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こうして、尹大統領の弾劾決議案は否決された。だが、今後も共に民主党は、即刻11日に弾劾決議案の再提出、14日投票を模索しているようである。その間共に民主党は与党に圧力をかけるため大規模集会の開催など国内の混乱を助長するのではないか。また、来年度の予算案には承認しない姿勢を取り続けるだろう。国政は一層混乱するはずだ。
政府与党では、8日韓東勲国民の力代表と韓悳洙(ハン・ドクス)国務総理が会談した後、国民談話を発表し、「退陣前でも尹錫悦大統領は外交を含む国政に関与しない。国民や国際社会が憂慮しないようにする」と述べた。さらに「秩序ある大統領の早期退陣で韓国と国民に及ぼす混乱を最小限に抑えながら安定的に政局を収拾し、民主主義を立て直す」と表明した。さらに「党代表と首相との会合を定例化し、国政空白がないようにする」と明らかにした。
今後の韓国政治の焦点は、党代表と首相が大統領の抜けた穴をいかに埋めていくかである。同時に、今後大統領制をいかに変えていくか注目したい。
仮に、弾劾決議案が提出され採択された場合には、大統領の職務は一時停止され、憲法裁判所で審議されることになっている。憲法裁判所は180日以内に最終的な決定を言い渡すことになるが、裁判官9人のうち6人以上が妥当と判断すれば、大統領は罷免され、60日以内に大統領選挙が行われるという流れになる。
今の状況では、そこで行われる大統領選挙において、共に民主党系の候補者が大統領に当選する確率は高い。逆に言えば、尹大統領は弾劾決議案の採択を防ぐためにも、与党の方針に妥協していかざるを得ないのだ。
日韓関係は大きく停滞、北朝鮮をめぐる日米韓協力も後退か
今回の一件は、日本にも大きな影響を及ぼすものと見られる。
文在寅政権退陣後の日韓関係の進展は、尹大統領の指導力によるところが大きい。韓国国内で様々な抵抗がある中で、断固としてこれを進めてきた。韓国では尹大統領の譲歩に見合うような歩み寄りを日本側が見せていないとする声も多い。そのため元徴用工、元慰安婦問題など関係団体が問題を蒸し返してくる可能性は大きい。
「日韓関係改善は尹大統領が強引に進めたものであり、これをもう一度見直す必要がある」との声が高まるかもしれない。また、共に民主党の李在明代表は確信的な反日である。今回の件を機に、再び勢いを取り戻した李在明氏のリーダーシップの影響は小さくない。そうなると、日本としては難しい対応を迫られる可能性が出てくる。
その一方で、韓国国内では元徴用工や慰安婦に関連する集会への一般市民の参加は減っているという。関係団体が「集める」としていた人数をはるかに下回っているようだ。おそらく団体関係者中心の集会となっているためだろう。
昨年日本を訪れ韓国人は約700万人。今年は1000万人にも達すると見られている。韓国の人口は5170万人である。何度も訪日する人がいるとはいえ、訪日する割合は極めて高い。そして訪日した韓国人はもともと日本に親近感を抱いていたり、日本を訪れてさらに日本に親しみを感じたりしてくれることが多い。こうした日本ファンの増加が、元徴用工や慰安婦に対する関心を低下させている大きな要因にもなっているのではないだろうか。
他方、2025年は日韓国交正常化60周年で様々な行事が予定されるはずだった。しかし、これを推進した尹大統領がいなくなれば、お祭り的なことがどれだけ行われるか疑問である。日韓関係改善を推進してきた尹大統領の「パワーダウン」がどう影響してくるのか、注視する必要がある。
日米韓協力においても不安要素が大きくなった。共に民主党は親・北朝鮮なので、彼らが勢いを増すことで日米韓協力を制限することになりかねない。加えて米国では1月にトランプ政権が発足する。トランプ氏は再度、金正恩氏と会談することも視野に入れている節があり、金正恩氏の口車に乗りかねない。そこでトランプ氏から韓国側に対北施策で何かしらの譲歩を迫るような要請がなされた場合、尹大統領の強いリーダーシップがなければそれをはねのけることはできないだろう。
ロ朝協力に前のめりになっている金正恩氏に対して、日米韓はうまく協力して対応していかなければならない。3カ国の間の足並みの乱れは、日本の安全保障にとっての危機になる。この状況での大きく揺らいだ韓国政治の行方に、日本はしっかりと注意を払っていくべきなのだ。
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https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/85348