Qjweb2021.6.3
https://qjweb.jp/journal/51558/
(略)
アニメに重要な「共時性」と「ばらまく力」はどうなる?
実数で見るとだいたい10代・20代のネット利用者(1737万人)と40代・50代のネット利用者(1875万人)と似たような規模
と、ここでようやくアニメの話になる。
どうしてアニメが、低視聴率である深夜であっても地上波放送を選ぶかといえば、地上波放送には「ばらまく力(不特定の大多数に届ける力)」とそこから生まれる「共時性(同時に番組を見ているもの同士の間に一種の“共同体”を感じさせる力)」があるからだ。これからの10年でテレビ視聴の割合が減っていく過程で、まず「共時性」が弱くなっていくのではないか。ここ10年ぐらいの間、SNSの持つ「共時性(今のこの瞬間を多くの人とシェアできる機能)」とテレビの「共時性」の相性がよいことが注目されていた。要はテレビ放送があるからこそ、バズって作品の認知が向上する、という考えである。
しかし10代・20代のテレビ離れを考えたとき、次の10年でこの状況が維持されるとは思えない。
最初に見たテレビ視聴/インターネット利用のグラフは、各世代ごとの割合を示したものだった。これを住民基本台帳の人口を使い、想定できる人数に換算するとまた印象が変わってくる。(※「国民生活時間調査」の10歳〜15歳、16歳〜19歳という刻みと、通常の調査の5歳刻みとは異なるが、ここでは大まかな傾向を知るために、「国民生活時間調査」の割合をそのまま10歳〜14歳、15歳〜19歳の人口に当てはめた)
それが「国民生活時間調査」から推定された、「平日に15分以上テレビを視聴する人」「平日にインターネットを趣味・娯楽・教養のために使う人+ネット動画を見る人」の人数である。
割合で見ると若い世代よりネット利用が少なく見える40代・50代だが、実数で見るとだいたい10代・20代のネット利用者(1737万人)と40代・50代のネット利用者(1875万人)と似たような規模なのである。そして10代・20代のテレビ視聴は1233万人に対し、40代・50代のテレビ視聴は2640万人と倍近くいる。つまりテレビを見てネットをやっている40代以上が、テレビ放送とSNSの親和性を可視化している層ではないかという予想ができる。現状でテレビ放送とネットのバズりの相性がよいのは、テレビをよく見ている世代がネットも活用していることが理由である可能性が高いのだ。とすると今後の10年で、地上波放送とSNSの「共時性」による盛り上がりは収まっていく方向に進むのではないか、ということが考えられる。
では、もうひとつの地上波放送の持つ力である「ばらまく力」はどう変化するのか。深夜アニメはこの「ばらまく力」でもって作品の認知を得て、番組視聴さらにはパッケージソフト(DVDやBlu-ray)の購入に結びつけるというかたちのビジネスモデルを20年ほどつづけてきた。しかし、今後10年でテレビ離れ(それはつまりテレビ受像機離れでもある)がさらに進むとなると、「ばらまく力」を想定したアプローチが難しくなる。
とはいえ一方でインターネットは基本的にプル型(ユーザーが必要情報をプルするタイプのメディア)であり、作品の存在をまったく知らない人にアプローチするにはハードルが高い。この「テレビの力は弱まったが、インターネットの性質はまた異なるため、テレビの代替にはならない」という問題は、これからの10年でもっと表面化するのではないか。それをクリアするのは、技術の力(ネット上のサービスのレコメンド機能の発達/新たなSNSの登場)なのか、宣伝アプローチの変化(上映イベント、オンライン試写会などテレビ以外の接触ポイントを増やす)なのか、あるいはあくまでも地上波放送にこだわるのか。ここもまた今後の10年間の注目点といえる。
アニメがなくなることはないけど
このようにこれからの10年間でテレビとアニメの関係はまた大きく変化せざるを得ないだろう。ただ、一方でテレビ局が「放送ビジネス」から「コンテンツビジネス」へと舵を切っていくという流れもあり、アニメは現時点でもすでにテレビ局に放送外収入をもたらす存在としてポジションを築いているので、テレビ局がコンテンツメーカー/コンテンツホルダーとして生き延びようとすればするほど、アニメがなくなるということもまた考えにくいのである。
一方でアニメ業界そのものの活況は、海外配信サービスへの番組販売の売り上げが支えている。この状況がいつまでつづくかは不明ではあるが、作品の売り先がいろいろ拡大する状況で、アニメ業界がテレビ業界との協業にどういうメリットを見つけていくか。
「国民生活時間調査」のグラフを見ていると、そんなふうに今後10年間のアニメ業界の注目点がよりクリアに浮かんでくるのだった。