昭和12年7月29日、北京東20キロの城郭都市・通州で日本人居留民225人が中国人兵士に虐殺される事件が起きた。今年は、この通州事件からちょうど80年にあたる。
当時は新聞各社がこの事件を取り上げ、無辜(むこ)の日本人たちの死を悼んだが、戦後の日本史からは消え去り、今日の教育では教えていないに等しい。
本書は、事件の詳細と、当時の状況、精神的、思想的背景にふれ、「虐殺」をめぐる日本、中国での宣伝の実態などを全6章にわたり解説。
文化大革命時に起こった、中国人によるモンゴル人大虐殺とも比較し、民族虐殺という視点から検討する。また、同事件のユネスコ記憶遺産登録を目指した申請書も付いている。
通州事件を広く国民に知らせることには3つの大きな意義があると藤岡氏は語る。
1に、日本が「侵略国家」とおとしめられた近代日本史の全面的な見直しの道を開く。2に、いまなお中国による弾圧に苦しんでいるチベット、ウイグル、モンゴルなどの諸民族のことを理解する基盤になる。
そして3に、日本人自身の生命を守る防衛問題に重要な関わりがある−ということである。
現在も中国では反日感情がくすぶり、日系企業への暴動も記憶に新しい。その矛先がいつ人命に向けられるか分からない。過去の事件を知ることは、これからの日本の国防問題について大きなヒントを与えてくれるであろう。
単に「過去に起こった悲惨な事件」で終わらせず、今後の自らの問題として考える契機になれば幸いである。(勉誠出版 池嶋洋次)
http://www.sankei.com/life/news/170819/lif1708190011-n1.html
(藤岡信勝、三浦小太郎編著/勉誠出版・1500円+税)