75年前、バルト海のペーネミュンデでドイツ陸軍兵器実験場から発射されたドイツのV-2ロケットの試作品が、高度84.5キロメートル(52.5マイル)に到達した。それは考えようによっては、宇宙空間における最初の人工物であった。
その年、世界は第2次世界大戦の真っただ中で、米国の参戦に伴いアドルフ・ヒトラーとナチスにとって形勢はすでに不利なものとなっていた。しかし、もし世界最初の弾道ミサイルを完成させ、かつ原子爆弾を製造する競争に勝つことができれば、実質的に難攻不落となるだろうとヒトラーたちはわかっていた。
北朝鮮は「夢」をかなえる一歩手前まで来ている
もしドイツが先に核爆弾を手に入れていたとしたら、連合軍は多くの西側諸国の都市を、広島や長崎のように破壊するという危険を冒すよりも、講和を求めることを余儀なくされていた可能性が高い。
ヒトラーがそれを成しえなかったことは、ほかの国々にとって幸運だった。しかし、それは北朝鮮の金正恩委員長が肝に命じている教訓にもなった。
最新の弾道ミサイル「火星12型」が7月4日と28日と2度にわたって実験されたことで、金正恩は、米国を敵と見なしてきた国々が夢見ていたこと――すなわち、米国本土を核兵器で攻撃すること――を果たす手前まで来ているように見える。
これは、戦略の大転換であり、多くの米国国防機関が長年予期していたことでもある。北朝鮮と米国の当局者のいずれも、北朝鮮のミサイルが大陸間においてどのように正確に飛行するかなどについてしっかりと把握しているかは定かではない。
つまり、発射後地球の周りを3分の1周できるということと、目的地を正確に爆撃できるということとは別の話なのである。
こうした疑問に対する答えは、北朝鮮の実験計画が前進するにつれて、明らかになってくるだろう。米国防情報局はすでに、北朝鮮がミサイルに搭載可能な小型の弾頭を完成させたという前提で動いていると伝えられる。
金正恩がミサイル開発に突き進む姿勢はますます明らかになっている。英国ロンドンに本部を置く国際戦略研究所(IISS)が行った過去2回の発射実験の動画分析によると、北朝鮮は現在、1990年代以降ロシアでは使用されていない旧ソ連製のロケットエンジンを基盤とするエンジンを保有していると見られる。
北朝鮮がいかにしてこうした技術を、予想されたよりはるかに早く獲得できたのかは不明だ。最も可能性が高い出所はロシアやウクライナの管理が行き届いていない軍の備蓄か、不法なネットワークであろうと、IISSは指摘する。
しかし重要なことは、こうした技術が特に洗練されたものではないという点だ。もし北朝鮮がまだこの技術を正しく使えていないとするならば、北朝鮮、あるいは、北朝鮮を支援している疑いのある旧ソ連の科学者が程なくしてそれを修正するであろう。
一方的に予期せぬ行動に出ることはない
ロシアは言うまでもなく、少なくとも1950年代以降、米本土に甚大な被害を与えられる能力を有している。戦後、米露両国がドイツ中の研究所に押し寄せ、技術とその研究開発に携わる専門家を獲得し、さらにその技術の精度を高めていった。また中国も1960年代以後、米国を攻撃する能力を備えている。
この2国が米政府に外交、軍事オプションの見直しを迫ったわけだ。しかし、大まかに言えば、ロシアにしろ、中国にしろ、超大国の責任ある「仲間」だと考えられている。恐怖と疑心暗鬼の冷戦期でさえ、「相互確証破壊」の恐怖が状況を制御できるという一般的な考え方が多くの場合に存在した。
金正恩にこの考え方が当てはまるかはわからない。しかし、彼が一方的に、予期せぬ形でやみくもに破壊的な行動を起こすことはないだろう。なぜなら、そうすることによって自身の体制が破壊されることを知っているからだ。金正恩が核兵器開発を進める理由は、現体制を維持することにあるのだ。
ただし、現在の体制が維持できなくなるようなことが起これば、問題が生じるだろう。今のところ差し迫った崩壊の危機に直面しているわけではないが、それが生じる危険性は高まり続けている。
http://toyokeizai.net/articles/-/184834
(>>2以降に続く)
その年、世界は第2次世界大戦の真っただ中で、米国の参戦に伴いアドルフ・ヒトラーとナチスにとって形勢はすでに不利なものとなっていた。しかし、もし世界最初の弾道ミサイルを完成させ、かつ原子爆弾を製造する競争に勝つことができれば、実質的に難攻不落となるだろうとヒトラーたちはわかっていた。
北朝鮮は「夢」をかなえる一歩手前まで来ている
もしドイツが先に核爆弾を手に入れていたとしたら、連合軍は多くの西側諸国の都市を、広島や長崎のように破壊するという危険を冒すよりも、講和を求めることを余儀なくされていた可能性が高い。
ヒトラーがそれを成しえなかったことは、ほかの国々にとって幸運だった。しかし、それは北朝鮮の金正恩委員長が肝に命じている教訓にもなった。
最新の弾道ミサイル「火星12型」が7月4日と28日と2度にわたって実験されたことで、金正恩は、米国を敵と見なしてきた国々が夢見ていたこと――すなわち、米国本土を核兵器で攻撃すること――を果たす手前まで来ているように見える。
これは、戦略の大転換であり、多くの米国国防機関が長年予期していたことでもある。北朝鮮と米国の当局者のいずれも、北朝鮮のミサイルが大陸間においてどのように正確に飛行するかなどについてしっかりと把握しているかは定かではない。
つまり、発射後地球の周りを3分の1周できるということと、目的地を正確に爆撃できるということとは別の話なのである。
こうした疑問に対する答えは、北朝鮮の実験計画が前進するにつれて、明らかになってくるだろう。米国防情報局はすでに、北朝鮮がミサイルに搭載可能な小型の弾頭を完成させたという前提で動いていると伝えられる。
金正恩がミサイル開発に突き進む姿勢はますます明らかになっている。英国ロンドンに本部を置く国際戦略研究所(IISS)が行った過去2回の発射実験の動画分析によると、北朝鮮は現在、1990年代以降ロシアでは使用されていない旧ソ連製のロケットエンジンを基盤とするエンジンを保有していると見られる。
北朝鮮がいかにしてこうした技術を、予想されたよりはるかに早く獲得できたのかは不明だ。最も可能性が高い出所はロシアやウクライナの管理が行き届いていない軍の備蓄か、不法なネットワークであろうと、IISSは指摘する。
しかし重要なことは、こうした技術が特に洗練されたものではないという点だ。もし北朝鮮がまだこの技術を正しく使えていないとするならば、北朝鮮、あるいは、北朝鮮を支援している疑いのある旧ソ連の科学者が程なくしてそれを修正するであろう。
一方的に予期せぬ行動に出ることはない
ロシアは言うまでもなく、少なくとも1950年代以降、米本土に甚大な被害を与えられる能力を有している。戦後、米露両国がドイツ中の研究所に押し寄せ、技術とその研究開発に携わる専門家を獲得し、さらにその技術の精度を高めていった。また中国も1960年代以後、米国を攻撃する能力を備えている。
この2国が米政府に外交、軍事オプションの見直しを迫ったわけだ。しかし、大まかに言えば、ロシアにしろ、中国にしろ、超大国の責任ある「仲間」だと考えられている。恐怖と疑心暗鬼の冷戦期でさえ、「相互確証破壊」の恐怖が状況を制御できるという一般的な考え方が多くの場合に存在した。
金正恩にこの考え方が当てはまるかはわからない。しかし、彼が一方的に、予期せぬ形でやみくもに破壊的な行動を起こすことはないだろう。なぜなら、そうすることによって自身の体制が破壊されることを知っているからだ。金正恩が核兵器開発を進める理由は、現体制を維持することにあるのだ。
ただし、現在の体制が維持できなくなるようなことが起これば、問題が生じるだろう。今のところ差し迫った崩壊の危機に直面しているわけではないが、それが生じる危険性は高まり続けている。
http://toyokeizai.net/articles/-/184834
(>>2以降に続く)