兵庫県尼崎市を舞台やロケ地にしたテレビドラマが急増している。一般社団法人「あまがさき観光局」が支援したドラマのロケは、2020年度は0本だったが、21年度から6本。8月からはNHKが、新型コロナウイルス禍で職を失った、尼崎在住の元キャバクラ嬢が奮闘する夜ドラ「あなたのブツが、ここに」(月〜木曜午後10時45分〜11時)を放送中だ。なぜ今、アマなのか? (藤森恵一郎)
派手なロングの茶髪を後ろで束ねた女性が段ボールを抱え、町中を奔走する。「あなたのブツが−」は、キャバ嬢から宅配ドライバーに転身したシングルマザー山崎亜子(仁村紗和)の生きざまを描いたヒューマンドラマだ。多くのシーンが尼崎で撮影された。
「人の体温が感じられて多様性のある街が良いと考え、尼崎を選びました」。NHK大阪放送局のチーフ・プロデューサー櫻井壮一さんはそう語る。
亜子の実家で母親の美里(キムラ緑子)が営むお好み焼き店は、新三和サンロード商店街の空き店舗。野球場がある小田南公園(同市杭瀬南新町3)、1923年創業の銭湯「第一敷島湯」(同市杭瀬本町1)では、亜子と娘の咲妃(毎田暖乃)の親子場面などが撮影された。
「商店街や工場などがあって多様な人が住む。温かみみたいなものが出せると思いました」と櫻井さん。宅配シーンは、阪急園田駅周辺や市営戸ノ内改良住宅(同市戸ノ内町6)などさまざまな場所が使われた。
ABCテレビの「ムショぼけ」(2021年)、サンテレビの「惑星スミスでネイキッドランチを」(同)、NHKの朝ドラ「カムカムエヴリバディ」(同)…。いずれも尼崎が舞台やロケ地となったドラマだ。
「20年度は0件だったのに、21年度から一気に。ドキュメンタリーやバラエティー番組なども含めると、受けた案件は20件もある」と、市内のロケを支援するあまがさき観光局の田中裕士さん。「積極的に誘致しているわけではなく、テレビ局から『尼崎で撮りたい』と指名があるんです」
重宝されているのが、商店街。阪神尼崎駅と出屋敷駅の間に東西に延びる尼崎中央商店街、南北の三和本通商店街、杭瀬駅北側の杭瀬中市場などが人気という。「シャッター通りの三和市場は『絵になる』とよく言われる。昭和の香りを残した雰囲気が評価されているのでは」
尼崎といえば、かつては「ひったくりが多い」「治安が悪い」などのイメージが強かった。最近はJR尼崎駅前再開発などで同駅周辺が関西の「本当に住みやすい街」1位、阪神尼崎駅が「穴場だと思う駅」1位になるなど、イメージが変わってきた。
「良いイメージが広がり、テレビ局にも、他の街では少なくなりつつあるレトロな街並みや人情味といった魅力を発見してもらえたのでは」と田中さん。同観光局が18年に設立され、ロケの受け入れ体制が整ってきたことも理由と考えられるという。
「ひょうごロケ支援Net」でも最近、尼崎で撮影したいというリクエストが目立つ。同Netの吉良直美さんは「下町の雰囲気に加え、在阪テレビ局にとって、交通アクセスの良さも理由ではないか」と話す。
令和の世。コロナ禍でつながりが希薄になっているからこそ、アマという街が持つ人間くささに魅了されるのかもしれない。(藤森恵一郎)
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