先週の拙稿で、「異常な『トランプ異質論』のレッテル貼り」と題して、日本の一部のメディアや専門家による
ドナルド・トランプ米大統領への行き過ぎた偏見に警鐘を鳴らした。
案の定、SNS上で「法の支配の破壊を擁護するのか」などの批判をいただいた。
トランプ氏が「異質」であることは、ワシントン特派員として間近で見ていた筆者が誰よりも理解している。
賛同できない政策も少なくない。
拙稿で強調したかったのは、日本にはびこるトランプ氏への過度な偏見が、トランプ政権の分析を捻じ曲げ、
政策や方向性を見誤る危険性をはらんでいることだ。
その一例が、対中政策だ。トランプ氏は選挙中から中国を批判し、新閣僚にはマルコ・ルビオ国務長官ら「対中強硬派」が居並ぶ。
議会も超党派で中国には厳しい。こうした状況から日本の専門家やメディアは「米中対立は激化する」とみているようだ。
こうした一面的な分析に、筆者は同意しない。まさに、「トランプの異質性」の要素が抜け落ちているからだ。
筆者が昨年2月に出版した『台湾有事と日本の危機』(PHP新書)で示したシナリオは、発足当初は対中強硬姿勢を示していたトランプ氏は
突如、電撃訪中をして習近平国家主席と首脳会談をし、「ビッグ・ディール」をするというものだ。
その萌芽(ほうが)はある。トランプ氏は就任直前の17日、習氏と電話会談をした。以下は、トランプ政権移行チーム幹部の証言。
「電話会談はトランプ大統領の強い要望で実施された。両国の衝突を未然に防ぐため両首脳間の『戦略的チャンネル』をつくることで
合意した。第一歩として大統領が早期に訪中して、首脳会談を実施することでも一致した」
筆者のシナリオでは、今年3月の「トランプ訪中」を示していたが、証言を考えると前倒しもあり得るだろう。
実際、20日のトランプ氏の就任演説では、中国への批判も追加関税も言及がなかった。
対中関係を改善したいトランプ氏が、秋波を送った可能性が否定できない。
翻って日本。日米政府当局者の話を総合すると、2月初旬に石破茂首相が訪米し、首脳会談を開く方向で調整している。
「台湾有事」を含めた東アジア情勢をはじめ、日本製鉄による米鉄鋼大手USスチール買収計画など、
両国間には問題や課題が山積している。
もし、「トップ会談」が不発に終われば、日米同盟は揺らぎ、経済協力にも軋(きし)みが出かねない。
一方、米中首脳会談が成功して一気に関係改善が進めば、1972年にリチャード・ニクソン大統領が電撃訪中した「ニクソン・ショック」
の再来になりかねない。東アジアの情勢は今、岐路に立っているのだ。
本連載は2022年に始まり、118回に上る。批判を呼ぶ議論も少なくなかった。にもかかわらず、一切の介入や修正をせずに
掲載していただいた矢野将史編集長には感謝を申し上げたい。と同時に、自由な保守言論の灯が一つ消えることに寂寞(せきばく)と
不安の念を抱く。
(キヤノングローバル戦略研究所主任研究員・峯村健司)
2025.2/1 10:00
https://www.zakzak.co.jp/article/20250201-C7QN7J5NQFOG5GCRDSOXX7G35Y/