格下の相手だから難しい、ということはない
■岩政大樹・現役目線第25回
先日の天皇杯で、カテゴリーが低い、いわゆる”格下”のチームが”格上”のJリーグチームを倒す、ジャイアントキリングが何試合も起きました。格下のチームの目線で見れば「見事」ですが、ジャイアントキリングをされてしまったJクラブとしては「不甲斐ない」と言われても仕方がないでしょう。
サッカーとは得点を奪うことがとても難しいスポーツであることから、このような番狂わせが起きやすいスポーツと言えます。どんな試合も0-0から始まり、どんな相手にも、勝つことはいつも難しいです。
ただ、僕は「格下の相手との試合”だから”難しい」と思ったことはありません。よく「相手は失うものがないから難しい」とか「格上のチームは勝って当たり前だから難しい」とか言われますが、僕はそうは捉えていません。
格下との試合より格上との試合の方が当然難しいですし、失うものがないチームの方が隙を見つけるのは簡単です。現に、僕は鹿島に所属した10年間でジャイアントキリングをされたことは一度もありません。国士舘大学とPK戦までもつれ込んだり、JFLのホンダFCに延長戦まで粘られたりしたことはあったものの、負けたことはありませんでした。
「鹿島だから当然」と言われれば、その通りです。
サッカーは確かに得点することも勝つことも難しいのですが、「格下だから難しい」というわけではないのです。
■戦いにおける心の置きどころ
では、なぜジャイアントキリングは起きるのでしょうか。どんなときにジャイアントキリングを起こさせてしまうのでしょうか。
格下と対戦するときに格上のチームが陥りがちな心境について考えてみると、その理由のひとつがわかるのではないでしょうか。
サッカー選手はみんな「超」がつくほどの負けず嫌いです。天皇杯の日程面には改善の余地があると思いますが、それでも選手たちのモチベーションに影響はありません。サッカー選手として試合に一生懸命になれないはずがないのです。
問題となるのはモチベーションではなく、戦い方への心の置きどころだと思います。
簡単に言うと、攻撃面では「慎重になること」、守備面では「雑になること」です。
格下のチームとの対戦となると、プロ選手(格上の選手)にはいつも以上に、ミスをすることを嫌う心理が働きます。ミスはいつも怖いですが、格下との試合では怖いという心理よりも、「ミスが恥ずかしい」という心理が少しだけプラスされます。
「格下の相手」、と監督も選手もサポーターも観客も知っている中では、無意識レベルでですが、その相手にボールを取られることや出し抜かれてしまうことをいつも以上に嫌がってしまうのです。
攻撃を始めると、ボールを簡単に取られる姿を晒したくない選手たちは”安パイ”な選択をしがちになります。
ボールを保持していても勝負のパスや仕掛けを躊躇してしまい、結果、ボールを相手のブロックの外で回しているだけになります。そうすると、モチベーション充分で挑んできている格下のチームは”粘る”ことがたやすい状況となり、時間の経過とともに格上のチームのリズムに慣れていき、そして「やれそうだ」と自信を掴んでいきます。
つづく
7/6(木) 18:00配信
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170706-00006139-besttimes-spo&p=1