不正融資に手を染めたスルガ銀行に対する世間の目は、非常に厳しいです。
第三者委員会の報告書が9月7日に公表され、そこでは組織ぐるみの不正融資や営業ノルマによるプレッシャー、さらには法的責任などが記載されました。今後は金融庁からの厳しい行政処分も予想されます。
スルガ銀行は、地方銀行の中でもとりわけ収益性が高く、日本経済新聞などのメディアでも称賛するような記事が出ていました。今回の件を受け、今後の銀行経営に懸念はないのか。以下、考察します。
●日経新聞などが持ち上げたスルガ銀行
スルガ銀行は、かつては素晴らしいビジネスモデルを創出する銀行として評価されていました。
例えば、「スルガ銀行のように戦略を工夫することで連続最高益を計上する地銀も出てきている(2017年5月21日付日経新聞社説)」とか、
「スルガ銀行は非正規社員やひとり親世代の住宅ローンなどに照準を絞って顧客層を広げている(2016年9月28日付日経新聞朝刊)」といった記事がありました。
具体的には、法人融資ではなく、利ざやが稼げるといわれる個人融資に舵を切って利益をあげる戦略をとってきたのです。
2017年3月期決算における経常利益額(単体)は、地方銀行64行中、横浜、千葉、福岡に次いで4番目に大きい金額でした。
●経常利益は大幅に減少
2018年3月期決算での経常利益は大きく落ち込み、地方銀行の中での順位も42位まで一気に落ちました。
経常利益額を比較すると、17年3月期では571億6千万円なのに対し、18年3月期では86億7千万円と約85%減少となっています。
このように経常利益が落ち込んだのは費用の増加です。そして、費用が増加した主な要因は、貸倒引当金で、貸倒引当金とは貸付金が回収不能になる可能性を考慮して計上するものです。
貸倒引当金を18年3月期で一気に計上した要因は、不正融資もさることながら、ハイリスクハイリターンで融資を行ってきたからと考えられます。
銀行として利ざやを稼げるということは、他の銀行と比較して高い金利で融資ができるということで、いわばハイリスクハイリターンです。
焦げ付きが他行に比べて多くなるので、貸倒引当金も積み増す必要があったものと考えます。
●自己資本比率は比較的高いほう
スルガ銀行に対しては、監督官庁である金融庁から重い行政処分がくだされる公算が高いと考えられますし、前述の通り第三者委員会の報告書でも融資審査がずさんであることが糾弾されています。
さらにブランド価値が著しく減少し、顧客離れが起きる可能性もあるでしょう。もうダメなんじゃないかと思う気持ちも分かります。
たしかに、経常利益額の順位をみると地方銀行の中でも42位と一気に下位に沈みました。
しかし赤字にはなっていませんし、貸倒引当金の計上は一段落して落ち着くでしょうから、今後は経常利益額も回復するものと思われます。
また自己資本比率(2018年3月期)もスルガ銀行は地銀の中では高いほうで、自己資本比率の国内基準を採用する銀行のうち4位となっています。
純資産額は約3,327億円で、最下位の富山銀行に比べて約9倍もの規模です。自己資本である純資産がマイナスとなり、債務超過に陥ることは考えにくいでしょう。
今回の問題で大変な怒りを向けられているわけですが、数字を見ると、そう簡単につぶれることはありません。
●膿を出し切ることが必要
スルガ銀行は、銀行としての生き残りをかけて、個人融資営業に力を入れてきました。
同業と横並びのビジネスモデルではいずれは行き詰まると考え、新たなビジネスモデルを構築しようとしたのでしょう。
しかし、コンプライアンス(法令遵守)を無視してよいはずがありません。
スルガ銀行のディスクロージャー誌(2018年版)には「遵法を超える正しさに沿う経営」を経営理念のひとつとして位置付けることが明記されていますが、この記載はいったい何だったのか。今回の事態に至ったことを、スルガ銀行は重く受け止めるべきです。
今後は、今までの不正を反省し、組織体制を十分に見直して、膿を出し切ることが必要だと考えます。
膿が出しきれず、顧客離れが進んで、収益の回復がうまくできなければ、別の銀行との合従連衡も選択肢として浮上してくるでしょう。
もう一度初心にかえって新たなスルガ銀行をみせてけるかどうか、これまでよりも厳しい目が注がれていくことと思います。
【プロフィール】
李 顕史(り・けんじ)税理士