カンボジア基地、中国が無償拡張で利用か…米国と距離置き対中傾斜強めるフン・セン政権
米国と中国は近年、インド太平洋地域で対立を先鋭化させている。海洋進出を活発化させる中国に対し、米国は航行の自由を掲げ、関与を強めている。対立の最前線の一つとして浮上しているのが、中国の軍事利用が懸念されるカンボジアのリアム海軍基地だ。
タイ湾に面し、マングローブの林に囲まれた基地の岸壁周辺には、真新しいプレハブ小屋が立ち並び、作業員風の男たちが行き来している。6月下旬、岸壁に近い海では、クレーンによる海中の土砂の 浚渫しゅんせつ 作業が行われていた。水深を深くし、大型船舶の入港を可能にするためとみられる。
この工事を主導しているのは、中国政府関係者とされる。基地周辺で漁業を営む男性(54)は「基地に出入りする中国人が増えている」と言う。
中国は6月上旬、無償での基地拡張工事に着手した。浚渫工事はその一環とされる。米メディアは、工事が終了すれば、基地面積全体の約3分の1相当が中国海軍の利用エリアになるとの見方を報じた。
米国は神経をとがらせている。リアム基地は中国がフィリピンなどと領有権を争う南シナ海に近く、米国の同盟国タイとは目と鼻の先だ。中国軍は、カンボジアをアフリカ東部ジブチに次ぐ2か所目の海外拠点とし、世界各地の海域での影響力をいっそう拡大する恐れがある。
だが、カンボジアは、多額の経済支援を受けた見返りとして中国傾斜を強めるばかりだ。中国との蜜月関係が揺らぐ気配はない。
6月8日、カンボジア南部のリアム海軍基地で、中国の無償資金協力による拡張工事の起工式が行われた。カンボジアのティア・バン国防相と 王文天ワンウェンティエン ・駐カンボジア中国大使が並んで座り、王氏は「計画は両国の利益にかなうものだ」と強調した。
その前日、ティア・バン氏のフェイスブックに1枚の写真が投稿された。ティア・バン氏と王氏が海水浴を楽しんでいる様子を撮影したもので、「協力関係と兄弟愛を強化するため」とのコメントが添えられていた。
カンボジアと中国の蜜月関係の始まりは、20年以上前にさかのぼる。
リアム基地の拡張工事の起工式では、ティア・バン氏(右)と王氏が並んで座った(ティア・バン氏のフェイスブックより)
カンボジアでは当時、強制労働などで約170万人もの犠牲者を出したポル・ポト政権崩壊後の新体制が発足し、現在のフン・セン首相が頭角を現した。共同首相制で第2首相だったフン・セン氏は、親台湾派の第1首相をクーデターで追放して実権を握り、国際社会の批判を浴びた。そんなフン・セン氏を、中国が支持したのだ。
中国はその後、軍事・経済両面でカンボジアを支えた。カンボジアは7%超の経済成長を実現し、中国は直接投資で国別トップとなった。中国によるインフラ(社会基盤)整備も急速に進んだ。
一方の米国は近年、カンボジアに厳しく対応してきた。長期政権を維持するフン・セン氏が2017年以降、野党を解党し、メディアを弾圧するなど独裁色を強めたことを受け、18年に経済支援の一部を停止したほか、軍高官の資産凍結など経済制裁も発動した。人権外交を掲げるバイデン政権も、カンボジアの現状に懸念を示している。
こうした状況下で、カンボジアは対中傾斜を加速させ、米国と距離を置いている。恒例だった米国との軍事演習は17年以降、カンボジア側の意向で中断したままだ。リアム基地を巡っては、19年に米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが、「カンボジアが基地の軍事利用を中国に許可することで合意した」と報じた。20年に米国の援助で建設された基地内の施設が解体されたことが判明し、21年には新たに建設された施設が確認された。米国は中国が関与しているとみている。
カンボジア政治に詳しい米アリゾナ州立大学のソパル・イアー准教授は、「中国のカンボジア支援は、フン・セン政権存続の必要条件になっている。リアム基地はその象徴だ」と指摘する。(カンボジア南部 安田信介)
https://www.yomiuri.co.jp/world/20220725-OYT1T50343/
米国と中国は近年、インド太平洋地域で対立を先鋭化させている。海洋進出を活発化させる中国に対し、米国は航行の自由を掲げ、関与を強めている。対立の最前線の一つとして浮上しているのが、中国の軍事利用が懸念されるカンボジアのリアム海軍基地だ。
タイ湾に面し、マングローブの林に囲まれた基地の岸壁周辺には、真新しいプレハブ小屋が立ち並び、作業員風の男たちが行き来している。6月下旬、岸壁に近い海では、クレーンによる海中の土砂の 浚渫しゅんせつ 作業が行われていた。水深を深くし、大型船舶の入港を可能にするためとみられる。
この工事を主導しているのは、中国政府関係者とされる。基地周辺で漁業を営む男性(54)は「基地に出入りする中国人が増えている」と言う。
中国は6月上旬、無償での基地拡張工事に着手した。浚渫工事はその一環とされる。米メディアは、工事が終了すれば、基地面積全体の約3分の1相当が中国海軍の利用エリアになるとの見方を報じた。
米国は神経をとがらせている。リアム基地は中国がフィリピンなどと領有権を争う南シナ海に近く、米国の同盟国タイとは目と鼻の先だ。中国軍は、カンボジアをアフリカ東部ジブチに次ぐ2か所目の海外拠点とし、世界各地の海域での影響力をいっそう拡大する恐れがある。
だが、カンボジアは、多額の経済支援を受けた見返りとして中国傾斜を強めるばかりだ。中国との蜜月関係が揺らぐ気配はない。
6月8日、カンボジア南部のリアム海軍基地で、中国の無償資金協力による拡張工事の起工式が行われた。カンボジアのティア・バン国防相と 王文天ワンウェンティエン ・駐カンボジア中国大使が並んで座り、王氏は「計画は両国の利益にかなうものだ」と強調した。
その前日、ティア・バン氏のフェイスブックに1枚の写真が投稿された。ティア・バン氏と王氏が海水浴を楽しんでいる様子を撮影したもので、「協力関係と兄弟愛を強化するため」とのコメントが添えられていた。
カンボジアと中国の蜜月関係の始まりは、20年以上前にさかのぼる。
リアム基地の拡張工事の起工式では、ティア・バン氏(右)と王氏が並んで座った(ティア・バン氏のフェイスブックより)
カンボジアでは当時、強制労働などで約170万人もの犠牲者を出したポル・ポト政権崩壊後の新体制が発足し、現在のフン・セン首相が頭角を現した。共同首相制で第2首相だったフン・セン氏は、親台湾派の第1首相をクーデターで追放して実権を握り、国際社会の批判を浴びた。そんなフン・セン氏を、中国が支持したのだ。
中国はその後、軍事・経済両面でカンボジアを支えた。カンボジアは7%超の経済成長を実現し、中国は直接投資で国別トップとなった。中国によるインフラ(社会基盤)整備も急速に進んだ。
一方の米国は近年、カンボジアに厳しく対応してきた。長期政権を維持するフン・セン氏が2017年以降、野党を解党し、メディアを弾圧するなど独裁色を強めたことを受け、18年に経済支援の一部を停止したほか、軍高官の資産凍結など経済制裁も発動した。人権外交を掲げるバイデン政権も、カンボジアの現状に懸念を示している。
こうした状況下で、カンボジアは対中傾斜を加速させ、米国と距離を置いている。恒例だった米国との軍事演習は17年以降、カンボジア側の意向で中断したままだ。リアム基地を巡っては、19年に米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが、「カンボジアが基地の軍事利用を中国に許可することで合意した」と報じた。20年に米国の援助で建設された基地内の施設が解体されたことが判明し、21年には新たに建設された施設が確認された。米国は中国が関与しているとみている。
カンボジア政治に詳しい米アリゾナ州立大学のソパル・イアー准教授は、「中国のカンボジア支援は、フン・セン政権存続の必要条件になっている。リアム基地はその象徴だ」と指摘する。(カンボジア南部 安田信介)
https://www.yomiuri.co.jp/world/20220725-OYT1T50343/