北京特派員時代に付き合った中国共産党幹部と、7月中旬から連絡が取れなくなった。党の規律部門に連行されたとの情報があるが真偽は不明だ。
この幹部は最近失脚した孫政才・前重慶市党委書記が北京市党委秘書長だった時の直接の部下だった。郷里も同じく山東省であるため、「孫氏一派とみられたのではないか」と周りが推測している。
この2週間、重慶市、北京市、吉林省、そして国務院の農業省など、孫氏がかつて勤務した地方や省庁で、少なくとも数十人の党幹部が連行されたと証言する党関係者がいる。大物政治家の失脚に周辺者が連座することは中国では珍しくない。
3年前、最高指導部にあたる政治局常務委員まで経験した周永康氏の失脚では、親族や元部下ら約600人が連座したという。
失脚した大物の周辺が粛清される理由は2つある。(1)党中央の決定に「二心」を抱きかねない潜在的な不満分子の排除(2)大物を有罪にするため元部下からの供述獲得−だ。
大方の国・地域では、捜査機関が犯罪の事実を固めて容疑者への強制捜査に乗り出すが、中国の場合は党がまず対象者を事実上拘束し、それから証拠を集めはじめることはよくある。
米国を拠点とする中国語情報サイト「博訊」によれば、2012年の前回党大会で選出された中央委員、中央委員候補計376人のうち、汚職などで32人が検挙された。そのうちの大半が権力闘争によるという。孫政才氏も新たな代表例といえるかもしれない。
香港メディアなどは、孫氏の失脚理由として、孫氏の妻が監査役を務める大手銀行、民生銀行の不正融資事件に関与した可能性などを挙げている。
しかし、香港紙がこれまで報じてきた他の指導者らの金銭スキャンダルと比べれば、いずれも小さなケースである。失脚の真の理由は、習近平国家主席がいわば「外様」に属する次世代の有力候補の排除に動いたと考えた方が自然だろう。
農業学の博士号を持つ孫政才氏は学者タイプの政治家である。党内の各派閥とも良好な関係にあったが、逆にいずれの派閥にも属さなかったといわれる。
大学教師から地方指導者に転じ、北京市順義区の区長当時には、農民の土地収用問題などをうまく解決して、中国メディアに「孫有才」(才能がある孫氏)と持ち上げられたほどだ。
その後、農相、吉林省党委書記を経て12年から重慶市に赴任した。党中央の権力闘争と距離を置き職務に専念した。16年の重慶市の経済成長率は10・7%を記録。全国の省レベルではトップだった。
しかし、次期党大会に向けて各派閥の抗争が白熱化した今、実績が政治局常務委員レースの追い風でなくなったことが、派閥と距離を置いてきた孫氏の誤算だったかもしれない。
一方で、孫氏と同じくポスト習近平の有力候補といわれる胡春華・広東省党委書記は「無事に済むのか」とささやかれ始めた。
孫氏の失脚が公表された7月24日を境に、北京、上海、四川などの地方指導者が相次いで党中央の決定に支持を表明した。
さて、渦中の胡氏はどうか。広東省の幹部会議を主催し「支持」を表明したのは、4日遅れの同月28日だった。(外信部次長)
http://www.sankei.com/premium/news/170803/prm1708030007-n1.html
http://www.sankei.com/premium/news/170803/prm1708030007-n2.html
http://www.sankei.com/premium/news/170803/prm1708030007-n3.html
http://www.sankei.com/premium/news/170803/prm1708030007-n4.html
中国人民政治協商会議の閉幕式に出席した孫政才氏=3月、北京の人民大会堂(共同)
今年3月、中国全人代の全体会議に臨む習近平国家主席(手前)と孫政才氏=北京の人民大会堂(共同)
ポスト習近平の有力候補といわれる胡春華・広東省党委書記(ロイター)
今年3月、中国人民政治協商会議の閉幕式に出席した習近平国家主席(右)と重慶市前トップの孫政才氏=北京の人民大会堂(共同)