中国人俳優の王星がニセの撮影オファーにおびき寄せられてタイで拉致され、ミャンマー北部の中国人による特殊詐欺拠点に連れていかれて監禁され、3日後に救出された。この事件については、日本メディアでもすでに報じられているのでご存じの方も多いかもしれない。だが、背景については日本人があまり知らない問題が隠れているので、注意喚起したい。
(福島 香織:ジャーナリスト)
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こうした事件は中国では珍しい話ではない。ミャンマー北部が中国人による特殊詐欺拠点が集中しており、大勢の華人、中国人が各地で拉致され監禁され、特殊詐欺に従事されているという状況は、周知の事実である。
「一帯一路」とともに中国人の犯罪シンジケートも広がる?
ミャンマーだけでなく、カンボジア、ドバイ、あるいは南太平洋島嶼国でも中国人、華人が支配する特殊詐欺、人身売買シンジケートが形成されている。ネットやSNSで高額賃金や魅力的な儲け話広告などで中国人をおびき出し、拉致し監禁して虐待しながら詐欺要員として酷使し、詐欺ノルマが達成できないも者は売春産業や闇工場の奴隷労働、あるいは移植用臓器として人身売買されるという。
こうした海外の中国人による犯罪拠点が形成される地域の共通点は、中国が一帯一路などで積極的に投資しているところだ。中国政府の後押しでやってくる中国人投資家の中に、マフィアやシンジケートとつながりの深い人物が大勢おり、中国のカジノリゾート開発や医療センター開発、人材仲介センターなどとセットで、特殊詐欺や臓器売買、麻薬売買、人身売買のシンジケートも進出してくると言われている。
だが、その犯罪実態をおそらく、現地政府は知っており、そして容認している。この事件に関しては、中国側が王星救出をタイに求めると、タイ首相命令で王星救出作戦が動き、その日のうちに王星の所在が分かり、タイ政府、ミャンマー政府、カレン現地支配当局の話合いで王星解放がすぐに決着した。
かくもたやすく居場所が確認され引き渡されるということは、少なくとも国境のメーソート郡当局やミャンマー側の現地支配勢力、ミャンマー政府とこのシンジケートは、電話一本で問い合わせて答えてもらえるぐらいの関係にあるということだ。
ふりかえれば、2022年には佘智江というカンボジア籍中国人が、ミャンマー、フィリピン、カンボジアなどで特殊詐欺、オンラインカジノ犯罪に関与していたということで国際指名手配されタイ当局に逮捕された。この人物も当初は一帯一路に協力する投資家として中国社会、華僑社会で知られた人物だった。
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こうした情報を総合すると、一帯一路など中国の海外進出戦略とセットで中国の犯罪シンジケートも海外進出し、それを相手現地政府も黙認し、中国当局もあえて野放しにしていると疑いたくなる。しかも、その犯罪シンジケートの内側には国家安全部や公安関係の当局者もけっこういる可能性があるということだ。
それは単に現地当局と中国当局、犯罪シンジケートの間に癒着や利権、腐敗があるからだろうか。もちろん、こうした癒着、利権供与は当然あろう。
だが、中国当局にとって、国家安全戦略上の狙いもあった可能性がある。
当局があえて「野放し」にしている可能性
例えばミャンマー内戦を激化させた2023年「1027作戦」(反政府軍軍事作戦)は、雲南国境に近いミャンマーの中国人特殊詐欺シンジケート拠点に潜入していた公安関係者の煽動と連動していたとされる。潜入していた公安関係者によってミャンマーの中国人詐欺シンジケートを壊滅させ、大勢の監禁されていた中国人を救出できた、という共産党正義のストーリで語られることが多い。だが、この事件はミャンマー内戦情勢に対する中国側の計画的な干渉という見方もある。
今回の王星が監禁された特殊詐欺拠点も、広東省に病院など医療施設を多く展開する実業家が関与しているならば、この実業家は少なくとも広東省当局にかなりの人脈を持っているはずだ。ひょっとすると中央にまでつながるパイプがあるかもしれない。
つまり、こういう仮説も成り立つわけだ。
中国が一帯一路などで海外進出を後押しすると、セットで犯罪シンジケートも進出。それを取り締まり監視し情報収集するという名目で国家安全部や公安関係者も水面下で進出。その国の治安や世論に干渉して中国共産党の影響力を深める…。中国犯罪の海外進出は中国警察権力やインテリジェンスの海外浸透工作のきっかけにもなりうる、というわけだ。
全文はソースで
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/86064