曜「鞠莉ちゃん、おはよーそろー!」
鞠莉「おはよう、曜。寒いけど今日も元気いっぱいね」
曜「今日も今日とて、全速前進であります!」
鞠莉「うふふっ、私も負けていられないわ。あら?」
曜「ん、どうかした?」
鞠莉「じーっ」
曜「な、なに?」
鞠莉「ふーむ、これはいけませんねえ」
曜「なになに、なんのこと?」
鞠莉「唇よ」
曜「くちびる?」
鞠莉「そう。唇が乾燥しちゃってる」
曜「え、ほんと?」
鞠莉「ちょっと見せて」
曜「わっ」
鞠莉「ほら、カサカサになってるじゃない。ダメよ、ちゃんとケアしないと」
曜(ち、ちかい)
鞠莉「このまま放っておいたら痛くなっちゃうわね。リップとか持ってる?」
曜(くちびる…)
鞠莉「曜?」
曜(鞠莉ちゃんの唇…間近で見ると、ツヤがあってぷるぷるだ)
鞠莉「曜、おーい、もしもーし」
曜(柔らかそう。触ったらどんな感じなんだろう…)
鞠莉「もう、曜ってば!」
曜「あっ」
鞠莉「話しかけてるんだから、ちゃんと聞いてよ」
曜「ご、ごめん。なんか、ぼーっとしてた」
鞠莉「そんなに気になる?」
曜「へ?」
鞠莉「マリーの口元、ずっと見てたから」
曜「あ、ああ、その」
鞠莉「知りたい?」
曜「えっ?」
鞠莉「私の唇のヒミツ、教えてあげよっか」
曜「えっ、ええっ!?」
鞠莉「ね、目を閉じて」
曜「いやっ、そんな急に」
鞠莉「えいっ」
曜「わっ!?」
曜(目を手で塞がれた…!?)
鞠莉「しーっ、静かに。大きな声を出さないの」
曜「ま、鞠莉ちゃ…」
鞠莉「動かないで」
曜「…っ!」
鞠莉「そうよ、いい子ね。そのまま目を閉じていて」
曜(鞠莉ちゃん、一体何を…唇のヒミツって、ま、まさか…)
鞠莉「心配しないで。今なら誰も見ていないわ」
曜(だ、ダメだよ、いくらなんでも、人がいないからってこんなところで…!)
鞠莉「…いくよ」
曜(ああ、鞠莉ちゃんの声がこんなにも近くに…)
鞠莉「曜…」
曜(鞠莉、ちゃん…)
鞠莉ちゃんの柔らかな匂いが鼻の先すぐそばまで近づいて、そして、私の唇に何かが触れた。
曜「んっ…」
体が反射的にびくっと小さくはねる。潤いのある滑らかな感触が、私の唇を優しく包み込んだ。
曜「…ん、んんっ?」
けど、それは私の期待や想像とは裏腹に、少し硬くて、冷たい触り心地だった。
曜(なに、これ…)
鞠莉「これでよしっと。さあ、目を開けて」
曜「う、うん…あれ、唇がしっとりしてる」
鞠莉「しっかり潤ったでしょ、これのおかげで」
曜「リップ、クリーム…?」
鞠莉「私のお気に入りなの。いい香りだし、品質も折り紙付きよ」
曜(な、なんだ、リップかぁ…言われてみれば、前に鞠莉ちゃんが使っているのを見たことがあるかも――ん?ってことは)
鞠莉「カサつく唇に潤いのお裾分け、なんてね」
曜(これってもしかして、か、間接――!)
鞠莉「あ、そうそう。ちゃんと新品だから」
曜「へ?」
鞠莉「今使ってるのが無くなりそうだから、新しいのを持ってきていたの。心配はご無用よ」
曜「あ、ああ、そっか…」
鞠莉「その顔、さてはなにかを期待しちゃってた?」
曜「えっ!?あ、いや、その、そういうわけじゃ…」
鞠莉「ふふっ。恥ずかしがり屋さんをからかうのは、これくらいにしましょうか。本当は可愛いところをもっと見ていたいけど」
曜「うう…そうやってすぐからかう」
鞠莉「見たところ、着け心地は悪くなさそうだけど、そのリップ、どうかしら」
曜「うん、しっとりするけど馴染んでて、すごくいい匂いがする。柔らかくて、優しくて…」
曜(まるで、鞠莉ちゃんみたい…)
鞠莉「気に入ってくれたみたいね。よければ使って。曜にあげるわ」
曜「えっ、いやいや、私が貰っちゃうわけには!って、一度使ったのを返されても困っちゃうのかもしれないけど…」
鞠莉「気にしないで、家に帰ればストックはまだあるから」
曜「だけど…」
鞠莉「それとも、マリーとお揃いは嫌?」
曜「そ、そんなことないよ、絶対っ!」
鞠莉「ならよかったわ。これは曜だけの特別だから、みんなには内緒よ?」
曜「特別…」
鞠莉「そう。私たちだけの、ひ・み・つ♪」
曜「あ、あぅ」
鞠莉「うふふっ。朝のうちに理事長室に寄らないといけないから、私は先に行くわね」
曜「ご、ごめんね、時間ないのに付き合わせちゃって」
鞠莉「付き合わせたのは私の方よ。それじゃ、また後でね。チャオー!」
曜「ちゃ、ちゃおー…貰っちゃった、鞠莉ちゃんのリップ」
鞠莉『みんなには内緒よ?』
曜「お揃い、内緒、秘密…」
>>16
色々やっても立てられなかったので本当に助かりました、ありがとうございます! ……………………………………
千歌「じー」
曜「ふう、ごちそうさまでしたー」
千歌「じー」
曜「梨子ちゃん、食後にみかんはお一ついかが?」
梨子「大丈夫、さっき千歌ちゃんにもらったから」
千歌「じー」
曜「あははっ、さすが千歌ちゃん。先を越されたか」
千歌「じーー」
曜「あの、千歌ちゃん?」
千歌「じー…なあに、曜ちゃん」
曜「なんでさっきから、私のことじっと見てるの?」
千歌「じっとなんて見てないよ。じー」
曜「いや、思いっきり見てるし」
千歌「見てないよー、じー。変な曜ちゃん、じーー」
曜「いやいや、それもう完全にわざとやってるでしょ」
梨子「千歌ちゃん。曜ちゃん困ってるよ」
千歌「いや、別に困らせるつもりはないんだよ?ただちょっと、今日の曜ちゃんはいつもと感じが違うなーって思っただけで」
曜「えっ」
千歌「だから別に、困らせようとしてるわけじゃ」
梨子「確かに…実はね、私もなんだか大人っぽい雰囲気してるなーって思ってたの」
曜「えっ、えっ」
千歌「梨子ちゃんも?」
梨子「うん。具体的にどこがどう、とは言えないんだけど」
曜「そ、そんなことは…」
千歌「なんだろうね、なにが違うんだろう。じー」
曜「うっ…」
梨子「じー」
曜「ううっ…」
「「じーーー」」
曜「う、うううっ…!」
曜「え、ええっと…あっ!私、水泳部の部室に忘れ物してたんだ!ちょっと取りに行ってくるから!」
千歌「あ、曜ちゃん!」
梨子「行っちゃった。もう、千歌ちゃんがいじわるするから」
千歌「してないってば、人聞き悪い。でもさ、なんか嬉しそうだったから」
梨子「きっと良いことがあったんじゃないかな」
千歌「梨子ちゃん、何か心当たりが?」
梨子「ないけど、そんな気がするの。千歌ちゃんもでしょ?」
千歌「まあね。なんと言っても、曜ちゃんだから!」
――――――――
お昼休み、誰もいない水泳部の部室。
曜「うーん…」
千歌ちゃんと梨子ちゃんの視線から逃げるように部室へとやってきた私は、手鏡を使って、リップを塗り直したばかりの口元を覗き込む。
曜「…うん、よしっ。すごくいい感じ!」
唇はほんのりとピンクが色付いていて、ナチュラルだけど明るい印象を与えてくれる。
甘くて優しい香りが心地良くて、思わず鏡に向かって微笑んでしまう。
新しいリップを使ってみた。それだけのことなのに、普段とは違う自分になれたような気がする。
曜「えへへっ。流石に、鞠莉ちゃんみたいにはなれないけどね」
朝、間近で見たふっくらとした唇が頭をよぎる。
曜「鞠莉ちゃんと同じリップ。お揃い、内緒、だって」
鞠莉ちゃんの言葉を思い返すたびに、不思議と胸の奥がポカポカしてくる。
嬉しい。そう、嬉しいんだ。些細なことだけど、同じものを使うことで、鞠莉ちゃんに近づけたような気するから。
曜「おっといけない、もう教室に戻らなきゃ」
最後にもう一度、口周りを確認して。ついでに身だしなみを整えて。
曜「よし、これでオッケー!」
だけど、緩んだ頬とふわふわした気持ちはどうにも抑えられそうもなくて。
これじゃ、また二人にからかわれちゃうかな、なんて思いながら、私は軽い足取りで部室を後にした。
……………………………………
鞠莉「あ、いけない」
お昼ご飯を食べて、洗面所で歯を磨き終えた後、私はリップクリームの手持ちがないことを思い出した。
果南「鞠莉、どうかした?」
鞠莉「えっと、リップクリームを…無くしちゃったみたいなの」
尋ねる果南に、私は咄嗟に説明をすり替えた。
鞠莉「朝方にドタバタしてたから、どこかで落としちゃったのかも」
ダイヤ「確かに、今日は普段よりも遅い登校でしたものね」
果南「大方、夜更かしでもしてたんでしょ」
鞠莉「ん、そんなところかな」
ダイヤ「ぶっぶーですわ。ただでさえ鞠莉さんはご多忙なのですから、夜更かしが祟っては元も子もありません」
果南「そうそう。何か手伝えることがあれば言ってね、ダイヤもだけど」
さりげなく気遣ってくれる、二人の優しさが嬉しい。
果南「うーん。でもさ、やっぱりもったいないよね」
果南は腕を組み、少し考えるような仕草をした。
果南「だってさ、あのリップ、昨日新しくしたばかりだったでしょ?」
鞠莉「まあ、ね」
ダイヤ「使い始めたばかりで無くしてしまうのは、確かに残念ですわね」
気の毒そうな顔の二人に、私は口元に指を当てながら「んー、もったいなくは無いかな」と答えた。
果南「そうなの?」
ダイヤ「どうしてです?」
鞠莉「ううん、なんでもない。なんとなくね、そう思うの」
これは私と曜だけの、そして私だけの秘密だから。
果南「ふーん…?」
ダイヤ「まあ、鞠莉さんが気にしていないのならそれで良いのですが…」
いまいちピンとこないようで、二人とも頭にハテナマークが浮かんでいる。
鞠莉「ほら、昼休みが終わっちゃうよ。早く教室に戻りましょう」
果南「あっ、ちょっと、鞠莉!」
ダイヤ「鞠莉さん、いきなり引っ張ったら危ないでしょう!」
鞠莉「理事長と生徒会長が揃って遅刻するわけにはいかないでしょ?ほらほら、果南も早く!」
果南「わわわっ、なになに、どうなってるの?」
ダイヤ「さ、さあ…?」
顔を見合わせる二人の手を引きながら、私は教室へと進み続ける。
頬を染めた曜の照れ顔が頭をよぎった。あの可愛い恥ずかしがり屋さん、いつ真相に気付いてくれるかしら。
鞠莉「ふふっ、シャイニー!」
口元にわずかに残っていたリップの香りが、ふわりと心をくすぐった気がした。
終わり
>>1
代行ありがとうございました!重ねてお礼申し上げます! おつ、チョコハンバーグの人だったか
あっちも良かったぞ
鞠莉が上手のようまりめっちゃ好きだから代行出来て光栄だぜノξソ・ω・ハ6
良いお話だったよ
リアップのお裾分けと読み間違えてスレ開けたのを詫びる
リップ塗りすぎたマリーが曜にキスしてリップのお裾分け♡かと思いました