トルコ通貨安でリラ建て商品が打撃、債券は「過半が損失」
https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL24HKE_24112017000000/ 政治的な圧力でトルコの金融市場が混迷を極めている。対米関係の悪化を背景に通貨リラが足元で過去最安値を更新。
高金利を嫌うエルドアン大統領が、利上げで通貨安に歯止めをかけたい中央銀行の独立性を脅かす状況になっている。
終わりのみえない通貨安に、リラ建ての金融商品を保有する日本の投資家も不安を募らせている。
■リラ急落で問い合わせ殺到
どこまで下落するんだ――。ある金融機関のアナリストのもとにはトルコリラ建て債券に投資する顧客からこんな質問が相次いだ。
2010年に対円で1リラ=60円台で推移していたリラは今や28円台前半と半値以下に落ち込み、過去最安値圏にある。
今月上旬には相互停止していた米国とのビザ(査証)発給業務を限定的に解除し、いったんは落ち着くかにみえたが、
再び下落基調を強めている。日本の投資家の多くは長期保有が前提で売り急ぐ動きは少ないが「損益が大きく悪化し、
我慢を強いられている」(前出のアナリスト)。別のエコノミストも「クレジットリスクにまで至るのではないかと、顧客からの
問い合わせが増えている」と明かす。
■投資家、損失で二の足
債券情報サービス会社インペリアル・ファイナンス&テクノロジーによると、国内ではトルコリラ建て債券の発行額は
17年が約49億リラ(1380億円)だ。過去の発行残高は142億リラ規模になるが、若勇昌克社長は「利息収入を考慮しても、
現在の為替レートでは(残高の)約55%が円建てでの損失が見込まれる」と分析する。
日本の富裕層の中には一足飛びに約26年ぶりの高値に駆け上った日本株に乗り遅れ、高利回り債の購入を検討して
いる投資家が多かった。高利回りで知られるトルコリラ建ての債券も投資対象の1つだ。しかし、長引くリラ安を背景に
現時点で「積極的にトルコリラ債を保有しようという動きは乏しい」(SMBC信託銀行プレスティアの山口真弘シニア
マーケットアナリスト)という。
■株式相場も変調
損失を被っているのはリラ建て債券だけではない。足元ではリラ建ての投資信託もリラ安と株価下落のダブルパンチを受けている。
トルコの代表的な株価指数BIST100は6日終値から23日までで8%下落した。損保ジャパン日本興亜アセットマネジメントが
設定した投資信託「トルコ株式オープン(愛称メルハバ)」も22日までの直近1カ月間で1割を超える大幅な下落率となった。
投資信託協会によると、トルコリラ建て資産に投資する投信の純資産総額は10月末で752億円と今年に入って200億円近く
増えていた。新興国のなかでも高めの経済成長率を追い風に株式市場への資金流入が続き、最近の急落を受けても
BIST100は昨年末からいまだに3割超の上昇率を保っている。
しかし「トルコ政府の景気刺激策や欧州連合(EU)の景気が良好で株価も堅調さを保ってきたが、足元では企業の景況感に
陰りもみられ始めた」(第一生命経済研究所の西浜徹・主席エコノミスト)。通貨安に歯止めが掛からないまま高インフレが
加速すれば、トルコ経済の基礎的条件(ファンダメンタルズ)の変調につながりかねない。中銀がエルドアン大統領の圧力を
はねのけて引き締め政策を断行するのは容易ではなく、事態打開へのシナリオも描けない状況だ。
〔日経QUICKニュース(NQN)=神能淳志、川上純平〕