型月オマージュ
設定適当
死ネタ、グロネタあるかも
ゆうぽむ? せつ(なな)ぽむ? あいせつぽむ?
書きため基本なしの亀更新
たったら書く。
夏が過ぎ、本格的に夜が長くなってきたとある日の夕方、呼び鈴で歩夢は目を覚ました。
歩夢「……」
ピンポーン、ピンポーンと連続で押される呼び鈴。
最初は面倒くさくて、居留守を決め込もうとしたが、数回に渡りならされる。
その鳴らし方で犯人の目星がついた歩夢は、その音に嫌気がさし、スマホにメッセージを打ち込む。
【うるさいよ。勝手に入って】
メッセージに既読がつくと同時に玄関のカギが開く音。
愛「やっほー、歩夢―! 材料持ってきたからもんじゃやるよー!」
菜々「お邪魔します。うわ、真っ暗……歩夢さん、ちゃんと電気はつけないとダメですよ?」
点けられた電気に目がくらむが、それも一瞬。
現在歩夢が住んでいるのは1Kのアパート。歩夢が寝返りをうてば玄関から入ってきた二人がすぐに確認できた。
歩夢「たった今起こされたの……。愛ちゃん、呼び鈴連打するのやめてよ、合鍵、何のために渡してるの?」
愛「ごめんごめん。お詫びに愛さん特製最強もんじゃ作るからさ。ほら、起きた起きた」
愛は悪びれる様子なくそう言うと、キッチンの棚上に置いてある、小さな部屋に似合わない少し大きめのホットプレートの箱を取り、部屋の中央に置かれたローテーブルの上にいそいそと設置をして行く。
気怠そうに起き上がり、歩夢は一つ伸びをする。
そんな歩夢を見て、何かを思い出したかのように、菜々が少し窘めるよう口を開いた。
菜々「そう言えば、歩夢さん。かすみさんから聞きましたよ? 今日学校サボったって。駄目じゃないですか、ちゃんと行かなくては」
歩夢「……ごめんね、せつ菜ちゃん。今日はまた調子が悪くて……」
菜々「おや……なら、歩夢さんはまだまだ退院したばかりですし仕方がないですね。かすみさんには私からも言っておきましょう」
歩夢「ありがとう、せつ菜ちゃん」
愛「菜々っち、だまされちゃだめだよー? もう三か月は経つんだから。歩夢ー、ちゃんと最低限の出席日数確保しないと、卒業できないぞー?」
相変わらず歩夢には甘いなと、思ったが、口には出さない。そんなことはないと否定されるだけだから。
ホットプレートを設置し終わった愛は、台所に戻り、持ってきた袋からもんじゃの材料を取り出した。
そして、当たり前のように引き出しから包丁とまな板、ざるを取り出して下準備を始める。
菜々もそれを見て、戸棚から人数分の皿とはがしを取り出す。
歩夢「大丈夫だよ、愛ちゃん。ちゃんと、行く気はあるから」
愛「……ならいいけど、留年なんてしたら、ゆうゆも悲しむよ、きっ――――――」
愛はしまった。と自分の失言にキャベツを切る手を止めた。
皿とはがしを用意していた菜々も、顔を伏せ、何も言わない。
はがしとか愛さんがもんじゃ用に置いていってる入り浸り感
不自然な沈黙ののち、歩夢はクスリと一つ笑った。
歩夢「そうだね、侑ちゃんに「歩夢ー、なにやってんのー?」なんて叱られちゃいそう」
歩夢の反応に、愛と菜々は内心一つため息をついた。
歩夢「大丈夫。来月にライブもやるんだし、明日の午後病院だから休日練習には出れないけど、明々後日には同好会にも顔を出すよ。そのために夏休みは全部補修も受けたんだし」
菜々「そうですよ。それでこそ歩夢さんです。少しの遅れなんて、あっという間に取り戻しちゃってください。応援してますし、いってくださればなんでも協力します」
愛「もちろん、愛さんもね!」
歩夢「ふふ、ありがとう。二人とも」
愛と菜々は歩夢の反応に安心した。
愛「ほら、じゃあ、愛さん特製もんじゃを食べて、英気を養おうか! 愛さんだけに、愛情たっぷりだよ!」
菜々「愛さん、早く焼いてください。私、このために昼食抜いて、授業中もお腹なって恥ずかしい思いしたんですから」
歩夢「いや、そこはちゃんと食べようよせつ菜ちゃん……」
そのままコーラで乾杯した三人は愛特製のもんじゃ焼きに舌鼓を鳴らすのだった。
そして、三人の腹も膨れ、もんじゃもあと数口を残すところで、愛が思い出したかのように二人に尋ねた。
愛「そういえば、最近お台場で話題の事件、知ってる?」
歩夢「…………事件……?」
菜々「最近話題の、女子高生連続昏倒記憶喪失事件ですか?」
なにその無駄に長く、そのままな事件名と歩夢は突っ込みたくなったが、逆に言えばわかりやすいかと突っ込むのをやめた。
愛「菜々っち、そうそれ! 愛さん、久々にあった愛友から聞いたんだ。不謹慎だけど、その事件名まんまで少し笑っちゃったよ」
そこから愛の説明が始まった。
曰く―――――――
有名になったのはここ最近だが、最初の事件は約一年前。
時刻は明け方。裏路地で昏倒している女子高生が発見された。
すぐさま発見者が警察に通報、病院に搬送。
幸いにも、少女は直ぐに意識を取り戻した。
そして、意識を取り戻した少女に警察は話を聞こうとしたが、それはできなかった。
その少女には事件前後の記憶がなかったのだ。
少女には首に強い力で絞められたような跡が残っていたため、警察はそのショックだろうとそれ以上少女には追求せず、その跡から犯人を割り出そうとした。
しかし、少女の首のあとは科捜研の調査で一致する物体が見つからず、現場からは犯人の指紋、足跡などの証拠も見つけることができなかった。
さらに、周りも人通りの少ない裏路地だったことから目撃者もなし。
型月は詳しくないけどこういう雰囲気好きなんで楽しみ
警察がお手上げ状態になっていた2か月後、また同様に事件が、お台場で起きた。
被害者は、同じく女子高生で、一回目の被害者と同じ絞首痕で、同様に、事件前後の記憶がなかった。
愛「そんで、先月までに廃墟や、裏路地とかで昏倒している女子高生が合計8人だっけなぁ、発見されてるんだって。幸い、死んじゃった子とかはいないみたいだよ」
菜々「それは……怖いですね……」
愛「でしょでしょ? もう愛さんもりなりーたちが心配でさー」
菜々「それは確かに……皆さんにはあまり遅い時間まで出歩かないように言っておかなくてはいけませんね」
愛「そうだね。アタシたちも一応気を付けないと……ねー、歩夢」
愛は歩夢に話しかけるが返事がない。
愛と菜々が揃って歩夢を見ると、ベッドによりかかり、静かに寝息を漏らしていた。
愛と菜々は顔を見合わせ、微笑む。
愛「もー……歩夢ー、食べてすぐ寝ると牛になるよー。『もー』だけに」
菜々「やっぱりまだまだ体調が回復しきってないんですよ、寝かせてあげましょう」
愛「……そうだね。愛さん特製もんじゃもたくさん食べてくれたし……このまま寝かせてやるか」
菜々「では、後片付けは私が。愛さん、お風呂、先に借りてきちゃいますか?」
愛「いや、愛さんは今日はこのまま帰るよ。明日朝から店番なんだ」
菜々「おや、そうだったんですか」
愛「そうそう。平日学校で手伝えない分土日くらいは朝から手伝いたいからね」
菜々「ご立派です」
愛「ありがとう。それに、ゆうゆにももんじゃ作った時に、おいしいって言わせたいからね、修行しなきゃ」
菜々は、つい、顔をそらし、力ない返事をしてしまった。
菜々「……そう……ですね……」
愛「……」
菜々「……」
愛「明日は、病院ついていくの?」
菜々「そうですね」
愛「じゃあ、エマっちによろしく言っといてよ。あと――――――ゆうゆにも」
菜々「はい、わかりました」
愛「……菜々っち、歩夢のこと、よろしくね」
菜々「はい」
じゃあ、と愛はそのまま帰って行った。
部屋に残された菜々は、眠る歩夢を起こさぬように、もんじゃ焼きの後片付けをし、なんとなく、テレビをつけた。
歩夢を起こさぬよう、消音に設定し、字幕をつけ、今日のニュースをぼーっと眺める。
そして、23時を少し過ぎたころ、菜々は明日の朝食をどうしようと思い立ち、冷蔵庫を開けた。何もなかった。
菜々「……やっぱり、何もないですよね……」
菜々はそのまま顔を横に向ける。そして、綺麗なキッチンを見て、泣きたくなった。
菜々「……コンビニでパンでも買ってきますか……」
適当に歩夢の上着を借りて羽織り、部屋から出て、自らのキーケースから鍵を取り出し施錠する。
少しそのまま歩くと、風の冷たさを感じた。
菜々は先ほどニュースで今夜は少し冷えると言っていたのを思い出し、まだ残暑の季節なのに、薄手の上着で賄いきれないほど寒いのかと、真っ暗の中、コンビニへの道を急ぐ。
そして、暫く歩くと違和感を感じた。
>>37
訂正:そして、暫く歩くと違和感を持った。
本日は落ちます。
ありがとうございました。また明日投下予定です。 一人暮らししてるのと侑ちゃんの件はどう関係してるのか
どうでもいいけどスレタイの人リメイクでリストラなって悲しかった
最初に書き忘れましたが、時空的にはアニガサキを参照しているのでしお子たちの出番は有りません。
〜本編〜
菜々「だれも……いない……?」
菜々が現在歩いているのは、それなりに大きく、きれいに整備された道だった。
菜々(おかしい……もう23時とはいえ、ここらはマンションも多い住宅地……たまたまでしょうか……)
駅からもほど近い住宅街で、現在は金曜日。時間は遅いが、まだまだ人が歩いていてもおかしくはないはずの道に、菜々以外の人の存在が感じられなかったのである。
道沿いのマンションやアパートからも、生活音が感じられなかった。
まるで、不思議の国にでも入り込んでしまったかのように。
菜々はそのままコンビニを目指すが、一歩、また一歩と進むごとに恐怖を覚える。
菜々(こんなことなら歩夢さんを起こしてついてきてもらえばよかった……)
菜々はため息をつき、その足をさらに速める。
そして、暫く歩くと、不意に視界の端に裏路地に入っていく人影のようなものを菜々は捉えた。
菜々は先ほど愛と話した事件を思い出した。
菜々(こんな時間にあんな場所を通ろうと?)
菜々はもしあれが女子高生だったらと不安になった。
菜々「いえ、誰であろうと、このような時間に大通り以外を通るのは危険です。止めなくては――――――」
菜々がその裏路地へ足を向けようとすると、後ろから肩に手を置かれた。
菜々「―――――――――」
驚き、大きく心臓が跳ねた。
声にならない声を上げる菜々。
そのまま驚きと恐怖のあまり、動けずに硬直する。
しかし、身構えた耳に届いたのは、聞きなれた、優しい声だった。
歩夢「せつ菜ちゃん、どうしたの?」
ドクンドクンと大きく脈打ってた心臓は、その後ろから聞こえた声を聴くことで徐々に正常に戻って行った。
手の主は、歩夢だった。
菜々「歩夢さん……驚かせないでください!」
歩夢「え? なんかごめんね?」
驚きと恐怖を隠すように、大げさに怒る菜々に、歩夢は思わず反射的に謝った。
そして、菜々はそのまま口を開こうとしたが、驚きのあまり、言葉が出なかった。
周りから集まる視線。
菜々は周りを見渡し、改めて驚いた。
先ほどまで一人だったはずの大通りに、大通りの名にふさわしい数の人が歩いていたのだ。
人々は何事かと歩夢と菜々を見ながら、歩みを止めることはなく、視線を向けている。
歩夢「せつ菜ちゃん?」
歩夢に呼ばれ、はっと我に返った菜々。
菜々「いえ、すみません。少し驚いて大げさに怒ってしまいました」
歩夢「ううん、大丈夫だよ。」
そう言って微笑む歩夢を見て、先ほどの景色の変化など気にならないほどに菜々はうれしくなった。
菜々(ああ、やはりこの笑顔は変わらない――――――)
歩夢「けど、一人で出歩くなんて駄目だよ? さっき愛ちゃんも言ってたでしょ? この辺り最近危ないんだから」
菜々「あ、ちゃんと聞いてたんですね」
歩夢「途中までね。お腹いっぱいで眠たくなっちゃったけど……」
恥ずかしそうに微笑む歩夢に、菜々もつられて微笑む。
が、それも一瞬。菜々はハッと視界の端に入った裏路地を見て、思い出した。先ほど見た人影を――――――。
菜々は慌ててその裏路地の入口へと向かい、立ち止まる。
その裏路地は不自然なほど暗く、まるで、先の見えない闇がどこまでも広がっているようだった。
菜々(暗くてよく見えません。……気のせい……だったのでしょうか……?)
確かめるように、二歩、三歩と、奥へ進む。
その闇へ一歩、さらに一歩。
進むごとに、菜々は再び不思議な感覚に陥った。
最初ははっきりしていた足取りが、少しずつ、はっきりしてこなくなり、どんどんと目の前が真っ暗になっていく。
歩夢「せつ菜ちゃん? どうしたの?」
後ろから聞こえた歩夢の声。その声で、菜々は再び我に返った。
菜々は今の感覚は何だろうかと疑問が湧いたが、きっと暗い裏路地が怖くなってしまったのだろうと、自己完結し、入り口側へと戻る。
菜々「……すみません、人影を見た気がしたのですが、気のせいだったようです。行きましょう」
歩夢「……そっか」
歩夢の横を通り過ぎ、裏路地から出ていく菜々。
歩夢「やっぱり、呼ばれてるのかな……?」
歩夢のつぶやきは聞こえていなかった。
菜々はそのまま裏路地から大通りへと出てゆき、歩夢がそれを確認し、改めて暗い裏路地の虚空を睨みながら、ポケットに隠し持っていたものを取り出した。
それは細く砕けたガラスで、歩夢はそれにハンカチを巻いて簡素なナイフを作成していたのだ。
歩夢は何もないはずの裏路地を改めてジッと睨みつける。
歩夢「……見えた……希先生の言う通りだ……」
歩夢に見えているものは、線。
3か月前に目覚めてから、人、建物、草木等など、歩夢の目に見えるもの全てに線が引かれていた。
それは、当たり前に万物に存在するが、本来人には見えてはいけないもの。
『死』だと、歩夢はカウンセラーと名乗る女性から説明を受けた。
その“『死』(人には見えてはいけないもの)”を、歩夢は見ることのできたのだ。
そして――――――本来何もないはずの裏路地にも――――――目の前の闇にも線が浮かんでいる。そこに隠された何かがあることを示すように――――――。
歩夢は線を、ガラスのナイフでなぞり切る。すると、目の前から何かが霧散する気配を歩夢は感じた。
同時に、さっきまで真っ暗だったはずの裏路地に月明かりふんわりと降りてきて抜けた先の通りが見えるほどに裏路地全体が明るく照らされた。
歩夢はそのまま空を見上げた。
先ほどまで何も見えなかったはずのビルの間には、窮屈そうに青白く輝く月が収まっていた。
ああ――――――月がきれいだよ、侑ちゃん――――――。
菜々「歩夢さん、何かありましたか? ……あれ? この裏路地、こんなに明るさありましたっけ?」
今度は歩夢が我に返る番だった。裏路地からなかなか出てこない歩夢を心配し、菜々が裏路地を覗き込んだのだ。
歩夢「あ……せつ菜ちゃん、これなんだろうって拾ってたんだ……誰かが踏んだら危ないし、どうしよう……」
歩夢は菜々の疑問をごまかすかのように、困ったよう笑いながら、ガラスのナイフを菜々に差し出す。
菜々「おや、結構大きなガラスですね。見た限り、近くに割れた窓なのは見えませんし……とりあえず、コンビニに持って行って捨ててもらいましょう、私が持ちますよ」
菜々はそう言うと、歩夢からガラスを受け取り、行きましょうかと再び裏路地から出て行った。
歩夢は菜々の背中を見送り、一度振り返って再びジッと、空を見上げた。
菜々「あゆむさーん?」
歩夢「今行くー」
菜々に呼ばれ、歩夢は裏路地からようやく出て行った。
歩夢が見上げていた空には、白い月明かりに紛れ、白い服を着た少女が浮いていたのだった。
〜幕間〜
菜々「そういえば、私がよくコンビニに向かってるとわかりましたね?」
歩夢「実はせつ菜ちゃんがカギをかけてくれた音で起きたの。出てったのに荷物はおきっぱだし、せつ菜ちゃん泊りに来るといつも朝食用意してくれてるんだから予想はつくよ。けど、次からはちゃんと起こしてね?」
菜々「はい。申し訳ありません。」
そのまま買い物を済ませ、二人が帰宅していると、二人の横に1台のパトカーが止まった。そして、中から中肉中背の人のよさそうな警察官が話しかけてきた。
警察1「こんばんは。二人とも、お話いいかな?」
菜々「はい。いかがされましたか?」
警察2「最近この辺り物騒でしょ? だから、いろいろな人に声かけてるの。今降りるから、念のため身分証とか持ってたら見せてもらっていいかな? 時間は取らせないから」
助手席から、少し若め警察官が警察手帳を提示しながら言うと、菜々は二つ返事で了承した。
歩夢「私、財布とか家だから身分証とか持ってないんですけど……」
警察1「別にお二人が何かしたからってわけではないから大丈夫ですよ。あくまで記録なので」
歩夢「……犯人、やっぱり見つからないんですか?」
警察1「ニュースの通りです。私たちにできることは、こうして毎日のパトロールで、次の犠牲者が出ないようにすることだけ、歯がゆいです」
歩夢「そうなんですね。お疲れ様です。ご無理はなさらないように」
警察1「お優しい言葉、感謝いたします。私たちも皆さんが早く安心して生活できるよう精一杯務めるので」
警察2「先輩、終わりましたよ。深夜徘徊で補導はしなくて大丈夫です」
警察1「おお、そうか。ではお二人とも、お気をつけて」
二人の警察官はそう言うと、パトカーに乗り込んで、去って行った。
菜々「やっぱり、警察の人たちも大変そうですね」
歩夢「そうだね」
菜々「本当に……早く犯人が見つかるといいのですが……」
不安そうに言う菜々の言葉を聞いて、歩夢は呟く。
歩夢「……本当に捕まえられる犯人ならいんだけどね……」
菜々「え? 歩夢さん、何か仰いましたか?」
歩夢「ううん、何でもないよ。それより、早く帰ろう? 明日に備えて早く寝なきゃ」
菜々「あれだけ寝て、よく寝れますね」
クスリと笑みをこぼした菜々に歩夢はわざとらしく怒る。
歩夢「それ、どういう意味かなー?」
菜々「きゃー、歩夢さんが怒りましたー」
歩夢「こら、せつ菜ちゃんー!」
二人はそのまま笑い合いながら帰宅するのだった。
次の日
エマ「歩夢ちゃん! 菜々ちゃん!」
病院に着くなり、出迎えてくれたのは二人の先輩であるエマだった。
エマは病院の入口で二人を見つけるなり駆け寄って、ギュッと二人をまとめて抱きしめた。
歩夢「エマさん、お出迎えありがとうございます」
菜々「エマさん、こんにちは。ボランティアお疲れ様です」ペカー
菜々と歩夢もエマを抱き返しながら挨拶をする。
エマは月に2度、歩夢の通院日に合わせてボランティアを西木野総合病院で行っていた。
というのも、現在歩夢がカウンセリングを受けている先生がこの西木野記念病院の時期院長の友人で、同時にエマの父親の恩人の弟子だからと歩夢は聞いている。
最初聞いたときは、世の中狭すぎると思ったが、実際にそういう繋がりがあると言われれば信じるしかなく、先生もしゃべっていて楽しい人なので、歩夢は気にしないことにした。
エマ「菜々ちゃんありがとー。歩夢ちゃんも元気? イタイイタイなところない?」
歩夢「エマさん、私は子供じゃないんですから……」
少し赤くなりながらいう歩夢に、エマは少し寂しそうな、悲しそうな表情で申し訳なさそうに言う。
エマ「ごめんね? けど、歩夢ちゃんは三か月前まで寝たきりだったからついつい心配で……」
歩夢「うっ……それは……」
歩夢はバツが悪そうに下を向いた。
菜々「ふふ、歩夢さん。エマさんもこう言ってくださってるんですから、いろいろしてもらいましょう」
歩夢「うん。じゃあ、いろいろお願いしちゃおうかな?」
歩夢がそう言うと、エマは眼を輝かせた。
エマ「うん、何でも言ってね! あ、とりあえず受付しちゃおー。歩夢ちゃん、診察券と保険証貸して」
歩夢「あ、はい。お願いします」
受付に向かったエマを見送りながら、歩夢は一つため息を付いた。
歩夢「改めて、たくさん心配かけちゃったんだなぁって実感しちゃうね……」
菜々「それはそうですよ。エマさんだけじゃありません。彼方さんも、果林さんも、かすみさんも、しずくさんも、璃奈さんも、愛さんも、私も、全員がお二人のことを心配してました……」
歩夢「せつ菜ちゃん……」
菜々「だから、本当に良かった。歩夢さんだけでも――――――」
エマ「歩夢ちゃーん。真姫先生もう空いてるから診察室にどうぞって。脳外科だから5号室だよ」
受付から歩夢を呼ぶエマの声に、菜々はすべてを言うことなく止めた。
菜々「歩夢さん、呼ばれてますよ」
歩夢「うん、ありがとう。菜々ちゃんはどこで待ってる?」
菜々「私は、侑さんのお見舞いに行ってきます」
歩夢「お見舞い? ……ああ、そういえば、ここなんだっけ?」
ひどく冷たく言う歩夢に、菜々はゾッとした。
理由はわからなかったが、侑の見舞いに言うというと歩夢はひどく不機嫌になるのを、菜々は失念していた。
菜々「え、ええ。そのあとはこの周辺を適当にぶらぶらしてるので、終わったら連絡をください」
訂正
>>79は無視してください。
受付から歩夢を呼ぶエマの声に、菜々はすべてを言うことなく止めた。
菜々「歩夢さん、呼ばれてますよ」
歩夢「うん、ありがとう。せつ菜ちゃんはどこで待ってる?」
菜々「私は、侑さんのお見舞いに行ってきます」
歩夢「お見舞い? ……ああ、そういえば、ここなんだっけ?」
ひどく冷たく言う歩夢に、菜々はゾッとした。
理由はわからなかったが、侑の見舞いに言うというと歩夢はひどく不機嫌になるのを、菜々は失念していた。
菜々「え、ええ。そのあとはこの周辺を適当にぶらぶらしてるので、終わったら連絡をください」 歩夢「うん、わかった。ありがとう、せつ菜ちゃん。じゃあ、行ってくるね」
歩夢はそう言うと、見送る菜々に手を振り、エマと共に診察室に入った。
歩夢「失礼します」
真姫「……こんにちは。久しぶりね、歩夢」
歩夢を待っていたのは、西木野真姫。歩夢の主治医で妙齢の女性。伝説のスクールアイドルグループの一員で、最初は他人の空似だと思っていた歩夢は本人と知ってひどく驚いた。
歩夢「お久しぶりです、真姫先生」
真姫「どう? その後の調子は? 手術跡が痛むとか、運動しにくいとか、食べ物の味がわからないとか、そんなことはない?」
歩夢「たま頭痛に襲われるのと、『線』が見えること以外は特には」
歩夢の言葉に、真姫はため息を付いた。
真姫「やっぱり、それは治らないのね……」
そして、封筒から数枚のレントゲン写真を取り出し、歩夢に見やすいようにホワイトボードに張り付ける。
真姫「歩夢、何度も説明したけど、もう一度、一応、説明するわ。二年前の事故で打ち付けたあなたの頭に行われた手術は成功した。そして、前回の経過観察まで見ている限り、損傷個所などはなく、医学上は、あなたの脳は正常な状態の筈なの」
希「しかし――――――成功したにもかからず、歩夢ちゃんは定期的な頭痛に襲われ、さらに、落書きのような『線』が見えてるという」
奥から、もう一人女性が入ってきた。
優し気な瞳の女性。自称カウンセラーで、歩夢のもう一人の主治医。真姫の友人にして、エマの父親の恩人の弟子。
歩夢に何かあったのは2年も前で3か月前まで寝たきりだったのか
歩夢(あらためて思い出すととすごい変な繋がり……)
真姫「希……」
歩夢「希先生、こんにちは」
希「こんにちは、歩夢ちゃん」
真姫「希、この子の目、なんとかする方法見つかったの?」
希「いやーそれが師匠と連絡が取れないんよ……姉弟子とそのお兄さんも探してくれてはいるけど、ちょっと訳アリの身だからどこにいるやら……」
真姫「なによそれ……それ本当に師匠なの?」
希「一応? 占いとか教えてくれたのも師匠やし、その時にその目についても聞いたんよ。その姉弟子のお兄さんの奥さんが同じ目もってるんやて」
真姫「なによそれ、私聞いてないんだけど。それに、ならその奥さんに対処法聞けばいいじゃない」
希「それが無理なんよ、その人は元々特殊な人で、歩夢ちゃんみたいに『線』の見る見ないをコントロールできるみたいで……」
真姫「ナニソレイミワカンナイ」
希「ただ、これは前回も伝えたけど、こうも言ってた。その目は脳にすごい負担をかけてるものらしいんよ、見ちゃいけないものを見てるんだから当然やね。そして――――――」
このままじゃ脳と精神がすり減って死んでしまう。
希「だから歩夢ちゃん、あんまりその目で人を見ちゃだめだよ? そして、無理に“何か”を見ようとしちゃだめ。いい?」
歩夢「……わかりました」
歩夢がうなずくと、希は心配そうに歩夢を撫でた。
希「歩夢ちゃん、本当に、大丈夫?」
歩夢「ええ、大丈夫です。私には、大切な仲間と幼馴染がついてますから……」
歩夢は振り返り、ずっと泣きそうな顔で話を聞いていたエマに微笑んだ。
一方、菜々はとある病室に来ていた。
ベッドの上に眠るのは、高咲侑。歩夢の最も大切な人。そして、菜々にとっても大切な親友だった。
菜々「お久ぶりです。侑さん……今日で歩夢さんが先に目覚めてから三か月が経ちましたよ……」
菜々はそう言うと、両手で侑の手を包んだ。
菜々「皆待ってます。早く侑さんも目覚めてください。二年は寝すぎですよ……」
菜々は眠ったまま、少し当時より大人びた侑の顔を見て、泣きたくなった。
そして、二年前の事故を思い出すのだった。
2年近くもか。それでかすみから学校サボったこと聞いてたんだね
〜二年前〜
時刻は夕方。
その日、マネージャーである侑も同行し、スクールアイドル部の皆は基礎体力アップのために校外を走っていた。
その道中のことだった。
最後尾を談笑しながら走っていた歩夢と侑は二人同時に見つけてしまった。公園から飛び出したボールと、それを追いかけ、公園を飛び出した少年を。緩やかなカーブの向こうから、車が猛スピードで少年に向かっていくのを。
二人が車道に飛び出したのは同時だった。
少年に駆け寄った侑と歩夢は車のスピードからよけきれないと判断すると、左右から少年を抱きしめた。
そして、響く衝撃音と飛び散る赤。
車は大型車で、スピードも出ていたため、歩夢と侑は大きく吹き飛ばされた。
少年は奇跡的に無傷だったが、二人の怪我は酷かった。
しかし、命こそ助かったが、そこから約二年間、二人は眼を覚まさなかった。
全力は尽くしたが、いつ目覚めるかはわからない。医師は悔しそうに二人の両親に告げていたのを、菜々は覚えていた。
そこからは、本当に長かった。
果林たち三年生たちが卒業し、菜々たち二年生は三年生に進級した。
この際に、歩夢と侑も、特例で進級をさせてもらえた。
また一年が経ち、菜々と愛が卒業した。
この時に優木せつ菜はいなくなった。
そして、今年の六月。
歩夢が眼を覚ました。
居なくなったはずの優木せつ菜は歩夢の中だけに存在していた。
菜々「ほかのメンバーは皆さんもう菜々と呼んでくれますが、歩夢さんだけは、どうしても菜々と呼んでくれないのですよ、何でですかね、侑さん……」
菜々の問に、侑は答えない。
菜々(歩夢さんが来てくれたら――――――けど、歩夢さんは……)
歩夢が目覚めて、リハビリ後に最初にしたこと。それは侑への面会だった。
ここからの話は、菜々が見舞いの際に会った西木野真姫から聞いた話である。
両親に連れられて侑の病室に入ると、歩夢は絶望したかのような表情をした。
そして、ゆっくりと侑に近づくと、布団を力任せにはがしたという。
何をするのかと、その場の全員が驚いた。
そして、眠る侑の全身を確認したのちに、歩夢は眼から大粒の涙を流して病室を飛び出した。
真姫が慌ててそれを追うと、屋上のフェンスに凭れ掛って歩夢は大声で泣いていた。
真姫がどうしたのかと尋ねると、歩夢が大声で縋りつくように真姫が理解できないようなことを叫んだという。
それは歩夢が力尽きて気絶するまで続いた。
その数日後、真姫の紹介でやってきた東条希がカウンセリングをし、歩夢は少し回復した。
しかし、その後頑なに侑の病室に現れることはなく、また、退院後も侑を思い出してしまうからと、両親に無理を言って、虹ヶ咲学園の近くの格安アパートを借り、一人暮らしを始めたのだった。
退院後、一度同好会メンバー全員で侑の見舞いに行こうと提案したが、歩夢は首を縦に振ることはなく、エマ経由で希からのドクターストップもかかったため、菜々は侑の見舞いに関することを歩夢に言うのは避けていたのだが、先ほどはぽろっと漏らしてしまったのだ。
菜々「大丈夫ですよね、歩夢さんは侑さんのことは普段の言動からとても大切にしていることがわかります。だから――――――」
――――――また皆で笑い合えますよね?
菜々は侑に問わず、静かに涙を流すのだった。
本日はここまでです。
とりあえず前半終了です。
説明が長くなり申し訳ありません。
また明日更新予定です。
これで前半か
大長編になる気配だったけど思ったよりコンパクトっぽい?
あくまで歩夢たち中心の物語で、型月側やゲストのμ'Sはこれ以上登場人物は増やさない予定なので、構想通り行けば3万字くらいだと思います。
年齢に関しては一応警察官の職質で深夜徘徊が許させる年齢ということでちょっと触れてました。
>>102
ご指摘ありがとうございます。
明日からの更新では気を付けます。 最序盤で一人暮らし=大学生か……いや違うのか……いややっぱそうなんかい!ってなってしまったw
同じく元ネタ詳しくないけど逆にそれで展開が予想できなくて緊張感ある
二か所訂正。
続きは夜に更新予定です。
>>73
最初聞いたときは、世の中狭すぎると思ったが、実際にそういう繋がりがあると言われれば信じるしかなく、先生もしゃべっていて楽しい人なので、歩夢は気にしないことにした。
因みに、エマがボランティアをしている理由は、歩夢の介助と先生の助手、そして見舞いを目的に病院に通う内にに入院している子供たちに懐かれ、遊んだり、共に歌ったりしている姿を見た看護師たちや真姫に依頼されたからだ。。
>>85
希「それが無理なんよ、その人は元々特殊な人で、歩夢ちゃんみたいに『線』の見る見ないをコントロールできるみたいで……
↓
希「それが無理なんよ、その人は元々特殊な人で、歩夢ちゃんみたいに『線』が常に見えるんじゃなくて、見る見ないをコントロールできるみたいで…… 〜幕間〜
エマ母「私たちの家はね、元々魔術が使えたの」
幼いころ、絵本を読んでいると、母はエマにそう言った。
あの時は、確か2000年代後半、過去に魔女狩りによって処刑された女性の名誉回復裁判が行われたころのこと。
エマはそれを聞いて、自分にも魔法が使えるのかと興奮しながら母に尋ねたが、母は首を横に振った。
もうヴェルデ家の魔術は失われたものとなっていたのだ。
エマはそれにひどくショックを受け、数日の間拗ねたのを思い出した。
以上のことは、父に頼まれて届け物をした女性、後に歩夢のカウンセラーとなる東條希の姉弟子、黒桐鮮花から自分は魔術師だと聞いて思い出した話だった。
エマ(そうだ、何でわすれてたんだろう……)
エマは届物を終えると、すぐに自らの住むアパートへと帰り、押入れを探る。
半年前に虹ヶ咲学園の寮を卒業と出た際に、あまり使わないものをまとめたダンボールの中で、エマは目的の物を見つけた。
厳重に絞められた綺麗な装飾箱。それはエマが幼い頃に祖母に貰ったもので、エマが気まぐれに日本に来る際に持ってきたものだった。
そして、今まで忘れていたが、エマがそこに入れたのは、幼い頃からの宝物だった。
箱を開け、中身を確認する。
中から出てきたのは古びた一冊の本。
過去にヴェルデ家の祖先が使った魔術が書かれた書物だった。
幼い頃、自分の先祖が魔術を使えたと聞き、いつかこっそり練習しようと実家の書庫から持ち出し、この宝箱に入れっぱなしにして忘れていたものだった。
エマ(……お母さんもお父さんも、魔術なんて興味ないからなぁ……)
今の今まで放置されたことを感謝しつつ、本のページをめくる。
そして、その中に一つの魔術をエマは見つけたのだった。
エマ「これなら……もしかしたら侑ちゃんも歩夢ちゃんも……」
エマは魔術書を鞄にいれて病院に急いだ。
ギリギリ面会時間内に入れたエマは侑の病室まで行くと、目的のページを開く。
そこに書かれていたのは、寝ている者の魂と会話をする魔術。
書物曰く、寝ている肉体から離れた魂は本能的に聞かれた問いに答えるため秘密を聞く際になどに使われたらしい。
エマ(もし魂と直接会話ができて、起こすことができれば……)
そんな願いを込めて、エマは眼をつむり、祈るように書物に書かれた呪文を詠唱する。
エマ(私たちの一族はもう魔術を使えないらしいけど、もし使えるなら……お願いします、ご先祖様……)
そして、詠唱が終わり、エマはゆっくりと目を開ける。
そのまま少し待ってみるが、何か起こる様子はなかった。
エマ「そうだよね……私には、何もできないんだね……」
エマは涙を一つ流した。
自分は何を勝手に盛り上がっていたのだろう。こんなことで本当に侑と歩夢を救うことができると本当に思ったのかと。
エマ「ごめんね、隣で変なこと呟いてて、怖かったよね……侑ちゃん。次来るときはお詫びに皆のCD、持ってくるね」
エマ(歩夢ちゃんの顔も見ていこう……)
エマは病室から出て行った。
それからすぐのことだった。
侑が一瞬、本当に一瞬だが淡く輝いた。
その輝きは、誰にも気付かれることはなかった。
上原歩夢が目を覚ましたのは、この出来事から約1年後のことだった。
おまけ
再び現在の病室にて
歩夢「希先生、そういえば魔術ってなんですか?」
希「色々な流派や種類があるから必ずしもそうですとは言えないけど、体内、もしくは外界に流れる魔力で発現する術のことよ〜。因みに意外と万能じゃないんやで。
あと、人によって相性とかも大きいんよ」
歩夢「誰でも使えるものなんですか?」
希「誰にもは使えないんよ。魔術回路(マジックサーキット)っていう特殊な神経を持ってないと駄目だし、持ってたとしてもそれを使える状態にしないとダメ。使えるようにするきっかけは本人次第。
魔術の良し悪しはこれを体に持っている数で決まるよ」
希「因みにうちは魔術回路は持ってないから魔術は使えないんよ」
歩夢「え?」
真姫「あなた……魔術師の弟子じゃないの?」
希「弟子だけど、無いものは無いからねー。けどしつこくお願いしたら占いは教えてもらえたんよ」
歩夢「それってただの追っかけ……」
〜本編〜
月曜日の放課後、歩夢は愛の指導の下ダンスレッスンを行っていた。
愛「1・2・3・4、1・2・3・4」
手拍子に合わせて愛がカウントし歩夢はそれに合わせてステップを刻む。
歩夢「はぁ……はぁ……」
愛「最後、ポーズ!」
顔の横で両手を広げ、動きを静止させる。
そして、数秒その体制をキープしたのち、歩夢は真剣な表情で愛に問う。
歩夢「……正直、どうだった?」
愛「うーん……動きは悪くないんだけど、所々きつくない? 病み上がりだし、やっぱり少しスローテンポの曲の方がいいんじゃないかな?」
歩夢「……基礎体力の方の問題ってこと?」
>>109の姉弟子の名前で調べてみたら希ちゃんの師匠はすごい人物なんだな 愛「それだけかはわからない。けど、今のままじゃ歩夢がこの曲を歌いながら踊り切るイメージが湧かない」
歩夢「……そっか」
愛「ねえ、他の曲じゃダメなの? 『Dream with You』とかさ」
歩夢は首を横に振った。
歩夢「この曲じゃないとダメなの。この曲は――――――」
最後に侑ちゃんが用意してくれた曲だから――――――
愛は驚き、目を張った。
愛「え? ゆうゆが?」
歩夢は力強くしっかりと頷いた。
歩夢「私もあの日の練習前に渡されたんだ。今の――――――事故にあう直前の私のイメージにピッタリだって。だから、私は証明したい、私は寝ていた二年に負けてない。この曲を歌うにふさわしいスクールアイドル上原歩夢だって」
愛「歩夢……」
歩夢「だから愛ちゃん。改めてお願い、私に力を貸して」
歩夢は真剣な表情でそう言うと、愛に手を差し出した。
愛はその真剣な顔の歩夢に見つめられ、困惑したように頬をかいた。
愛「……本当は無理させたくないから止めた方がいいはずなんだけどね……アタシも菜々っちのこと言えないや」
ぼそりと呟いたその言葉は歩夢に届かなかったらしく、歩夢は首を傾げた。
愛「いいよ、愛さんが歩夢のために練習メニュー組んであげる。アタシが協力する以上、中途半端なステージになんてさせないからね」
愛はそう言うと、歩夢の手を握った。
歩夢は嬉しそうに微笑み、ありがとうと礼を述べた。
愛「けど、なんで急にそんなやる気になったの?」
歩夢「うーん……ちょっとね……」
バツが悪そうに言う歩夢に、愛は不安になった。
愛「……土曜日、病院でなにかあった?」
歩夢「えっとね、土曜日に付き添いしてくれたエマさんが私をすごい心配してくれてたの。それでね、この二年間、本当に心配されてたんだなって改めて実感してね?」
愛「そりゃそうだよ。皆すごい心配してた。仕事の関係でなかなか会いに来れないけど、果林だって可能なら毎日でも歩夢の顔みたいってこの間電話で嘆いてたし」
歩夢「え?」
愛「あ、これ内緒って言われてたんだった……アタシが言ったって、果林には内緒ね?」
歩夢「あ、うん……。でね、話を戻すと、次のライブをお礼のライブにしたいんだ」
愛「お礼のライブ?」
歩夢「そう。皆へ、心配してくれてありがとうございましたって伝えるライブ」
愛「なるほどなるほど、すっごいいいじゃん」
歩夢「ありがとう。愛ちゃんならそう言ってくれると思ったんだ」
お見舞いには行けなくても侑ちゃんの曲を歌うことはできるんだ
歩夢は嬉しそうに微笑んだ。
歩夢「あ、とはいっても、私には歌うことくらいしかできなから、全力で新しい曲を歌って前に進んでます。って伝えることしかできないんだけど……」
少し恥ずかしそうに言う歩夢に、愛は首を横に振った。
愛「それが何より歩夢らしいんだよ。一歩一歩、コツコツ進んで、その時にできることを全力でするが歩夢でしょ? そんな歩夢を、私たちは見たいんだよ」
歩夢「愛ちゃん……うん、ありがとう」
愛「じゃあ、そのためには練習頑張らないとね。歩夢、もっかい通しでやってみる?」
歩夢「うん、お願い」
練習を再開する二人。
そんな二人を見守る影が、三つあった。
かすみ「なんだ……歩夢先輩元気そうじゃないですかぁ。これはあとで練習サボったことおこらないといけませんねぇ」
しずく「ふふ、かすみさんってば、金曜日土曜日って歩夢さんのことすごい心配してたくせにそんなこと言っちゃって」
からかうようにいうしずくの言葉に、かすみは顔を赤くした。
かすみ「なっ……練習サボる人の心配なんてするわけないじゃないですか! しず子、部長をからかうのもいい加減にしてください!」
明らかに照れ隠しで怒鳴るかすみ。そんなかすみに追い打ちをかけるように、璃奈がスマホを取り出した。
璃奈「さて、ここに三か月前に歩夢さんが目覚めた時に撮影した動画があります」璃奈ちゃんボード『ニヤッ』
再生ボタンを押すとそこから聞こえてきたのは、かすみの声だった。
かすみ『あゆむせんぱぁあああい! ぼんどうにじんぱいしたんでずがらヴぇえええ!』
歩夢『かすみちゃん、心配かけてごめんね』
璃奈が流した動画には大号泣し、もはや何を言っているかわからないかすみが歩夢に抱き着き頭を撫でられている様子が収められており、それを見たかすみはさらに顔を赤くした。
かすみ「りな子ぉおおおおおおおお! 」
璃奈「やっべ、かすみちゃん怒った」璃奈ちゃんボード『クールに去るぜ』
追いかけっこを始め二人の背中を見て、しずくは嬉しそうに微笑んだ。
しずく「本当に、歩夢さんだけでも帰ってきてくれてよかった」
しずくは二人がいなくなった後の同好会の様子を思い出した。
本日はここまで。
最低限にするつもりが、どうしても説明が増えてしまう……。
クロス・オマージュって難しいですね……
元ネタ詳しくないからこれくらい説明あるとわかりやすくていいかも。面白い
果林と菜々――――――せつ菜を中心に、同好会の活動は再開したが、皆は事故のショックを隠せずにいた。
あるものは事故を忘れるように練習の強度を上げた。
ある者はバイト、家の手伝いを理由に部に顔を出す頻度が減った。
それでも同好会は完全にばらばらになることはなかった。
歩夢と侑が戻ってくると皆が心のどこかで信じていたからだ。
ある後輩は、自分の特技を生かし、自分の曲よりも尊敬する先輩の曲をライブで歌い続けた。
理想のヒロインを演じきって、皆にその先輩を覚えていてほしいと思いを込めて。
しかし、残酷にも時は過ぎ、歩夢たちが目覚めるのを待つ間に、二年の時が経過してしまった。
同好会メンバーは、段々と卒業をしていった。
自分たちも、このまま卒業し、歩夢と侑が戻ってくる場所がなくなってしまうのではないか。当時の一年生たち三人はそのような不安を抱えていた。
それでも信じ続けた結果、二年目に奇跡は起きた。
歩夢が帰ってきたのだ。
その知らせを受け、全員が喜んだ。
動画に残されているのはかすみだけだが、しずくも、璃奈も泣きながら歩夢に抱きしめられた。
一番酷かったのは、エマで、かすみのように大号泣ではなかったが、泣きながら、ずっと歩夢を抱え、撫で続けていた。
歩夢が戻ってくれば、次は侑。しずくは真っ先に歩夢にともに侑の部屋へ見舞いに行こうと提案をしたが、その時はドクターストップがかかり、後日となった。
そして、その数日後、歩夢が侑と対面したが、すぐに部屋から出て行き、その後の面会も拒否をしている、ということを菜々から聞き、全員が驚いた。
歩夢にとって、侑は何よりも優先すべき存在ということは、同好会全員の共通認識だった。
そんな歩夢が侑を拒絶した。
しかも、見舞いを提案した菜々に、これまで聞いたことがない冷たい声で、とくれば、何かあったとしか思えなかったが、歩夢は目覚めたばかりで、再開はほんの数秒。しかも、侑は寝たきり。
何かがあるはずもなく、メンバーは全員が混乱した。
その後、歩夢はすぐに退院し、一人暮らしを始めた。
その週末にはすぐに退院と引っ越し祝いのパーティが行われた。
歩夢は菜々からの報告が嘘かのように、明るく、優しく、皆の記憶の中の歩夢のままだった。
パーティは穏やかに進み、もうすぐお開きというところで、果林が皆を代表して歩夢に提案をした。
果林「ねえ、歩夢。一度、皆で侑のお見舞いに行かない?」
歩夢「…………」
笑顔を張り付けたまま歩夢は固まった。
果林「あなたがこうして目覚めたんだもの。どうせなら、また全員で集まりたいわ、侑も含めて――――――」
歩夢「それは無理です」
全てを言う前に、歩夢は返答した。先ほどまでの笑みが嘘のように、無表情となった歩夢のその返答に含まれているのは、拒絶。
菜々に聞いていたとはいえ、いざ目の当たりにすると全員が驚いた。エマを除いて。
それでも、すぐに我に返った果林は続けて歩夢に頼んだ。
果林「歩夢、お願い。侑はあなたをとても大切に思っていた。だから――――――」
エマ「駄目だよ、果林ちゃん」
今度はエマが果林の言葉を遮った。
エマ「侑ちゃんのお見舞いは、カウンセラーの先生からストップがかかってるの」
果林「……そういえば、歩夢の先生は、エマの知り合いだったわね」
エマ「そうだよ」
果林「……わかったわ。歩夢ごめんなさいね、病み上がりなのに無理させるような提案をして……」
頭を下げた果林に、歩夢は首を横に振る。
歩夢「頭を上げてください。私、今、本当にうれしいんです」
エママは魔術試して1年も経つからそれが関係あるとは想像もしてないのかな
果林「うれしい?」
歩夢は先ほどまでの表情が嘘のように、優しく微笑んだ。
歩夢「二年もたってて、皆大人っぽくなってて……果林さんなんてさらに美人になってて、私なんかの雲の上の存在にも見えてたんです。けど――――――こうやって侑ちゃんも大切にしてくれている果林さんをみて、あ、果林さんは優しくてかっこいい果林さんのままなんだなぁ――――――って」
果林「歩夢……」
胸から込み上げる思いに従い、果林は歩夢を抱きしめた。
果林「当たり前でしょ。私はいつまでもあなたの先輩の朝香果林よ。いつだって、あなたの手の届く場所にいるわ」
エマ「あ、果林ちゃんズルい! 私も歩夢ちゃん抱きしめる!」
愛「愛さんも混ぜろー! りなりー、行くよ!」
エマと愛が抱き着くのを合図に、自分も、自分もと、同好会メンバーが次々と歩夢を抱きしめる。
彼方「皆―、あんまりはしゃぐとお隣さんに怒られちゃうよ?」
彼方がそう窘めると同時に、隣の部屋から壁をドンと叩かれ、ビクリと全員の肩が跳ねあがった。
そのまま全員で顔を見合わせ、笑いあったのが、しずくの記憶には新しかった。
だからこそ、しずくは腑に落ちてなかった。
しずく(歩夢さんは侑さんに会うのをなぜこんなにも拒否するんだろう……)
思い返して、しすくは決心した。歩夢に直接聞こうと。
一言だけど彼方ちゃんも登場でこれで全員か
欠けてなくてよかった
思い返して、しずくは決心した。歩夢に直接聞こうと。
〜放課後〜
練習が終わり、歩夢が愛と共にアパートに帰ると、電気がついていた。
愛「あれ? 菜々っち来てる?」
歩夢「みたいだね……」
愛は当たり前のように合鍵でカギをあけ、電気のついた部屋に入る。
愛「ただいまー、菜々っち?」
歩夢「部屋主より先に家に入る友人……」
しかし、二人を出迎えたのは、予想外の人物だった。
彼方「あ、歩夢ちゃん、愛ちゃん。おかえりー」
歩夢「え?」
愛「あれ? カナちゃん?」
彼方ちゃんがあまり出てこないのはこういう理由があったのか
楽しみな展開だ
彼方「彼方ちゃんだよー、歩夢ちゃんも愛ちゃんも元気してる?」
愛「元気元気! カナちゃんも久しぶりだね」
菜々「お二人とも、お帰りなさい」
彼方の奥から、エプロンをつけた菜々が顔を出し、歩夢と愛の顔から血の気が引いた。
歩夢「せ、せつ菜ちゃん、ただいま……」
せつ菜「お二人を待ってる間に彼方さんに習いながら料理を作りました。早く上がって、手を洗ってください」
歩夢「う、うん……」
ぎこちない動きで部屋に上がる歩夢と、何も言わない愛に彼方は耳打ちする。
彼方「大丈夫、隠し味入れる暇がないくらいにちゃんと見てたから」
歩夢と愛はほっと胸をなでおろした。
>>152
修正
彼方「彼方ちゃんだよー、歩夢ちゃんも愛ちゃんも元気してる?」
愛「元気元気! カナちゃんも久しぶりだね」
菜々「お二人とも、お帰りなさい」
彼方の奥から、エプロンをつけた菜々が顔を出し、歩夢と愛の顔から血の気が引いた。
歩夢「せ、せつ菜ちゃん、ただいま……」
菜々「お二人を待ってる間に彼方さんに習いながら料理を作りました。早く上がって、手を洗ってください」
歩夢「う、うん……」
ぎこちない動きで部屋に上がる歩夢と、何も言わない愛に彼方は耳打ちする。
彼方「大丈夫、隠し味入れる暇がないくらいにちゃんと見てたから」
歩夢と愛はほっと胸をなでおろした。 その後、菜々特製の夕飯に舌鼓を打ちながら彼方やその妹である遥の近状を尋ねるのだった。
歩夢「じゃあ、東雲高校は今は部活時間が制限されてるんですね」
彼方「そうなんだよね〜、遥ちゃんも今年が最後だからってすごい気合入ってたけどこのご時世だからねー。犯人、早く捕まってほしいよー」
愛「本当にね。けど、そういうカナちゃんだって気を付けてよ? 今はたまたま女子高生が対象なだけで、カナちゃんだって犯人に襲われちゃうかもしれないんだから」
彼方「ふふふ、それは大丈夫―! 彼方ちゃんは最近秘密兵器を手に入れたのだ」
にやりと笑みを浮かべ、スマホを操作して一枚の画像を三人に見せる。
そこに映っていたのは、綺麗な紫色の小さな軽自動車とそれに寄りかかるようにポーズをとる果林、エマ、彼方の三人だった。
菜々「軽自動車ですね……彼方さん、まさか……!」
彼方「ふふふ、ご想像の通り、この子、彼方ちゃんの愛車なんだぜ……」
愛「マジで?」
彼方「マジだよ〜。毎月少しずつ貯金して、ようやく買えたんだ〜。もちろん中古だけどね。けど、これで遥ちゃんやお母さんの送り迎えができるぜぃ」
歩夢「彼方さんすごい!」
彼方「ありがとー。実は今日も近くまでは乗ってきてるんだ〜。バイト先が近くだから、停めさせてもらってるの」
因みにオーナーにはちゃんと許可取ってるよと胸を張った。
愛「えーいいなぁ。帰り乗せてよー」
菜々「ズルいです愛さん、私も是非!」
彼方「よいぞよいぞ」
最初に出てくるのが遊びにいくじゃなくて
家族の送迎なの彼方ちゃんいい子すぎる
車に興味を持たれうれしいのか、上機嫌の彼方。
そんな彼方とは裏腹に、歩夢は疎外感に襲われていた。高校生にとって、車は大人運転する乗り物である。その車の運転を彼方はしているのだ。その事実が、改めて二年という時の流れを感じさせていた。
歩夢は自らのその疎外感から目をそらすように、上機嫌の彼方に別の話題を振る。
歩夢「そういえば、彼方さん。今日はどうしたんですか? 遊びに来てくれるなら言ってくれればお菓子とか用意したのに。彼方さんならいつでも大歓迎なんですから」
愛「確かに。カナちゃん今日はどうしたの? 菜々っちに料理を教えに来たわけじゃないでしょ?」
菜々「そうでした。私も夕飯を作ろうとしたタイミングで彼方さんが急に訪ねてきたのでびっくりしたのですよ。てっきり歩夢さんと事前にお約束があったのかと」
彼方「おっと、そうだった。菜々ちゃんに一生懸命料理教えてたから忘れちゃってた。このままじゃ後輩の御家にお夕飯御馳走になりに来ただけの先輩になっちゃうとこだったよー」
歩夢と愛は心の中でお礼を言いながら、カバンを漁る彼方の様子を見守った。
彼方「はいこれ、エマちゃんからお届け物です」
そう言って彼方が取り出したのは、細長い木箱。
歩夢「エマさんから?」
歩夢はその箱を受け取るとしげしげと見つめる。
彼方「正確には、歩夢ちゃんのカウンセラーの先生からだって」
歩夢はそれを聞くと、急ぎ箱を開けた。
愛と菜々、そして彼方も興味深そう箱を覗き込んでいる。
箱の中に鎮座していたのは、鞘に納められたナイフだった。
菜々「これは……」
愛「ナイフ?」
歩夢はそれを取り出し、鞘から抜いてみると、刃の部分は黒く、ライトに反射し、プラスチック特有の輝きを放っている。
歩夢「軽い……これ、プラスチックでできてる……」
彼方「ダミーナイフってやつだね〜、サバイバルゲームなんかでよく使われる奴だ」
愛「カナちゃん詳しいね」
彼方「彼方ちゃんが今バイトしてるのそういう施設なんだー。結構お給料いいんだよー。アナウンスしたいりー、たまに人数足りない時とかお客さんに交じって参加したりー、楽しいよー」
菜々「しかし……なぜこれを歩夢さんに?」
歩夢「……底に手紙が入ってる」
ぼそりとつぶやいた言葉は三人に聞こえなかったようで、歩夢は菜々たちの興味がナイフへ集中している内に、手紙を箱から抜き取り、こっそりと部屋の隅に移動して読み始めた。
希『歩夢ちゃんへ
姉弟子が歩夢ちゃんの話を聞いて、お守りとして、そのルーンの刻まれたダミーナイフをくれました。
使わないことが一番ですが、その『眼』をもっている以上、何かに巻き込まれてしまう可能性は捨てきれません。
そんなときに、そのナイフを使ってください。
姉弟子曰く、急造品なので効力は一回ですが、その効果は――――――』
歩夢はそこまで読み終えると、着信音が部屋に響いた。
響いた着信音は二つ。
片方は愛の、もう片方は歩夢のスマホからだった。
愛「ごめん、りなりーから」
そう言うと、愛は部屋の隅に移動し、スマホを耳に当てた。
歩夢も手紙をたたんでポケットにしまい、スマホの画面を確認する。
歩夢「……かすみちゃん?」
歩夢はなぜか嫌な予感がした。その予感に呼応するように、愛も少し不安げな、心配をするような声を上げた。
愛「え? それ何時ごろから?」
歩夢はその嫌な予感が杞憂であればいいのにと思いながら、通話ボタンを押し、電話を耳に当てた。
歩夢「……もしもし?」
かすみ「あ、歩夢先輩? しず子、そっちに行ってませんか?」
慌てた様子のかすみの声。
きっと演技だ。
今回はどんないたずらを考えているのだろうか、どうかすみを叱ろうか、と考えながらいつも通りに返答する。
――――――心臓の鼓動が、不安でやけにうるさく感じた
歩夢「来てないよ? 何かあった?」
歩夢は声が震えないように、静かに尋ねた。
――――――この不安は気のせいだと、自分に言い聞かせた。
かすみ「二時間くらい前から、しず子と連絡が取れないんです!」
歩夢「そうなの? けど、しずくちゃんのお家は鎌倉だし、もしかしたら電車で寝過ごしちゃってるのかも――――――」
かすみ「違うんです!」
歩夢の声を遮った電話越しの怒鳴り声。
それは愛のスマホからも聞こえた。
菜々「今の……かすみさん? 璃奈さんと一緒にいるようですが……」
菜々と彼方も不安そうな表情で、通話をする愛と歩夢を交互に見つめる。
そんな不安げな視線に気づかないようにしながら、歩夢は思考をプラスに持って行こうとする。
歩夢(かすみちゃん、実は友達思いだから、不安になってるだけだよね。そうだよ、お台場がこんななんだもん。少し普段より大げさに心配しても仕方がないよ)
そうに違いないと、歩夢は自分に言い聞かせる。
――――――心臓の音が、彼方に、菜々に、電話越しのかすみに聞こえるのではないかと考えるほど大きく聞こえる
しかし、無情にも、かすみの言葉は、その希望を打ち砕いた。
かすみ「今日、歩夢先輩に聞きたいことがあるからって! 迷惑承知で終電ギリギリになるようにって! 二時間前までりな子の家に一緒にいたんです! しず子は今――――――」
全てを聞く前に、歩夢は菜々が持っていたナイフを奪取し、靴を履き、家を飛び出した。
かすみ「ここに――――――お台場にいるんです!」
かすみの絶叫と共に、歩夢が飛び出した玄関のから冷たい風が入り込んできた。
今日はここまで
平日入るので更新できるかわかりませんが、できる限り毎日更新目指して頑張ります。
本日もありがとうございました。
まだ死人は出てないみたいだから少し警戒が甘くなってるのかな
修正
>>167
かすみの絶叫と共に、歩夢が飛び出した玄関から冷たい風が入り込んできた。
〜本編〜
菜々「歩夢さん!」
歩夢の後を追い、菜々も慌てて部屋を飛び出した。
愛「歩夢! 菜々っち!」
飛び出した二人に声をかけるが、止まる様子はなく、足音は遠ざかって行った。
愛は無意識に舌打ちを一つし、スマホで璃奈に確認する。
愛「りなりー、かすみんと歩夢、通話繋がってる?」
璃奈『かすみちゃん、歩夢さんとの通話は……』
かすみ『切られちゃいました……』
璃奈『繋がってない。愛さん、私たちも――――――』
愛「絶対ダメ!」 愛は璃奈に怒鳴った。
愛は普段璃奈に対して甘い。本人は菜々が歩夢に甘いというが、それ以上に璃奈に対して甘かった。溺愛していると言っても過言ではなかった。
そんな愛が、璃奈に対して怒鳴った。
璃奈はそれに対し、本人の想像以上に大きな衝撃を受けた。
しかし、その一言で同時に冷静にもなった。
愛「りなりーもかすみんも友達思いなのはよく知ってる。けど、何があるかわからない。二人とも絶対に外出ちゃだめだよ? しずくはアタシたちで探すから……いいね?」
愛は今度は璃奈に優しく諭、璃奈は小さく愛にごめんなさいと謝った。
愛「うん、アタシも怒鳴ってごめんね。歩夢たちとさっさとしずく見つけるから、待ってるんだよ」
愛はそう言って通話を切った。
愛「カナちゃん!」
彼方「しずくちゃんがいなくなったんだよね、ちゃんと聞いてたよ。で、彼方ちゃんはどうすればいいかな? ここでしずくちゃん待ちながら皆の連絡係になった方がいい?」
愛「流石カナちゃん、話が早い! それに加えて、カナちゃんに頼みたいのはもう一つ。エマっちへの連絡。どうせカリンといるんでしょ? 二人でりなりーの家に向かってもらって、りなりーとかすみんを安心させてあげるように伝えて」
愛も上着を着て、玄関で靴ひもを結びながら彼方に要求する。
彼方「OK。警察への連絡は?」
愛「あー……とりあえず一旦待ってもらっていいかな? ああやって飛び出したってことは、歩夢にあてがあると思うんだ」
彼方「わかったよ。歩夢ちゃんの城は、彼方ちゃんが全力で守ってるぜ」
愛「そんなこと言って寝ないでよ? あ、あとこれ預けとく。歩夢の部屋の合鍵」
彼方「え? 君たちいつのまにそんな関係になったの?」
愛「冗談言ってる場合じゃないよ! それに菜々っちも持ってるから! 行ってきます!」
警察に連絡したら絶対に帰らされるだろうから仕方ないのか
彼方「……三角関係……いや、侑ちゃんもいるから四角関係? 歩夢ちゃん、罪な女だねぇ……なんて、現実逃避してる場合じゃないんだよね……」
彼方はすぐさまエマに電話をかけた。
彼方「あ、エマちゃん? うん、歩夢ちゃんに例のものは渡したよ。でね、今どこにいる? 大変なことが起きちゃったんだ――――――」
一方、歩夢を追いかけて飛び出した菜々は、歩夢を見失っていた。
最初はすぐ後ろをついて行ってたのだが、歩夢は病み上がりとは思えないほどの速度で通りを駆け抜け、あっという間に突き放されてしまったのだ。
菜々(歩夢さん、どちらに……)
菜々が周りを見渡しながら走っていると、ポケットの中でスマホが震えた。
立ち止まり、スマホを確認すると、電話の主は愛。
菜々はすぐさま通話ボタンを押した。
菜々「すみません愛さん。歩夢さんを見失ってしまいました。」
愛『え? 見失った?』
菜々「はい……お恥ずかしい限りです……」
愛『とりあえず合流しよう。今どこにいる? 位置情報頂戴』
菜々「わかりました、すぐに送ります」
そして、位置情報アプリを操作し、愛に位置情報を送ってそのまま待機する。
菜々「そうだ、直前まで連絡を取っていたのなら――――――」
菜々は愛を持つ間、かすみに電話をかけた。
菜々「かすみさん、菜々です」
かすみ『菜々先輩、しず子は? しず子はみつかったんですか?』
菜々「いえ、残念ながら……なので、しずくさんと最後にどんな会話をしてたのか教えていただけませんか? 探すヒントになるかもしれないので」
かすみ『しず子との会話ですか? そうですね……特に変わった会話はしてなかったと思います』
菜々「どんな些細な会話でもいいんです。メッセージでのやり取りですか? 通話ですか?」
かすみ『そうですか……えっと、してたのは通話です。しず子がなんか月曜日だけど人通りが少なく感じて怖いって電話してきたので、大通り通りなよって話はしました。通ってたみたいですけど……。あと、たしか今日は肌寒いとか……しず子が寂しくないように色々三人で話してました』
菜々「そうですか……確かに、しずくさんはあまりこちらに土地勘もありませんし、変な通りを使うとは思えませんね……」
かすみ『あ、そういえば……通話が切れる直前、変なこと言ってました。電波が悪かったのか、うまく聞こえなかったんですが――――――』
裏路地に入る人影がどうとかって――――――
菜々「……え?」
菜々が思い出したのは、金曜の夜のこと
菜々(あの夜は、異様に寒く感じて――――――)
歩夢の部屋から出てすぐに、肌寒さを感じて、少し厚手の上着を借りなかったことを公開した。
菜々(人通りも少なくて――――――)
人の気配が感じられない大通り、生活音がしないマンションやアパート。まるで、不思議の国にでも入り込んでしまったかのようだと、菜々はあの時考えた。
菜々「何より、あの人影――――――」
――――――こんな時間にあんな場所を通ろうと? 見つけた人影に対してそう疑問に思い、ついて行こうとしたところを歩夢に止められた。
>>185
修正
歩夢の部屋から出てすぐに、肌寒さを感じて、少し厚手の上着を借りなかったことを公開した。
↓
歩夢の部屋から出てすぐに、肌寒さを感じて、少し厚手の上着を借りなかったことを後悔した。 かすみ『あと、最後に、暗い、怖い、これ以上進めないって……』
菜々は背筋が凍った。
体験していた。
だからわかってしまった。
自分はまさに、その被害者になりかけていた。
その事実が、菜々にあの時の恐怖を思い出させた。
かすみ『最初は、いつものしず子のいたずらだと思ったんです……けど……ネタバラシの電話も来ないで、こっちから電話しても通じなくって……それでそれで、どうすればいいかわからなくなって、気が付けば時間だけ過ぎてて――――――慌てて歩夢先輩に――――――』
耳に当てている筈のスマホから聞こえる声が、遠く感じた。
そんな菜々を我に返したのは、電話越しの、鼻をすする音だった。
電話越しに泣く後輩。
菜々が恐怖を払拭するきっかけは、それだけで十分だった。
菜々(かすみさん……そうだ、私はあの時、歩夢さんに助けてもらったじゃないですか。そうです、後輩を安心させてあげれないで、何が先輩ですか!)
菜々は携帯を一度ポケットにしまい、両手で頬を叩いた。
震える足、震える手。
そんなもの、菜々の大好きの前では些細な問題だった。
大好きな後輩たちを助ける、それだけで菜々は行動できた。
菜々「かすみさん、私も、歩夢さんも、愛さんも、全力を尽くします。だから、璃奈さんと待っていてください」
かすみ『ななせんぱい』
菜々はかすみを安心させるよう、小さく微笑んで、通話を切った。
そして、菜々は改めてかすみからの情報と、自らの体験を思い返しながら考えを整える。
菜々(あれはつい先日の出来事。つまり、あれと似た感覚がある場所に行けば、そこにしずくさんがいる……そして――――――きっと、そこに歩夢さんも――――――)
金曜日に歩夢が菜々に声をかけたタイミングは冷静に思い返すと、完璧なタイミングだった。と、菜々は思った。
その他にも、なかなか裏路地から出てこない歩夢。わざわざ持ちやすくハンカチで巻いたガラス、帰りがけのつぶやき、思い返せばキリがなかった。
菜々(偶然かもしれない。けど、偶然にしてはできすぎている。何より、エマさんから届けられたあのナイフ―――――)
菜々「歩夢さん……あなたは……」
愛「菜々っちー」
そして、歩夢について考えていると、愛が菜々に追いついてきた。
菜々「愛さん……」
愛「ごめんね、待たせて。じゃあ、歩夢を追おうか」
菜々「わかりました。愛さん、走りながらでいいのでお耳に入れたいこと――――――」
菜々は愛へ走りながらかすみから聞いたしずくの情報と自らの体験を話すのだった。
短いですが今日はここまで
ありがとうございました。
おつです。後輩のために恐怖を振り払える菜々かっこいいね
菜々「――――――ということなんです」
愛「菜々っち、それもっと早く教えてよ!」
菜々から聞いた情報は愛を動揺させるのには十分すぎる内容だった。
走りながらだというのに、ツッコミのボリュームが思わず大きくなり、駆け抜ける二人へ通行人も思わず視線を向けた。
菜々「すみません。今の今まであの状況に疑問を持っていなかったので……」
お恥ずかしいかぎりですと、菜々はなぜ気付かなかったのかと、羞恥で顔が少し赤くなった。
愛「けど、その菜々っちの状況としずくの状況がまったく同じっていうのは確かに気になるね。しかも、歩夢は今回真っ先に動いた」
菜々「はい、私を助けてくれたのも、偶然ではないと思うのです」
愛「だね。歩夢はきっと何か知っているんだよ。疑問はたくさんあるから、はりきってはっきりさせようか!」
菜々「……そのだじゃれは少々無茶かと……」シマラナイナァ……
愛「あ、やっぱり?」
菜々「しかし、私もあの感覚は覚えているとはいえ、いったいどう探したものか……一応歩夢さんが向かったと思われる方向で璃奈さん宅へ向かうように走っていますが……」
愛「りなりーの家まで結構あるからね……そうだ! ヘイ、りなりーに電話して!」
菜々「え、あ、璃奈さんへですか?」
菜々が慌ててスマホをポケットから取り出そうとするのを愛が笑って止める。
愛「違う違う。ワイヤレスイヤホン、こういう時に通信できるようにつけといたんだ。――――――あ、りなりー?
璃奈『愛さん、どうしたの?』
愛「うん、願いがあるんだ。大体でいいんだけど、りなりーの家から歩夢の家まで大通りを使った徒歩ルートの候補と、しずくがりなりーの家を出てから通話が切れるまでの時間を頂戴」
璃奈『わかった。すぐに送る』
愛「ありがとー。もうすぐエマっちとカリンがそっちに行ってくれるはずだから、おとなしく待ってるんだよ」
璃奈『わかった……愛さん、しずくちゃんをお願い』
愛「うん、愛さんにお任せってね!」
愛さんがナーフされずにスペックを発揮すると頼りになるなあ
愛が通話を切るとすぐにスマホが震えた。
ポケットから取り出し、メッセージアプリの画面を確認し、愛の口角が上がった。
スマホには、要求通りのルート候補と、しずくが璃奈の家を出てから通話終了までの時間で割り出したしずくの所在候補地を丸で囲んだ地図が送られてきた。
愛「流石りなりー! 要求以上! パーフェクト! もう愛してる、愛だけに!」
菜々も隣からスマホを覗き込み、感嘆の声を上げた。
菜々「なるほど、確かにこれでやみくもに探さないで済みますね! ここからも近いですし、さっそく向かいましょう!」
愛と菜々は改めて通りを駆ける。
暫く駆け、もう少しで第一の候補地と言ったところで、菜々は寒気を感じた。
走って熱くなっている体を芯から冷やすような寒さ。あの日以上に強いが、それは確かに感じたことがあるものだった。
菜々「……愛さん、感じます。たぶんこの近くに――――――あいたっ!」
菜々が愛に話しかけようとすると、愛が突然立ち止まった。
その背中にぶつかった菜々は愛の背中に花から突撃した形になり、その痛みに涙目になりながら尋ねる。
菜々「愛さん、いったいどうしたんですか……?」
菜々が話しかけるが、愛から返答はない。
菜々「愛さん……?」
菜々の呼びかけに、愛は答えない。
そして、愛は動き出したかと思うと、ゆっくりと180度方向転換をした。
予期せぬ形で愛と向き合う菜々。
愛の顔を見ると、その眼は虚ろで、意識が感じられなかった。
そして、菜々の存在など気にしないように、元来た道を戻ろうとする。
同じ場所にいても菜々には感じ取れて愛さんにはわからなかったんだな
菜々「愛さん? しっかりしてください、愛さん!?」
戻ろうとする愛を引き留めながら菜々は気が付いた。
この道を歩いている人々が、この道を通ろうとすると引き返している。
そして、その眼は皆、今の愛のように、まるで意識がない。ただただ命令されたロボットのようだった。
菜々「愛さん、しっかりしてください……愛さん!」
意識の戻らない愛。
菜々は状況に対する恐怖と、しずくと歩夢を早く探さなくてはという焦りから無意識に、思いっきり右手を振りかぶった。
響く音と、右手に走った痛み。
菜々「あ――――――」
菜々(やってしまいました……)
頬を張られ、動きを止めた愛。
なかなか動き出さぬ愛を心配し、菜々は愛を呼んだ。
菜々「あ……愛さん?」
菜々が愛の顔を覗き込むと、その瞳にだんだんと光が戻ってきた。それと同時に、愛がプルプルと震え、左頬を抑えた。
愛「……痛い……あれ? なんか頬っぺたすごい痛いんだけど……なんで? 愛さん泣きそう……」
意識が戻ったことに安心した菜々はほっと胸をなでおろしたが、そんな暇はないと、急いで謝り、愛の手を取り走り出す。
菜々「愛さん、よかった……申し訳ありません。緊急事態ゆえに、叩いてしまいました。理由は進みながら話すので、行きましょう!」
愛「え? 菜々っちが叩いたの? 何で? え? え?」
突然の痛みと、菜々の告白に、混乱しながらもついていく愛。
しかし、周りの状況を見ればこの道が普通でないことに愛もすぐに気が付いた。
愛「これって……」
菜々「愛さんも周りの皆さんと同じ状況でした。私はなぜか正気だったので、愛さんを正気に戻そうとしてるうちに……」
愛「なるほど……愛さん本当にびっくりしたよ……イタカッタシ……」
愛の小さく付け足した声が聞こえ、菜々は改めて謝った。
愛「けど、菜々っちは何で大丈夫だったんだろうね?」
菜々「一回あの体験をしたことで、耐性でもついたのでしょうか……? 今も、なんとなくですが、あの時の恐怖を感じた何かを感じますし……」
愛「大丈夫なの?」
菜々「はい! 今は愛さんもいますし、心強いです!」
菜々が見せた笑みはせつ菜の時代によく見たペカーと効果音が聞こえそうなもので、愛は懐かしく感じた。それと同時に気が付いた。自らの手をつかむ菜々の手が震えていたことに。
愛「菜々っち、何かあれば、愛さんが守ってあげるからね!」
菜々の手を握り返しながら、愛が言う。
菜々「……ありがとうございます。私も、愛さんを守ります。そして、歩夢さんもしずくさんも……」
愛「そうだね!」
二人がそのまま通りを進むと、菜々が今まさに、ビルの間の小道に入ろうとする歩夢を見つけた。
菜々「愛さん、あそこ!」
愛「え? 歩夢!」
愛が大声で呼ぶと、歩夢が二人の方に振り返った。
歩夢「愛ちゃん!? せつ菜ちゃん!?」
驚いて、立ち止まる歩夢。そんな歩夢に駆け寄っていく二人。
菜々「よかった、追いついた――――――」
歩夢「二人とも、来ちゃダメぇえ!」
歩夢は慌てながら二人に大声で制止しを促す。
それと同時だった。
歩夢の背後の小道に広がる暗闇から二本の白い手が伸びできた。
愛・菜々「「え?」」
それは二人に巻き付くと、二人を闇の中へと引きずり込もうとする。
歩夢は急いでナイフを抜き、その白い手の『線』を切り裂こうするが、その不意打ちに反応しきれなかった歩夢をあざ笑うかのように、二人の姿は暗闇の中へ消えていった。
歩夢は悔しそうに奥歯をかみしめ、二人を追うように、自らもその暗闇の中へと飛び込むのだった。
本日はここまで。
亀更新でなかなか話が進まず申し訳ありません。
また明日書きます。
話が進むのが少しくらい遅くてもキャラ描写が丁寧でいいと思う。雰囲気出てるし
愛と菜々が白い腕に巻かれていたのはあまり長くはない時間だった。
眼を開けている筈なのに何も見えない、暗闇としか形容できない空間を抜けた菜々と愛を待っていたのは、白く輝く何かだった。
普段ならば何も気にするほどではない淡い輝きだったが、二人は暗闇を抜けたばかりの状態。そのまぶしさに、思わず目を細めた。
そして、それと同時に、二人をここまで拉致してきた白い腕にポイと放り出される。
菜々はお尻を地面に打ち付け、愛は倒れるように転び、小さく悲鳴をあげた。
打ち付けた個所を撫でながら立ち上がる二人。
立ち上がるまでの時間で目が慣れてきた二人は、その輝きを放つ何かの方へ顔を向けた。
そして、その光景に目を張った。
そこにいたのは、長髪の、白い服を着た女性。
二人が見たのは、その女性が、二人の後輩に――――――気絶する桜坂しずくに馬乗りになって首を絞めている光景だった。
これで2人にも今回の事件が普通の通り魔じゃないと認識できたわけか
愛「しずく!」
愛は気が付けば駆け出していた。
それと同時に愛の呼び声で二人に気が付いたのか、女性はしずくの首から手を放し、上半身を起こした。
それを好機と見た愛は、しずくに対して馬乗りになる女性に向かって飛び蹴りを放つ。
愛「アタシたちの大事な後輩に、何してんのよぉおおおおお!
菜々「ラ〇ダーキック!?」
加速のついた愛の全体重が乗った飛び蹴り。それは女性をぶっ飛ばす――――――ことはなかった。
菜々・愛「「え?」」
愛の体は、女性の体を通り過ぎた。いや、すり抜けた。
驚きのあまり、愛は着地に失敗し、殺しきれなかった勢いのせいで数回地面を転がったが、持ち前の反射神経と運動能力ですぐさま体制を立て直した。
菜々は目の前の光景を疑った、こんなことがありえるのかと……。
愛「菜々っち、今の……」
女性は改めて自らをすり抜けていった愛を少し見つめたのちに、何かを考えるようなそぶりをして立ち上がった――――――いや、“浮き上がった”。
愛と菜々は自らの目を疑った。よくよく見れば、女性には足がないのだ。
菜々「まさか――――――」
愛「幽霊っていうこと?」
菜々は改めてその幽霊を観察する。
浮き上がった身長は、そんなに自らと変わらない気がした。
そして、その顔立ちは、目元は見えないが、なんとなく同じ年くらいだと印象を受ける。
菜々(いえ、幽霊の時点でおいくつかはわからないのですが……。しかし、この方、なにか――――――)
――――――懐かしい感じがする。
この、なぜか感じる懐かしさ、それは、愛も同様に感じていた。
愛「アンタ……何者?」
幽霊を警戒する菜々と愛。
愛の質問には答えずに幽霊は二人を一度交互に見つめると、菜々の方をみて、口角を上げた。
その瞬間、菜々の背筋に冷たいものが走った。
菜々(こちらを見て、笑った?)
寒いはずなのに、脂汗がにじむ。ごくりと、菜々は大げさに唾を飲み込んだ。
愛「ちょっとー、愛さんを無視しないでよー。あ、何にも『ゆう』ことない? 『幽』霊だけに?」
愛は菜々が見つめられた瞬間、嫌な予感がした。
愛は幽霊の気が引ければいいなと軽い気持ちで言ったダジャレ。
そのダジャレに反応し、幽霊はピクリと動きを止めた。
そして、片手で自らの顔を覆って肩をプルプルと震わせた。
愛(やっば……くだらないこと言って怒らせた……?)
愛はすぐさまに、動き出せるように膝から力を抜いて、構えた。
しかし、幽霊の反応は、二人の予想外の物だった。
“笑った”のだ。
天を仰ぐように、口を開けて全身を震わせている様子はまさに大笑いする人そのものだった。
そして、幽霊が出していないのか出ていないのかはわからないが、その声は菜々と愛の耳には聞こえなかった。
しかし、その笑いに合わせ、その空間内の空気、左右のビルの窓や、縦樋、地面までもが大きく揺れた。
その大きな揺れは立っていられないほどで二人はバランスを崩し、地面に膝をついた。
そして、一頻り笑ったのちに、幽霊は口角を上げたまま改めて菜々を見た。
その次の瞬間だった。
幽霊は一瞬で地面に膝をつく菜々の目の前まで迫ると、その首をつかんで体をゆっくりと持ち上げだす。
菜々「――――――っ!」
菜々は苦しさのあまりに無意識に幽霊の手をつかもうと手を動かすが、相手は幽霊のため当然つかめない。
同時に、少しでも地面に足をつけようと、足を思いっきり延ばして抵抗をするが、それも無意味だった。
徐々に宙に浮かされる体。
菜々はなんとか愛に助けを求めようと、苦しさで瞑っていた目を開く。
そして、幽霊と目が合い、その顔を見て、菜々は驚きのあまりに動きを止めるのだった。
愛「菜々っち!」
一方の愛は体制を立て直し、菜々を助けに向かおうとしていた。
しかし、それはできなかった。
何かが、愛を上から抑えつけた。
愛「え?」
驚きで声が漏れたのは、自分が地面に体を縫い付けられたことを認識してからだった。
愛は首を回し、自らの背中を確認するが、そこには何もない。
しかし、自らの体は確実にそこに何かあると認識していた。
愛(ヤバい、ガチだ――――――)
愛が菜々の方を見ると、眼を見開いた菜々が、何故か抵抗をやめていた。
――――――それと同時だった。
菜々の背後の暗闇が突然裂け、光が入りこんだ。
その光をと共に、ナイフを構えた歩夢が空間に入りこんできた。
幽霊は突然の訪問者に、思わず菜々の首を掴んでいた手を離した。
それと同時に、愛は自らの拘束が解かれたのがわかり、急いで立ち上がる。
歩夢は驚く幽霊にまっすぐに向かいながらナイフを振る。
愛「歩夢、ダメ! そいつ、幽霊だからナイフは――――――」
次の瞬間、愛はその眼を疑った。
歩夢が、ナイフで、幽霊の脇腹を切り裂いたのだ。
すり抜けたのではなく、確かに歩夢のナイフは幽霊を切った。
『――――――』
声にならない悲鳴を、幽霊は上げて、今切られたばかりの脇腹を抑えた。
その事実が、愛が見た光景を現実だと認識させる証拠にもなった。
歩夢は、距離をとった幽霊に追撃はしなかった。
幽霊が離した菜々を倒れる前に抱きかかえることを選んだからだ。
菜々「歩夢さん……?」
力なく自らを呼ぶ菜々に歩夢は安心し、息を一つ吐いた。
歩夢「よかった、間に合った……。菜々ちゃん、遅くなってごめんね?」
>>230
修正
歩夢「よかった、間に合った……。菜々ちゃん、遅くなってごめんね?」
↓
歩夢「よかった、間に合った……。せつ菜ちゃん、遅くなってごめんね?」 菜々を安心させようと、微笑む歩夢。
その笑顔を見て、菜々は恐怖による体の強張りがなくなっていくのを感じた。
そして、それと同時に、自らが歩夢に抱きかかえられていることに気が付き、顔を赤くして、歩夢から離れた。
菜々「すみません歩夢さん!」
歩夢「大丈夫だよ、せつ菜ちゃん。愛ちゃんも無事?」
歩夢の体から離れ、謝る菜々に、歩夢は首を横に振った。
そして、続いて歩夢に呼ばれ、愛は我に返った。
愛(そうだ、今は呆けてる場合じゃない)
愛「アタシも大丈夫! 歩夢、ナイスタイミング!」
愛は怪我がないことをアピールしようと歩夢にピースサインを作って見せた。
歩夢「よかった……しずくちゃんも気絶してるだけみたいだし、一安心かな?」
歩夢はそう言うと、ナイフを持ち直し切っ先を先ほどから脇腹を抑えながら顔を下に向けて何やら口をブツブツと動かす幽霊に向けた。
そして、キッと睨むように幽霊に視線を向けると、幽霊の体にも『線』がしっかりと見えた。
瞳が熱くなり、頭が少し痛くなるが、お構いなしに、顔を上ない幽霊を睨み続ける。
歩夢「本当に……幽霊にも見えるんだなぁ……『線』って……幽霊も死ぬなんて、本当に不思議だね?」
歩夢の発言に、菜々は慌てて歩夢の腕をつかんだ。
菜々「歩夢さん、ダメです。この方は――――――」
菜々は歩夢の目を見た。愛にも、歩夢の眼は見えていた。
『死』を見る歩夢の目は、虹色に輝いていた。
その輝きに見蕩れて、言葉を失った菜々。
そんな菜々にわかってるからと言って、改めて幽霊を見る歩夢。
ブツブツと何かを言う幽霊の言葉はいつのまにかにその空間に木霊するように、何度も、はっきり聞こえる声量になっていた。
菜々も、愛も、はっきりと聞き取った。
その声は確かに、自分たちのよく知る大切な仲間の声で、よく知っている言い方で、大切なものを呼ぶように、“歩夢”と呼んでいた。
『歩夢――――――歩夢『歩夢『歩夢『歩夢『歩夢『歩夢『歩夢『歩夢『歩夢『歩夢『歩夢『歩夢『歩夢『歩夢『歩夢『歩夢『歩夢『歩夢『歩夢『歩夢『歩夢『歩夢『歩夢『歩夢『歩夢『歩夢『歩夢『歩夢『歩夢歩夢『歩夢『歩夢『歩夢『歩夢『歩夢『歩夢『歩夢『歩夢『歩夢『歩夢『歩夢―――――――――――
身震いするようなその声に、歩夢は心底嬉しそうに微笑んだ。
そして、愛と菜々が見蕩れるような、妖艶な表情で、愛おしそうに、幽霊に言うのだった。
歩夢「やっと会えたね、侑ちゃん――――――」
幽霊も――――――高咲侑も、顔を上げ、嬉しそうに、歩夢と名前を呼び続けるのだった。
今日はここまで。
また明日かけるように頑張ります。
……やっぱりヤンデレっていいよね(白目)
歩夢を探し続けてたのかな
色々わかりそうで続きがすごく楽しみだ
おもしろいめっちゃ続き気になる
侑ちゃんは助かるのかそれとももう手遅れなのか……
もちろん自由に書いて欲しいけど辛いことにならないといいなと思いながら読んでる
菜々と愛は、この一日で、自分たちが何度驚いたかを、何度恐怖したかを、もはや思い出せないでいた。
何度目を見開いたか、そして、驚くたびにそれ以上の驚き、恐怖するたびにそれ以上の恐怖が襲ってきて、もう表情筋も疲れたし、体中痛いし、感覚がマヒしてきていた。
菜々はもしこの状況がライトノベルや小説だったら、同じような表現ばかりで、読者は飽き飽きしていることだろう。などとくだらないことを現実逃避で考えてしまった。
しかし、事実は小説よりも奇なり。
そんな摩訶不思議な状況が続きに続いて、最後に襲ってきた一番の衝撃に、菜々はもう考えることをやめたくなっていた。
自分たちを襲ってきた相手が、仲間で親友だと思っていた人物だったという事実を、受け入れたくなかった。
しかし、菜々の脳は、聞こえてくる声が、見えてしまったその顔が、その幽霊を、侑だと認識していた。
愛「ゆうゆ……なの……?」
愛も、歩夢のつぶやきと幽霊の声を聴いて、気付かぬうちにつぶやいていた。
その呟きが聞こえたのか、侑は歩夢の名を呼ぶのをやめ、愛を見た。
俯き気味だった先ほどまでは見えなかった顔が、上を向いたことによって、はっきりと見えた。
その顔は、確かに高咲侑だった。
しかし、その瞳にかつての輝きはなく、虚ろに、愛を見つめたのちに、すぐに歩夢の方へ向き直ってしまった。
愛はショックを受けた。
自分は侑を親友だと思っていた。侑が目覚めれば、また笑い合えると思っていた。
しかし、目の前にいる侑は自分などまるで知らないとでも言わんばかりに眼中になかった。
侑は歩夢へ向き直ると、再び、まるで壊れたカセットレコーダーのように歩夢の名を切り返し呼んだ。
歩夢「……やっぱり……侑ちゃんは私の知ってる侑ちゃんじゃないんだね……ううん、エマさんが言ってたっけ? 本能で話す魔術だって……あなたも、侑ちゃんの一面なんだよね……」
侑『歩夢! 歩夢! 歩夢! 歩夢! 歩夢! ――――――』
歩夢「うれしいなぁ――――――私、こんなに思われてたんだ。けど、だからこそ――――――」
歩夢は目の前にナイフを構えた。
歩夢「私はあなたを――――――殺さなくちゃいけない」
歩夢は笑い続ける侑に向かって走り出した。
侑はそれを見て、一瞬きょとんとしたが、すぐさま虚ろな目を輝かせた。
侑『歩夢、遊ぼう!』
侑がそう言うと、侑の背後の空間が歪み、そこから菜々と愛を攫った白い二本の腕が現れた。
歩夢はその腕を注視し、ナイフで線を切り裂こうとする。
しかし、強力な『眼』を持っていても、歩夢も所詮ナイフの扱いは素人。
片方はうまく線を切れたが、もう片方の手に掴まれてしまい、空中へと持って行かれる。
まるで、高い高いでもするかのように。
歩夢「――――――このッ!」
幸いにも、掴まれたのは腰。
両腕の自由を奪われなかった歩夢は白い手にナイフを突き立てた。
侑は苦痛に顔を歪め、歩夢を放り投げた。
歩夢はビルの壁に打ち付けられ、3メートルほどの高さから重力に従って落下した。
ぐしゃりと、人からしてはいけない音が、歩夢からした。
愛「歩夢!」
地面に落下した歩夢に駆け寄る愛。
しかし、侑がそれを許さなかった。
侑は愛が歩夢に近付こうとするのを見ると、侑はそれを阻止せんと、愛と歩夢の間に立ち、愛をジッと睨みつける。
愛「クッ……ゆうゆ……」
愛(……何で……!)
記憶に残る侑の顔が、脳裏を駆け抜けた。その記憶の中の侑と現在の侑が同じだと認めたくない愛は心の中で叫んだ。
何で――――何で――――何で――――!
愛は拳を握りしめた。
何で侑はこんなことをしているのか。
何で侑は自分を認識してくれないのか。
何で侑は幽霊になっているのか。
何で歩夢は幽霊を斬れるのか。
何で、何で、何で、何で、何で――――――
疑問は尽きない。
愛(けど、それも今この状況を何とかしないと――――――)
菜々「侑さん、こっちです!」
にらみ合う侑と愛の横から、菜々の声が響いた。
侑と愛が菜々を見る。愛は菜々の姿を見て、懐かしくなった。
菜々は、髪型を弄り、スクールアイドル【優木せつ菜】の姿をしていた。
菜々「私です、せつ菜です!」
侑は無表情で菜々を――――――せつ菜を見つめている。
その隙にと菜々は愛に視線を合わせ、頷いた。
愛は音を立てぬように、気絶をしているしずくを回収しながら、歩夢の元へと急いだ。
愛「歩夢、大丈ぶ――――――」
愛は歩夢の姿を見て、言葉を失った。
一方、侑と対峙した菜々は不気味な状況にあった。
菜々を見つめたまま、侑が動かないのだ。
もしや、この格好を見て懐かしくなってくれたのではないか、そう思った菜々は侑に話しかけることにした。
菜々「侑さん? 私です、せつ菜です。お久しぶりですね、お会いしたかった――――――」
侑「――――――菜」
菜々「え?」
侑『せつ菜ぁあああああ!』
その声に込められた感情は、怒り。
最初に襲われた時は、きっとそこにいたから。
しかし、今回は明らかに違った。明らかな敵意を持って、菜々は――――――せつ菜は侑に首を掴まれた。
馬乗りになられ、首を絞められる。
それと同時に、菜々は自らの体から力が抜けていく感覚に襲われた。
抵抗したいのに、体に力が入らない。
菜々はただただ自らを憎悪の眼差しで睨みながら首を絞めてくる侑を見上げながら何故と、涙を流す他なかった。
途中寝落ちしかけた……。
今日はここまで。
3万字程度の予定と言いながら、3万字が過ぎました(白目)
乙です
沢山寝て沢山続き書いてくれよな
とても楽しみにしています
おつ。それだけ丁寧に書いてるってことだしいいと思う
期間長くなっても楽しみが伸びるから無理しないで少しずつでも大丈夫
おつです。ずっと緊張感が続いてて続きが本当に楽しみ
菜々(侑さん……私は何かしてしまったでしょうか……)
涙で侑の顔がぼやけてきた。
それを拭おうかと思ったが、体中の力は既に抜けきり、菜々は自分の手足を動かすのも億劫になっていた。
菜々は自分が何かしてしまったなら、侑が、それで気が済むならば、このまま侑にすべてを委ねようか、そう考えた時だった。
歩夢「――――――させないよッ!」
歩夢の声と同時に侑の表情が痛みで歪んだ。
菜々に夢中になっていた侑の右肩に、肩で息をした歩夢がナイフを突き立てていた。
歩夢(……一撃で決めたかったけど……ふらついて外しちゃった。けど――――――)
歩夢の体には“一つも傷はなかった”が、戦闘の疲れと『眼』の反動で応じる頭痛とで満身創痍だった。しかし、それでも最後の力を振り絞り、侑をしっかりとその『眼』に捉える。
歩夢「このまま殺させてもらうよ、侑ちゃん!」
歩夢の虹色の瞳には、『直死の魔眼』には幽霊であるはずの侑の『死』がはっきりと見えていた。
肩口から胴体に向けて伸びる『線』をなぞらんと腕に力を込めた。
侑『歩夢……クッ!』
侑は歩夢を呆気にとられた表情で見た。
そして、このままでは不味いと自らその肩を引きちぎるように侑は菜々の上から離れた。
侑から取れた右腕が光となって霧散するのを見て、歩夢は悔しそうに顔を歪めた。
菜々「あゆむ……さん……」
力の入らない体に何とかカツを入れ、袖口で涙を拭うと、菜々は何とか上半身を起こし、歩夢を助け起こそうとする。
歩夢「侑……ちゃん……ッ――――――」
歩夢は先ほど以上にひどい頭痛に襲われた。
『直死の魔眼』とは、本来普通の人間に発現していいものでない。
そして、この眼に見えている『死』とは厳密には『寿命』で、その『寿命』には『生命の寿命』だけでなく『存在の寿命』も含まれている。
『生命の寿命』は人間も生物のため、比較的に理解できる。
しかし、今歩夢が見ている侑は『幽霊』という、未知の存在であるため本来ならば『死』を理解できない。
幽霊を【そこに存在するから生きている】と無理矢理思い込んで『死』を見ていた。
元々一般人である歩夢の脳は『死』に対する処理能力にも限界があり、その上でさらに無理をしている状態。
その負担が、頭痛と精神的疲労という形で顕著に表れるのは当然だった。
歩夢は侑をしっかり見ようとするが、疲労の所為か、侑の姿をしっかりと捉えることができず、霞んだ姿しか見えない。
歩夢は菜々に支えられながら虚ろながらも、悔しさと悲しみが入り混じった目で、侑を見つめていた。瞳は元に戻っていた。
歩夢の視線を追い、菜々も侑を見た。
そして、先ほどまでの虚ろな目でなく、悲しそうな目をした侑と目が合った。
菜々「侑さん……?」
侑『歩夢……せつ菜ちゃん……愛ちゃん……しずくちゃん……』
侑はその場にいる全員を順番に見たのちに、上空へと浮き上がり、こちらが何かを言う前にどこかに消えていったのだった。
昼間はここまで。
久々に型月側の元ネタ見直したら、「あれ?」ってなって、調べたら歩夢に使わせてる『眼』が覚えてた設定と間違ってて震えてる>>1です。
元々このSS用に簡略化してるので、知ってる人は寛大な心で見逃して頂けると幸いです(言い訳) 歩夢ちゃんが頑なに侑ちゃんを倒そうとするのも何か理由があるんだろうな
元ネタ少ししか知らなくて違和感なく楽しめてる
楽しみにしてます
>>266のあと>>288で歩夢が助け起こされてるけど1レス抜けてる?
描写はないけど頭痛でうずくまったりしたのかな >>274
ご指摘ありがとうございます。
1文抜けてました。 >>266訂正
歩夢の体には“一つも傷はなかった”が、戦闘の疲れと『眼』の反動で応じる頭痛とで満身創痍だった。しかし、それでも最後の力を振り絞り、侑をしっかりとその『眼』に捉える。
歩夢「このまま殺させてもらうよ、侑ちゃん!」
歩夢の虹色の瞳には、『直死の魔眼』には幽霊であるはずの侑の『死』がはっきりと見えていた。
肩口から胴体に向けて伸びる『線』をなぞらんと腕に力を込めた。
侑『歩夢……クッ!』
侑は歩夢を呆気にとられた表情で見た。
そして、このままでは不味いと自らその肩を引きちぎるように侑は菜々の上から離れた。
侑から取れた右腕が光となって霧散するのを見て、歩夢は悔しそうに顔を歪めた。
支えを失った歩夢はバランスを崩し、そのまま崩れ落ちる。
受け身も取れずに、そのまま菜々の真横に転がるのだった。 歩夢もギリギリそうだけど落ちても無傷だったり特別な空間なのか
しずく「……ここは……」
しずくが目を覚ますと、真っ白な天井と左右から心配そうに自分を見つめるかすみと璃奈の姿が目に入った。
かすみと璃奈は目を覚ましたしずくと目が合うと、涙を流しながらしずくに抱き着いた。
かすみ「しず子!」
璃奈「しずくちゃん!」
しずく「えっ? かすみさん? 璃奈さん? どうしたの?」
状況を飲み込めず、抱きしめられたしずくは赤くなりながら二人に問うが、かすみも璃奈もしずくを抱きしめるばかりで何も答えてはくれない。
そして、その様子を見ていた果林と彼方、エマは顔を見合わせ、微笑んだ。
果林「よかったわ……しずくちゃんが無事で」
他の被害者と違ってしずくは侑と繋がりあるけど何も覚えてなさそうか