最近の日露首脳会談で議題となるなど、北極海に対する関心が国際的に高まっている。地球温暖化で海氷が減少し、北極圏の膨大な地下資源や航路の開発が容易になっているためだ。沿岸国のロシアやカナダは、北極海での権益拡大を図る中国を警戒し、日本が大型事業に参画するよう期待を寄せている。(遠藤良介)
◇天然ガス&航路
1月22日にモスクワで行われた日露首脳会談後の共同記者発表。プーチン大統領は、液化天然ガス(LNG)事業「北極LNG2」や極東カムチャツカ半島でのLNG積み替えターミナルの建設計画を挙げ、「日本企業の参入が検討されている」と語った。
「LNGを日本やアジア太平洋諸国に輸出するため、北極海の定期航路を発展させることが有望だと思われる」
ロシアの北極圏ではヤマル半島の事業「ヤマルLNG」が2017年末に出荷を開始。同事業には中国石油天然ガス集団(CNPC)と中国の国家ファンド「シルクロード基金」が合わせて29・9%、仏トタルが20%を出資している。
ロシアは、「ヤマルLNG」の近隣に位置する「北極LNG2」への参画について、日本の大手商社と協議を進めている。
北極圏には、世界の石油・天然ガスの25%が存在するとされる。ロシアは、北極圏での資源開発を進め、アジアと欧州を結ぶ「北極海航路」を資源輸送の大動脈に育てる構想を描く。極東カムチャツカ半島には、LNGをアジア各国向けへと積み替える拠点を置く計画だ。
米欧は14年、ロシアのウクライナ介入を理由に対露制裁を発動。北極海やシェール層での石油開発技術を供与することを禁じた。ロシアは、この制裁が対象としていない天然ガス分野で突破口を狙う。
「北極海航路の航行に必要な原子力砕氷船の新造も計画されている。28年までには通年の航行が可能になる」。都内での北極開発に関するセミナーで、露国民経済予測研究所のシェルバニン部長はこう予測した。
別の沿岸国、カナダは東部のケープ・ブレトン島に、超大型コンテナ船の着岸できる巨大港「ノバポート」を建設する計画だ。
混雑する米州東海岸の主要港に代わり、欧州方面からの貨物を受け入れるハブ港の地位を狙う。北大西洋から北極海を通って北太平洋に抜ける「北西航路」を使い、カナダ東部沖の石油・天然ガスを輸送することも視野に入れる。
この事業には、中国の国有銀行、中国工商銀行(ICBC)と中国遠洋運輸集団(COSCO)が出資を表明。しかし、中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の幹部拘束をめぐってカナダと中国の関係は悪化しており、ノバポートは日本企業に秋波を送る。
◇一帯一路の一部
ロシアとカナダに共通するのは、北極海の沿岸国でない中国が、急速に存在感を高めていることへの警戒だ。
中国は昨年1月、北極政策に関する初の白書を発表し、資源開発などに積極的に参入する方針を示した。北極海を通る航路を「氷上のシルクロード」と称し、巨大経済圏構想「一帯一路」の一部と位置づける。
「中国は北極の全ての分野で最も活発なプレーヤーだ。政治的な現状を変えることが懸念される」。露科学アカデミーのロギンコ氏は、中国が「北極評議会」常任メンバー国の地位を狙っていると指摘する。
北極評議会は米露など北極圏8カ国で構成され、北極での国際ルールづくりを主導。日本や中国は13年からオブザーバー国として参加している。ロギンコ氏は「中国がカネの力で北極圏に浸透していくことが考えられる」とし、「何事もバランスが大事だ。一国依存は健全でない」と語った。
2019.1.31 21:14
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