昨年10月11日。敵地メルボルンでのオーストラリア戦の試合会場に向かう日本のチームバスの中で、沖縄出身バンド、BEGINの「島人ぬ宝」が流れた。ハリルホジッチ監督の要望によるものだった。
「いつもは試合前に音楽は流さないが、その時チームは苦しい状況だった。感受性豊かな選手たちが、日本の歌を聴くことで自信や勇気につながるかと思ってそうした」と指揮官は振り返る。
可能性ゼロからのスタート。昨年9月1日の埼玉スタジアムでアラブ首長国連邦(UAE)に逆転負け。アジア最終予選が現行方式となった1998年フランス大会以降、初戦黒星から本大会出場を果たしたチームはなかった。続くタイ、イラク戦は勝ったものの、期待感が高まるような内容ではなかった。解任論も噴出し、現実主義者の監督が音楽による感性への刺激にすがるほど、日本は瀬戸際に追い込まれた。
3年前のW杯ブラジル大会後に就任したアギーレ監督が、八百長疑惑で在任半年で解任されるという非常事態を受けて発足したハリルホジッチ体制。その内実は、今年3月の敵地UAE戦のような戦術的中の快勝がある一方、停滞感も漂い、常に光と影が交錯する。だが、日本協会関係者は指揮官の存在意義を「幻想との戦い」と言う。
「幻想」とは、きれいにボールを回すことにとらわれていたかつての日本だ。結果、ブラジルでは1勝もできずに散った。世界で結果を出すために必要なものは何か。監督は「デュエル(決闘)」という言葉で球際の激しさを求め、「縦に速く」をキーワードにより効率的な攻撃スタイルを浸透させてきた。まだ道半ば。だが、苦しみながらもアジアを突破し、集大成へと向かう道筋は得た。
指揮官は2015年3月の就任会見で、ここまでの道程を見越していたかのように「もし、うまくいかなければ批判が出るのは当たり前だ。しかし、そんな状況でも皆さんで戦うことが大事」と話し、こう続けた。「私は皆さんと、この日本代表で何かを成し遂げようと思っている」。野望をかなえるための戦いが、ロシアで待つ。
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