中国のノーベル平和賞受賞者の民主活動家、劉暁波(りゅう・ぎょうは)氏の痛ましい死を招いた中国政府への米国官民の糾弾が激しく続く。その勢いを見ていると、トランプ政権の対中政策の変質だけでなく、中国のグローバルな活動全体への国際社会のブレーキのような抑制を連想させる。
この悲劇は日本も誘われている中国の「一帯一路」や「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」という国際構想の衣の下の人権弾圧という非人道のヨロイを見せつける効果があるからだ。
経済と人権に直接のリンクはないように見えても、その経済活動の主体がどんな価値観を抱くのかは無意味のはずがない。
米国がいま中国共産党政権の何を非難するのか、劉氏の非業の死に敏速に対応した米議会の有力議員たちの発言が象徴的である。
「中国政府は民主主義を唱えただけの劉暁波氏を不当に死刑に処したに等しい。劉氏は獄中で死ぬノーベル平和賞の受賞者としてはナチス・ドイツに迫害された1935年度の受賞者、カール・フォン・オシエツキー氏以来、初めての実例だ」(クリス・スミス共和党下院議員)
「中国当局の獄中での劉氏に対する医療措置の欠落や、彼の最後の願いの外国での治療をも拒む残虐性は私たち全てを憤慨させ、中国政府による人間の自由への恥ずべき蹂躙(じゅうりん)に対する抗議を決意させる」(ナンシー・ペロシ民主党下院議員)
「劉氏は米国の建国理念と同様の国民の自治や自由を唱えたことで処罰された。中国当局はしかも劉氏夫人を弾圧し、劉氏の遺体の扱いにも介入した。トランプ政権はただちに中国政府の残酷な措置への責任追及を対中政策全体に反映させねばならない」(マルコ・ルビオ共和党上院議員)
トランプ大統領も劉氏の死を悼む声明を出したが、これまでの対中姿勢は批判を経済や安保に集中させ、人権問題をほとんど提起してこなかった。
だが今回の事件での中国政府の人権弾圧への全米官民の激烈な非難、特にトランプ支持層中核の議会共和党からの糾弾にトランプ政権高官たちも人権を論じるようになった。政権として対中政策で人権も重視する兆しを見せてきたのだ。
今回の悲劇のグローバルな影響も重要である。
最近の中国は習近平国家主席の主導の下、新グローバル・パワーへの道を歩み出した。「中国の夢」とか「平和的発展」という政治標語を具体化しての「一帯一路」や「AIIB」という国際構想の推進である。中国が主役となり、他の諸国との連携を得て、中国自体の国際的影響力を拡大する戦略だといえる。
この種の国際連携では当事国同士がどこまで共通の価値観を共有できるかも鍵となる。その場合の共通価値とはやはり民主主義や法の支配、人権尊重などだろう。
だが中国はそれらの普遍的価値を持たないどころか敵視することが劉氏の悲劇で立証されたのだ。
米国大手紙、ウォールストリート・ジャーナルの13日付社説は事件のグローバルな教訓として「中国は軍事、経済の威力により対外的に自国の非民主的な専制独裁のモデルを広げ、民主的な国際秩序をも覆そうとしている」と論じていた。
中国主導のグローバル構想の危険への警告だといえる。日本にとっても中国との付き合い方での貴重な教訓となろう。(ワシントン駐在客員特派員)
http://www.sankei.com/world/news/170722/wor1707220011-n1.html
http://www.sankei.com/world/news/170722/wor1707220011-n2.html
http://www.sankei.com/world/news/170722/wor1707220011-n3.html
劉暁波氏(右)と妻の劉霞さん(劉氏の家族提供・ロイター=共同)
この悲劇は日本も誘われている中国の「一帯一路」や「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」という国際構想の衣の下の人権弾圧という非人道のヨロイを見せつける効果があるからだ。
経済と人権に直接のリンクはないように見えても、その経済活動の主体がどんな価値観を抱くのかは無意味のはずがない。
米国がいま中国共産党政権の何を非難するのか、劉氏の非業の死に敏速に対応した米議会の有力議員たちの発言が象徴的である。
「中国政府は民主主義を唱えただけの劉暁波氏を不当に死刑に処したに等しい。劉氏は獄中で死ぬノーベル平和賞の受賞者としてはナチス・ドイツに迫害された1935年度の受賞者、カール・フォン・オシエツキー氏以来、初めての実例だ」(クリス・スミス共和党下院議員)
「中国当局の獄中での劉氏に対する医療措置の欠落や、彼の最後の願いの外国での治療をも拒む残虐性は私たち全てを憤慨させ、中国政府による人間の自由への恥ずべき蹂躙(じゅうりん)に対する抗議を決意させる」(ナンシー・ペロシ民主党下院議員)
「劉氏は米国の建国理念と同様の国民の自治や自由を唱えたことで処罰された。中国当局はしかも劉氏夫人を弾圧し、劉氏の遺体の扱いにも介入した。トランプ政権はただちに中国政府の残酷な措置への責任追及を対中政策全体に反映させねばならない」(マルコ・ルビオ共和党上院議員)
トランプ大統領も劉氏の死を悼む声明を出したが、これまでの対中姿勢は批判を経済や安保に集中させ、人権問題をほとんど提起してこなかった。
だが今回の事件での中国政府の人権弾圧への全米官民の激烈な非難、特にトランプ支持層中核の議会共和党からの糾弾にトランプ政権高官たちも人権を論じるようになった。政権として対中政策で人権も重視する兆しを見せてきたのだ。
今回の悲劇のグローバルな影響も重要である。
最近の中国は習近平国家主席の主導の下、新グローバル・パワーへの道を歩み出した。「中国の夢」とか「平和的発展」という政治標語を具体化しての「一帯一路」や「AIIB」という国際構想の推進である。中国が主役となり、他の諸国との連携を得て、中国自体の国際的影響力を拡大する戦略だといえる。
この種の国際連携では当事国同士がどこまで共通の価値観を共有できるかも鍵となる。その場合の共通価値とはやはり民主主義や法の支配、人権尊重などだろう。
だが中国はそれらの普遍的価値を持たないどころか敵視することが劉氏の悲劇で立証されたのだ。
米国大手紙、ウォールストリート・ジャーナルの13日付社説は事件のグローバルな教訓として「中国は軍事、経済の威力により対外的に自国の非民主的な専制独裁のモデルを広げ、民主的な国際秩序をも覆そうとしている」と論じていた。
中国主導のグローバル構想の危険への警告だといえる。日本にとっても中国との付き合い方での貴重な教訓となろう。(ワシントン駐在客員特派員)
http://www.sankei.com/world/news/170722/wor1707220011-n1.html
http://www.sankei.com/world/news/170722/wor1707220011-n2.html
http://www.sankei.com/world/news/170722/wor1707220011-n3.html
劉暁波氏(右)と妻の劉霞さん(劉氏の家族提供・ロイター=共同)