獣医のヘザー・ベーコン氏は、保護されたクマのさまざまな病気や怪我を診てきたが、
「ニャン・フトゥー」のような症例は見たことも聞いたこともなかった。
ニャン・フトゥーは、ミャンマーのタバワ動物シェルターに保護された生後18カ月のツキノワグマだ。
ピンク色のメロンのような巨大な舌が口から垂れ下がり、あごは閉じられない。
それどころか、舌を引きずって歩いていたため、ばい菌をなめてしまうし、舌は傷だらけだった。
巨大な舌のせいで、ニャン・フトゥーは餌を食べるのも難しく、
シェルターで一緒に保護されている兄弟と遊ぶこともできなくなっていた。
そこでこの10月、英国エディンバラ大学ロイヤル(ディック)獣医学部のベーコン氏をはじめとする獣医師チームは、
ニャン・フトゥーの巨大な舌を切除する手術を行った。
「巨大な舌は、彼を本当に苦しめていました」と、クマの治療に携わるようになって10年になるベーコン氏は言う。
「彼は、正常な舌を持ったことがないのです。使い方は、これから学ばなければなりません」
4時間にわたる大手術
ニャン・フトゥーの舌は、実は保護された時点ですでにバナナほどの大きさがあり、僧侶たちは地元の獣医師数人に相談した。
その1人であるカイネ・マー氏からベーコン氏とアジア動物基金のキャロライン・ネルソン氏に話が伝わった。
2016年に獣医師チームが最初の手術を行ったとき、彼らは全体を切除することをためらった。
「やりすぎだと思ったのです」とベーコン氏。生後4カ月のニャン・フトゥーの体重は約4.5kgしかなく、
そんな手術をするには小さすぎたのだ。「どんなふうに成長するか、まったく分かりませんでした」
結局、2016年の手術では腫れの一部を切除したが、その後、ニャン・フトゥーの舌はふたたび悪化してしまった。
野生動物の手術を行うチーム「国際野生動物外科手術」のロマン・ピッツィ氏やミャンマーの獣医師たちの協力を得て、
獣医師たちは2017年10月初旬にニャン・フトゥーの舌の切除手術に踏み切った。舌の重さは3kgほどもあり、手術は4時間におよんだ。
象皮病の可能性も
ニャン・フトゥーの舌が肥大した原因はまだ「ちょっとしたミステリー」だとベーコン氏は言う。
先天的な病気のせいかもしれないが、カン・フトゥーの方は「完全に正常」だという。
獣医師たちは象皮病の可能性も考えている。象皮病はフィラリアの寄生によって起こる病気で、
手足が極端に肥大することがあるからだ。
象皮病は東南アジアの人々に多い病気だが、クマでは報告されていない。
切除された舌のサンプルは、検査機関に送られた。
ニャン・フトゥーはミャンマーの施設で世話を受けながら徐々に回復していて、今後もそこにとどまることになる。
彼は兄弟と自由に遊べるほど元気になり、新しい食物にも興味を示しはじめている。
「まさに国際的な取り組みでした」とベーコン氏は言う。「このまま順調に回復すると今は期待しています」
映像
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/17/103000419/
画像