ー前略ー
「冗談じゃありません。事故は増えるでしょうし、乗客の安全だって守れなくなる」
力を込めてこう話すのは、東京都内の大手私鉄系タクシー会社に勤務する真島功さん(仮名・50代)。
勤務先の倒産という悲劇を経て、40代半ばでタクシー運転手に転職した真島さんだが、タクシー業界について、
以前は「誰でもできる簡単な仕事だ」と考えていた。
「仕事がなくなればタクシー運転手になればいい、などとよく言いますが、私も転職するまではそう思っていました。ですが、
いくらナビがあるからといっても地理は絶対に覚えていなければならないし、この数年は各社が、接客技術を向上させ、
顧客満足度を高めようとありとあらゆる研修や指導を行っている。乗車前のドライバーのアルコールチェックや健康状態の管理、
ある程度の整備知識を持った人間による日々の車両の点検だって必要。想像以上に厳しい業界に、一般の方がポンと入ってきて
本当に大丈夫なのか。タクシードライバーでライドシェアに賛成している人は、ただの1人もいないと思います」(真島さん)
我々のような利用客から見れば、捕まえるのが難しいタクシー代わりの移動手段ができる。しかも競争原理が働けば
運賃も安くなるだろうし(筆者註・現行のライドシェア運賃はタクシー運賃と同程度)、ライドシェア解禁は
歓迎すべきことのようにも見えるのだが、そうはならないだろうという。
「4月から一部地域で解禁されるとはいえ、最初の参入を認められているのはタクシー会社のみ。
タクシー会社を通じて集まった一般ドライバーがライドシェアに参入するわけですから、単純に商売敵が増えるだけ、
と感じているドライバーが多いのも事実です」(真島さん)
確かに、タクシー運転手にとってみれば「商売敵」が増えることに他ならず、反対意見しか出ないことは当然かもしれない。
しかし、先述した地理の知識や安全運行に関する問題とは別の懸念もある。
「ライドシェア」について取材を続けている民放キー局の経済部記者が疑問を呈す。
「すでに一部で言われていますが、ライドシェアの解禁が、違法な”白タク”をわかりにくくしてしまったり、
逆に白タクに”お墨付き”を与えるようなことにならないか、不安は残ります。折しも、日本にやってきた中国人観光客が、
日本国内にいる同胞の違法な白タク業者を利用し摘発される事案も増えている真っ只中です。
タクシー運転手の数も、コロナ禍を経てかつての8割ほどしかいないと言われている中、方法は他にもあるのではないか、
そんな声も一部から聞こえてきます」(民放経済部記者)
◆人員整理で去ったベテランドライバーはどこへ
タクシー不足、タクシードライバー不足を補うためには致し方ない、というのが解禁推進派の意見だ。
だが、それなら素直にタクシードライバーを増やそうとすればよいではないか、という指摘は方々で聞く。
「コロナ禍に多くのタクシー会社で首切りが断行され、より高い給与を支払わなければならないベテランたちが会社を去りました。
ところが、最近になり客足が戻ってドライバーが足りないと言われているのに、ベテランが呼び戻されるパターンはあまり聞かない。
結局、ベテランの代わりに安い賃金で働いてくれる若いドライバーを入社祝い金まで出して採用し、
タクシー事業者が支払う人件費は減っている。人不足の原因は、他ならぬ賃金不足という側面もあるのに、その解決策として、
さらに安く、質の劣る移動手段参入させようと言う国の姿勢には、違和感しか覚えません」(民放経済部記者)
ここで思い出されるのは、東京都など大都市の一部ではよく見られるようになった電動キックボードの運用だ。
ー中略ー
やはり、付け焼き刃、その場しのぎ感がどうしても拭えない「ライドシェア解禁」だが、
果たして市民が安心して気軽に利用できる移動手段になるのかは、現時点ではまだ誰にもわからない、といったところか。
2024.4/16 11:14
https://www.zakzak.co.jp/article/20240416-WMVBDNZ7QBK4NMJKRGAOYR44EY/