<鎮痛薬>サッカーW杯選手も陥る「痛み止め」効果の誤解
ゴールデンウイークも残りわずか。すがすがしいこの季節は、スポーツを楽しむ人も多いでしょう。たとえ趣味のスポーツでも、時には体に痛みが生じることがあります。しかし運動直前や運動中に痛み止めを使うことは腎臓、循環器、消化器などに副作用が生じるリスクがあり、痛みの抑制効果も低いことが分かっています。ところが最近、世界トップクラスのアスリートの間にまで根拠のない痛み止め服用が広がっていることが、明らかになりました。多くのマラソン大会にドクターランナーとして参加するよこすか女性泌尿器科・泌尿器科クリニックの奥井識仁院長に解説してもらいます。
◇サッカーW杯選手の間に広がる痛み止め服用
臨床医学の最高峰にある医学誌の一つ「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル」傘下のスポーツ医学専門誌「ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・スポーツ・メディシン」に2015年、国際サッカー連盟(FIFA)所属の研究者らによる論文が掲載されました。
その内容は、FIFAワールドカップ(W杯)の02〜14年の4大会(日本・韓国、ドイツ、南アフリカ、ブラジル)で、参加各チームのプロサッカー選手の総計1000人以上の薬の使用量をまとめたものです。02年大会以降、FIFAは国際試合での薬の使用量をチェックしており、各チームのチームドクターは、試合の72時間前に全選手に処方されている薬の情報を報告するよう求められているのです。
その結果、成人男子選手の69%が非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を服用していたことが分かったのです。NSAIDsとはジクロフェナク、イブプロフェン、ロキソプロフェンやセレコキシブ(それぞれ代表的な商品名はボルタレン、ブルフェン、ロキソニン、セレコックス)などの痛み止めのことです。私たちドクターランナーが、市民ランナーに走る前にはできるだけ飲まないように、と警告している薬を、なんと世界の頂点にいるエリート選手の7割が試合前に服用していたのです。
◇パフォーマンスを下げる薬の作用
論文ではこう警告しています。
「NSAIDsはその抗炎症作用によって骨の治癒を遅らせ、たんぱく質合成を減少させる。そのうえ、運動後には骨格筋の衛星細胞を阻害する」
衛星細胞とは、筋肉のもとになり、筋肉の修復に必須であることが分かっている細胞です。つまり、アスリートにとって「いいことは何もない」わけです。
論文によると、プロサッカー選手の薬の使い方は更に過剰になり、14年のブラジル大会である国の4人の選手はほぼ毎試合、開始前に関節にステロイドを注射していたといいます。ステロイドは大変強い抗炎症作用がある代わりに、使うと免疫が落ちて感染症に弱くなります。医療の世界では基本的に「最終手段」として用いるものです。
◇サッカーの母国では批判的論調も
一昔前は「痛み止めを飲んでまで痛みを抑え、母国のために戦っている!」と美談のように報道されることもありましたが、実際は美談でもなんでもありません。特にサッカーの母国であり、プロサッカー選手のステータスが高い英国では最近、自分たちのキャリアを自ら危機にさらすようなこの行為を、強く批判する論調の報道が増えてきているようです。試合前に痛み止めを使う行為は、尊敬を集めるプロ選手が行うものではなく、社会の模範にならないということです。スター選手に憧れる子供たちが、試合のたびに痛み止めを服用するようなことをしたら、成長への大きな問題をはらむでしょう。
◇痛み止めを飲んで走っても効果なし
一方、同じく15年に「ジャーナル・オブ・アスレチック・トレーニング」というスポーツ医学誌に発表されたブラジルの研究チームによる論文は、マラソン中に痛み止めを飲むことで、タイムが向上するのかを検証しています。
調査対象は、3〜5キロを約10〜15分間のペースを守って走ることができる19歳前後の軍人20人です。彼らにトレッドミルで走りながら、イブプロフェンを飲んでもらいました。結果、NSAIDsを飲んでも飲まなくてもタイムは同じでした。痛み止めで痛みを改善して速く走る、なんてありえないことがはっきりしたのです。
痛み止めを服用しながらスポーツをすることは、メリットがないだけでなく、リスクが非常に高い行為です。やるべきではないのは、明白です。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170506-00000012-mai-soci
ゴールデンウイークも残りわずか。すがすがしいこの季節は、スポーツを楽しむ人も多いでしょう。たとえ趣味のスポーツでも、時には体に痛みが生じることがあります。しかし運動直前や運動中に痛み止めを使うことは腎臓、循環器、消化器などに副作用が生じるリスクがあり、痛みの抑制効果も低いことが分かっています。ところが最近、世界トップクラスのアスリートの間にまで根拠のない痛み止め服用が広がっていることが、明らかになりました。多くのマラソン大会にドクターランナーとして参加するよこすか女性泌尿器科・泌尿器科クリニックの奥井識仁院長に解説してもらいます。
◇サッカーW杯選手の間に広がる痛み止め服用
臨床医学の最高峰にある医学誌の一つ「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル」傘下のスポーツ医学専門誌「ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・スポーツ・メディシン」に2015年、国際サッカー連盟(FIFA)所属の研究者らによる論文が掲載されました。
その内容は、FIFAワールドカップ(W杯)の02〜14年の4大会(日本・韓国、ドイツ、南アフリカ、ブラジル)で、参加各チームのプロサッカー選手の総計1000人以上の薬の使用量をまとめたものです。02年大会以降、FIFAは国際試合での薬の使用量をチェックしており、各チームのチームドクターは、試合の72時間前に全選手に処方されている薬の情報を報告するよう求められているのです。
その結果、成人男子選手の69%が非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を服用していたことが分かったのです。NSAIDsとはジクロフェナク、イブプロフェン、ロキソプロフェンやセレコキシブ(それぞれ代表的な商品名はボルタレン、ブルフェン、ロキソニン、セレコックス)などの痛み止めのことです。私たちドクターランナーが、市民ランナーに走る前にはできるだけ飲まないように、と警告している薬を、なんと世界の頂点にいるエリート選手の7割が試合前に服用していたのです。
◇パフォーマンスを下げる薬の作用
論文ではこう警告しています。
「NSAIDsはその抗炎症作用によって骨の治癒を遅らせ、たんぱく質合成を減少させる。そのうえ、運動後には骨格筋の衛星細胞を阻害する」
衛星細胞とは、筋肉のもとになり、筋肉の修復に必須であることが分かっている細胞です。つまり、アスリートにとって「いいことは何もない」わけです。
論文によると、プロサッカー選手の薬の使い方は更に過剰になり、14年のブラジル大会である国の4人の選手はほぼ毎試合、開始前に関節にステロイドを注射していたといいます。ステロイドは大変強い抗炎症作用がある代わりに、使うと免疫が落ちて感染症に弱くなります。医療の世界では基本的に「最終手段」として用いるものです。
◇サッカーの母国では批判的論調も
一昔前は「痛み止めを飲んでまで痛みを抑え、母国のために戦っている!」と美談のように報道されることもありましたが、実際は美談でもなんでもありません。特にサッカーの母国であり、プロサッカー選手のステータスが高い英国では最近、自分たちのキャリアを自ら危機にさらすようなこの行為を、強く批判する論調の報道が増えてきているようです。試合前に痛み止めを使う行為は、尊敬を集めるプロ選手が行うものではなく、社会の模範にならないということです。スター選手に憧れる子供たちが、試合のたびに痛み止めを服用するようなことをしたら、成長への大きな問題をはらむでしょう。
◇痛み止めを飲んで走っても効果なし
一方、同じく15年に「ジャーナル・オブ・アスレチック・トレーニング」というスポーツ医学誌に発表されたブラジルの研究チームによる論文は、マラソン中に痛み止めを飲むことで、タイムが向上するのかを検証しています。
調査対象は、3〜5キロを約10〜15分間のペースを守って走ることができる19歳前後の軍人20人です。彼らにトレッドミルで走りながら、イブプロフェンを飲んでもらいました。結果、NSAIDsを飲んでも飲まなくてもタイムは同じでした。痛み止めで痛みを改善して速く走る、なんてありえないことがはっきりしたのです。
痛み止めを服用しながらスポーツをすることは、メリットがないだけでなく、リスクが非常に高い行為です。やるべきではないのは、明白です。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170506-00000012-mai-soci