりのヤクザと鉢合わせした。
絵里「あっ…」
「あ?」
絵里「ば、バイク便でーす」
「………」
「チッ、誰よこんな時に」
「ちょっと待ってて。お金取ってくるから」
チャンス!
ヤクザが事務所の方へ向かった途端、とっくに震えっ放しだったこの両足は出口めがけてランランランナウェイ。
「あ、待ちなさい!」
誰が待つもんですかぁぁぁ――!
待機していたエレベーターの扉に滑り込むと、つっかえ代わりの靴を引き抜き、閉ボタンを連打。
間一髪、熟れ過ぎたトマトみたく真っ赤な顔したヤクザの目と鼻の先で扉は閉鎖し、ゆっくりと下降を始めた。
でも跳ね上がった心拍数の方は一向に下がる気配はなくて――。
絵里「はぁー……割に合わない仕事」
【3月15日(金) 21:15 某駅ガード下】
絵里「九十一…九十二…九十三…」
ことり「数えなくてもちゃんとあるよぅ」
絵里「九十八…九十九…百っと」
絵里「オーケー、確認がとれたからパスポートを返します」
ことり「やった♡」
絵里「とりあえず今夜中に東京を出た方がいいわ。新幹線の切符を買って大阪あたりへ…」
ことり「あ、大丈夫。あとは私一人でやれるから」
絵里「あそう…? でも報酬貰った手前、最後まで」
ことり「口止め料でしょ?それ」
絵里「……本当に一人で大丈夫なのね?」
ことり「うん」
絵里「そ、じゃあ気を付けて」
ことり「絵里ちゃん」
ことり「最初から、それが目的だったんだよね?」
絵里「……何が?」
ことり「お金」
ことり「海未ちゃんの気持ちがどうこう言ってたけど」
ことり「私のことあれだけ調べたのも」
ことり「突然押し掛けた私を事務所に入れてくれたのも」
ことり「全部お金の匂いがしたから…じゃないかなって」
絵里「フッ…」
ことり「違うの? じゃあ、どうして?」
絵里「海未は高校時代からの親友よ」
ことり「それだけで私のこと、あそこまで調べたの? まさかぁ」
ことり「人探すのってお金かかるって言ったの、絵里ちゃんだよ?」
絵里「……」
絵里「あなたには分からないわよ」
ことり「分かるよ」
ことり「だったら、何で警察行かなかったの?」
絵里「だから……大事にしたら海未にあなたのことがバレるって」
ことり「違うよね?」
ことり「いつかことりのこと脅して、お金取っちゃおうって、思ってたんだよね?」
絵里「……悲しいわね」
ことり「?…♪」
絵里「あなたみたいな女の子の考えることって」
ことり「人間の考えることは――じゃない?」
ことり「クスクス――別に隠さなくていいですよ。私が絵里ちゃんでもそうするもん」
絵里「私があなただったら自殺してるわ」
ことり「………ことりは、嫌いじゃないよ? 絵里ちゃんみたいな人」
そう言い残して、夜の雑踏へと消えていく背中を見つめながら、
私はなんだか無性に海未に会いたくなった。
格好付けては見たものの、本質的に私とことりは近しいところにいる。
でも海未は違う。
三十路になっても尚ピュアで人を信じる心を失ってない。
それって凄いことだと思うの。
あの子の存在に私は励まされている。
この世もまだまだ捨てたモノじゃないって思わせてくれるの。
そんなわけで――
【3月15日(金) 21:50 レストラン“ウエストツリー”】
絵里「お待た」
海未「遅いですよ! 待ちくたびれましたよもう」
結局二時間近く待たせてしまった親友の前にバツの悪い笑顔を作る私。
ホント、律儀よねぇ。ささくれだったエリチカハートもこれには感激。
さて、後は彼女のことりへの未練をすっぱり断ち切ってあげなきゃ。
絵里「あのね。ことりちゃん、結婚するんですって」
この一言で海未はすっかり最終回の矢吹丈モード。……ピュアすぎるのも考え物ね。
よし、ここは軟派な私の出番。親友のために一肌脱ぐとしましょう。
絵里「ねえあなた、お一人さま?」
雪穂「へ…?」
絵里「へえ、雪穂ちゃんっていうんだ。よろしくね」
雪穂「はい、こちらこそ」
秒で釣れたのは、地味目だけど目鼻立ちの整った、でもどこか陰を感じさせる女の子。
言うなれば――薄幸美人って雰囲気?
やだやだ、何勝手に失礼なこと考えてるのかしら。
今夜はパーッと明るくいこうって決めたのに。
……それに何だかあの二人、お似合いな気がするのよね。
絵里「あ……」
なんて、恋のキューピット気分でいた私の視界の端に飛び込んできたのは、
入店するなり店内をもの凄い目つきで見渡すさっきのヤクザとその子分たち――。
絵里「ごめんなさい。私、ちょっとお手洗い行ってくる」
不味い不味い不味い――!
どうしてこの場所が――後を尾けられた?
いや、それはない。尾行の確認は何度もした。
とするとまさか……いえ、そんなことより今は――。
こんな時に限って、個室トイレはどちらも使用中。
うわあああああこっち来ちゃう!
かくなるうえは―――
私は呼吸を止め、ぴったりと壁に張り付いて一体化する。
私は壁。壁は私。ウォール・アヤセ、ここに爆誕。
やって来たトマトヤクザは鼻息も荒く私の横を素通りし、鍵のかかった個室のノブをガチャガチャ。
よし、狙い通り…! あとはこのままやり過ごせば……。
「あなたね、ヤクザ舐めてると長生きしないわよ?」
絵里「……はい」
五分後、私はヤクザの運転するワンボックスカーの中で、下着姿で正座させられていた。
四方をウォール・ヤクザに囲われ、声を出すことも叶わずお店から連行された三分前の私。
何とか眼力だけで親友とそのつがい候補の背にSOSを送るも、
こちらはこちらで何やら深刻なムードに突入しようとしている二人は気付かない。
あ、これ終わった。エリチカ一巻の終わり。
「……はい…はい…何でもことりとかいう女の子に頼まれたとか騙されたとか、意味不明なこと言ってます」
「はい……100万円、ピン札で持ってました………はい、わかりました」
「リンちゃん、このまま事務所まで走らせて」
「りょーかいかよちん!」
絵里「あの、もうちょっと説め」
「口を閉じていてください」
ギロリと、かよちんと呼ばれたメガネヤクザに鋭い眼光で射貫かれる。
かよちん「事務所で組長が直接聞くそうですから」
絵里「あ、あの、せめて服を」
かよちん「ダメですよ」
かよちん「いざあなたをバラす段になって服を脱がせるの、面倒じゃないですか」
かよちん「普通に考えれば分かりますよね?」
……さようなら、お父さま、お母さま、アリサ。エリチカは今夜遠くへ旅立ちます。
そんな悲壮な覚悟に応えるように、没収された私の携帯が鳴り始めたの。
かよちん「園田……誰ですか?」
絵里「と、友達です…」
かよちん「……出てください。ただし下手なことを喋れば」
震える手で携帯を受け取る。
絵里「もしもし?」
『絵里!トイレにもいないし、今どこですか?』
絵里「どこって……急に仕事入っちゃったのよ」
『はあ? 彼女はどうするんですか』
絵里「どうって……あなた、うまくやりなさいよ」
『絵里、あなたまた余計なお節介を』
絵里「ちょっともう切るわよ。頑張りなさいよ、せっかくのチャンスなんだから」
これ以上話してボロが出てしまう前に、一方的に会話を終了させた。
本当は助けを求めたかったけど、あなたを巻き込むわけにはいかないもの。
さようなら海未……。
かよちん「チャンスって何ですか」
絵里「へ…?」
「あからさまに怪しかったわね、今の会話」
「リンたちの前で堂々と、いい度胸してるにゃー」
絵里「え、いや、そんな、かっ、関係ないにゅ!、」
もういやあああ何なのよこの人たち怖いいい痛ぁっ?
狼狽する私の様をひとしきり楽しんだかよちんは、正座中の膝をぴしゃりと叩いて薄く笑った。
かよちん「ま、頑張ってください」
かよちん「もしかしたらチャンスがあるかもしれませんよ? 命懸けで説明すれば」
絵里「………頑張ります」
ワンボックスは、地獄へと続く幹線道路をひた走る。
私の長い夜も続く。むしろここからが始まりだったのよ。
・
・
・
この日、私の部屋のドアは3回開きました……
途中退室厳禁、この映画は三度始まる。
続きは内田けんじ監督作「運命じゃない人」で!
というわけで予告編はここまで
先週のカメ止め放映でこの映画のことを思い出したのですが
原作の脚本や構成が緻密過ぎて、後半になると遊びやアレンジを入れる余地がほとんどなく書くのが辛くなり
筋をなぞるくらいなら原作を観た方が早いと思うので
この続きは是非各々レンタルなどで確かめてもらいたいです
最後に海未ちゃん誕生日おめでとう
軽い気持ちで開いたら長編過ぎるだろw
ゆっくり読ませてもらいます
すみません
何か最後まで書けそうなので、恥を忍んで投下していきます…
【3月16日(土) 00:40 東條組事務所】
リン「……」
絵里「……」
リン「なにガン飛ばしてんの?」
飛ばしてないです……。
『お掛けになった電話は、現在電波の届かない所か――』
かよちん「…………チッ」
かよちん「で、何か思い付きました?」
絵里「へあっ?」
かよちん「言い訳ですよ」
絵里「……いや」
かよちん「もっと必死になったらどうです?命懸ってるんだから」
リン「そうにゃそうにゃ」
絵里「あのっ」
かよちん「何度言わせるんですか。口は閉じて」
かよちん「組長が来てからです。今は大人しく震えててください」
絵里「………」
・
・
・
あれから何時間経ったのかしら……。
時間の感覚も足の感覚もとっくに無くなっていた。
同じように痺れ切った脳細胞では上手い言い訳も思いつかない。
嗚呼、どうしてこんなことになっちゃったんだろ。
あんな女に関わったばかりに――。
リン「ごくろーさまですッッッ」
仰々しい歓待と共に事務所に入ってきた人物の顔に、私は目を剥いた。
レイバンのサングラスに派手な紫シャツと白いスーツ。
噂の東條組長だ。
そしてその隣で俯いてるのは、
ことり「……」
えぇ…あなたも捕まっちゃったわけ?
え、なんかもうピンクにまとめられてるよ?
レス0だけどもう追加のらないよ?
一体何がどうなってるのよ?
困惑もそこそこに、私はことりと一緒に組長室のソファに投げ出された。
東條組長は何やら見覚えのある封筒から取り出したお札を子分に渡している。
あ、それ私の100万円……。
希「ご苦労さま。これでご飯でも食べてきて」
リン「やったぁ!駅前のラーメン行っくにゃー」
かよちん「GOHAN-YA一択ですっ」
「フレンチがいいんだけどー」
希「ふぃー、さてと」
子分たちが出ていくと、組長は対面側のソファにどっかり腰を下ろした。
もしかすると……まだ挽回の余地があるのかも。
諸悪の根源と、実際にそれを愛人にしていた本人が揃ってるんですもの。
そうよ、絶対に何とかしてみせる。ここが腕の見せどころよ――!
希「探偵さん」
希「人ひとり始末するのにいくらかかるかって知っとる?」
ダメだこりゃ。
希「あ、殺すのはうちでも出来る」
希「でもな、死体処理なんかは外部に委託しなきゃならない」
希「これが結構取られるのよ。それにリスクもあるしね」
希「もしアシがついてうちの組員が捕まったりしたら、家族の面倒見たりなんだりでえらい出費やん」
希「……ハッキリ言えば、そこまでして殺す価値のあるやつなんて今時おらんのよ」
絵里「は……はあ」
希「ただし」
希「ウチらには“メンツ”ってもんがある。分かるでしょ?」
絵里「……はい」
希「あんた、それを潰したんよ」
希「それを許したらヤクザじゃない……これも、分かるね?」
絵里「………はぃ」
希「………ま、細かい理屈はここまでにしとこか」
希「絢瀬さん、だっけ」
希「あんた、これからたまにウチが頼む仕事、タダでやってよ」
希「探偵ってのは結構必要だからね」
希「あとこの100万。こb黷ナ勘弁したるb掀
絵里「はいっ…………え? いま勘弁って……」
希「やー絢瀬さんの事務所お邪魔させてもらったらね、こんなもの見つけちゃって」
希「絢瀬さんいい仕事してるじゃない、あははっ」
応接テーブルの上に投げ出されたのは、私の纏めたことりの悪女遍歴ファイルだった。
組長はこれを見て自分の愛人の正体を知ったのね…!
希「この資料はウチが預かるから、きっぱり忘れるんよ? これはウチとこの子の問題だからね」
希「はい、じゃあ帰ってええよ」
絵里「…………あっ、ありがとうございましゅ!」
何これ。意味わかるけどわかんない。
とにかく助かったことはわかる。
東條組長。なんて度量の大きい人なのかしら。
まさかヤクザに二重の意味で泣かされる日が来るなんて思わなかった。
複雑奇怪な心持ちで、一刻も早くこの場を後にしようと立ち上がる。万一心変わりでもされたら
希「あっ」
希「そうそう忘れてた。絢瀬さんが置いてったこの鞄だけど」
そう言って組長は例のアタッシュケースの留め金を外すと、
希「中身違うよ?」
開かれた蓋の内側からは、色とりどりのブラにパンティ、下着の山がこんにちわ。
私の開いた口からは呻き声のなり損ないが零れ落ちるのが精々だった。
希「あとこんなんも一緒に入ってたんやけど」
おいいいいそれ私の事務所の名刺いいいい
このアマなんてことを…!さてはあなた太陽系の出身じゃないわね!?
一体全体どんな血の色をしてたらこんな……。
憤怒を込めた私の殺視光線を、宇宙から来た猛禽類はすまし顔で受け流した。
希「あ、やっぱ知らなかった?」
希「そうだよね、ここまで舐めたマネするおバカさんなんていないよね。うははっ」
絵里「え……じゃあお金はどこに……」
希「それはこれからこの子にゆーっくり聞かせてもらうよ。二人っきりで」
ことり「……」
希「なんかあちこちに口座持ってるんでしょ? 楽しみやねぇ…うひひ」
―――
―
【3月16日(土) 06:00 KKE探偵事務所前】
長い長い夜がようやく明け、私は駐車場で安堵のため息を一つ。
厄介な相手に目を付けられちゃったのは事実だけど、
命あっての物種って言うしね。
ことりは……あの後どうなったのかしら。
大体ヤクザ相手に2000万の札束とカラフル下着の詰め合わせをすり替えるなんて、どんな神経してたら――
絵里「……ちょっと待ってよ」
記憶の糸を手繰り寄せる。
アタッシュケースいっぱいにカッ詰められた下着。
昨晩、あの子から取り上げたパスポートは色とりどりの下着の山に埋もれていた。
下着が入っていたのは、丁度それらがすっぽり収まるくらいのダンボール箱……。
『ことり……荷物のこと、何か言ってましたか?』
『新しい住所が決まったら送ってくれと、頼まれていたので……』
その点と点が繋がった瞬間、私はイグニッションキーを回しクラッチを繋ぐ。
どこまでも抜け目のない子。最後の最後までとんでもない仕掛けを。
でも、今度こそ私の勝ちよ。
【3月16日(土) 06:50 海未のマンション】
海未「なんだ絵里ですか……どうしてこんな時間に」
迷惑そうな顔を押しのけ、一目散に元ことりの部屋へと転がり込む。
ここに、2000万の眠る段ボール箱が――
絵里「ない…?」
部屋は相変わらず綺麗に片付けられていた。あの荷物までもが。
絵里「海未……ここにあった荷物は?」
海未「ああ、今朝ゴミに出しました」
海未「もう全部吹っ切ることにしたんです。やはりあなたの言った通り…」
絵里「もう、持っていっちゃったかな…?」
海未「え? そりゃまあ……」
海未「それより見せたいものがあるんです。少し待っていてくださいね」
海未「どうです! 昨日の彼女の電話番号です!」
海未「いやぁ私もとうとうやったというか、珍しく自分を褒めてあげたい気持ちで」
海未「もう恥ずかしいなんてものじゃなかったですけど、何だか不思議な気分だったんです」
海未「こう……恥ずかしいけれど清々しくも気持ちいいと言いますか。もしかしてこれが本当の私なのかも……などと思わなくもなかったり」
海未「………絵里? 聞いてますか? 絵里ー?」
さっきから、彼女の声が随分遠くに聞こえる。
にせんまんえん……それをゴミに。
私の言ったこと、ちゃんと守ったのね
海未、あなたはやっぱり私たちとは住む世界が違う。
どこか遠い星から来た、今聞こえるこれは宇宙からのメッセージ。
口を半開きにしたまま、どこか遠くを見つめながら、そんなことを考えた。
土曜プレミアム
―――――――→
PREMIUM SATURDAY
ラブライブ!
×
運命じゃない人
【3月15日(金) 17:00 東條組事務所】
女心はよう分からん。
今年で32になるウチ、東條希(♀)でさえそう思うことがある。
それはさておき、今のご時世ヤクザ経営するのも大変よ。
昔から運だけはいいウチが、トントン拍子でここまでこれたのにも事情があるの。
今時小さな組はどこも口減らししないとやってらんない。
オジキがしつこくウチに自分の組を持て持て言うのも、要はそういうこと。
そんなわけでこの組を立ち上げて早二年。
実は金勘定はそんなに得意な方じゃない。
見栄張って借りちゃった事務所の家賃が月80万。
光熱費が6万に、組員8人の食費で100万。携帯の通話料が15万くらい。
上納金に冠婚葬祭うんたらかんたらで、多い時は月200万ぐらい持ってかれる。
その他にも諸々あって――ああもう、全部で一体いくらになるん?
とにかく収入からこれらの必要経費さっぴくと、ウチの生活費なんて月100万ちょっと。
でもね、組長がしみったれた生活するわけにもいかんのよ。
いいもん食っていいもん着て、いい女の子侍らせてなきゃ若い子たちは着いてこない。
つい最近までウチ自身がそうだったからよく分かる。
義理人情の世界に憧れてこの世界に入るような子はもういない。
だから今こうして、せっせと偽札作りに励んでるわけやね。
ああ勘違いしないで、これは外で使ったりはしないよ。
組の人間の目を誤魔化せればいいの。
諭吉サイズに切った紙束の側面をお醤油でぺたぺた塗り塗り。
上と下に本物のお札を挟み込んでビニールでパックすれば出来あがり。
一つ400万円のパックが五つで2000万円。ね、簡単でしょ?
これ見て組のみんなが、私も上を目指そうってやる気出してくれれば万々歳。
人を惹き付けるのはいつだってお金の匂いだ。大事なのはイメージなの。
希「……わかんないよね?これ」
組長室の金庫に並んだ“ニセんまん”の束を指して尋ねる。
「うん。完璧だと思うニコ」
答えたのは『便利屋にこにー』の店主、通称にこっち。
にこっちとウチの付き合いは長い。
今日みたいな汚れ仕事の片棒も随分と担いでもらった。
もはや共犯者と言って差し支えない間柄やん。
希「サンキューにこっち、いつも悪いね」
希「あ、今度もっと材料持ってきてくれる? あと3000万くらいあったらいいなーなんてフフフ」
にこ「りょうかいニコー♪」
コンコンコンコーン。
おっと人が来た、この工作セットは隠さんとね。
かよちん「失礼します。例の友人を連れてきました」
希「おう、新入りの子やね」
希「あ……ちょい待たしといて」
ムフフ、早速ニセちゃんの出番。
ウチは一度金庫に詰めたそれをアタッシュケースに移し替えると、
入口からよく見える位置に配置する。
希「ええよ、入ってきてー」
「しっ失礼しますにゃ、失礼します!」
リン「今日からお世話になるホシゾラといいます!」
希「へー、かわいいねぇ。よく言われるでしょ?」
リン「はいっ……あいや、リ…私は全然そんなことないんでございます」
くふふっ、初々しいなぁもう。にやけないようにするの大変やん。
希「お腹減ってる? そっか、じゃあ今からみんなでご飯食べに行くからその時話そうな」
リン「はい!失礼しました!」
希「きししし…今見てたよねぇ」
にこ「見てたニコね〜」
とここで再びノック音。
かよちん「失礼します。アヤさん、いらっしゃいました」
希「お♪ 通して通して」
待ってました、本日のメインディッシュ。
内田アヤちゃん。通称うっちー。
ひらたく言えばウチの愛人。ウチのうっちーなんつって。
そうだ、丁度いい。
うっちーにもこの札束を拝ませとこ。
モテる人は女も男もこういうちょっとした努力を欠かさないのだ。
にこ「じゃあにこはこれで」
希「うん、ありがとねー」
そうしてにこっちと入れ違いにうっちーが入ってくる。
うっちー「事務所来るの初めてだから、なんか緊張しちゃう」
希「うっちー、今日は何が食べたい?」
うっちー「私、中華がいいな。にんにく抜きで」
部屋にいる間中ずっと、うっちーの視線はニセちゃんへ釘付けだった。
【3月15日(金) 17:20 東條組事務所前】
うっちー「ごめんなさい」
うっちー「私、ちょっとお花を積みに行きたいかなぁって」
うっちー「お化粧も直したいから。先行っててもらってもいい?」
希「ほいほい。すぐそこのお店だから」
希「キミ、待っててあげて」
リン「は、はい!頑張ります!」
希「よーしじゃあ他のみんなは行こっか」
この時もうちょい注意しとけば良かったんだけどなぁ。
まさかこの後あんなことになるなんて……。
【3月15日(金) 18:00 東條組事務所】
かよちん「消えた? その時リンちゃんは何やってたの?」
リン「タバコ、買ってきてって頼まれて……」
リン「戻ってきた時にはもう……」
ウチはすぐ勘付いた。
これは只のバックレじゃない。
そもそも事務所に来る必要ないやん。
あ、まさか………。
嫌な予感は大当たり。
金庫のカネは残らず消えていた。残らず偽物のカネが。
マズいな……あれが手作り工作の“ニセんまえん”ってことが外部に漏れた日には
ウチのメンツは丸潰れ。とてもこの商売続けていけない。
とにかくこのことはウチ一人で解決せんと……。
リン「申し訳ありませんッッッ」
振り返ると土下座。選手権あったら世界記録狙えるスピードで。バカ、そんな大声出したら、
かよちん「どうしたのリンちゃ……あっ」
あかん。
リン「すみませんでしたぁ!今すぐ腹ァ掻っ捌いて仁義果たします!」
かよちん「ううっ、立派な心意気だよリンちゃん……介錯は任せて?」
こいつらやべぇ。
今時そんなもん、一銭にもならんのに。
このかよちゃんは小学生の頃からヤクザに憧れてて、
将来の夢はヤクザになることと作文に書いた真正のヤクザキチだ。
自宅には昭和ヤクザ映画のDVDフルセットがそれぞれ三枚ずつあるらしい。アホかいな。
とにかく組長室で流血ショーが起きるのを止めさせると、「捜してこい」と一言で人払い。
希「ひとまず電話してみるか……」
プルルルルルル、ブー、ブー。
すぐ脇からバイブ音。あのアマ携帯まで置いてったんかい。
ウチは大きなため息を吐いた。
【3月15日(金) 20:40 東條組組長室】
「無理ね、この人数じゃ見つかるものも見つからない。応援頼んだ方がよくない?」
希「アホ。ウチに恥かけっての?」
希「内輪で何とかするの。あんまり騒いだらあかんよ?」
希「ああそれと。捕まえたらまっすぐウチの元へ連れてくること」
希「キミたち余計なこと聞くんじゃないよ、いいね?」
報告に来た組員に念を押して帰すと、目を閉じた。
さてと、そろそろウチも動かんと。
そういえばさっきの子、さり気に結構失礼な口の利き方してたなぁ。
あの赤毛、名前なんて言ったっけ……。
「誰よアナタ」
扉の向こうから声が漏れ聞こえてる。
さっきの生意気な組員と誰かが押し問答しているみたい。
怖いなぁ、誰か忍びこんできたとか? つくづく物騒な世の中やん。
引き出しから取り出したチャカをズボンにねじ込みつつ、
ぼんやりとそんなことを考えてた矢先――
「あ、待ちなさい!」
何やら廊下が俄かに騒がしい。
やれやれ、これ以上トラブルは勘弁してよ……。
希「どうしたん」
リン「あ、なんかバイク便の人が、これ置いてったみたいで」
リン「これ、組長の鞄ですよね?」
希「………あぁ!」
嘘でしょ?こんなすぐ返ってくるって。
でも中身確認しないと……。
希「ほら、リンちゃんも追っかけて!」
体よく人払いを済ますと組長室へ引き返す。
やっぱウチってもってるわぁ。
お帰りニセちゃん!
ケースの内から現れたのは、色とりどりのブラにパンティ詰め合わせ。
くんくん……これ、うっちーのだ。
もしかしてカネがニセってことに気付いて、その意趣返しか?
これはいよいよアカンことに……。
希「ん? 何だろこの名刺……KKE探偵事務所?」
と、ここで問題児かよちゃんから着信。
希「おう、鞄持ってきたやつ捕まえた?」
『……すみません、見失っちゃいました』
希「そっ。あのな、カネ戻ってきたから。あんまり大騒ぎしちゃダメよ?」
希「ウチも心当たりあたってみるから。他のみんなにも静かに動くよう言っといて。よろぴくー」
希「………ふぃー、さてさて」
希「―――あ、にこっち? 遅くにゴメンね」
希「急なんだけど、これから言う住所に鍵開け出張頼みたくて」
希「うん、KKE探偵事務所って言うんやけど…」
【3月15日(金) 21:55 KKE探偵事務所】
希「お邪魔しま〜す」
二万と五千円で解錠してもらった事務所に足を踏み入れた途端、携帯のバイブ。
今度はどちら様……公衆電話? おいおいまさか
『……もしもし? 私、アヤだよ』
希「おお……随分と舐めたマネしてくれたね?」
『名刺見てくれた?』
希「……うん、まあ」
『その探偵さんがお金持ってるの』
『今ウエストツリーってレストランにいるから、捕まえて?』
希「……どういうこと? うっちーがお金持って逃げたんよね?」
『その人に脅されてたの…!お金は全部その人が持ってるから、早く捕まえちゃって』
はあ……これだから女ってやつは。まあウチもだけど。
希「……うっちー、あのお金に手ぇつけた?」
『つけてないよ!私はただ、あの人にお金を渡しただけ』
希「――そっか。じゃあ早く帰ってきなよ、許してあげるから。今どこ」
希「………切られたか」
けど、ツキはまだウチを見放してないみたい。
あの言い草だと、恐らくうっちーはニセちゃんの正体に気付いてない。
あと問題なのは鞄を届けに来た方がどこまで知ってるかだけど……。
希「もしもしかよちゃん? 例のバイク便の居所分かったから伝えるわ。場所は――」
希「――うんうん、すぐ行って捕まえてきて。静かにね?」
希「それでな、捕まえたら何も喋らせないで。ウチが直接聞くから」
希「それまで大人しくさせといて。いい? 一言もだよ?」
希「うるさくされたら敵わんでしょ。ほな、頼んだよ」
ふー、これで一息つけるな。
事務所のソファに腰を下ろすと、テーブルの上に出しっぱなしの分厚いファイルに目がいく。
なんやろこれ。
希「どれどれ、ちょっち拝見」
前から探偵さんのお仕事って興味あったしね。
うちでも一人くらい飼えたら色々と役立つんだろうなぁ。
希「南、ことり……職業、看護師…?」
何じゃこりゃ。
ファイルされていたのは、何枚ものうっちーの写真。
それぞれ微妙に髪型や化粧が違ってて、異なる制服に身を包んでる。
まるでコスプレ名鑑やん。
それと対になるように、様々な男女の写真と、その下に書き添えられた被害額。
そして最後のページには。
【内田アヤ 職業:歯科衛生士 被害者:東條希 被害額:現在進行中の案件につき未定】
希「ほー、はー、ふーん、そゆことか……」
希「あの女……いい度胸してるわ」
少し気に入ったかも♡
とりあえずこのファイルは借りてこーっと。
事務所を出て、愛車クラウンの助手席にファイルを放ったとこで、お馴染みの着信。
『今バイク便の女を捕まえて、事務所に向かってます』
希「そっ。そいつ、何か言ってる?」
『はい…何でもことりとかいう女の子に頼まれたとか騙されたとか、意味不明なこと言ってます』
希「………それクスリやってるわ、うん」
希「どうせヤク中の戯言だから、相手しないで黙らせとき」
希「それで……そいつ、何か持ってたりした?」
希「カネ、とか………」
『はい……100万円、ピン札で持ってました』
希「100ま……本物なの?」
『はい』
希「……そっかぁ……とにかく事務所で待ってて。ウチが行くまで何も喋らせないでね。絶対だよ?」
うーん、訳わからんね。
ニセの2000万が本物の100万に……。
素直にラッキーって喜んでいいのかなこれ。
とりあえず残された不安材料は、うっちー改めことりちゃんとニセちゃんの行方やん。
一刻も早く事務所に戻って、このファイルと探偵さんとにらめっこし合って探り当てなきゃね。
あの女のことだから、一筋縄じゃいかないだろうけど――。
【3月15日(金) 23:05 東條組事務所前】
思ったより道が混んでて遅くなっちゃった。
ちょいと乱暴に急停車すると、助手席から落ちそうになってるファイルを掴んで、車から――
希「ん、何か落ちた…?」
写真の束だった。
どこかのマンションの中を写したもので、真顔のことりちゃんと誰か知らない女が
エントランスや表札、部屋の前に並んでピースしている。
希「ほっ、懐かしいね。この髪型に化粧……」
ウチと出会った時のことりちゃんやね――って。
ひょっとしてこの女、ウチの一人前の元カノか?
表札には園田とあった。
希「園田……園田、園田……」
ダメだ、ファイルの中には見つからない。
希「この子からは幾らもとってないってこと…?」
それとももしや、ウチと同じで現在進行形のカモ――?
その時、常に第六感で生きてきたウチにはピンとくるものがあった。
……探ってみる価値はありそう。
エントランスの表札を写した写真を見ながら携帯を取り出し、
エンジンを吹かしてギアをバックに。
希「―――あ、もしもしにこっち? さっきの今で悪いね。実はもっかい鍵開けお願いしたくて…」
【3月16日(土) 00:25 海未のマンション】
希「なんもないな……ここ」
マンションということもあり、ちょっち時間はかかったけど部屋には侵入できた。
けどリビングにあの女の手掛かりになりそうなものは何もなく……。
というか一人暮らしにしても最低限ちょい下みたいな品揃え。春から新入生かおのれは。
希「さて次は…」
左手側の小部屋に入る。しかしこうも暗いと見えづらいね……あ、あの壁にかかった服!
くんくんくん……間違いない、あの女のだ。とするとここは彼女の――。
希「……これ、段ボールか?」
服の真下にあったそれを漁ると、出てきたのは色とりどりの下着……ビンゴ!
希「やっと会えたね、ニセちゃん」
下着の下から分厚いパックが全部で五つ。ちゃんと未開封で揃ってる。
ここに隠して後で回収しようって腹ならニセ金のことはバレてないみたい。よかったよかった。
けど一つ気になるのは、家主の園田はこのことを知ってるのか、それとも―――
ガチャ
「さ、どうぞ入ってください」
「はい…お邪魔します」
玄関の方から声がする。誰か帰ってきた――!
慌てて札束を段ボールに仕舞うと、ベッドの下の狭い空間に潜り込む。
あぶねー、靴手に持っててよかったぁ。あっと、携帯の電源も切っとかんと。
「色々すみません。迷惑かけることになっちゃって」
「いえ、このくらい。私は気にしてませんよ」
女二人。片方は家主の園田だろうけど、もう片方はことりちゃんじゃない。
友達かな? でも、仮に園田があの女とグルだったとして、カネを隠した当日に人を呼ぶかな――?
そうこう考えてるうちに部屋のドアが開いて、電気が点いた。
「この部屋を使ってください」
「着替えとかは……あ、持ってますか」
「ベッドもあります。私は向こうで寝ますので」
「お風呂入りますよね? 今沸かしてきます」
「ありがとうございます。何から何まで」
……友達にしては態度がよそよそしいなぁ。
まるで今日初めて会ったみたいな。
うわ、でっかいボストンバッグ。ひょっとして家出か?
あの園田って子はレズやろうから、連れ込みってやつ?
でもさっき向こうで寝るって……。
「いえいえ、どうせ空き部屋なんです」
「あ……例の、ことりさん、でしたっけ」
「一週間くらいしか使われてないんですよねぇこの部屋」
「今度、結婚するそうなんです。彼女」
「出ていく時、他に好きな人が出来たと言ってましたから。多分その方と」
「…ひどい」
ますます訳わからん。
今日出ていって、カネを置いてった? 一週間同棲して?
でもあの写真の化粧と髪型は……。
「私は…仕方ないかなと諦めてます」
「仕方ないですかね?」
「こういうのは、気持ちの問題ですから」
「別に、契約書とか書いてもらったわけでもないですし」
「今でも…その人のこと、好きですか?」
なんか安っぽい恋愛ドラマ始まっちゃったよおい。
「………はい。好きです」
はあー……身体中ムズムズして痒いわ……。
「……とにかく遠慮せずに使ってください。私はお風呂を沸かしてきます――え」
「……」
うはっ、何これ。ハグ? いや抱き締めてチッスかな?
「あ…」
ヒューヒュー、お熱いねぇお二人さん。あんなにつま先とつま先ぴとーっと合わせちゃって。
つか、ここからだとそれしか見えないけど。
「……っ、すみません」
「いえ……どういたしまして」
「お風呂…!そう、お風呂!入れてきますねっ」
くふふっ、初々しいなぁもう。笑いが漏れないようにするの大変やん。
とにかく家主の方は出ていった。
あとは女の子が風呂に行った後タイミングを見計らって……それまでここで待機か。
はーしんど。
・
・
・
アカン、ちょっと寝てた。
いびきとかかいてないよね?
女の子は……まだいる。
床のボストンバッグから着替えを出してるのか。その隣には例の段ボールが……。
ん?おいおいおい待て待て待て。
確かにそういうこと、ウチもやっちゃうことあるけど…!
誰も見てないからって、人様の荷物を覗くのはダメよ!気になる気持ちは分かるけど!
ちょっとした好奇心なんよね? でもほら、好奇心は猫を殺すって。
誰も段ボールからヤクザのカネが出てくるなんて思うわけ……あーあ。
「………」
固まってる。そりゃそうか。
コンコン
「は、はい?」
「ちょっといいですか? 温泉の素があるんですけれど」
「『湯あたりミルキィ三森の湯』と『地獄オペラ鈴湖温泉』でしたら、どちらが…」
ピンポーン
「あ、ちょっとすみません」
今度は誰が来たの。そしてニセちゃんは見つかっちゃうし。
ホント、目まぐるしい夜やん。
「………」
おいおいこの女マジか。
カネを自分のボストンバッグに詰め始めたよ。
大人しそな感じのクセして決断早すぎない?
これだから女ってやつは……でもまあ、何も事情知らん子に持ってかれるならマシか。
女の子はカネを詰め終えたボストンバッグを抱えて部屋を後にした。
どうやら本気で出ていくみたい。
ウチとしてもその方が好都合。
ニセ金とは言え立派な窃盗。誰にも言えないし、ここに戻ってくるとかまずあり得ない。
「なんか、ごめんね?」
この声――ウッソ、こわっ。
「置いてったことりの荷物、取りに来たんだぁ」
どこまでラッキーが続くんだろ今夜は。流石のウチでもちょっとビビる。
「……私、行きます。お邪魔しました」
ストライク・ワン。
「荷物取ったらすぐに出ていってください」
「必要なものは全部。残りは捨てますので………さようならっ」
ストライク・ツー。
「ふふっ、ラッキー♪ 誰もいなくなっちゃった」
ガチャ バタン
ことり「さてと、お金お金」
希「おーい」
ことり「……!」
ことり「の……のぞみ、ちゃん…?」
うひゃー初めて見た。演技っ気のない素の表情。
そうそれ、その顔が見たかったんよ。かわいいなもぅ。
希「悲しいなぁ……ウチのこと好きだって、愛してるって言ってくれたのに」
チャカを握った手でサングラスをずり上げる。
ことり「こ、これはね…!違くて……えぇ……どうして、ここに……」
希「こう突然じゃ、いい嘘も思いつかないか……流石の“ことり”ちゃんも」
ことり「………」
バッターアウツ、ついでにスリーアウトで試合終了やん?
【3月16日(土) 01:10 クラウン車内】
希「やー、にしても大したもんよことりちゃんは。あの探偵さんに脅されたの?ふーん」
実際、大したものだと思う。
この状況でもそっぽを向いて、ふてぶてしくタバコに火を点けてる。
ウチはこの子を別の意味で気に入り始めていた。
希「探偵さんのせいにして、カネ盗って、それを元カノの家に隠して」
希「あ、あの園田って子は事情知らんかったんでしょ? いやぁ凄いわホント」
希「やっぱりウチの人を見る目は確かよ。自分の欲望に忠実な人間ってのは魅力的だもん」
希「さてと、これからウチらはビジネスパートナーやね」
あ、やっとこっち向いてくれた。
希「ことりちゃんみたいないいタレントには、いいマネージメントが必要でしょ?」
希「なんなら契約書、書こうか? くふふっ」
希「……そんでまあとりあえず、登録料1000万貰おうかな」
ほら、一晩でニセのお札が100万に、そして1000万に早変わり。ね、簡単でしょ?
「やりました! ついにやりました…!」
おっと、進行方向に公道センターで小躍りしてるおバカさん発見。
やったやったって何をやったんよ。
危ないねー、最近クスリやってる子多いんかな。怖い怖い。
希「1000万なんて安いもんだよ。ことりちゃんも、一人じゃ寂しいでしょ?」
ことり「………」
無言。信号待ちで止まったタクシーの横につけると、恨めしそうにそっちへ顔を向ける。
それに乗って高飛びしたかった? でもダーメ、今日からキミは籠の鳥。
大丈夫、金の卵を産む鶏を傷付けたりはせんよ。
ことりちゃんはこれまで通りやってくれればいいの。身の安全はこっちが保証するから。
悪いようにはしないよ。たっぷり稼がせてもらうけどね……。
希「寂しいもんよ……一人ぼっちって云うのは」
予感がするんよ。ウチらはきっといいパートナーになれる。
とまあそんなわけで……これからはもっとよろしくね?
【3月16日(土) 01:12 タクシー車内】
『――つまり、こういうのをデウス・エクス・マキナと呼ぶわけなんですけども』
『古代の演劇でね、人とか事件とかがこう縺れに縺れてどうしようもなくなっちゃったところで』
『突然天から神さまが降りてきて、超パワーで一石投じるだけで全部解決させちゃうんですよ』
『これ当時から批判されてまして。劇とはいえズルいだろと。登場人物たちだけで何とかさせろよと。理路整然とした解決法で』
『もちろん現実は神が現れて、空から剣を投げ込むなんてあり得ないわけですから。まあ、そこまでいかなくても…』
そうだよ、神さまは助けちゃくれない。
深夜のラジオが垂れ流す電波は益体のないものばかりだけど、これには同意。
一人で生きていかなきゃ、知らないこの星で。
このお金があれば、知らない土地でやり直すことが出来る。
一人で、生きていける。
「中々いい人間みたいじゃない。さっきの子」
突然、赤毛の運転手に話しかけられた。
いい人……園田さん。
多分、そうだと思う。
「ああいう不器用で真っ直ぐな人、いいんじゃない? 誠実そうで」
でも、そんなの分からない。
女心は移ろいやすく微妙なもの。
あの人だって例外じゃない。
ついさっきだって、そうだったじゃないか。
「一緒にいたら、支えになってくれるんじゃないの」
もうこれ以上、考えたくない。
このお金が、あの人と繋がらないようにしたいから。
私は、ズルい女になるって決めたから。
「………余計なお世話みたいね」
…………ホントにね。
・
・
・
「駅に着いたわよ」
運賃は、深夜割り増しで3300円。これで残金は200円ぽっち。
いや、私にはこのお金があるんだ。たくさんのお金が。
何だって買えるし、どこにでも行ける。
そうだ、始発まで駅前のビジネスホテルで休もう。
電車に乗ったらどこへ行こうかな。
お姉ちゃんの所は……却下。
知らない場所に行くんだ。
国内でも国外でも、誰も私を知らない場所へ。
私は、一人で生きていくんだ。
さて、どこへ行こう……。
【3月16日(土) 07:50 海未のマンション】
『お掛けになった電話番号は、現在使われておりません……』
海未「あれ…?」
海未「………もう一度」
『お掛けになった電話番号は、現在使われて……』
絵里「あーデタラメだったのね」
海未「絵里、はしたないですよ。食べながら喋るなんて」
『お掛けになった電話番号は……』
海未「………おかしいですね。書き間違えたんでしょうか」
絵里「そんなわけないでしょ。嘘の番号なのよ、それ」
海未「嘘って……そんなことしないでしょう」
絵里「よくあることよ」
絵里「みんな平気でそういうことするの。一つ勉強になったでしょ?」
海未「………よく見るとこれ、6じゃなくて8ですね」
絵里「往生際が悪いわね……電話番号聞けただけ良かったじゃない。次行きましょ次」
海未「…………書き間違えたんですね、きっと」
絵里「あのねぇ…」
海未「その捻くれた見方はやめてもらえますか」
海未「彼女は、そういうことをする人じゃありません。私には分かるんです」
絵里「はぁ………海未あなた」
絵里「…………いえ、やっぱり何でもない」
一人だけ違う星に住んでないで早く地球に住みなさいよって言葉をぐっと飲みこむ。
目の前では相変わらず「ええ、絶対8ですよこれ……」と呟きながら、ダイヤルを繰り返す彼女がいる。
昨晩いろいろあり過ぎて忘れかけてたけど、これが海未だったんだわ。
友人の私に出来るのは、その側にそっと寄り添ってあげることくらい。
というわけで私は、彼女お手製の炒飯と餃子を頬張りつつ、その光景を微笑ましく見守ることにした。
いつの日か遠くの星からの電波が繋がることを、エリチカは祈ってるわ。
『お掛けになった電話番号は、現在使われておりません。恐れ入りますが、番号をお確かめのうえ……』
C A S T <声の出演>
園田 海未…三森 すずこ
高坂 雪穂…東山 奈央
絢瀬 絵里…南條 愛乃
・
・
・
ピンポーン
ピンポーン ピンポーン
絵里「誰か来たみたいよ?」
海未「ん………ああ、そういえば部屋を貸す約束をしていたんでした」
海未「きっと、高坂さんだと思います……」
――
――――
や〜今日もパンが美味いっ。
ナース、じゃなくて看護師さんとのデートが楽しみ過ぎて、久々に早起きしちゃったよ。
まだ若干暗いし、この時間帯って寒いねぇ……ぶるぶる。
こんな中を歩きたくないなぁ―――おっ、丁度あんな所に停まってるタクシー発見!
コンコンコンコーン! おーい運転手さん、起きて起きてー!
マンションラブアローまで乗せてほしいんですけどー!
「んあ? なによ………私、昨日一晩中走り回って眠たいんですけど……放っといて……」
・
・
・
歩いていた。ひたすらに。
熱い。さっき飲んだジュースが、そのまま汗となって流れ出てくる。
ジュース買っちゃったから、残金は80円ぽっち。
結局、朝まで駅前のベンチに座って過ごしてしまった。
始発の電車も、その次の電車も、見送った。
あのお金は、今も手付かずのままこのバッグの中で、私の体力を奪い続けてる。
あの人に、もう一度会わなくちゃいけない気がした。
どうしてだろ?
そもそも、辿り着けるのかな。
ここら辺は、昨日一回タクシーで通っただけで、
でも、一度通ったことのある、知っている道だ。
ここは地球で、知らない星なんかじゃない。
そして、みんなが一人ぼっち。
一人ぼっち同士が、知らないどこかで繋がってる。
だから。
私は、もう一度会わなくちゃいけないんだ。
私の、運命じゃない人に。
未完とか誤爆とか色々やらかしてすみませんでした…
以下予告編
・
・
・
ツバサ(その日、矢澤さん家からの帰り道で、私たちは車にはねられるセイウチを目撃した)
善子(その日、不運続きの私たちは、とあるヤクザとラッキー探偵の後を尾けてて)
千歌(その日、もう後がない千歌たちは、死にもの狂いでアルパカを追っかけながら特上プリンの配達中で)
その時だったんだ。
この街の運命という運命が一斉に玉突き事故を起こしたのは――
ことり(みんなごめんね? こうなったのも全部、ことりがあのことを絵里ちゃんに喋っちゃったから)
歩夢(いえ、本当はもっと前から始まっていたのかも。バカ騒ぎのピタゴラドミノはとっくに倒れ出した後で)
せつ菜(ちょっと待ってください皆さん、これでは全然説明になってませんよ? 物事には一応順序ってものがあるんですから)
せつ菜(まあ、私自身なんと言えばいいのか困惑してるところはありますけど。四日前、ベルギーで起きた宝石強盗と、東京・虹ヶ咲近辺で盗まれたレズビデオ)
せつ菜(ざっと一万キロ離れた二件のタタキが竜巻となってこの街を巻き込み、やがて全てが収束する瞬間――あの刹那には、なんて名前をつけましょうか?)
ベルギーで強奪されたダイヤモンドと、輸送中のレアDVDが音ノ木坂で消えた。
残された手がかりは飲み屋とノミ屋。
ダイヤを追う貴石姉妹と迷探偵、横取りを目論むロシア武器商に厨二質屋
そこに賭けボクシングの選手団とその元締め、ギャンブルで一山当てたいバーテンや放火魔
メイド刑事にぶりっ子ペテン師一家も加わって、バカ騒ぎのピタゴラドミノは倒れ出した。
全ての鍵を握るのは、気まぐれな二匹の動物たち……だったりしないのかも。
犯罪群像トラフィックジャム――「ラッシュライブ」 鋭意製作中
つらつらやっとったようだが、もうまとめられないし、人目につくことなく落ちるのか
原作知らないけどこれで終わりなのかな?
おもしろかったし続きあるなら読みたいわね
なんにしてもおつ!
映画パロだったのか、良くできたストーリーで面白かった乙
お金の動きが気になって引き込まれた
遍在するまきちゃんも元ネタ通りなのかな?
>>200 原作の「中々いい人間みたいじゃない」って台詞に引っかかりを覚えたのと
モブ役に都合が良かったのと少し世奇妙感出るかなって
ラストも多少弄ってるので是非映画の方も観てもらえると嬉しいです
-curlmmp
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