地球深部探査船「ちきゅう」が南海トラフ付近の陸側プレート掘削に使ったドリルの先端部(海洋研究開発機構提供)
巨大地震と地下構造
日本列島の太平洋沖では海側のプレート(岩板)が陸の下に沈み込み、巨大地震を引き起こしてきた。最近の研究で、プレートの部分的な固さが地震発生と密接に関係しているらしいことが判明。将来は震源位置を予測できる可能性も出てきた。(伊藤壽一郎)
■地震波で透視
東日本の太平洋沖に延びる日本海溝では、陸を載せた北米プレートの下に海側から太平洋プレートが沈み込んでいる。東日本大震災では、このプレート境界面が広い範囲で滑り、マグニチュード(M)9・0の巨大地震を引き起こした。
プレートは厚さ100キロ程度で多様な岩石でできており、固さは一様ではない。東北大の趙(ちょう)大鵬(たいほう)教授らは、この不均質さが地震発生と関係しているのではないかと考え、震源域周辺の両プレートについて境界面付近の固さを調査した。
境界面は海底下にあり、岩石の状態を簡単には調べられない。そこで、地震発生時に地中を伝わって広がる地震波を陸上の複数の観測点で捉え、到達時間の差から岩石の固さなどを解析する「地震波トモグラフィー」という手法で透視した。
観測点に直接伝わる地震波だけでは精度が低いことから、いったん地表にぶつかって跳ね返り、再び地中を伝わっていく反射波という特殊な地震波も解析。海底地形や重力のデータも加え、北米プレートの固さと、太平洋プレート上面の固さを立体的に調べた。
■大震災の震源に
その結果、両プレートとも岩手県沖と茨城県沖は柔らかく、その中間に位置する宮城・福島両県沖は固いことが分かった。特に東日本大震災の震源は、両プレートの非常に固い部分同士がぶつかり合う地点だったことも判明した。
柔らかい部分はプレート活動で押され圧力がかかると潰れてしまうが、固い部分は潰れずエネルギーを蓄積する。東日本大震災では、固い部分同士がぶつかっていたプレート境界が急激に滑ることで、蓄積されていた巨大なエネルギーが一気に放出され、規模が大きくなったとみられる。
さらに、震源域周辺で過去100年間に起きたM7以上の大地震についても調べたところ、ほとんどの震源が固い部分同士がぶつかり合う場所だった。趙教授は「プレート境界型地震の発生機構を解明する重要な手掛かりだ。広域で固さの分布を調べれば、巨大地震の震源を予測できる可能性がある」と話している。
■南海トラフも調査
ただ、地震波などによるプレートの高精度な透視は膨大なデータの解析が必要で、手間がかかる。このため海洋研究開発機構のチームが開発した簡便な測定方法も注目されている。
海底をドリルで掘削し、ドリルが進む速度と先端にかかる力を解析することでプレートの固さを測る。岩石を採取して分析しなくても分かる点が大きな長所だ。
チームはこの方法で、地球深部探査船「ちきゅう」を使い、南海トラフ巨大地震の想定震源域である紀伊半島の南東沖約80キロの海底を掘削して調べた。海底下約1千メートルからプレート境界の同約5千メートルまでは、フィリピン海プレートの堆積物や海山が剥ぎ取られ、陸側のユーラシアプレートの縁に付着した「付加体」と呼ばれる地質構造になっている。
付加体はこれまで、かなり柔らかいと考えられてきた。だが調査の結果、海底下1500メートル以深で顕著に固さが増し、2200〜3千メートルは海底の堆積物などと比べ数倍以上、固いと判明した。付加体としては浅い部分だが、海側プレートが沈み込む力が予想よりも強く、圧縮されたとみられる。
同機構の浜田洋平研究員は「浅い部分の付加体もエネルギーを蓄積できるらしいことが分かった。過去に発生した巨大地震に影響を与えてきた可能性が浮上した」と話す。今後はこの地点の固さをプレート境界まで掘削して調査し、巨大地震の発生メカニズムとの関係をさらに詳しく調べる計画だ。
産経新聞 2018.9.23 10:00
https://www.sankei.com/premium/news/180923/prm1809230019-n1.html
巨大地震と地下構造
日本列島の太平洋沖では海側のプレート(岩板)が陸の下に沈み込み、巨大地震を引き起こしてきた。最近の研究で、プレートの部分的な固さが地震発生と密接に関係しているらしいことが判明。将来は震源位置を予測できる可能性も出てきた。(伊藤壽一郎)
■地震波で透視
東日本の太平洋沖に延びる日本海溝では、陸を載せた北米プレートの下に海側から太平洋プレートが沈み込んでいる。東日本大震災では、このプレート境界面が広い範囲で滑り、マグニチュード(M)9・0の巨大地震を引き起こした。
プレートは厚さ100キロ程度で多様な岩石でできており、固さは一様ではない。東北大の趙(ちょう)大鵬(たいほう)教授らは、この不均質さが地震発生と関係しているのではないかと考え、震源域周辺の両プレートについて境界面付近の固さを調査した。
境界面は海底下にあり、岩石の状態を簡単には調べられない。そこで、地震発生時に地中を伝わって広がる地震波を陸上の複数の観測点で捉え、到達時間の差から岩石の固さなどを解析する「地震波トモグラフィー」という手法で透視した。
観測点に直接伝わる地震波だけでは精度が低いことから、いったん地表にぶつかって跳ね返り、再び地中を伝わっていく反射波という特殊な地震波も解析。海底地形や重力のデータも加え、北米プレートの固さと、太平洋プレート上面の固さを立体的に調べた。
■大震災の震源に
その結果、両プレートとも岩手県沖と茨城県沖は柔らかく、その中間に位置する宮城・福島両県沖は固いことが分かった。特に東日本大震災の震源は、両プレートの非常に固い部分同士がぶつかり合う地点だったことも判明した。
柔らかい部分はプレート活動で押され圧力がかかると潰れてしまうが、固い部分は潰れずエネルギーを蓄積する。東日本大震災では、固い部分同士がぶつかっていたプレート境界が急激に滑ることで、蓄積されていた巨大なエネルギーが一気に放出され、規模が大きくなったとみられる。
さらに、震源域周辺で過去100年間に起きたM7以上の大地震についても調べたところ、ほとんどの震源が固い部分同士がぶつかり合う場所だった。趙教授は「プレート境界型地震の発生機構を解明する重要な手掛かりだ。広域で固さの分布を調べれば、巨大地震の震源を予測できる可能性がある」と話している。
■南海トラフも調査
ただ、地震波などによるプレートの高精度な透視は膨大なデータの解析が必要で、手間がかかる。このため海洋研究開発機構のチームが開発した簡便な測定方法も注目されている。
海底をドリルで掘削し、ドリルが進む速度と先端にかかる力を解析することでプレートの固さを測る。岩石を採取して分析しなくても分かる点が大きな長所だ。
チームはこの方法で、地球深部探査船「ちきゅう」を使い、南海トラフ巨大地震の想定震源域である紀伊半島の南東沖約80キロの海底を掘削して調べた。海底下約1千メートルからプレート境界の同約5千メートルまでは、フィリピン海プレートの堆積物や海山が剥ぎ取られ、陸側のユーラシアプレートの縁に付着した「付加体」と呼ばれる地質構造になっている。
付加体はこれまで、かなり柔らかいと考えられてきた。だが調査の結果、海底下1500メートル以深で顕著に固さが増し、2200〜3千メートルは海底の堆積物などと比べ数倍以上、固いと判明した。付加体としては浅い部分だが、海側プレートが沈み込む力が予想よりも強く、圧縮されたとみられる。
同機構の浜田洋平研究員は「浅い部分の付加体もエネルギーを蓄積できるらしいことが分かった。過去に発生した巨大地震に影響を与えてきた可能性が浮上した」と話す。今後はこの地点の固さをプレート境界まで掘削して調査し、巨大地震の発生メカニズムとの関係をさらに詳しく調べる計画だ。
産経新聞 2018.9.23 10:00
https://www.sankei.com/premium/news/180923/prm1809230019-n1.html