日韓両国の「未来志向」による関係発展は期待したいが、韓国の国会議員による竹島(島根県隠岐の島町)への上陸や、元徴用工訴訟で韓国最高裁が日本企業に賠償を命じた判決は、日韓関係を逆戻りさせるものでしかない。慰安婦問題をめぐる日韓合意に基づき設立された「和解・癒やし財団」も、韓国政府は「解散」をちらつかせる。韓国との間で、未来志向は望むべくもないのだろうか。
元徴用工の韓国人4人が新日鉄住金(旧新日本製鉄)に損害賠償を求めた訴訟で、韓国最高裁が計4億ウォン(約4千万円)の賠償支払いを命じる判決を出した10月30日、河野太郎外相(55)は韓国の李(イ)洙(ス)勲(フン)駐日大使を外務省に呼びつけた。
河野氏は、先に応接室に入室していた李氏と握手を交わすこともなく着席を促すと、視線も合わせず抗議の言葉を繰り出した。
「本日の判決は両国の友好関係の法的基盤を根本から覆すものだ。法の支配が貫徹されている国際社会の常識では考えられないことが起こっている」
河野氏は、皮肉を込めながら韓国政府の早急の対応を求めた。面会後には記者団にも「国際裁判を含め、あらゆることを視野に入れた対応をせざるを得ない」と強気の姿勢を崩さなかった。判決が日韓両国間の合意を一方的に無視したに等しいからだ。
日韓が国交を正常化させた1965年に結んだ日韓請求権協定は「両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が・・・完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する」と明記している。両政府もこれまで、請求権問題は「解決済み」との立場を貫いてきた。
しかし、韓国は「憲法の上に『国民情緒法』がある」といわれるお国柄だ。今回は「植民地時代の不法行為に対する個人の賠償請求権は、協定の適用対象に含まれない」との論法を持ち出し、日本政府が懸念していた通り、国家としての合意を覆してみせた。
日本政府関係者は「ある意味では予想していたこと。もはや驚くことではない」と開き直るが、未来志向に水を差す韓国側の行為は、これにとどまらない。この数カ月でもさまざまなことが起きている。
10月11日に韓国が済州島で主催した国際観艦式で、韓国が日本側に自衛艦旗「旭日旗」の掲揚自粛を求めてきた一件は、最たる例だ。韓国海軍は、パレード中は艦艇上に自国と韓国の国旗のみを掲げるよう参加国に通知したが、事実上、日本の自衛艦旗を狙い撃ちしたものだった。
韓国政府が、自衛艦旗を「戦犯旗」と反発する国民感情に配慮したためだが、日本政府は「自衛艦旗の掲揚は義務だ」として自衛艦の派遣を見送った。
ところが、韓国艦艇は観艦式で「抗日」の象徴として英雄視される李氏朝鮮の李舜臣(イ・スンシン)将軍の旗を掲揚した。国際条約はおろか、自ら言い出したことさえ守らないのだ。
さらに、10月22日には、韓国の国会議員13人が竹島に上陸した。竹島は現在、韓国側が実効支配しているが、日本政府は「歴史的にも国際法上も日本の固有の領土」として領有権を主張している。
これが国会議員の単独行為ならば、行政府としては「議員一人一人の行動まで介入できない」という理屈も成り立つかもしれない。しかし、国会議員らが上陸に使ったのは、ソウル地方警察庁のヘリコプターだった。地方とはいえ、行政機関には違いない。
こうした未来志向に反する韓国側の行為は、挙げればきりがない。韓国政府が次に狙うのは、「和解・癒やし財団」の解散だろう。慰安婦問題を担当する陳善美(チン・ソンミ)女性家族相は10月24日、「解散に向け最終的な調整作業に入ったと聞いている」「11月初旬になれば国民に説明できるだろう」と韓国記者団との懇談で語っている。
元慰安婦への人道支援を目的に韓国政府が設立した財団の事業は、朴槿恵(パク・クネ)政権下の2015年に結ばれた日韓合意の根幹だ。日本政府が「合意の着実な履行」を求める中で財団を解散すれば、一方的な合意の破棄にしかならない。
こうしたことを繰り返す中で、元徴用工訴訟では日韓間の協定を覆す判決が出された。日本側の抗議を受け、韓国の李洛淵(イ・ナギョン)首相は「韓日関係を未来志向的に発展させていくことを希望する」とのコメントを出したが、ここでも持ち出している「未来志向」の言葉が、むなしさを漂わせている。
(政治部 力武崇樹)
https://www.sankei.com/premium/news/181105/prm1811050005-n1.html
産経 2018.11.5 01:00