https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191217-00000003-withnews-sci
インターネットで「死にやすい生き物」というイメージが定着してしまったマンボウと、
同じくネットでどんな過酷な環境にも耐えられる「最強生物」と噂されるクマムシ。
検索しても「ネタ」のような話ばかり出てきます。「この生き物たちの正しい情報を伝えたい」と、
マンボウとクマムシを専門とする研究者が対談するイベントを開きました。ネットの噂はどこまで本当?
生き物にまつわる誤った情報にだまされないためには? 一緒に考えてみませんか。
「最弱伝説」マンボウと「最強生物」クマムシ
12月6日、本屋B&B(東京都世田谷区)で開催されたのは、水族館でのマンボウの行動観察などをまとめた児童書
『マンボウは上を向いてねむるのか』(澤井悦郎さん著、ポプラ社刊)の刊行記念イベント「『最弱伝説』にされたマンボウと
『最強生物』と呼ばれたクマムシ」です。インターネットで「ネタ」にされやすい生き物の「正しい情報」を伝えようと、withnewsが企画しました。
登壇したのは、「マンボウは上を向いてねむるのか」著者でマンボウを研究する澤井悦郎さんと、クマムシを研究する慶應義塾大学の
鈴木忠准教授です。withnewsでマンボウやクマムシの記事を書いてきた筆者は、司会として間近で話を伺わせていただきました。
ネットで親しまれていても、普段はあまり目にすることのないニッチな生き物たち。しかしイベントのチケットは事前に完売。
会場には100人近くの参加者が集まりました。研究者から生の情報を得たいという人や、「最強」「最弱」というキーワードに惹かれて
訪れた人もいたようです。
「死にやすい」イメージ発生源は
マンボウはこれまで、インターネットで「死にやすい」と印象づけるエピソードが拡散していました。
例えば、「寄生虫を落とすためのジャンプの着水の衝撃で死ぬ」「ほぼ直進でしか泳げない→岩に衝突死」
「日向ぼっこ→鳥に突かれ化膿死」などが噂として広がっています。中には、「海中の塩分が肌にしみたショックで死亡」
「近くにいた仲間が死亡したショックで死亡」など、明らかに「ネタっぽい」ものも……。
澤井さんは「これらはすべて誤った情報です」と一刀両断。澤井さんが調べたところ、2010年にWikipediaのマンボウのページの中で、
「ジャンプした着水の衝撃で死に至る事がある」と加筆されたことを皮切りに、さまざまな「死因」が生まれていったのだといいます。
誤った情報のまま、ツイッターで「死因一覧」がネタにされ、拡散されたことで、定着につながったと指摘します。
「発端となった『ジャンプの着水で死ぬ』は、誰が言い出したのかはわからない。少なくとも科学文献では確認できない」と澤井さんは話します。
今はWikipediaのページは修正されていますが、たったひとつの記述からマンボウのイメージを大きく変えてしまったのでした。
マンボウ「たらこ唇」の秘密
「ほぼ直進でしか泳げない→岩に衝突死」という説も誤りなのですが、水族館でマンボウが水槽のガラスの近くまで近づいたり、
接触したりしているところを目にします。マンボウは壁やガラスにぶつかっても大丈夫なのでしょうか。
「いや、あんまり大丈夫じゃないです」と澤井さん。「衝突死ということはないのですが、壁にぶつかってできた傷が化膿したり、
細菌によって感染症にかかったりしたら、最悪の場合は死に至ることもあります」
マンボウを飼育する水族館にとって、マンボウが壁にぶつかってしまうことは大きな課題だったといいます。マンボウの視力は悪い方ではなく、
体の構造上小回りはしにくいですが、泳ぎが下手だということでもありません。しかし、澤井さんは「なぜマンボウが壁にぶつかってしまうのかは
わからない」と言います。
水槽の内側に透明のビニールをカーテンのように張ったことで、1年以上のマンボウの長期飼育ができるようになったとのこと。
「このビニールのカーテンはマンボウが直接水槽の壁にぶつかるのを防ぎ、かつお客さんからもマンボウの姿を見ることができるという2点で、
この方法は水族館の画期的な発明だったと言えます」(澤井さん)
マンボウはイラストで「たらこ唇」で描かれることが多いですが、「水族館の水槽の壁にぶつかって、口の周りがはれあがった個体が
由来ではないか」と澤井さんは推測します。「自然界では、たらこ唇のマンボウはいない」という話に、会場からは驚きの反応がありました。