
中国などで29日の旧正月「春節」に合わせ、28日から長期休暇シーズンを迎える。2024年の全国の訪日外国人客(訪日客)数が過去最多となったが、中国からの訪日客は景気低迷で伸びに陰りがあり、観光スタイルの志向に変化もみられる。それだけに歓迎ムードの中でも受け入れ側の準備は手探りだ。
【グラフ】コロナ禍前後で訪日中国人数を比べると…
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22日昼、福岡市博多区の中央ふ頭クルーズセンター前に定員5000人超の大型クルーズ船「アドラ・マジック・シティ」が接岸した。大勢の中国人観光客が次々にバスに乗り換え、市内の観光地へ向かう。山東省から家族で訪れた高亮さん(42)は「子どもに神社仏閣など日本の文化を知ってもらいたい」と笑顔を見せた。
バスの運転手によると、100台以上のバスが並ぶこともあり、市内の大濠公園や商業施設「ららぽーと福岡」に行くことが多いという。ツアーガイドの男性は「天神やマリンワールドに向かいます。茶道体験も人気」と話す。市によると、春節期はクルーズ船の入港が連日予定されている。
訪日客に人気の商業施設「キャナルシティ博多」(博多区)では、春節に合わせ、訪日客向けの抽選会を企画した。担当者は「キャナルを選んでくれる人への感謝を込めた。たくさんの観光客に来てほしい」と話す。一方、訪日客で混雑する市内のアウトドア用品店の従業員は「既に昨年の2倍のお客さんが来ている。春節は一体どうなるのか……」と不安をのぞかせた。
新型コロナウイルス禍で一時は落ち込んでいた訪日客数は急回復している。政府観光局によると、24年の訪日客(推計値)は前年比47・1%増の3686万9900人で、コロナ前の19年(3188万2049人)を超えて過去最多に。また、観光庁によると、訪日客の消費額(速報値)も8兆1395億円と初めて8兆円を突破した。
九州運輸局がまとめた九州への24年の訪日客数(クルーズ船を除いた速報値)も426万525人と過去最多だ。福岡空港(博多区)では23~24年度、中国、香港、韓国の航空会社計7社が新規就航や路線拡大を進めた。このうち「上海吉祥航空」は春節に合わせ今月20日から上海便を約8年ぶりに再開。春節期間は20日時点で75~80%が予約で埋まった。24年末の日中外相会談で訪日ビザ発給要件の緩和方針も示された中、上海吉祥航空ネットワークプランニング部の陳積科・総経理は「日中間の旅行、文化、貿易の交流の懸け橋として役割を果たしたい」と意気込む。
ただ、国・地域別の訪日客で、コロナ前からの回復ペースが最も遅いのが実は中国人客だ。政府観光局によると、コロナ前の19年は中国が年間約959万人で最多だったが、24年は韓国が約882万人でトップに。19年と24年を比べた回復率でみると、韓国の157・9%、台湾の123・6%に対し中国は72・8%で、全ての国・地域の中で最低だった。
背景には、中国の不動産バブル崩壊で消費の低迷が長引き、若者の失業率も高止まりしている苦境がある。実際、政府観光局の資料によると、昨年の春節期の2月は中国人客の目立った伸びはみられず、月別では年間で3番目に訪日客が少なかった。今年の春節も「伸びは限定的では」(観光業者)との見方が根強い。数年前には訪日客の受け皿となるホテル不足が課題になったが、福岡市観光マーケティング課の担当者は「近年はホテルの建設が相次いで供給が増えた。今年も混乱が生じる状況にはならないだろう」とみる。
一方、訪日客の消費傾向は、日本製品を買う「モノ消費」から、自然や日本文化を体験する「コト消費」にシフトしているとされる。中国人向けの旅行事業を手がける日中友好旅行社(福岡市)の高尾淑江(よしえ)社長(62)は「物欲を満たす『爆買い』より自然や景色を楽しみたいという人が増えた。旅行先で多いのは北海道で、スキーや雪景色を満喫している」と語る。
中国人ら訪日客の移ろうニーズをどうつかむか、関係者は頭を悩ませる。由布院温泉がある大分県由布市の一般社団法人「由布市まちづくり観光局」によると、最近は市内で宿泊しない訪日客が目立つといい、担当者は「せっかく温泉地に来てくださっているのにもったいない思いがある。宿に余裕はあるので宿泊してもらえるよう工夫したい」と話した。【長岡健太郎、下原知広、平川昌範】
Yahoo!Japan/毎日新聞 1/28(火) 10:22配信
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