■朝毎「米の批判は責任転嫁」
世界的な大流行となった新型コロナウイルス対策で、先頭に立つべき世界保健機関(WHO)の対応が問題になっている。際立つのは、テドロス事務局長の中国寄りの姿勢だ。トランプ米大統領が米国の拠出金停止を表明したのは、WHOと中国への強烈な警告だが、自身の責任転嫁とみなす論調も目立った。
産経は、トランプ氏の手法は乱暴だが、「WHOが中国の偽情報を広めた」とするその批判は正しいとし、「感染が拡大し始めた今年1月の時点で、WHOは『人と人の感染はない』『(国境をまたぐ)渡航禁止は必要ない』と主張」していたことを挙げた。その上で、WHOに対し、テドロス事務局長の更迭を含め、改革を急ぐよう強く求めた。
WHOの「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」宣言(1月30日)は、遅きに失した。中国が当初、武漢の患者の情報を伏せ、それが感染拡大を招いたのに、テドロス氏が中国の対応を称賛したことも、おおいに疑問視された。産経は2月1日付主張(社説)で、テドロス氏は司令塔として不適格だと断じ、以後、一貫して、更迭の必要性を訴えている。
「中国寄りの姿勢が顕著に表れたのは台湾の排除問題」だという。新型ウイルスの感染が世界的に広がる中、台湾という「空白地帯」のあるWHOの欠陥が浮き彫りになった。ところが、テドロス氏は台湾を関与させるどころか、今月8日、台湾から「人種差別を含む中傷を受けた」と発言(台湾は蔡英文総統が事実無根と抗議)。中国外務省報道官は「台湾がWHO参加を求める目的は独立にあり、断固反対」と述べた。産経は「テドロス氏と中国が一体であることを如実に示した事例」と断じている。
もっとも、先の長い新型ウイルスとの戦いのさなかに、資金を止めるというのは尋常ではない。日経もWHOとテドロス氏に厳しいスタンスをとるが、今は感染の拡大防止に力を合わせるときであり、米国に撤回を求めるよう説いた。WHOへの拠出金は、米国の負担額が最多で全体の約15%を占める。「これが途切れ、WHOの機能低下が途上国などの感染を深刻化させれば、状況が改善した国にも再びウイルスが持ち込まれる恐れがある。米国だけでなく世界全体にとって百害あって一利なしだ」と論じた。
「感染収束に向けた国際的な努力に逆行する」とトランプ氏の姿勢を厳しく指弾したのは毎日である。拠出金の停止表明は、中国牽制(けんせい)の狙いもあるが、「それ以上に選挙にらみの思惑が働いている」とみる。「米国の感染者は60万人に達し、死者数も2万人を超えた。ともに世界最悪の状態だ。主な責任がトランプ政権にあるのは明らかだ」とし、「WHOに責任転嫁して政権批判の矛先をそらす狙いがあるとするなら、あまりに身勝手な姿勢と言わざるを得ない」と難じた。
朝日は、WHOをめぐる問題を米中対立の一側面としてとらえ、「この状況下で大国同士が醜い言い争いを続ける事態はあまりに不毛だ」と双方に批判の目を向けた。米国に対しては「最大の感染国になった責任を転嫁したい思惑が透けて見える」と苦言を呈し、中国には台湾排除の動きを改めるよう求めるとともに、「国際社会が最も望むのは、感染症をめぐる情報開示だ」と注文を付けた。
読売は、「問題は、WHOが米中両国の争いの場となり、権威が揺らぎ始めていることだ」と指摘した。一連の対応の検証や組織改革は事態が収束した段階で進めるべきで、その際、「米中対立に巻き込まれないようなトップの選出方法や運営のあり方が検討課題になろう」との見方を示した。
トランプ政権は、先進7カ国(G7)首脳がテレビ電話会議を通じ、WHOに対し、新型ウイルスへの対応の全面的な見直しと改革の実施を求めたと発表した。英仏独の首脳らからは、中国の情報開示への批判や不満の表明が相次いでいる。中国と、米国や欧州諸国、そしてもちろん日本との関係も、ウイルス禍の前後で相当違ったものになりそうだ。(内畠嗣雅)
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■米WHO拠出金停止をめぐる主な社説
【産経】
・WHO改革を強く求める(16日付)
【朝日】
・覇権争いの時ではない(17日付)
【毎日】
・「自分第一」では収束せぬ(16日付)
【読売】
・今は国際社会が支えるべきだ(24日付)
【日経】
・WHOの機能を低下させるな(19日付)
【東京】
・拠出停止は行き過ぎだ(16日付)
https://www.sankei.com/column/news/200429/clm2004290005-n1.html
産経新聞 2020.4.29 09:00