6月30日、全国人民代表大会(全人代)常務委員会会議で「香港国家安全維持法」(以下、国家安全法)が施行された。
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全人代常務委員175人のうち、香港人はわずか1人。さらに審議の1週間前には「条文を見ていない」と言っていた林鄭月娥・行政長官がそれに署名して発効した。前稿で触れたとおり、中国政府(以下、中央政府)は決議を香港事情に詳しい「香港スクール」を排除して進め、最後に署名だけを行政長官に任せた。その瞬間に香港基本法に記された「港人治港」は名目だけのものとなった。
また、同法には香港の「憲法」である「香港基本法」(以下、基本法)との矛盾点が多く、特に司法の独立に矛盾が集中していることが指摘されている。例えば律政司(司法局)内に新設される国家安全犯罪専門部門の責任者の人選を行政長官から中央政府直轄の国家安全保護公署に意見を求めたり、検察に当たる律政司が「陪審員なし裁判」を要求する権利を有したりするなど、行政の干渉、また利益面の衝突が明らかだ。
民間学者の梁啓智氏によると一部は香港基本法を改正すればことたりるもので、わざわざ基本法に優先される法律を制定したのは、中央政府がすでに香港基本法を紙っきれとしか考えていないことを意味するのではないかと懸念を示している。
巷では学生政党「デモシスト」の幹事長だった黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏や現立法会議員の陳淑荘(タニア・チャン)氏らの著書が、さらにいわゆる「本土派」(「本土」は「この地」という意味で、香港優先を主張する人々)のバイブルになっている、作家陳雲氏の著書とともに公共図書館の書架から撤去された。
「審査中」だとされるが、現役議員である陳議員の著書まで対象にされたことが、同議員が国家安全法の調査対象となったことを暗示しているようでもある。しかしまだ正式に拘束されたわけでもない同議員の書籍をどうやって行政が審査するのかなどの疑問が湧く。
さらに既報通り、外国人も、また香港居住者でなくても、さらには香港で行われた行為でなくても、国家安全法の処罰対象になる点についても、前出の梁氏は「基本法より無限大に拡大されている」と指摘する。
こうした基本法ですらも無視したロジックで制定された法律の施行が、香港社会にショックとプレッシャー、そして混乱をもたらしている。ネットには「一国二制度」ならぬ、「一国“殺”二制度」(One Country Kills Two Systems)というプラカードを掲げる市民の写真も流れたが、文字通り「一国」が「二制度」を完全に消し去ってしまった。
そんな事態に際して、日本国内ではまだ、「中国の内政干渉をしてはいけない」とか「植民地時代の香港が今よりも良かったはずがない」という意見がある。特に後者においては、「列強による植民地支配とはそういうものだ」「日本の韓国や台湾の統治時代もそうだった」を根拠にする人が少なくない。
こうした文言が日頃はリベラル「っぽい」人たちの口から飛び出してくるのを見ると、これはある意味、日本の戦後教育のトラウマなのではないかと感じる。かつての「日本の統治システム」への嫌悪感から形成された「ポリティカル・コレクトネス」が、「植民地」という言葉に「パブロフの犬」的な画一的な拒絶反応を生んでいるからだ。
筆者は香港返還の10年前の1987年から14年間香港で暮らした。そのまま主権返還を迎え、香港を離れた後も香港事情をずっと追い続けてきた。実際に体験した植民地香港は、我われが日本の教育で耳にした「日本の韓国や台湾統治」とは大きく違った。筆者も日本の植民地統治を肯定するものではない。
だが、だからといって今の香港人がなぜ植民地時代を懐かしむのかを切り捨てるわけにはいかない。今回は日本人読者が「植民地」という言葉に持つ固定観念から抜け出し、現実の香港事情を理解するための参考情報を提供したい。
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ソース
Yahoo! Japanニュース/現代ビジネス 7/14(火) 7:01配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/b4caad471d009aabdb9f8f532065544f717c7df6