◆図書館
曜「えっと…」
鞠莉「…」ペラッ
曜「うーん…」
鞠莉「ふーむ…」ペラッ
曜「ぐぬぬ…」
鞠莉「…」ペラッ
曜(勉強あきたー…)
曜(絵がない本ってつらい…絵があっても難しい言葉ばかりでつらい…)
鞠莉「曜、集中出来てる?」
曜「…ごめん、あんまり」
鞠莉「まだ30分よ。もう少し頑張ったらお茶にするから、ね?」
曜「…うん、がんばる」
鞠莉「ん♪」
曜(…元はと言えば、小テストの点数悪かったのが原因だし。私のしくじりに鞠莉ちゃんを付き合わせちゃってるわけだけど)
曜(図書館で勉強って、どうも好きになれないなぁ…勉強自体好きじゃないけど、せっかく鞠莉ちゃんと一緒なのに会話もできなくて窮屈だよ)
曜(『好きな人と一緒なら勉強だって楽しくなる』ってのはやっぱり嘘だったね、うん…)
鞠莉「…」
曜(真剣に本を読む横顔、綺麗だな…)
曜(普段は明るくてキラキラしてる鞠莉ちゃんだけど、こんな表情もするんだ…)
鞠莉「…ん?」
曜(あれ?でも、私といる時の鞠莉ちゃんって、あんまりはっちゃけたりしないよね)
鞠莉「曜?」
曜(テンションも普通っていうか、落ち着いてることが多いし…もしかして私、ずっと鞠莉ちゃんに窮屈な思いを…)
鞠莉「よう、よーう」
曜(本当は鞠莉ちゃん、私と一緒だと楽しくないんじゃ…)
鞠莉「ねえ、曜ってば」
曜「うわあっ!?」
鞠莉「きゃっ!?」
ザワザワ
係員「あの…大きな声を出されますと、他の方のご迷惑になりますので…」
曜「あ、えっ!?」
鞠莉「す、すみません…ちょっと曜、大丈夫?」
曜「あ、ああっ…私…」
鞠莉「…向こうで休憩しましょうか。さ、行こ?」
曜「うん、ごめん…」
――――――――
鞠莉「はい、これ。私と同じ紅茶だけど、よかったかしら」
曜「ありがと…鞠莉ちゃん、コーヒーじゃないんだね」
鞠莉「一緒がよかったからね。曜はコーヒー苦手でしょ?こっそり善子と克服訓練してたみたいだけど」
曜「あ、バレてた?」
鞠莉「ときどき曜からコーヒーの匂いがしてたから。背伸びしてもしょうがないわ、無理にして飲むものじゃないしね」
曜「背伸び、ね…」
鞠莉「…なにかあったって顔ね」
曜「えっ?」
鞠莉「さっきから何かを隠そうとしてるみたいだけど、マリーにはお見通しデース」
曜「う…」
鞠莉「ま、そういうところも可愛いんだけどね」
曜「あはは…鞠莉ちゃんには敵わないや」
鞠莉「ぶっちゃけトーク!といきましょうか。ちょうど他に人もいないし、今更遠慮する仲でもないわ」
鞠莉「…だから、話して。ね?」
曜(…どうしよう。私と一緒に居て楽しいのかどうかが不安で、なんて言えないよ…)
曜「じ、実は…」
鞠莉「実は?」
曜「…次の小テストで点数が悪かったら、鞠莉ちゃんも連帯責任で罰ゲームなんだ」
鞠莉「…ほわっつ?」
曜「ごめんね、実は今日、急に決まったんだ。千歌ちゃんにはダイヤさん、梨子ちゃんには果南ちゃんが付いて勉強を教えて、最下位だったコンビが罰ゲームってことに…」
鞠莉「えっ待って、待って待って。聞いてないわよそんな話。えっ?次の小テストはいつなの?」
曜「あさって…」
鞠莉「明後日…!?きょ、教科は?」
曜「英語と地理…」
鞠莉「一応聞くけど、自信のほどは?」
曜「残念ながら、ご迷惑をおかけすることになるかと…」
鞠莉「oh…」
曜「面目無いです…」
鞠莉「じょ、冗談じゃないわ…!ちかっちと梨子だけならまだしも、バックにダイヤと果南がいるなら、何をやらされるかわかったものじゃ…はっ!」
鞠莉「さては、ふたりともわざと黙ってたのね…この私を出し抜こうだなんて、あのふたり…!」
曜「ま、鞠莉ちゃん、言葉遣いと顔が怖いよ…?」
鞠莉「こうしちゃいられないわ!今日から曜は私の部屋に泊まり込みで勉強会よ!」
曜「ええっ!?」
鞠莉「努力と結果は比例しないわ。だけど、結果を出すために努力が必要なのもまた真理なの」
曜「そ、それはよくわかるけど…」
鞠莉「地理は詰め込めばいいとして、英語は積み上げ型の教科…どこまで仕上がるかわからないけど、小テストだし、私がつきっきりでレクチャーすれば勝機はある。いける!」
曜「ほ、本気で!?」
鞠莉「作戦は一刻を争うわ。車を手配するから、曜の家で荷物を取った後は、私の部屋で勉強再開よ。頑張りましょうね、曜!」
曜「ええーっ!?」
◆渡辺さんち
曜ママ「〜♪」
ガチャ
曜「た、ただいm」
鞠莉「お邪魔します。この度は突然のことですみません」
曜ママ「あらあら。こちらこそ、いつも曜がお世話になって」
鞠莉「こちらこそ、いつもありがとうございます。早速ですが…」
曜ママ「荷物ならそこに用意してあるわ。くれぐれも鞠莉ちゃんのご迷惑にならないようにね」
曜「あ、ありがt」
鞠莉「明後日の小テストが終わるまでの間、曜さんは大切にお預かりしますのでご安心ください」
曜ママ「だって、良かったわね?」
曜「い、いってきm」
鞠莉「それでは、失礼します」
曜ママ「いってらっしゃーい」
バタン
曜ママ「ふふっ、あの子も大変ねー」
◆車内
曜「滞在時間、30秒もなかった…」
鞠莉「時間が惜しいからね。この後の予定だけど、私の部屋に着いたらまずは夕食にしましょう。ハンバーグを頼んであるわ、もちろんチーズ入りのをね」
曜「ほんと!?やった!ご馳走だね!」
鞠莉「夕食が終わって一息ついたところで、さっそく勉強に取り掛かるわ。お風呂以外は寝るまで勉強漬けよ」
曜「ね、ねるまでべんきょう…!?せっかく一緒なんだから、2人でお話ししたり、ゆっくりする時間とかは…?」
鞠莉「言いましたよ?作戦は一刻を争う、って。そういうのはまたの機会にね」
曜「そんなぁ…」
鞠莉「前回はネコ語を話す曜を満喫できたし、誰も損することがない絶妙な罰ゲームだと感心もしたけれど…」
鞠莉「果南たちが加わって、私もターゲットにされたとなれば話は別よ。油断はできないわ」
曜「私はその罰ゲーム、大損した気がするけど…ごめんね、巻き込んじゃって。これからもっと大きな迷惑をかけちゃうかもだけど…」
鞠莉「心配しないで。分の悪い賭けほど気持ちがバーニングするものよ」
曜「勝負師だね…ってか、何気に酷くない?」
鞠莉「ピンチはチャンスだって思わないとね。恐れずチャレンジしないことには、何も始まらないわ」
曜「ピンチはチャンス?」
鞠莉「理事長も学校再建も、スクールアイドルもそうよ。初めは誰もが無理だと決めつけ、嘲笑する」
鞠莉「でもね。困難だからこそ、成し遂げてみたくなるの。努力が身を結ぶとは限らないけど、みんなとなら、私たちならきっと出来るって信じてるから」
曜「鞠莉ちゃん…」
鞠莉「だから、まずは目の前の壁を乗り越えましょう。2人でならきっとできるわ」
曜「…うん!私やるよ!きっと突破してみせるよ!」
鞠莉「それでこそ曜よ!だから、今は…」ギュ
曜「あ…」
鞠莉「少しだけど、穏やかな時間を過ごしましょう。気付かなかったかもしれないけど、隣に座るの久しぶりなんだよ?」
曜「…ありがと。やっぱり鞠莉ちゃんと一緒って、いいね」
鞠莉「ふふっ。でも今の状況って、ジェットコースターが落下し始める寸前みたいなものかもよ?」
曜「それは言わないで…や、いっか」ギュ
曜(鞠莉ちゃんとなら、それでも…)
◆鞠莉さんち
ようまり「ごちそうさまでした」
曜「あー美味しかった!さすが高級ホテルだね、贅沢しちゃったよー!」
鞠莉「喜んでもらえてよかったわ。この後には猛勉強タイムが待ってるから、パワーをつけてもらわないとね」
曜「ううっ、楽しいひと時もここまでか…本当に急転直下の気分だよ」
鞠莉「心配しなくても、曜ならきっと小テストでもシャイニーできるわ!」
曜「うー…や、やってみる」
鞠莉「その意気よ。とはいえ、食後にいきなり勉強するのは非効率だから、これからのことを少しオリエンテーションしましょう」
鞠莉「これから勉強をスタートするわけだけど、12時を就寝時間として逆算したタイムスケジュールはこんな感じね」ピッ
曜「えっと…英単語と文法のチェック、ミニテスト、ヨーロッパの地理の復習の後、お風呂に入って寝る直前まで単語の暗記…」
曜「本当にお風呂以外は勉強でギッシリだ…でも12時には寝ていいの?てっきり徹夜するものかと思ってたよ」
鞠莉「無理して続けても効率は悪くなるし、なにより体力と気力を消耗するわ。明日も授業や練習があるんだから、もってのほかよ」
曜「ふむふむ、合理的で鞠莉ちゃんらしいね」
鞠莉「今日は基礎を固めて、明日は過去問を使った実践的な学習よ。本番だと思って挑戦して、要点を確認しながら翌日のテストに備える――これでいきましょう」
曜「わかった。鞠莉ちゃんにつきっきりで教えてもらうんだもん、気合いを入れて取り掛かるね!」
鞠莉「2人なら頑張れるわ。それで、勉強は今のプランで取り組めばいいと思うんだけど…問題は寝る場所ね」
曜「寝る場所?」
鞠莉「ご覧のとおり、ベッドがひとり用なの。窮屈だったり、そうでなくてもプライバシーとか、居心地の問題もあるから…」
鞠莉「寝る部屋は別に用意してもいいけど…どうする?」チラッ
曜「…」
曜「…!?」
……………………………………
鞠莉「同じ意味、あるいは反対の意味の単語や構文は、テストで問われやすい定番のパターンね」
鞠莉「バラバラに覚えるのではなく、纏めて覚えた方がテスト対策上は効果的よ。似たもの同士のグループを作ったり、それとは逆の意味をもつ単語同士の集まりを作って整理していくイメージね」
曜「なるほど…」
鞠莉「例えば…この中で買う、『buy』と同じ意味の単語はなにかしら?」
曜「えっと…こっちは『借りる』、これは『提供する』だから、うーん…」
鞠莉(…真剣ね、いい顔だわ)ニコ
――――――――
鞠莉「キリもいいし、一息入れましょう。はい、どうぞ」
曜「ありがと、ってコーヒー?この時間に飲んだら眠れなくなっちゃうんじゃ…」
鞠莉「これはカフェインレスだから大丈夫よ。普通のコーヒーより味は少し落ちるけど、リフレッシュにはちょうどいいわ」
曜「へー、そんなのあるんだ!じゃあ早速ご馳走になりますっ!」ゴク
曜「に゛か゛い゛…」
鞠莉「あ、いつもの癖でお砂糖入れ忘れちゃった♪」
曜「ま゛り゛ち゛ゃーん゛…」
鞠莉「ソーリー♪はい、お砂糖とミルク」
曜「うー…今の、絶対わざとでしょ?」
鞠莉「さあね?でも、いい眠気覚ましだったでしょ?」
曜「むー、いたずらっ子なんだから…あ、美味しい…」
――――――――
曜「へー、ヨーロッパって国じゃなかったんだ。知らなかったよー」
鞠莉「曜…」
曜「ああっ、冗談だよ冗談!流石の私もそのくらいは知ってるよ!」
鞠莉(曜の場合、冗談なのか本当なのかわからないわ…)
曜「…嘘か本当かわからないって顔してるね」
鞠莉「さあ、なんのことかしら?」
曜「目をそらして言っても説得力がないよ?」
鞠莉「あっ、の、覗き込まないでよ」
曜「んー?」
鞠莉「…っ」
曜「あ、また逃げた。鞠莉ちゃんひょっとして、にらめっこ苦手?」
鞠莉「も、もうっ、ふざけないの。というか、どうしてこういう時だけ人の心を読めるのよ」
曜「えへへ、ごめんごめん」
鞠莉「その洞察力、もっと良い場面で使えるといいのにね…」
曜「???」
鞠莉「こっちの話よ。余談はさておき勉強に戻るけど、まあヨーロッパも一つの国と言えない事もないわ。EUがあるからね」
曜「ヨーロッパ連合、だね」
鞠莉「そうよ。EUは経済面だけじゃなくて、行政面での合同化も進んでいたんだけど、最近では各国の経済的・社会的事情から足並みが揃わなくなってきていて…」
曜(勉強は難しいし、ウカウカしてる余裕もないけど…前言撤回だね)
曜(鞠莉ちゃんと勉強するの、楽しい!)
……………………………………
鞠莉「なかなか順調な進み具合ね。よく頑張ったわ」
曜「えへへっ、鞠莉ちゃん先生のおかげだよ。こんなに勉強がはかどるなんて!」
鞠莉「鞠莉ちゃん先生…うふふっ、いい響きね」
曜「だけど、慣れない事してるからかな。肩が凝っちゃった…」
鞠莉「そろそろバスタイムにしましょうか。いい時間だし、リラックスして疲れを癒さないと、今後に影響しちゃうわ」
曜「そうだね。私はもう少し仕上げたいから、鞠莉ちゃん先に入ってよ」
鞠莉「えっ?」
曜「ん?」
鞠莉「一緒に入らないの?」
曜「んん?」
鞠莉「お泊まり会っていったら…一緒にお風呂に入って、親睦を深めるものでしょ?」
曜「んんん!?」
◆バスルーム
鞠莉 「…」ポツーン
鞠莉「いつものお風呂なのに、なんか広く感じる。寂しい」
鞠莉(曜の方からは誘ってくれないだろうと思って、勇気出したんだけどなぁ…)ブクブク
鞠莉(でもまぁ、嫌で断られたわけじゃなさそうだし。照れちゃってただけよね、きっと)
鞠莉(…人の気も知らないで、本当にバカ曜なんだから)
◆鞠莉ちゃんの部屋
曜(しまった。あまりにも急なことだったから見落としてたけど、これって立派なお泊まりイベントじゃん!)
曜(焦ってつい断っちゃったけど、なんか選択を思いっきり誤った気がする…)
曜(そうだよ、せっかく鞠莉ちゃんの方から誘ってくれたのに…いつも『もっと仲良くなりたい、距離を縮めたい』って思ってるくせに、この体たらく…)
曜「ああああ、私のバカ!バカ曜!」
思わずベッドに身を投げる。
曜「あ…鞠莉ちゃんのにおい…」
曜「よく考えたら、今日と明日はこのベッドで一緒に寝るんだよね、鞠莉ちゃんと一緒に…」
――――――――
鞠莉『寝る部屋は別に用意してもいいけど…どうする?』チラッ
曜『…!?』
曜(寝ることまでは考えてなかった!そりゃ一緒がいいに決まってるけど、鞠莉ちゃんは嫌じゃないかな…どうしよう、どうすれば…!?)
鞠莉(…いきなりは難しかったかな)
鞠莉『ま、変に気疲れしちゃうといけないわね。別の部屋を手配するから待って…』スッ
曜『!!い、一緒でお願いします!』
鞠莉『…無理しなくて大丈夫よ?部屋ならすぐ用意できるし、自分の空間は必要だわ』
曜『無理じゃないよ、それに鞠莉ちゃんと一緒がいい!』
鞠莉『…確認するけど、同じベッドに寝るのよ。いいの?』
曜『一緒がいい!一緒でお願いします…!』
鞠莉『…そう。じゃあ決まりね!』
曜『う、うん!』
鞠莉『うふふっ♪それじゃあ、早速勉強に取り掛かりましょうか。何度も言うようだけど、時間は待ってくれませんからね?』
――――――――
曜(徹夜の心配はなくなったけど、別の理由で寝られなくなるかも…)
曜(…パジャマ、変じゃないかなぁ)
ガチャ
鞠莉「曜、お風呂交代よ」
曜「あ、はーい」
曜(お風呂上がり、綺麗だな…)
鞠莉「服は洗濯に回すからそのままにしておいて。ドライヤーはこっちに持ってきておくわね、私も使うし…曜?」
曜「あ…わ、わかったー」
鞠莉「今日は頑張ったんだから、存分にリラックスして疲れを癒すのよ」
曜「うんっ、ありがとう!」
◆バスルーム
曜「失礼しまーす…って誰もいないんだけど。ちょっと緊張しちゃうな」
曜「なんか凄くいい匂い。それに、鞠莉ちゃんが入ってたお風呂か…いやいや、何を気にしてるんだ私は」
曜「変なこと考えてたらのぼせちゃう。平常心、そしてリラックス…」チャポ
曜「んー、いいお湯!やっぱりお風呂はいいなー。おっきくて豪華だし、なんか本当、贅沢すぎるくらいだよね」
曜「…これが鞠莉ちゃんの日常なんだ。スケールが違いすぎて、現実感がないなぁ。夢の中の出来事みたいだよ」
曜「…」
古典的だけど、ほっぺたをつねってみる。
曜「いたい…えへへ、良かった…」
曜「そろそろ体を洗おうっと」ザバァ
曜「わっ、なんか肌がすべすべになってる!よく見るとシャンプーも見たことないやつだ。英語だし、きっと外国製…?」
曜「鞠莉ちゃん、お風呂好きだからこだわってるんだろうなぁ。これが鞠莉ちゃんの可愛さの、いや美しさの?秘訣なのかなー」
曜(これで私も鞠莉ちゃんみたいに美人さんになれる…わけないか。でも、同じお風呂に入って、同じベッドで寝て…同じ匂いにくらいはなれるかな)
曜(…同じ匂いって、言葉にするとくすぐったいな)
――――――――
曜「ただいまー。いいお湯でした」
鞠莉「おかえり。リラックスできた?」
曜「うん!広くてゆったりできたよ。肩こりもほら、このとおり!」ブンブン
鞠莉「はいはい、はしゃがないの。髪の毛乾かしてあげるから、こっち来て」
曜「はーい…っていいよ!自分でできるから」
鞠莉「やってあげたいの!ほら、おいで」
曜「じゃあ、お言葉に甘えて…お願いします」
カチッ ゴー
鞠莉「〜♪」ゴー
曜(髪を下ろした鞠莉ちゃん、いいな)
鞠莉「…曜の鈍感」ボソッ
曜「へっ?なにか言った?」ゴー
鞠莉「んー?私に妹がいたら、こんな感じなのかなって」ゴー
曜「ああ。じゃあ、私にお姉ちゃんがいたらきっとこんな感じなんだね」ゴー
鞠莉「かもね」ゴー
曜「…でも、姉妹って言うのとはちょっと違うんだよね」ボソッ
鞠莉「ん、なんて?」ゴー
曜「んー、鞠莉ちゃんともっと仲良くなりたいなって」ゴー
鞠莉「ふふっ、私もよ」ゴー
……………………………………
鞠莉「いい時間だわ。単語のチェックも終わったし、今日はここまでにしましょう」
曜「はーい!んーっ、こんなに勉強らしい勉強したの、久しぶりだぁ…」
鞠莉「忙しいから大変だと思うけど、なればこそ、普段から授業をちゃんと聞いて、復習を疎かにしないことね」
曜「たはは、耳が痛いや…でも、そのおかげで鞠莉ちゃんと一緒に居られたし。悪いことばかりじゃなかったかな」
鞠莉「もうっ…そんなんじゃ誤魔化されませんよ?」
曜(本音、なんだけどね)
鞠莉「じゃあ、歯を磨いて寝ましょうか」
曜「う、うん」
鞠莉「あら、その顔。曜ったら、もしかして緊張してるの〜?」ニヤニヤ
曜「き、緊張なんてしてな…いと言えば、そりゃ嘘になるけど…」
鞠莉「純情ねぇ。お姉さん、曜のそういう所好きよ?」
曜「うー、鞠莉ちゃんの意地悪…」
鞠莉「うふふ、さっきのお返し♪」
鞠莉(…でも、ここからはお互い未知のエリアね)
鞠莉(初めてのことはどんな事でも難関なもの。乗り越えた先には、新しいステージが続いているはず…)
鞠莉(頑張るわよ、鞠莉)
……………………………………
鞠莉「ベッド入ったわね、じゃあ電気消すよ」カチッ
曜「わっ」
鞠莉「あら、曜は真っ暗だとダメな人?」
曜「あ、ううん、大丈夫だよ…」ドキドキ
鞠莉「そう。じゃあ私もベッドに入るわね」
曜「どうぞー…」モゾ
鞠莉「よっ、と…ねぇ。どうして端っこギリギリにいるの?」
曜「や、やっぱり緊張しちゃって…鞠莉ちゃんと一緒が嫌なわけじゃなくて、その…」
鞠莉(こういうところがシャイっていうか、踏み込めないっていうか…本当、世話がやけちゃうわね)
鞠莉「…ふっふっふ、そっちがその気なら…!」ワシッ
曜「わあっ!?」
鞠莉「うりゃうりゃうりゃうりゃ!」ワキワキワキ
曜「わっ、ひゃひゃひゃあ!ちょ、まっ、ひゃふふふくすぐったあっああーっはははは!!」
鞠莉「さあさあ、観念してこっちに来ることね!さもなければ…!」ワキワキワキ
曜「ふぁ、ひっ、ひいっ、ひゃあははは!!も、もう、だめ…っ!」バッ
鞠莉「はい、ようこそ♪」ギュッ
曜「えっ、あれっ!?」
鞠莉「これが文字通り、懐にインするってやつかしら」
曜「あ、うぅ…」
鞠莉「ふふ、騒いだからかな。曜はちょっとホットだね」ナデナデ
曜「それは鞠莉ちゃんが手荒な真似するから…!あっ、私、汗かいて…」
鞠莉「色んなことを考え過ぎよ。念のため言っておくけど、寝起きを気にして、朝は私より早く起きようとか考えないでね」
曜「うっ、読まれてる!?」
鞠莉「ゆっくり安もうよ。ね?」ギュ
曜(あ、ものすごく落ち着く…)
曜「…うん。改めて、お邪魔するね…」モゾ
鞠莉「うふふ、いらっしゃい♪」
――――――――
曜「zzz…」
鞠莉「くっついたと思ったらすぐ寝ちゃった。よっぽど疲れていたのね」
鞠莉(あるいは、ずっと緊張していたか。無理させちゃったかしら…)ナデナデ
曜「zzz…」
鞠莉(私といるときの曜は、楽しそうだけど、いつもよりちょっとだけ大人しいから。気になってたのよね、いきなり連れ込んじゃったし)
曜「zz…」
鞠莉(でも、ベッドに入ったあとは身体を預けてくれたし。穏やかで、安心した寝顔してるから、きっと大丈夫だよね)ナデナデ
曜「zzz…」
鞠莉(今日も色んな表情を見れたけど、こうして寝顔が間近にあると、なんだか曜を独り占めしちゃった気分ね)
鞠莉「お姉さんするのも悪くないけど、たまには甘えてみたいんだけどなぁ」
曜「ん、んー…zzz」
鞠莉「…なんてね。おやすみなさい、曜…」
――――――――
曜「zz…ん…」
曜「ふぁ…あれ、ここどこ…」モゾ
鞠莉「zzz…」
曜「!」
曜(そうだ、今日は鞠莉ちゃんの家に泊まることになって…私、いつの間にか寝ちゃってたんだ)
鞠莉「zzz…」
曜(確か、ベッドに来た鞠莉ちゃんにくすぐられて、抱きとめられて、そのまま…)
曜(本当はもっとお話ししたかったのに…緊張して、安心して、多分おやすみも言えてない…ダメだなぁ、本当に…)
鞠莉「zzz…」
曜(でも、鞠莉ちゃんに包まれてる感じだったな…)
鞠莉「zz…」
曜 ドキドキ
曜(鞠莉ちゃんの寝顔、かわいい…いつもは綺麗なお姉さんって感じだけど、寝顔はあどけなさが際立って)
曜(普段出来ないのに、鞠莉ちゃんが寝てるときってずるい気もするけど…)ギュ
曜(今だけは、鞠莉ちゃん独り占め…えへへ)
曜「いつもありがとう、鞠莉ちゃん。おやすみなさい」
……………………………………
曜「zz…ん…」モゾモゾ
曜「ん…おきた…」ムクッ
曜「あれ、まりちゃん…いない、どこ…」
ガチャ
鞠莉「あら、起きた?おはよう」
曜「あ、おはよー、まりちゃん」
鞠莉「元気に『おはヨーソロー!』じゃないのね。曜って意外と朝弱い系?」
曜「今はどっちかって言うと寝ていたい気分…このベッドきもちいいしー…」
曜(鞠莉ちゃんと一緒だし…なんてね」
鞠莉「そういう台詞、今言われても説得力ないわよ」
曜「あれ、声に出ちゃってた?うーん、まだ眠くってだめだぁ…」ノビー
鞠莉「時間には余裕があるから、もう少しゆっくりしてていいわ」
曜「ん…でも起きるよ。鞠莉ちゃんはどこ行ってたの?起きたら居ないからびっくりしたよ」
鞠莉「この通り、朝のお風呂にね。覚えてないの?ちゃんと声かけたのに」
曜「ええ、嘘っ」
鞠莉「マリーは嘘をつきません。私が起きたとき、曜も目を開けたから、お風呂行くけどどうするって聞いたら『あと5分、いや5時間でいいから寝かせて』だって」クス
曜「本当!?うわぁ、ごめんね鞠莉ちゃん…」
鞠莉「ま、貴重なお寝坊シーンが見れたから良しとするわ。ちかっちと梨子に今の話をラインしておくから、きっと今日は話題の中心になれるわよ?うふふっ♪」
曜「ええ!?それはやめてよ、恥ずかしいよー!」
――――――――
鞠莉『zz…ん…おきた…』ムクッ
鞠莉『曜は…まだ寝てる』
曜 スヤスヤ
鞠莉『ふふ、無防備な顔しちゃって』ツンツン
曜『ん…』パチッ
鞠莉『あ…起こしちゃった?』
曜『んー…?ねむい…ねる…』モゾモゾ
鞠莉『あら、お布団かぶっちゃった。曜ー、お風呂行くけど、曜はどうする?』
曜「あと5分…ううん、5時間でいいから寝かせて…」モゾ
鞠莉『なにそれ、欲張りね』クス
鞠莉『じゃあ入ってこよーっと』チラ
曜『zzz…』
鞠莉『むぅ…早くも夢の中じゃない。昨日は緊張しちゃうとか言っといてさ』
鞠莉『ばかっ』
◆登校中・小原家の車内
鞠莉「昨日はよく眠れたみたいね」
曜「あはは、予想に反してぐっすりでした。疲れと安心のせいかな」
鞠莉「安心、ねぇ。それはよかったわ♪」
曜「ん、私なにか変な事言った?」
鞠莉「いいえ♪ただ、マリーの腕の中で眠りについた曜は、どんな幸せな夢を見てたのかなってね」
曜「な、なんか恥ずかしいな、その言い方…夢は見たよ」
鞠莉「あら、教えて教えて?」
曜「私、あんまり夢とか詳しく覚えてないタイプなんだけど…たしか、大学生になって鞠莉ちゃんと一緒に住んだり、私が鞠莉ちゃん理事長の秘書になったり。あと鞠莉ちゃんと二人で温泉旅行に行くとかもあったなぁ」
鞠莉「全部私関係じゃない。しかも秘書とか、生徒と先生、温泉って…曜ってば、やっぱりマニアな趣味をお持ちなのねぇ」
曜「わ、違うよ誤解だよ!そんな状況に憧れたりなんか…無いとは言い切れないけど、でもでも適正範囲内だよ!」
鞠莉「ホントに〜?もしかして、いつか私とそういうことしてみたいって考えてたんじゃないの?」ニヤニヤ
曜「だから違うんだって!そりゃ、夢で見て悪くないなっていうか、かなり良いなって思ったけど…」
鞠莉「ふ〜ん?」
曜「でも、それはきっと昨日ずっと鞠莉ちゃんと一緒にいたからで!勉強教わったりとか、鞠莉ちゃんの家でご飯食べたり寝たりとかしたからで!」アセアセ
鞠莉「んー、なるほどね。一晩寝食をともにしたことで、普段は抑えていたデザイアがシャイニーして夢となって現れた、と。こういうわけね?」
曜「だから違っ」
鞠莉「寝ても覚めても、曜はマリーに夢中ってことかしら、夢だけに♪」
曜「うわ、なんかイラっとする!上手いこと言ったって顔してる!」
鞠莉「みんなにも教えてあげなくちゃ。これはもう、連絡網で共有すべき重要事項ね!」
曜「そんなことしたら勉強に支障が出て、明日の小テストの結果も散々で…鞠莉ちゃんも連帯責任罰ゲーム決定だからね!」
鞠莉「あら、私を脅迫するなんて、出来るようになったじゃない」
曜「そんな物騒なつもりはないけど、私と鞠莉ちゃんの平和のために、このことはどうか内密に…ね?」
鞠莉「ふむ…よろしい、今回のことは私の胸一つに留めておきましょう」
曜「よかったぁ…」
鞠莉「ただし、万が一小テストで最下位を取るようなことがあったら、その時は…ね?」
曜「うええっ!?そんな切り返しを!?」
鞠莉「なんとかはモロトモってね。マリーを出し抜こうなんて、10年早いのデース!」
曜「くぅぅ、10年もこのパワーバランスかぁ…」
運転手「お嬢様、そろそろ…」
鞠莉「っと、もうすぐ学校に到着よ。忘れ物しないようにね」
曜「もう…絶対言っちゃダメだからね。あ、運転手さん。ありがとうございました」
鞠莉「それは曜の健闘次第ってね、今日も頑張りましょう。ありがとう、行ってくるわね」
運転手「いってらっしゃいませ。お嬢様、曜様」
曜「…はぁ」
鞠莉「ん?」
曜「大丈夫かなぁ、テスト。今でさえ鞠莉ちゃんに迷惑かけてるのに、これで結果が残せなかったら…」
鞠莉「急に弱気になって、朝から幸先悪いよ?そんなんじゃテストは愚か、今日一日を充実して過ごせなくなるわ」
鞠莉「それよりなにより!せっかくマリーと仲良く揃っての登校なんだから、普段より明るく楽しくなきゃ!気持ちを切り替えて、もっともっと全速前進でシャイニーしなきゃ!」
曜「全速前進でシャイニー、かぁ…なんだか合体技みたいだね、えへへっ」
鞠莉「そうそう、曜はシャイニーなスマイルが一番だよ!」
曜「へへ…鞠莉ちゃんにそう言われると頑張れそうな気がする」
鞠莉「それじゃあ、改めてやってみましょうか!」
曜「うん、行くよ!全速全身…」
曜「シャイニー!」鞠莉「ヨーソロー!」
曜「って、今の流れではシャイニー!でしょ!?どうしてヨーソローしちゃうの!」
鞠莉「oh、うっかりデース!テヘペロ♡」
曜「テヘペロ、じゃないよ!て言うかなんで急にカタコトに!?ああもう、これじゃ締まらないじゃん!」
鞠莉(ふふ、元気を取り戻せたみたいね)
曜「じゃあ行くよ、今度こそ決めるからね!全速全身…!」
シャイニー!!
終わり