昨今、芸能人が情報番組の司会やコメンテーターを務める姿は珍しくない。芸能人の社会的・政治的発言はネットニュースになりやすく、SNS上で多くの注目を集める。しかし、そこに見当違いの発言があり物議を醸すこともしばしばある。本来、政治や社会問題を深く掘り下げることを目的とするならば、専門家同士で議論を行う方が建設的なはずだ。
なぜ、メディアは芸能人を情報番組に起用するのだろうか。
読者・視聴者が芸能人の社会的・政治的発言に注目する背景やその問題点について、メディア文化の専門家である大妻女子大学の田中東子先生に話を聞いた。
「親しみやすさ」の功罪
——芸能人の社会的・政治的発言が注目を集める背景にはどのような構造があると思われますか。
まずは、メディア側の問題であると分析しています。というのも、さまざまなメディアを通じた芸能人の発言が取り上げられて記事になることにより、私たちの注目を集めている構造があるためです。芸能人のテレビでの発言やツイートを切り取っただけの記事が安易にメディアによって大量生産されているため、注目されていると感じてしまうのではないでしょうか。
また、社会運動の当事者や学識のあるタレントではなく、チャラチャラした雰囲気の若い芸能人やギャルとして売っているタレントの発言を取り上げることが散見されます。これらは単にPVが取れるからということもあるでしょうし、「若い芸能人が社会・政治に関心を持っている」といった視聴者へのメッセージを伝えようとしているのかもしれません。
——では、テレビ局がワイドショーの司会やコメンテーターに芸能人を起用するのには、どんな理由があるのでしょうか。
「ポピュラリティ」の獲得という理由があると考えられます。つまり、視聴者に親しみやすさを感じさせる芸能人を起用した方が、視聴者は見てくれるし視聴率が上がるに違いない――作る側にそのような安易な思惑があるのでしょう。
大学で教えていると、学生から「普段はあまりニュースを見ないけれども、ある情報番組は好きな芸能人が出ているから見ている」といった声を聞くこともあります。親しみやすさやとっかかりを作る意味で、芸能人の起用は重要な役割を果たしているとも言えることから、一概に芸能人が情報番組に出演することが悪いことではないと考えています。
ただ、そこで問題となるのが、勉強不足の出演者がいることです。日常的な感性とともに社会問題や政治の問題に関心を持つのはとても大切なことです。しかし、テレビの影響力の大きさを考えたときに、知識のない人が無責任にコメントしていいものかと、疑問に感じることもあります。
出演者自身が、自分自身の影響力をどれだけ自覚できているのか疑問です。また、出演者の発言に対して制作側のチェック機能がはたらいていないことも問題です。もちろん、出演される方の中には深いところまでしっかり勉強して臨んでいる人もおり、無責任に日常感覚で喋っている人と、社会的正義や社会的責任を果たそうとしている人との間にはグラデーションがあります。
本来、メディアはそのグラデーションに対し、批判的に取り上げたり、発言を分析したりする役割があるはずですが、一部のメディアでは無責任な発言を点検することなく、拡声器のようにばらまいているだけというケースもあります。
また、テレビ局と芸能事務所との蜜月関係もあると思います。いまや情報番組の司会やコメンテーターの仕事が、全盛期を超えたアイドルや、お笑い芸人のキャリアのひとつになっています。
ウェジー2021.09.29 11:00 全文
https://wezz-y.com/archives/93465/2
なぜ、メディアは芸能人を情報番組に起用するのだろうか。
読者・視聴者が芸能人の社会的・政治的発言に注目する背景やその問題点について、メディア文化の専門家である大妻女子大学の田中東子先生に話を聞いた。
「親しみやすさ」の功罪
——芸能人の社会的・政治的発言が注目を集める背景にはどのような構造があると思われますか。
まずは、メディア側の問題であると分析しています。というのも、さまざまなメディアを通じた芸能人の発言が取り上げられて記事になることにより、私たちの注目を集めている構造があるためです。芸能人のテレビでの発言やツイートを切り取っただけの記事が安易にメディアによって大量生産されているため、注目されていると感じてしまうのではないでしょうか。
また、社会運動の当事者や学識のあるタレントではなく、チャラチャラした雰囲気の若い芸能人やギャルとして売っているタレントの発言を取り上げることが散見されます。これらは単にPVが取れるからということもあるでしょうし、「若い芸能人が社会・政治に関心を持っている」といった視聴者へのメッセージを伝えようとしているのかもしれません。
——では、テレビ局がワイドショーの司会やコメンテーターに芸能人を起用するのには、どんな理由があるのでしょうか。
「ポピュラリティ」の獲得という理由があると考えられます。つまり、視聴者に親しみやすさを感じさせる芸能人を起用した方が、視聴者は見てくれるし視聴率が上がるに違いない――作る側にそのような安易な思惑があるのでしょう。
大学で教えていると、学生から「普段はあまりニュースを見ないけれども、ある情報番組は好きな芸能人が出ているから見ている」といった声を聞くこともあります。親しみやすさやとっかかりを作る意味で、芸能人の起用は重要な役割を果たしているとも言えることから、一概に芸能人が情報番組に出演することが悪いことではないと考えています。
ただ、そこで問題となるのが、勉強不足の出演者がいることです。日常的な感性とともに社会問題や政治の問題に関心を持つのはとても大切なことです。しかし、テレビの影響力の大きさを考えたときに、知識のない人が無責任にコメントしていいものかと、疑問に感じることもあります。
出演者自身が、自分自身の影響力をどれだけ自覚できているのか疑問です。また、出演者の発言に対して制作側のチェック機能がはたらいていないことも問題です。もちろん、出演される方の中には深いところまでしっかり勉強して臨んでいる人もおり、無責任に日常感覚で喋っている人と、社会的正義や社会的責任を果たそうとしている人との間にはグラデーションがあります。
本来、メディアはそのグラデーションに対し、批判的に取り上げたり、発言を分析したりする役割があるはずですが、一部のメディアでは無責任な発言を点検することなく、拡声器のようにばらまいているだけというケースもあります。
また、テレビ局と芸能事務所との蜜月関係もあると思います。いまや情報番組の司会やコメンテーターの仕事が、全盛期を超えたアイドルや、お笑い芸人のキャリアのひとつになっています。
ウェジー2021.09.29 11:00 全文
https://wezz-y.com/archives/93465/2