国内のペットショップなどで販売される幼い子犬、子猫の健康を守るには、いつまで生まれた環境で育てるべきなのか――。欧米では一般的な「8週間」を日本でも導入するか、国が検討を始めた。
子犬、子猫をあまりに幼い時期に生まれた環境から引き離すと、適切な社会化がなされず、人への攻撃やかみ癖などの問題行動を起こしやすくなる。また、生後40日を過ぎた頃から、母親からもらった抗体が減り始めて免疫力が低下するため、一定間隔で複数回のワクチン接種が必要になる。
そこで米、英、フランス、ドイツなど多くの欧米先進国は「8週齢規制」を法令で設け、8週齢(生後56〜62日)までは、子犬や子猫を生まれた環境から引き離すことなどを禁じる。
日本も2013年施行の改正動物愛護法で、生後56日以下の犬猫を、販売目的で生まれた環境から引き離すことが禁じられた。しかし現時点では「49日齢規制」にとどまる。法律の付則で施行後3年は「45日」、それ以降は「別に法律に定める日」まで「49日」と読みかえることになっているためだ。ペットショップやペットフード会社などが作る業界団体や一部国会議員が、より幼い動物を好む消費者ニーズを挙げて「売り上げが減少する」、「生産コストが増加する」、「科学的根拠がない」などと反対したうえで、ペット業界が対応可能なのは「45日齢規制」だと主張し、激変緩和措置として妥協案が採用されてしまった結果だ。
動愛法は18年に見直し時期を迎える。「別に法律に定める日」についても18年中に一定の結論を出す必要があり、環境省は9月、獣医師らによる検討会(座長、西村亮平・東大大学院教授)を設置した。
生後50〜56日で分離された子犬・子猫と生後57日以降に分離された子犬・子猫で、問題行動を起こす割合に統計的な差があるかどうか。検討会は5年で約1億1千万円かけ、同省が菊水健史・麻布大教授(動物行動学)に委託した研究について議論し、12月中旬に妥当性に関する意見をまとめる予定だ。
これを受け、来年1月にも同省の審議会が最終報告を出す見通しだ。同省幹部は「付則を生かしたまま49日で据え置くか、本則の56日を導入するか、さらなる知見の蓄積を求めて判断を先送りするか。両論または3論の併記になるかもしれない」と話す。
だが、「統計は暴走する」などの著書がある東大社会科学研究所の佐々木彈(だん)教授(経済学)は、サンプルによっては1日分しか違わない微少な差を統計学を用いて分析し、政策を導き出す手法の問題を指摘する。「ごく小さな違いを統計学的に分析して『有意差がない』という結果が出たとして、それをもって『科学的根拠がないから、ある政策が実現できない』というのは、一般的に危険な考え方だ。政策の自殺行為といえる」。その上で、市場原理が獣医学的には最適な結果を生んでいないことが問題の根底にあるとして、「社会科学の見地から検討がなされていないのはおかしい。獣医学者だけでなく、統計学者や経済学者らの意見も聞くべきだ」とも話す。
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