韓国の情報機関である国家情報院(旧KCIA)による、北朝鮮スパイ網の摘発が続いている。いずれも文在寅(ムン・ジェイン)政権が握りつぶしてきた事案だ。北のスパイ網は、日韓に連動性があるから、国情院の「スパイ捜査機能の復活」がホンモノなら日本としても歓迎すべきことだが、実は大きな問題を抱えている。
左翼は政権を握ると、軍と警察の掌握に動く。文政権の場合は、警察の抱き込みと、国情院の弱体化に力を注いだ。軍は、金大中(キム・デジュン)、盧武鉉(ノ・ムヒョン)両政権の10年間で、すっかり弱兵集団になりさがった。だから、上層部を全羅道(チョルラド=韓国の左翼の拠点)出身の将軍で固めるだけで良かった。
文政権は発足とともに、各省庁に「積弊清算」のためのタスクフォース(TF)を発足させ、「保守派」や「親米派・親日派」の高級官僚をパージした。
大統領直属組織である国情院も例外ではなかった。国情院を追われた元職員や、「市民団体の代表」と名乗るプロ活動家からなるTFが入り込み、極秘情報の閲覧までした。
スパイ捜査部門のトップだった防諜局長は、捜査活動を「違法な民間人査察をした」ということにされて監獄に送り込まれた。40人ほどが「司法処理」された。
これでは地道なスパイ捜査活動はできない。
明確な証拠があるスパイの摘発に対しても、当時の徐薫(ソ・フン)国情院長は「スパイ事件が起きれば(南北関係に)悪影響を及ぼす」として、起訴にはもちろん、捜査の続行にもストップをかけた(朝鮮日報2023年1月20日)という。
スパイ摘発機関が、スパイ保護機関に変質したのだ。それでも担当捜査員は、起訴しようとしたスパイの監視を続け、新たな証拠を貯め込んでいた。上がどう変わろうと、情報機関の現場は強い使命感を持ち続けていたのだ。
徐薫院長により特別採用され、外郭団体の幹部になった活動家は、団体所有の事務室を私物化して、公金で改造し、夜な夜な女性を呼んで〝パーティー〟を開いていた(朝鮮日報22年9月3日)という。まさに「左翼利権」の全開だ。
20年7月、朴智元(パク・チウォン)氏(全羅道出身)が院長に就任すると、国情院はあたかも「南北対話の窓口」であるかのような様相を呈した。朴氏とは、金大中政権下で、対北秘密送金を実行した人物だ。自民党の二階俊博元幹事長と昵懇(じっこん)の仲であることを自慢している。朴氏は、全羅道出身者を優遇する露骨な人事もした。
尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権で起用された金奎顕(キム・ギュヒョン)院長が、まず部長級以上の幹部27人を「待機ポスト」に移したのも、そうした背景がある。
情報機関の主要な機能が復元されつつあるように見えるが、大きな問題が控えている。スパイ捜査など「対共捜査」の権限を、24年に国情院から警察に移管する法律が、文政権下で成立していることだ。
韓国の情報専門家は「スパイ捜査のノウハウの蓄積がない警察にできる仕事ではない」と口をそろえる。いや、北スパイを野放しにすることこそ、文政権の狙いだったと見た方がいい。
尹政権が何らかの便法を駆使して、「対共捜査」権限を〝国情院が事実上維持〟に持ち込まないと、韓国は日本以上の「スパイ天国」になってしまうだろう。
日本も法整備と捜査機関の強化を進め、「スパイ天国」からの脱却を急ぐべきことは言うまでもない。
室谷克実 2023.1/26 06:30
https://www.zakzak.co.jp/article/20230126-LG3LMOLJWRKYXFOGWILCONWYPI/