<苛酷なスケジュールのなか、沢山の男性スタッフの中で、理不尽な暴力や意に沿わない形での性的な演技を女優が求められたとき、彼女たちは拒むことはできないのか?>
韓国のみならず、日本など海外でも名の知られた韓国人映画監督の一人キム・ギドク。彼が今、韓国で2013年に制作・公開された映画「メビウス」に関して注目を浴びている。この映画は、第70回ヴェネツィア国際映画祭でも上映され、日本では2014年末に公開されている。
事の発端は、映画で母親役にキャスティングされていた女優Aが、キム・ギドク監督を告訴したのだ。
告訴内容は「メビウス」の撮影現場にて、女優Aが監督に頬をぶたれ、さらに男性器を掴むシーンでは、台本には"模型の性器"と記してあったのにも拘らず、撮影現場にて男性俳優の性器をつかむよう指示された、というものだ。
撮影は途中で中断となり、結局彼女はこの役を降板した。その後この女優Aに代わって別の女優(イ・ウヌ)が一人二役で母親役も務め、無事完成したのである。
キム・ギドク監督と言えば、毎回作品を発表するごとに、そのセンセーショナルな作品内容が注目を浴びてきた。さらに特徴的なのは、脚本/プロデューサー/編集など多くの映画製作の役割を自ら手掛ける作品が多く、撮影日数もかなり短い。
1996年に低予算映画「鰐?ワニ?」でデビューして以来毎年のように作品を発表し続けており、韓国内はもとより海外での知名度が高く、カンヌ国際映画祭・ヴェネツィア国際映画祭など各映画祭で常連参加している。2008年には日本人俳優オダギリジョーを起用し「悲夢」という恋愛映画を公開した。
センセーショナルな作風とは異なる素顔
キム・ギドク監督は2004年、私が学生として通っていたソウル芸術大学映画学科の講師として講壇に立ち、私達の映画制作の指導教授を務めていた。
当初監督本人に会うまでは、その作品が暴力的だったり、性的描写が激しい作品が多いため、学生たちは緊張を隠せずにいたが、授業が始まるとその印象はすぐに変わった。とてもおしゃべりで、にこやかな素直なおじさんといった人柄で、いかにも監督といった印象とは正反対。
常に何かに興味を持っていて、それを多くの人に共有したいという欲求が高い人だった。
特に今でもよく覚えているのが、当時監督はゴルフを習っているという話をよくしていて、その後に制作されたのが映画「うつせみ」だった。この作品にはゴルフがモチーフとしてよく登場し、
特に「3番アイアン」についてのエピソードがよく登場するが(映画の英語タイトルは、その名も「3-Iron」である)、授業中にも3番アイアンを使いこなすのが難しいとよく話していた。
次の映画についての構成や、今何に興味があるからこういうモチーフにしたいという意見を、学生にも関係なく誰彼構わず共有する姿が印象的だった。卒業後、映画祭の出張先で会うことがあると、先に監督の方から見つけて名前を呼び掛けてくれる気さくな監督だった。
そんなキム・ギドク監督は、今回の告訴についてどう反応しているのだろうか。8月3日キム・ギドクフィルムは報道資料を通じてマスコミに次のような文書を発表した。
この2013年「メビウス」の撮影中に発生したことについては簡単な説明が必要だ。
この女優Aに対しては、海外受賞後監督の知名度が上がった後、出演したいと打診があり、2004年ベルリン国際映画祭にて銀熊賞受賞後にさらに起用を申し込まれた。2005年「絶対の愛」で2人の女優のうち1人としてキャスティングしたが、役が気に入らないと断られた。
さらに2012年ベルリン国際映画祭で今度は金獅子賞を受賞した後、再度出演を打診され「メビウス」の母親役にキャスティングしたが、撮影2日目終了時点で一方的に連絡を絶たれ、3日目撮影現場に姿を現さなかったので、
プロデューサーが自宅近くに出向いて何度も連絡をしたが結局現場に来なかったため、最終的に予算の関係上、他の俳優を一人二役にシナリオを急きょ書き換えてなんとか撮影を終了した。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/08/post-8296.php
(>>2以降に続く)
韓国のみならず、日本など海外でも名の知られた韓国人映画監督の一人キム・ギドク。彼が今、韓国で2013年に制作・公開された映画「メビウス」に関して注目を浴びている。この映画は、第70回ヴェネツィア国際映画祭でも上映され、日本では2014年末に公開されている。
事の発端は、映画で母親役にキャスティングされていた女優Aが、キム・ギドク監督を告訴したのだ。
告訴内容は「メビウス」の撮影現場にて、女優Aが監督に頬をぶたれ、さらに男性器を掴むシーンでは、台本には"模型の性器"と記してあったのにも拘らず、撮影現場にて男性俳優の性器をつかむよう指示された、というものだ。
撮影は途中で中断となり、結局彼女はこの役を降板した。その後この女優Aに代わって別の女優(イ・ウヌ)が一人二役で母親役も務め、無事完成したのである。
キム・ギドク監督と言えば、毎回作品を発表するごとに、そのセンセーショナルな作品内容が注目を浴びてきた。さらに特徴的なのは、脚本/プロデューサー/編集など多くの映画製作の役割を自ら手掛ける作品が多く、撮影日数もかなり短い。
1996年に低予算映画「鰐?ワニ?」でデビューして以来毎年のように作品を発表し続けており、韓国内はもとより海外での知名度が高く、カンヌ国際映画祭・ヴェネツィア国際映画祭など各映画祭で常連参加している。2008年には日本人俳優オダギリジョーを起用し「悲夢」という恋愛映画を公開した。
センセーショナルな作風とは異なる素顔
キム・ギドク監督は2004年、私が学生として通っていたソウル芸術大学映画学科の講師として講壇に立ち、私達の映画制作の指導教授を務めていた。
当初監督本人に会うまでは、その作品が暴力的だったり、性的描写が激しい作品が多いため、学生たちは緊張を隠せずにいたが、授業が始まるとその印象はすぐに変わった。とてもおしゃべりで、にこやかな素直なおじさんといった人柄で、いかにも監督といった印象とは正反対。
常に何かに興味を持っていて、それを多くの人に共有したいという欲求が高い人だった。
特に今でもよく覚えているのが、当時監督はゴルフを習っているという話をよくしていて、その後に制作されたのが映画「うつせみ」だった。この作品にはゴルフがモチーフとしてよく登場し、
特に「3番アイアン」についてのエピソードがよく登場するが(映画の英語タイトルは、その名も「3-Iron」である)、授業中にも3番アイアンを使いこなすのが難しいとよく話していた。
次の映画についての構成や、今何に興味があるからこういうモチーフにしたいという意見を、学生にも関係なく誰彼構わず共有する姿が印象的だった。卒業後、映画祭の出張先で会うことがあると、先に監督の方から見つけて名前を呼び掛けてくれる気さくな監督だった。
そんなキム・ギドク監督は、今回の告訴についてどう反応しているのだろうか。8月3日キム・ギドクフィルムは報道資料を通じてマスコミに次のような文書を発表した。
この2013年「メビウス」の撮影中に発生したことについては簡単な説明が必要だ。
この女優Aに対しては、海外受賞後監督の知名度が上がった後、出演したいと打診があり、2004年ベルリン国際映画祭にて銀熊賞受賞後にさらに起用を申し込まれた。2005年「絶対の愛」で2人の女優のうち1人としてキャスティングしたが、役が気に入らないと断られた。
さらに2012年ベルリン国際映画祭で今度は金獅子賞を受賞した後、再度出演を打診され「メビウス」の母親役にキャスティングしたが、撮影2日目終了時点で一方的に連絡を絶たれ、3日目撮影現場に姿を現さなかったので、
プロデューサーが自宅近くに出向いて何度も連絡をしたが結局現場に来なかったため、最終的に予算の関係上、他の俳優を一人二役にシナリオを急きょ書き換えてなんとか撮影を終了した。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/08/post-8296.php
(>>2以降に続く)