北朝鮮の「非核化」は膠着している。他方、北朝鮮による石油製品の洋上での「瀬取り」や石炭密輸等は後を絶たない。日本にとって最大の問題は日本自身の対北制裁の実効性にある。国連安保理北朝鮮制裁委員会専門家パネル元委員の古川勝久氏が、解説する。
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〈北朝鮮の非核化実現には、国連安保理決議の完全履行が重要である〉
安倍首相お得意のフレーズだ。米朝首脳会談を経ても北朝鮮は核を放棄せず、対北朝鮮圧力の継続が大きな課題である。だが安保理決議を完全履行していないのは、他ならぬ日本だ。 例えば、日本には、国連制裁違反事件に関与した船舶が頻繁に寄港している。
2018年8月、韓国政府は、国連禁輸品の北朝鮮産石炭の対韓国密輸事件に加担したとして、外国籍貨物船4隻を入港禁止にした。北朝鮮産石炭は、北朝鮮からロシア極東サハリンの港まで運ばれた後、そこで前述の貨物船4隻に積み替えられて、「ロシア産」として韓国の港まで運ばれていた。うち2隻については、国連の専門家パネルも2018年3月付の報告書で石炭密輸事件への関与を指摘していた。
だが、これらの貨物船4隻は日本には自由に出入りしている。4隻の運行会社4社はすべて中国企業で、うち1社は都内に事実上の支社がある。4社は最低でも計20隻の貨物船を運行し、うち18隻が日本とロシアに頻繁に寄港している。北朝鮮産石炭がロシア経由で日本に密輸された可能性が懸念される。
2018年11月に国会で長島昭久衆議院議員がこの問題を追及すると、日本政府は、北朝鮮産石炭が全面禁輸とされて以降、貨物船4隻は計61回も日本に入港していたと認めた。国連制裁違反貨物船舶は、何ら制裁を受けることもなく、その後も日本に入港している。
さらに1隻は日本国内の船舶保険組織と2018年11月20日付で保険契約を結んでいる。禁輸品の輸送に関与した船舶への保険サービス提供を禁止した安保理決議2397号第11項に明確に違反している。
国内ではよく「文在寅政権は金正恩に融和的だ」との批判を聞くが、日本のほうが対北制裁に消極的だ。
◆国外の制裁違反は不問
北朝鮮は世界中にネットワークを張り巡らし、国連制裁違反を繰り返す。日本人も重要な役割を果たしてきた。例えば、国連制裁対象となった北朝鮮最大の海運会社「オーシャン・マリタイム・マネジメント社」の中核では、都内で会社を経営する日本人を含む、日本国内のネットワークが重要な役割を果たしていた。だが、日本国内では誰一人として訴追されていない。
実は日本では、海外で国連制裁違反事件に加担した個人や企業、船舶を制裁するための国内法がない。海外の国連制裁違反事件は日本の国内法とは無関係で、問題とみなされないのだ。
しかし、2013年3月の安保理決議2094号では、北朝鮮の制裁逃れに「貢献しうる」あらゆる資産の移転阻止を加盟国に義務づけている(「資産」には船舶も含まれる)。約6年前の決議だが、このとき、外務省が国内法を整備しなかった。そのため、前述の韓国が制裁した4隻は、日本も原則として入港を認めてはならないはずだが、それができずにいる。
外務省は「入港の際、貨物検査はちゃんとしている」と主張する。しかし、海上保安庁や警察が船舶への立ち入り検査を繰り返しても、第三国で積み替えられた石炭を北朝鮮産と特定するのはそもそも難しい。
制裁違反した船舶と関連企業を処罰しない姿勢も問題だ。これでは、「次なる制裁違反」を抑止できない。外務省が主張する「禁輸品の不正輸入の阻止」だけが制裁の目的ではない。
https://www.news-postseven.com/archives/20190116_833818.html
NEWSポストセブン 2019.01.16 07:00
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〈北朝鮮の非核化実現には、国連安保理決議の完全履行が重要である〉
安倍首相お得意のフレーズだ。米朝首脳会談を経ても北朝鮮は核を放棄せず、対北朝鮮圧力の継続が大きな課題である。だが安保理決議を完全履行していないのは、他ならぬ日本だ。 例えば、日本には、国連制裁違反事件に関与した船舶が頻繁に寄港している。
2018年8月、韓国政府は、国連禁輸品の北朝鮮産石炭の対韓国密輸事件に加担したとして、外国籍貨物船4隻を入港禁止にした。北朝鮮産石炭は、北朝鮮からロシア極東サハリンの港まで運ばれた後、そこで前述の貨物船4隻に積み替えられて、「ロシア産」として韓国の港まで運ばれていた。うち2隻については、国連の専門家パネルも2018年3月付の報告書で石炭密輸事件への関与を指摘していた。
だが、これらの貨物船4隻は日本には自由に出入りしている。4隻の運行会社4社はすべて中国企業で、うち1社は都内に事実上の支社がある。4社は最低でも計20隻の貨物船を運行し、うち18隻が日本とロシアに頻繁に寄港している。北朝鮮産石炭がロシア経由で日本に密輸された可能性が懸念される。
2018年11月に国会で長島昭久衆議院議員がこの問題を追及すると、日本政府は、北朝鮮産石炭が全面禁輸とされて以降、貨物船4隻は計61回も日本に入港していたと認めた。国連制裁違反貨物船舶は、何ら制裁を受けることもなく、その後も日本に入港している。
さらに1隻は日本国内の船舶保険組織と2018年11月20日付で保険契約を結んでいる。禁輸品の輸送に関与した船舶への保険サービス提供を禁止した安保理決議2397号第11項に明確に違反している。
国内ではよく「文在寅政権は金正恩に融和的だ」との批判を聞くが、日本のほうが対北制裁に消極的だ。
◆国外の制裁違反は不問
北朝鮮は世界中にネットワークを張り巡らし、国連制裁違反を繰り返す。日本人も重要な役割を果たしてきた。例えば、国連制裁対象となった北朝鮮最大の海運会社「オーシャン・マリタイム・マネジメント社」の中核では、都内で会社を経営する日本人を含む、日本国内のネットワークが重要な役割を果たしていた。だが、日本国内では誰一人として訴追されていない。
実は日本では、海外で国連制裁違反事件に加担した個人や企業、船舶を制裁するための国内法がない。海外の国連制裁違反事件は日本の国内法とは無関係で、問題とみなされないのだ。
しかし、2013年3月の安保理決議2094号では、北朝鮮の制裁逃れに「貢献しうる」あらゆる資産の移転阻止を加盟国に義務づけている(「資産」には船舶も含まれる)。約6年前の決議だが、このとき、外務省が国内法を整備しなかった。そのため、前述の韓国が制裁した4隻は、日本も原則として入港を認めてはならないはずだが、それができずにいる。
外務省は「入港の際、貨物検査はちゃんとしている」と主張する。しかし、海上保安庁や警察が船舶への立ち入り検査を繰り返しても、第三国で積み替えられた石炭を北朝鮮産と特定するのはそもそも難しい。
制裁違反した船舶と関連企業を処罰しない姿勢も問題だ。これでは、「次なる制裁違反」を抑止できない。外務省が主張する「禁輸品の不正輸入の阻止」だけが制裁の目的ではない。
https://www.news-postseven.com/archives/20190116_833818.html
NEWSポストセブン 2019.01.16 07:00