<中国国務院の香港担当機関が香港返還後初めての記者会見で香港のデモを厳しく非難、「決して許さない」とまで言ったのは、中国の危機感の表れだ>
香港で逃亡犯引き渡し条例の改正案に反対する抗議デモが続くなか、中国政府はついに7月29日、「暴力的なデモは容認しない」と直接的な警告を発した。香港で続いている抗議デモの激化に、中国政府が態度を硬化させつつあることを示している。
中国国務院の香港マカオ事務弁公室は29日、1997年の設立後初めて記者会見を開き、「混乱が続けば、香港社会に悪影響が及ぶだろう」と語った。
香港では7月27日と28日の週末にも抗議デモが続き、28日にはデモ隊が香港西部にある中国政府の出先機関「香港連絡弁公室」を包囲。香港警察がゴム弾や催涙弾でデモ隊に応戦する事態となった。
中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案に反対する抗議デモは、これで8週目に入った。デモ隊は、問題の改正案が成立すれば、中国当局がでっち上げた容疑で誰でも本土に送れるようになると主張。改正案の正式な撤回に加えて、警察と香港政府の複数の幹部の辞任と、警察によるデモ隊への「過剰な実力行使」についての調査を要求している。
人民解放軍出動の憶測が高まる
香港マカオ事務弁公室の徐露穎報道官は29日の記者会見で「暴力は暴力、違法行為は違法行為」だと語り、市民的不服従を容認しない考えを示した。
同報道官は、「香港で最近起きたことは、平和的な行進とデモの範疇を大きく超えており、香港の繁栄と安定を損ねた。『1国2制度』という原則の根幹に触れるものだ」と主張。さらに「法の秩序の下にある文明社会で、暴力行為は決して許さない」と語った。
会見は、中国政府が1989年の天安門事件の時のように、デモ隊鎮圧のために人民解放軍を出動させるのではないかという憶測が高まるなかで開かれた。
7月28日は、中国政府の出先機関である香港連絡弁公室がある香港西部で、デモ隊がレンガや手製の武器、板ガラスなどを使って、機動隊や「ラプター隊」(特殊訓練を受けた機動隊)の隊員と衝突。報道陣2人と複数のデモ参加者が怪我をした。香港連絡混乱は香港西部にも広がった。香港連絡弁公室は前週末にも、スプレーを吹き付けたり卵を投げつけらたりして、中国当局の危機感を煽ったといわれる。
香港政府は29日に声明を発表。「法と秩序を無視し、治安を乱した過激なデモ隊を強く非難する。警察が、全ての暴力行為を阻止するために法を厳しく施行することを、今後も全面的に支持する」と述べた。
香港のジャーナリスト、クリス・チェンは(カタールを拠点とする衛星テレビの)アルジャジーラに対して次のように語った。「デモを支持する公務員たちがストライキを呼びかける動きもあり、政府内部の亀裂が深まっている。今後、政府職員が政府に反旗を翻す可能性もある」。チェンはまた、政府がデモ隊の要求に応じない限り、状況は改善しないだろうとの見方も示した。
アルジャジーラ英語版と豪ABCテレビと契約しているフリー記者のサラ・クラークは、香港から現地情勢をリポートし、「政府とデモ隊、どちらも譲歩の姿勢を見せていない。どちらも引き下がりそうにない」と伝えた。
香港の民意は、デモ参加者のフォン・ルクの言葉に集約されている。「これまで全ての抗議デモに参加している。覆面は一度もつけていない」とルクは語った。「何も悪いことはしていないからだ。悪いことをしているのは権力を握っている奴らだ。いま必要なのは、林鄭月娥(行政長官)が辞任すること。彼女は香港を統治できていない」
もう一人のデモ参加者であるフェルナンド・チェンは、今後暴力がさらにエスカレートする可能性があるとして、こう警告した。「ことによっては死者が出る可能性もあると考えている」
(翻訳:森美歩)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/07/post-12641.php
Newsweek 2019年7月30日(火)14時15分
中国政府の出先機関、香港連絡弁公室そばで警官隊と激しく衝突したデモ隊(7月28日)