前略
● ウォルバーハンプトン監督が発した強烈な皮肉 「知らない。これは“噂”じゃない」
筆者も個人的には、プレミアに日本人選手が増えるのは大歓迎である。しかも中島は、森保一監督が率いる日本代表で10番を背負う期待の若手エース。前述したように、ウォルバーハンプトンは“嫁ぎ先”としてかなりの優良クラブであり、ぜひ実現してほしいというのが本音だ。
しかし、ここからは悪いニュース――つまり移籍が実現しないかもしれないというネガティブな要素を書かなくてはならない。
まず、最大の理由から記してしまおう。監督が中島の移籍を完全否定したのだ。これは筆者自身が直接エスピリート・サント監督に質問しており、その時の感触はまさしく「けんもほろろもなかった」と言うしかない厳しいものだった。
以下が、その時のやり取りである。
――英国で中島のウォルバーハンプトン移籍が伝えられたが?
「それは噂。これから1月の移籍期間が近づき、終わるまで、ウチといろいろな選手を結びつける噂がこれからもどんどん出るだろう」
――中島という選手を知っているか?
「知らない。これは“噂”じゃない」
噂と断じるだけならまだしも、最後に中島自体も「知らない」と一蹴。しかも中島を知らないことについて、「これは“噂”じゃない」と強烈な皮肉とも取れる発言がくっついてきた。
筆者はこれまでも何度か、メディア上で噂に上がった日本人選手の移籍の可能性について、相手方の監督に直接取材したことがあるが、これほどきっぱり否定されるのは珍しい。もしも少しでも脈があるなら、移籍後の日本人メディアとの対応も考慮し、ここまで痛烈なコメントはしないものだ。
もちろん、獲得したい選手について語れば、他クラブの関心を引いて競合が生まれるケースもあるし、相手クラブの経営陣が交渉に強気に出てくる材料を与えることにもなる。「そんなに欲しいならこっちの言い値を払え」ということになりかねない。特に前述したサンパイオ会長の発言には、そんなニュアンスが露骨に表れている。
● 岡崎の移籍取材時にレスターを率いていたピアソンが見せた反応
それに一般的に監督が他クラブに所属している選手について語ることは、決して好ましいものではない。特にビッグクラブが中堅以下のクラブで活躍するスター選手について言及すると、その選手の所属クラブに対する集中力と忠誠心を乱すケースも多い。
しかしそれでも、監督と報道陣の間には多少の阿吽の呼吸はある。筆者の経験上、獲得に色気がある場合は、ここまで素っ気ない返答はしないものだ。
例えば、2015年夏に実現した岡崎慎司のレスター移籍。筆者は同年5月、当時のレスター監督であるナイジェル・ピアソンの定例会見に出かけ、取材した。
その時、ピアソンは「会見の席では言えない。こういう場では移籍の話をしないのが私のモットーだ」と語ったが、会見後に筆者を手招きし、オフレコを条件に1対1で取材に応じてくれた。そして「今はまだ書くなよ」と前置きすると、「岡崎には興味がある。プレミアでもやれるはずだ」と内密に教えてくれた。
ただし、それは11年に阿部勇樹(現・浦和レッズ)がレスターに所属していたおかげで、ピアソンに一度だけ1対1のインタビューをしており、彼も筆者の顔を覚えていてくれた。そして私がこの取材のためだけに、日本から来たと勘違いしてくれた幸運があった。
話を終えた後、ピアソンから「わざわざ日本から来て、手ぶらで帰らせたのでは気の毒だ」と言われて、英国在住だと教えたら「やられた!」と呟いて破顔一笑された。
もちろん、このピアソンの件は僥倖(ぎょうこう)とも言える例ではある。しかし、それにしても今回のエスピリート・サント監督の対応は冷淡だった。もしもこれが演技だったとしたら、古くて陳腐な表現で申し訳ないが、“アカデミー賞ものの名演技”である。
それに加えて地元記者が、全く中島獲得に関して知らなかったというのもマイナス材料だろう。こちらが中島の移籍について尋ねると「全く知らない。どんな選手だ?」と逆取材してくる始末。クラブに有力な情報ソースがあるはずの地元紙が全くマークしていないということは、ウォルバーハンプトン側に中島獲得の動きがないという証拠にもなる。
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20181222-00156090-soccermzw-socc&p=4