中国は、民主主義体制の弱体化という目標のために、国外の中国系住民を動員し政治活動を行わせることで、世論の誘導を行っている。米シンクタンク、ウィルソン・センターの研究員アンヌマリー・ブレイディ氏が研究報告「法宝(万能の宝の意)―習近平体制下の世論誘導工作」で明らかにした。
政界浸透を中国系に指示 民主主義体制の弱体化もくろむ
報告によると、「習近平国家主席は、外国で世論を形成し、政府や社会の意思決定に影響を及ぼすことに過去の中国指導者よりも熱心に取り組んできた」と指摘、最近では特にニュージーランドで、現地の中国国籍保有者、中国系住民に政界への浸透を図るよう働き掛けているという。
ニュージーランドでは、これまでに複数の中国系政治家が議会議員に選出されている。その中の一人ジアン・ヤン氏は最近、中国人民解放軍と関わりがあったこと、中国共産党員であることを認めた。中国人による国外での情報活動を受けて、米国の機密情報を中国が入手するのではないかという安全保障上の懸念が生じている。
とりわけニュージーランドは、英米など5カ国の情報機関による協定「ファイブ・アイズ(UKUSA協定)」に参加していることから、情報が漏洩(ろうえい)する可能性が高い。
報告は「ニュージーランドは、中国やロシアにとって利用価値がある。ファイブ・アイズの情報を入手しやすい場所だからだ」と指摘、「ニュージーランドはさらに、南半球で人民解放軍の海軍施設や北斗2(衛星測位システム)地上局が設置できる戦略的拠点となる可能性がある」と懸念を表明している。
中国は数十年前から、ニュージーランドと同盟国米国との間の分断工作を行ってきた。ニュージーランドは反核政策の一環として、米軍の原子力・核搭載艦艇の寄港を拒否するなど、1980年代から反米傾向を強めてきた。これらの中国の活動は、「統一戦線」と呼ばれる世論誘導活動に基づいている。共産党が1940年代に権力掌握のために採用した手法だ。
習主席は2014年9月に、世論誘導活動を支える統一戦線工作の重要性を強調、この活動を中国の世界的覇権を追求するための「法宝」と呼んだ。報告によると、世論誘導活動は、中国共産党内の組織、統一戦線工作部、中央宣伝部、対外連絡部、海外中国人連合会、中国人民対外友好協会が行っている。
また「統一戦線工作は、社会の有力な組織や個人と協力し、情報・宣伝活動を行うことであり、スパイ活動の促進のためにも利用されている」という。
中国の世論誘導活動の焦点は、海外に親睦団体「中国の友」のネットワークを構築し、各国の政府やメディアに影響を及ぼすことにある。中国系住民をスパイにすることも、この活動の一環として行われ、国家安全省、公安省、人民解放軍総参謀部第三部、新華社通信、統一戦線工作部、対外連絡部が主導している。
報告はさらに、中国の元スパイが2014年に、総参謀部第三部が世界中で20万人のスパイを稼働させていることを明らかにしたことを伝えている。米在住の中国人実業家、郭文貴氏は、中国政府が2012年から情報活動を活発化させ、米国内に2万5000人から4万人の工作員を派遣していることを明らかにしている。
報告は「習近平体制下の政治的世論誘導活動は、毛沢東時代に確立された手法をまねたもの。ケ小平、江沢民、胡錦濤も同様の政策を取ったが、習体制下でさらに野心的になっている」と習主席が国外での世論誘導に意欲的に取り組んでいることを指摘している。
報告は、中国の統一戦線関連機関、中国大使館との関係を維持している中国系の政治家として、ヤン氏、レイモンド・フォ氏、ケネス・ワン氏の3人を挙げている。
ヤン氏は「15年にわたって中国軍の情報部門で働いていた」が、このことはニュージーランドの永住権申請書にも、履歴書にも記されていない。報告は、ヤン氏が議会議員として「ニュージーランド政府に対する中国の戦略の形成を促進、支援した中心人物」と指摘している。
さらにフォ氏は08年から14年に議員を務め、今年になって議員に返り咲いたが、統一戦線関連組織と密接に協力しているという。
http://www.worldtimes.co.jp/column/81293.html