中国・上海近郊の果物卸売市場で9月中旬、不思議な光景が広がっていた。偽の日本産リンゴが出回っているだけでなく、中国が輸入禁止しているはずの日本産リンゴが販売されている。現場を視察した、青森県の弘前大学・黄孝春教授が報告する。
産地・品種隠して流通 偽物も堂々販売
市場では「王林」と表示した箱に入ったリンゴが販売されていた。10月末以降の収穫品種である「王林」が9月に出回るのは早過ぎる。果実のシールを確認すると早生の「黄王(きおう)」だった。箱に貼っているラベルには、フランス産で中国向け輸出と記されている。
仲卸業者(上海)によると、人気が高く、卸売価格は1箱(36玉)800元(1元=約15円)と、数年前の約2倍になっているという。
大玉で有名な品種「世界一」の偽物も、堂々と中国国内で販売され、海外に輸出されている。その正体は、遼寧省の瀋陽大学が育成した耐寒性の「寒富」だ。1玉当たりの平均果重は250グラムだが、最大では900グラムになる。同省の業者は、「世界一」の中国語発音)である「shijieyi」で、既に商標登録している。
貿易上にも不思議なことがある。
日中両国の交渉によると、日本産は2011年産以降、中国に輸出できないはずだ。東京電力福島第1原子力発電所事故を契機に、中国が日本産果実に対し、ストロンチウムなどの放射性物質検査証明書を求めているが、日本が認めず、両国合意に至っていない。そのため中国で輸入は実質、禁止となっている。しかし、日本の財務省貿易統計には輸出実績がある。
検査強化で輸入量激減 現地は再開待望
貿易統計によると、11年産(9月〜翌年8月)の輸出は前年を下回ったものの、12年産からは3年連続前年を上回り、15年産は過去最多の1622トンが輸出された。背景には、両国の交渉内容が@中国税関全体に周知されていないA税関によって解釈が違う──などの可能性がある。
風向きが変わったのは17年。中国では3月15日の「消費者権益日」の関連イベントで、食品安全の問題として日本の放射性物質が話題を呼んだ。当時は中国税関も検査を厳しくし始めており、日本産の輸出は16年産から前年を下回り、19年1〜8月はゼロだった。
相次ぐ日本産の偽物の横行や貿易ルールの違反の背景には、日本産を求める消費者ニーズの高さがある。世界の約半分のリンゴを生産する中国ではあるが、現地栽培が難しい大玉の「世界一」や外観がきれいな有袋「むつ」などの人気は高い。特にスーパーなどでは、外観が美しくサイズも大きい日本産を扱うことが、店舗のステータス向上につながるとしている。
上海で04年から青森リンゴの輸入販売を手掛けているJCKの斉藤青雲社長は「世界一などギフト用リンゴ以外に、自家消費用の青森産リンゴ、特に黄色系の王林やトキが人気だ。それが輸出数字に表れている。両国政府の一日も早い合意を期待する」と話す。
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