第100回全国高校野球選手権大会が5日に開幕する。出場56校による熱い戦いの中で、今年とくに増えそうなのが「今のプレーはリクエストだろ!」という野球ファンの声ではないか。今季からNPBでは監督がリプレー検証を要求できる制度が導入されており、観戦するファンの間にも根づいてきている。今後高校野球の現場でも導入の流れはあるのか。選手、監督、審判団、高野連それぞれの見地から同制度導入の可能性を探った。
日本高野連の竹中雅彦事務局長は本紙の取材に「導入はまったく考えてない。(興行ではなく)競技としてやっていますので。話題にはなっていますが、プロはお金が絡んでいるので、高校野球とはそもそもの趣旨が違う。それとは別に、当然審判員の技術向上はしています」と見解を語った。一方、奥島孝康前高野連会長はかねて「技術的には本来同じでなければいけない。プロアマ規定だけでなく審判の面でも、プロとアマの壁はどんどん崩していかないといけない。ビデオ判定だって、どんどん取り入れていくべき」と話すなど、高野連内部でも意見は割れている。
当事者の選手、監督はどうか。全国制覇の経験もある強豪校の監督は「必要ないですね。なるべく1試合2時間以内で、というのが高校野球。教育の一環というのが大前提で、たとえば学校の体育の授業でいちいち検証はしないでしょ? 2時間の試合、50分の授業のなかですべてを終わらせる。高校野球はそういうものでいいんじゃないでしょうか」。
別の強豪校の監督は「僕はありだと思う。高校生にとっては人生が変わってしまうこともあるし、審判の方にとっても難しいジャッジの負担が減る。いたずらにリプレーするのでなく、明らかな場合は検討するべき」と話した。
別の日本一監督は「審判も人間だから間違うこともある。大事なのは間違いを認めること。せっかく4人いるのだから、一度ミスジャッジがあっても協議して改めてもらえばいい。ミスした審判をかばって、真実を隠すのはあってはならないこと」「リプレーうんぬんというより、そもそも監督が直接抗議できない理由が分からない。選手が何度も行ったり来たりさせられて、面倒だしかわいそう。時間短縮という面でも、リプレーよりもまずはそこから考えてもらいたい」という声もあった。
選手からは「今年の県大会でも本塁クロスプレーで(ベースに)触ってたのにアウトというのがあった。後で写真で確認もしました」「微妙な判定で悔しい思いをしたことは誰でもあると思う。たとえリプレーで流れが止まっても、後でしこりが残るよりは全然いい。試合後にみんなでブツブツ言うのも嫌なものです」「難しいですけど、際どいプレーを気迫でセーフにしていただいたこともある。そういう部分も高校野球の魅力なのかな」との声が上がった。
全国各地で審判員の高齢化も問題となっている。茨城高野連の榎戸専務理事は「茨城では20代の審判が一人もいなく、多くは30代40代。どこの県も事情は同じ。ボランティアなので、仕事を休んで来てもらっている」と苦しい事情を明かす。甲子園での審判経験もある現役審判の一人は「立場上何とも言えない。ビデオ判定のいい部分も悪い部分もあると思うが…」と困惑気味に語った。
ちなみに一部で心配されているコスト面については、プロ野球の場合、リプレー検証は視聴者が見る映像と同じテレビ局の中継映像を利用し、その際に使用料は一切発生しない。そのためテレビ中継が入る甲子園での全国大会はもちろん、地方大会の決勝戦などでも、すぐさま導入は可能だ。
「やるとなると日本全国同じ条件でやるべき」と地方大会の1回戦からという意見もあるが、まずはテレビ中継試合限定など、段階的に導入する手もある。審判員の精神的負担も減るなどのメリットもあり、機運の高まり次第では実現の可能性は高い。
2018年08月04日 16時30分
https://www.tokyo-sports.co.jp/sports/baseball/1084237/