■放射線治療を受けたがん患者の火葬場から放射線が検出される in アメリカ
アリゾナ州で放射線治療を受けたがん患者さんを荼毘に付した後の火葬場から、海抜0mの放射線量の200倍近い放射線が検出され、メイヨークリニックが結果を米国医師会雑誌(JAMA )に発表しました。焼却場の立ち入り調査はアメリカでもおそらく初めて。
放射性物質は医療分野の診断・治療の両面で幅広く活用されていますけど、ご遺体となって病院を搬出された後の措置については国の規制がまったく行なわれていません。ゾンビの国アメリカは土葬と思いきや、いまや過半数が火葬。無関心ではいられません。「法的規制がないぶん情報公開がとても重要」だと、クリニックで放射線治療部門に所属するKevin Nelsonさんは、米Gizmodoに論文をまとめた動機を語っていますよ。
特殊な症例
まず最初に注意が必要なのは、調査対象の男性(69)は生前、特殊なタイプの腫瘍のすい臓がんを患っていた、ということです。それで放射性のあるルテシウムドタテート 177(Lu-177)の静脈注射を受けていました。ところが、その2日後、 放射線治療を受けていた別の病院で急逝。病院から放射線治療のことは一切告げられることなく、葬儀社や火葬場の職員は搬送し、5日後、火葬を行ないました。
その話を聞いた研究チームが州放射線管理局にこの種のシチュエーションを規制する法律はないのか尋ねたところ、そういえばないということになり、管理局職員が火葬場に立ち入り調査を実施。研究チームも火葬場職員の尿を採取し、ルテシウムが含まれていないか確かめてみました。
焼却炉と職員の尿を検査
すると焼却炉の設備に押し付けたガイガーカウンターから7.5mR/hという、海抜0mで生活する人が受ける線量の200倍近い値が検出されたのです。ただしこれは押し付けた場合の値なので、同じ室内に立っているだけで200倍もの線量に晒されるわけではないし、距離を置けば値は急速に下がります。また、ルテシウムは半減期が短く、2か月ほどで非検出レベルの非放射性物質になるとNelsonさんは言っています。
幸い、火葬場で働く男性職員の尿からルテシウムは一切検出されませんでした。ただ、検査でよく使われる別の放射性医薬品テクネチウム99mが微量検出され、ほかの方を火葬したときのものなのではないかとチームでは見ています。
「テクネチウム99mを直接注射された経験はない方なので、それ以外考えられません。火葬場職員が無用のリスクにさらされるメカニズムの一端がわかる事例ですね」と、同病院の共著者Nathan Yuさんは言っています。
火葬場職員の安全を守ろう
いずれにせよ、米原子力規制委員会の基準値を超えるようなものではおそらくないということですので、ひとまず安心ですね。論文ではいちおう、「全米の火葬場職員が繰り返し長期に渡って晒される放射能汚染と健康への影響をさらにくわしく調査する必要がある」と書いていますよ。
全米葬祭業経営者協会(NFDA)に取材してみたところ、広報の方から次のようなコメントをいただきました。
「米国内外では核医学(診断・治療)と放射線腫瘍学(がん治療)が幅広く普及していますので、
そのような治療を受けた患者さんを扱うケースもあります。
NFDAでは、火葬場職員の安全対策に必要な故人の情報を確保することをひとつの目標に掲げ、
ペースメーカー、放射性物質のインプラントなど、
焼却炉への搬入と火葬の際に注意を要する器具の使用については事前に告知をお願いしています。
記事にある事例は、すい臓の腫瘍に特殊な放射性核種を含む投与を受け、
治療直後に死亡し、治療の5日後に焼却されたというものです。
火葬に先立ち職員にはがん治療の告知は一切なされておらず、
取扱上の注意も行なわれていませんでした。」
NFDAはさらに詳しい調査を支持するともに、論文に示唆されているように、故人の線量評価を火葬前に評価し、必要と判断されれば安全上の注意を職員に行なうことなどをふくめ、火葬場職員の健康と安全を最大限守るためのご提案を広く歓迎します。
1件のケーススタディですので、全体傾向を示すものではありませんけど、論文をまとめたチームは万一に備えて、放射性治療を受けた故人を火葬にするときには事前に計測するよう注意を呼び掛けています。念には念を。
https://www.gizmodo.jp/2019/03/cancer-patient-radioactive-ashe.html
2019.03.06 16:00、GIZMODO、ギズモード・ジャパン
アリゾナ州で放射線治療を受けたがん患者さんを荼毘に付した後の火葬場から、海抜0mの放射線量の200倍近い放射線が検出され、メイヨークリニックが結果を米国医師会雑誌(JAMA )に発表しました。焼却場の立ち入り調査はアメリカでもおそらく初めて。
放射性物質は医療分野の診断・治療の両面で幅広く活用されていますけど、ご遺体となって病院を搬出された後の措置については国の規制がまったく行なわれていません。ゾンビの国アメリカは土葬と思いきや、いまや過半数が火葬。無関心ではいられません。「法的規制がないぶん情報公開がとても重要」だと、クリニックで放射線治療部門に所属するKevin Nelsonさんは、米Gizmodoに論文をまとめた動機を語っていますよ。
特殊な症例
まず最初に注意が必要なのは、調査対象の男性(69)は生前、特殊なタイプの腫瘍のすい臓がんを患っていた、ということです。それで放射性のあるルテシウムドタテート 177(Lu-177)の静脈注射を受けていました。ところが、その2日後、 放射線治療を受けていた別の病院で急逝。病院から放射線治療のことは一切告げられることなく、葬儀社や火葬場の職員は搬送し、5日後、火葬を行ないました。
その話を聞いた研究チームが州放射線管理局にこの種のシチュエーションを規制する法律はないのか尋ねたところ、そういえばないということになり、管理局職員が火葬場に立ち入り調査を実施。研究チームも火葬場職員の尿を採取し、ルテシウムが含まれていないか確かめてみました。
焼却炉と職員の尿を検査
すると焼却炉の設備に押し付けたガイガーカウンターから7.5mR/hという、海抜0mで生活する人が受ける線量の200倍近い値が検出されたのです。ただしこれは押し付けた場合の値なので、同じ室内に立っているだけで200倍もの線量に晒されるわけではないし、距離を置けば値は急速に下がります。また、ルテシウムは半減期が短く、2か月ほどで非検出レベルの非放射性物質になるとNelsonさんは言っています。
幸い、火葬場で働く男性職員の尿からルテシウムは一切検出されませんでした。ただ、検査でよく使われる別の放射性医薬品テクネチウム99mが微量検出され、ほかの方を火葬したときのものなのではないかとチームでは見ています。
「テクネチウム99mを直接注射された経験はない方なので、それ以外考えられません。火葬場職員が無用のリスクにさらされるメカニズムの一端がわかる事例ですね」と、同病院の共著者Nathan Yuさんは言っています。
火葬場職員の安全を守ろう
いずれにせよ、米原子力規制委員会の基準値を超えるようなものではおそらくないということですので、ひとまず安心ですね。論文ではいちおう、「全米の火葬場職員が繰り返し長期に渡って晒される放射能汚染と健康への影響をさらにくわしく調査する必要がある」と書いていますよ。
全米葬祭業経営者協会(NFDA)に取材してみたところ、広報の方から次のようなコメントをいただきました。
「米国内外では核医学(診断・治療)と放射線腫瘍学(がん治療)が幅広く普及していますので、
そのような治療を受けた患者さんを扱うケースもあります。
NFDAでは、火葬場職員の安全対策に必要な故人の情報を確保することをひとつの目標に掲げ、
ペースメーカー、放射性物質のインプラントなど、
焼却炉への搬入と火葬の際に注意を要する器具の使用については事前に告知をお願いしています。
記事にある事例は、すい臓の腫瘍に特殊な放射性核種を含む投与を受け、
治療直後に死亡し、治療の5日後に焼却されたというものです。
火葬に先立ち職員にはがん治療の告知は一切なされておらず、
取扱上の注意も行なわれていませんでした。」
NFDAはさらに詳しい調査を支持するともに、論文に示唆されているように、故人の線量評価を火葬前に評価し、必要と判断されれば安全上の注意を職員に行なうことなどをふくめ、火葬場職員の健康と安全を最大限守るためのご提案を広く歓迎します。
1件のケーススタディですので、全体傾向を示すものではありませんけど、論文をまとめたチームは万一に備えて、放射性治療を受けた故人を火葬にするときには事前に計測するよう注意を呼び掛けています。念には念を。
https://www.gizmodo.jp/2019/03/cancer-patient-radioactive-ashe.html
2019.03.06 16:00、GIZMODO、ギズモード・ジャパン